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風俗と殺人鬼


 王城がある町へ無事に戻ってきた。

 やはりまだ町の門は壊れており、建設業者が修復しようとしている。


「んじゃ、俺は用事があるんで。」

「武器が無くて大丈夫ですか?」

「城で剣でも借りるぜ。」


 そう言ってグレンバスターは手を振りながら、町の奥へと消えていった。

 結構な有名人なのに、堂々と道の真ん中を歩けるのは流石としか言えない。




 私はというと、とある場所に足を進めた。

 それは「風俗街(ふうぞくがい)」である。


 今の時間帯は、夕方から夜になろうとしていた。

 私は二度も行ったことがあるため、道は大体覚えていた。

 まあ、一度目は偶然来てしまっただけだが。



 そんなことを考えている内に、風俗街へ着いた。

 周りは結構(にぎ)やかで、看板が光り輝いている。

 昔フローリアに聞いた知識だと、この光も東の国の「カガク」の力らしい。


 さっそく私はとある人物を探した。


 正直、ここに長居すると変な目で見られそうだと思ったが、ここまで来たら行けるところまで行ってみたかった。



 そんなことを考えていると、私の目に一人の女性が映った。

 その女性は、間違いなく探していたあの女性だった。


 私はすぐに足を動かし、彼女のもとへ近付いた。

 そして彼女も私に気付いた。


「あら、あなたは・・・!」


 相変わらず露出が高い衣装で、羞恥心(しゅうちしん)は無いのか気になってしまう。

 もしかしたら、この仕事では普通のことなのかも知れないが。


 まあ、冒険者の女性の中には露出が高い格好をする人も多々いた。

 そして、そういう人物たちは痛い目に遭うのだろう。



「こ、こんにちは・・・。」


 会うのは今回で三回目だが、やはり少し緊張してしまう。

 知り合いというわけではないからだ。


「ついにココで働く決心がついたのね!」

「いえ、違いますよ。」

「でしょうね。」


 彼女は笑っている。

 動くたびに少し胸が揺れている。


「で、なんのよう?」


 彼女は腰に手を当て、体を少し傾けた。


「実は、アキトさんのことを少し教えてもらおうかと・・・。」

「あー、それね。 悪いけど、彼に口止めされててね。 教えるわけにはいかないのよねぇ。」

「やはりそうですか。」


 正直結果はわかっていた。

 彼女自身はともかく、アキトさんならそうするだろうと思っていた。

 駄目元で聞いてみたが、やっぱりダメだった。


「そうだ! せっかくだから少し寄ってかない?」

「え゛っ・・・。」


 なに言ってるの、この人・・・。


「違う違う。 ちょっとアキトのことで話さない?」


 アキトさんのことで・・・?

 ダメなんじゃ・・・。


「聞いてみたいのよね。 あなたのアキトに対してのことを。」


 そういうことね・・・。

 どうしようかしら・・・。


「料金は取らないからさ。」

「じ、じゃあ・・・、はい・・・。」


 結構グイグイ来られて、とても断れなさそうな状況だった。

 なので、「はい」と答えてしまった。


 私は彼女に連れられ、店の中へ入っていった。






 私は待機室のような場所に連れてこられた。


「この待機室には誰も入ってこないから安心して。」

「は、はぁ・・・。」


 部屋は小さいが、とても綺麗だった。

 化粧台とかがあり、まさに女性の部屋だった。


 彼女は椅子に座り、私も向かいの椅子に座った。



「そういえば、自己紹介がまだだったわね。」

「そ、そうですね・・・。」


 すると彼女は豊満な胸に手を当てた。

 その瞬間、胸が少し揺れた。


「私はジュンナ。 この店のエースをやらせてもらっているわ。」

「シ、シルヴィアです・・・。 冒険者をやっております・・・。」


 私はややぎこちなく自己紹介をした。

 するとジュンナさんはクスクスと笑っていた。


「そんなに緊張しなくていいって。 自分の家みたいに楽にしていいから。」

「ですが、礼儀は大切ですし・・・。」

「フフッ、真面目ね。 ますます気に入ったわ。」


 ジュンナさんは笑いながら言った。

 その笑顔はまるで少女にように可愛かった。




「さてと、本題に入りましょうか。 あなた、アキトのことをどう思っているの?」

「アキトさん・・・ですか?」


 アキトさんは「殺人鬼」。

 でも、彼は悪い人には思えない。


 会ったときだって、不本意らしいけど私の命を救ってくれた。

 屋敷の件でも、囚われていた女性たちを助けていたし・・・。

 それに、前に私が魔物(モンスター)の弱点を教えたときは、素直じゃないけどお礼を言ってくれたし。


 彼は本当に・・・。


「いい人だと思います。」

「・・・そう。」


 私の言葉を聞いてジュンナさんは目を(つぶ)って、静かに微笑(ほほ)んだ。

 その顔は、今度はまるで母親のようだった。


「ハッキリ言っておくわ。 彼は「いい人」よ。」

「そうですか。」


 ジュンナさんは笑顔で答えた。

 とても自信満々な声で。



「ジュンナさんはアキトさんのことが好きなのですか?」


 私の質問に対してジュンナさんは「えっ?」と言ったが、すぐに笑顔を見せながら答えた。


「好き、大好き。 異性として、一人の女として・・・。」


 彼女の素直な答えに、私は少々驚いた。

 しかしジュンナさんは少し悲しそうな顔で語りを続けた。


「でも、彼と一緒にはなれないわ。 私では彼を助けることができない。」


 彼女は先ほどまでとは違って、やや静かに喋った。


「私は所詮(しょせん)、一般人。 殺し屋の彼に対してできることは、風俗に来た悪人からの情報を教えることくらいよ。」

「・・・。」


 私は黙って聞いていた。

 というより、私が喋る(ひま)がなかった。


「ごめんなさいね。 なんか変な空気になっちゃって・・・。」

「い、いえ・・・。」


 彼女は苦笑(くしょう)しながら、私に喋りかけた。




 ジュンナさんは「少し待ってて。」と言いながら、席を外した。

 そしてすぐに戻ってきた。


 どうやら飲み物を持ってきてくれたようだ。


「聞き忘れてたけど、麦茶は飲める?」

「はい、大丈夫です。」


 私の前にカップを置き、彼女は椅子に座り直し、机に自分のカップを置いた。


「そういえば、アキトとの出会いってどんな感じなの?」

「出会い・・・ですか。」


 出会い・・・。

 忘れるわけがない。


「ある依頼で魔物(モンスター)に殺されそうになったときに、助けてもらったのが出会いですね。 まあ、彼は魔物(モンスター)を狩ることが目的だったみたいですが。」


 私の話を聞いて、ジュンナさんは静かに微笑んでいた。


「アキトはそういう人だからね。 誰かを殺すことが、誰かの助けになってしまうことがある。」

「はい。 ですから、彼は私にとっては「命の恩人」です。」


 理由がどうであれ、その事実が変わることはないと思う。


「それで、彼に関わっているわけね。」

「恩返しとして、彼になにかできればと・・・。」

「なるほどね。」


 ジュンナさんは麦茶を飲んで、「ふう」と一息吐いた。

 カップを机に置き直すと、椅子に深く寄りかかった。


「私も彼のことをよく知ってるわけじゃないけど、彼って「悪人への処罰」以外にしてることはなさそうだしね・・・。」

「そうですよね・・・。」

「・・・間違っても「殺人」の手伝いなんかしちゃダメよ?」

「わ、分かってますって・・・。」


 さすがにそこまでのことは私にはできない。

 ・・・たぶん。



「ジュンナさんはどういう出会いだったのですか?」

「私?」


 今度は私の方から聞いてみた。

 ジュンナさんはしばらく沈黙をしていたが、やがて口を開いた。


「普通によ。 彼がここにやってきて、指名してくれたのが私だったの。」

「ジュンナさんを指名?」

「ええ。 当然情報目当てだったけどね。」


 彼女は再び麦茶を飲んで、カップを机に置いた。

 そして話を続けた。


「どこからか私の情報を聞いたみたいでね。 それからずっと、アキトは私から情報を貰うためにこの店に通うようになったのよ。」

「そ、そうだったのですか。」


 彼女は苦笑しながら話していた。




 それから私たちは気分転換に他の話などをして盛り上がっていた。

 彼女の話はとても人生経験豊富で面白かった。


「ジュンナさんって、凄い人だったのですね。」

「少し変わった人生を送ってきただけのことよ。」


 彼女は笑いながら言った。


 気が付くと、私たちのカップは空になっていた。

 かなり話をしていたらしい。



 私はカップからジュンナさんに目線を変えようとした瞬間、後ろから物音が聞こえた。


 コンコンッ!


 どうやら扉をノックされただけのようだ。


「はーい! ちょっとごめんね。」


 ジュンナさんは椅子から立ち上がり、扉の方へ歩いた。

 扉の取手(とって)を掴み、ゆっくりと開けた。


 すると、一人の女性がそこにいた。


「ジュンナ、ご指名よ。」

「分かったわ。」


 女性はそういうと、扉の前からいなくなりどこかへ行った。


 どうやらジュンナさんはこれからお仕事のようだ。

 私は椅子から立ち上がり、店を出る準備をする。


「ごめんね、今日はここまでみたい。」

「い、いえ。 とても楽しかったです。」


 私は笑いながらジュンナさんに言った。

 実際、彼女の話を聞いてよかった。


 私はジュンナさんに一礼をした。



 すると、先程ジュンナさんを呼びに来た女性が再び扉の前に戻ってきた。


「ああ、そうそう。 客は例の彼よ。」


 女性は一言そう言って、再びどこかへ行った。


 例の彼・・・?

 もしかして・・・。


「どうやら、アキトが来たみたいね。」

「そうですか。」


 本当にアキトさん、この店に来るのか。

 信じてなかったわけではないが、やはり意外だった。


 ジュンナさんは扉を閉めて、化粧台の前に移動して準備を始めた。

 しかし、それから約5秒後・・・。


「そうだ! せっかくだから・・・。」

「はい・・・?」


 ジュンナさんは私の方を向きながら、言葉を発した。

 一体なんだろうか・・・?






 さてと、あれから数十分が経ったと思う。

 私はまだ風俗店にいる。


 今の私はいつもの鎧を身に着けておらず、風俗の服を着せられている。

 そして、いわゆるプレイルームで椅子に座って待たされている。

 全部ジュンナさんの指示だ。


 一体これからなにをする気なのだろうか・・・?



 さらに数分後、ついに扉が開いてジュンナさんが現れた。


「お待たせ!」


 すると、思っていた通りアキトさんを連れて部屋に入って来た。

 アキトさんは「・・・ん?」という声を出して、私に気付いた。

 私はなんて声をかければいいか分からず、苦笑(にがわら)いをしながら静かに一礼をした。


「・・・なんでアイツがここに。」

「ウフフッ。」


 ジュンナさんは笑いながらアキトさんの腕を引っ張って、ベッドに座らせた。

 そして座った状態のアキトさんの太ももの上に(また)がった。

 そのままアキトさんの体に密着し、両腕をアキトさんの頭の後ろに回した。


「今日は彼女に見られながらヤりましょ。」


 ジュンナさんはアキトさんを間近で見つめながら、そう発言した。



 ・・・え?

 ええ!?


「ななな、なんですって!!?」


 私はしばらく唖然(あぜん)としていたが、すぐに言葉を発した。

 どうやら、これが目的だったようだ。


「・・・おい、・・・アイツ驚いているが。」

「今、初めて言ったからね。」


 ジュンナさんはニコニコしながら言った。

 それに対し、アキトさんは黙って見ていたが、しばらくしてコチラに顔を向けた。


「・・・お前はいいのか?」

「え・・・。 正直、嫌ですね・・・。」


 私は正直に言った。


 すると、アキトさんはジュンナさんの両頬を片手で掴んだ。

 そして近付いていた顔を無理矢理離した。


「・・・悪趣味が。」

「えへへ・・・。 やっぱりダメか・・・。」


 その後、苦笑いをするジュンナさんを、アキトさんは黙って(にら)んでいた。

 そしてその光景を、なぜか黙って見せられている私だった。






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