東の国の科学者
シルヴィアです。
目的の町まで、グレンバスターと二人で草原を歩いている途中です。
彼は両手をコートのポケットの中に突っ込みながら歩いている。
「そういえばさ。 メリーとデートをしてみたが、やっぱり彼女は良い子だな。」
「良くも悪くも、裏表がないですからね。」
メリーとのデートは既にしていたようである。
とても楽しそうに話すグレンバスターに、私は微笑んでいた。
「メリーとのデートは計3回はしているな。」
「意外と少ないのですね。」
「「仕事はサボんな」と注意したら、素直に聞いてくれたからな。」
「はは・・・。」
相変わらずメリーはグレンバスターにベタ惚れのようだ。
私たちが言ったとしても、たまに聞かないときがあるのに。
「そっちは誰かとデートでもしたか?」
「え!?」
いきなり聞かれた。
てっきりまだ話している途中かと思ったのに。
「ああ、そういえばさっきガンダリオスとデートしていたか。」
「いや、ですからあれは魔物退治のお手伝いを・・・。」
「それもデートみたいなものだろう。」
彼はケラケラと笑っている。
なんというか、やっぱり凄い人だ・・・。
「アイツともデートはしたか?」
「ア、アイツ?」
「あの"殺人鬼"。」
アキトさんのことか・・・。
グレンバスターに頼まれた手紙を渡したとき以来会ってないな。
あの時は偶然、町の路地裏でお会いできたわね。
側に打撲傷だらけの人物を置いて。
「彼には最近会っておりません。」
「そうか。 今はなにをしてるのか聞いてみたかったのにな。」
「知っていたとしても、教えられません。」
彼に許可なく彼のことを教えるわけにはいかない。
前から心に決めていることだ。
「まあ、どうせアイツのことだから、どっかで悪人でもボコしているんだろう。」
「そ、そうですかね・・・。」
アキトさんって、本当に悪人を成敗する以外にはなにもしないのだろうか?
毎日悪人を追っているのだろうか。
それにしても、本当にいいのかな・・・?
「どうした、難しい顔して?」
グレンバスターに心配された。
私って、本当に顔に出やすいんだな・・・。
「いえ、彼のやっていることを本当は止めるべきなんじゃないかと、たまに思うのです・・・。」
ずっと前から思っていることだった。
仕事中もそのことを思うことがある。
誰かに相談したかったので、ちょうどよかった。
「まあ、今は別にいいだろう。 だが、もしもの場合は俺が全力で奴を斬るさ。」
そうか・・・。
グレンバスターは知らないんだ。
彼は「死んでも蘇る」ことを・・・。
もし二人がぶつかったら、一体どうなってしまうのだろうか・・・。
「それにシルヴィアがそれでいいと思うなら、それでいいと思うぜ。」
「え?」
「シルヴィアの人生はシルヴィアのモノだ。 自分の決めたことをやればいい。」
彼はやや笑いながらも、優しい声色で言った。
突然の言葉に、少々私は戸惑った。
しかし、その言葉のおかげで少しだけだが気が楽になった。
「あ、ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、彼はなんだか照れ臭そうに喋り始めた。
「すまんな。 実は今の、「ある人」の受け売りなんだ。」
「あ、ある人・・・?」
「俺の「大切な人」さ。」
大切な人・・・?
それって一体・・・。
「まあ、いつか話すぜ。」
「は、はあ・・・。」
彼に聞く前に、そう言われてしまった。
私もアキトさんのことを黙っているし、ここは彼がいつか話してくれること信じよう。
「おっと、もう町が見えてきたぜ。」
グレンバスターの言葉通り、町が見えてきた。
それは今初めて見た、知らない町だった。
「この町は初めてか?」
「え、あ、はい。」
「そうか。 いい町だぜ。」
グレンバスターは町へ歩みを進めながら、軽く一言吐いた。
私は黙って、彼の後を歩いた。
町に入りしばらく歩いていると、すぐに建物の日陰の中に入り込んだ。
通りの両側は大きな建物によって日が当たらなくなっている。
「いつもこんなに暗いのですか?」
「建物が大きいからな。 時間帯によっては真上から日に照らされるけどな。」
「そうなのですか。」
また、変わった町だ。
だけど、これがこの町の「普通」なのだろう。
文句は言わない方がいい。
「おっと、ここだ。 ここの四階に住んでいる。」
グレンバスターはポケットに突っ込んでいた左手を出して、建物の上の方を指した。
当然のことだが、下から四番目の窓を指していた。
「んじゃ、入るぞ。」
「は、はい。」
グレンバスターは目の前の入口に入り、階段を上り始めた。
私も遅れずに、入口に入り階段を上った。
そのままぐるぐると階段を上り、四階まで来た。
一階から三階までに見た扉と同じ扉が目の前にある。
その扉をグレンバスターは意外と強めにノックした。
「はーい!」という声が中から聞こえ、しばらくすると扉の小窓が開き、中から女性の目が見えた。
「あら、グレンバスターさん!」
女性はそう言うと、小窓を閉じ、そして扉を開いた。
女性は金髪で白衣を着ていた可愛らしい人だった。
身長は私と同じくらいだった。
「お久しぶりぃ!! また会えて嬉しいわ。」
「そりゃどうも。」
二人は嬉しそうな声でハグをした。
それが終わると互いに手を取り合った。
彼女が友人なのだろうか?
「あら、こちらは?」
彼女がコチラに気付いた。
常に微笑んでいる顔が、なんだか眩しかった。
「ああ、友人のシルヴィアだ。 "フロープス"に興味を持って一緒に来たのさ。」
「そうなのですか。」
"フロープス"というのが友人か。
名前的に男っぽいし、この人ではなさそう。
「初めまして。 フロープスの恋人で、助手の"ナレ"と申します。」
「は、初めましてシルヴィアです。」
ナレさんか。
そして、この人の恋人がフロープスさんか。
「実は、剣が少し壊れてしまってさ。 頼んでも大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「よかった。 じゃあ少し入らせてもらうぞ。」
そう言ってグレンバスターさんは部屋の中へ入っていった。
私もナレさんに断って、中へ入った。
中は結構散らかっており、やや歩きにくかった。
「ごめんなさいね。 これでもいつもよりは綺麗なのです。」
「そ、そうなのですか。」
これで綺麗なのか・・・。
奥へ進むと、一人の男性が机でなにか作業をしていた。
おそらくあの人がフロープスさんであろう。
「よう、フロープス! 久しぶり。」
「ん? ああ、なんだグレンバスターか・・・。」
フロープスさんは気怠そうな感じで答えた。
グレンバスターの方を向いたかと思えば、すぐに顔を戻し作業を再開した。
見た目は白衣を着て、メガネをかけている。
半目だが結構顔自体は綺麗で、やや長い赤い髪を後ろで短めに縛っている。
「おいおい、久しぶりなのに反応薄いな~。」
「僕にとっちゃ、前にあった日がいつかなんて忘れたよ。」
「その様子じゃ、相変わらず外に出ていないようだな。」
「やることがあるからな。」
グレンバスターが話しかけても、フロープスさんは作業に集中して顔を見ようともしない。
グレンバスターは諦めて、背負っている大剣を壁に立てかけた。
「大剣の修理を頼む。 一週間後に取りに来るぞ。」
「ああ、任せろ。 空いた時間にやっておく。」
フロープスさんはやはり作業に集中して顔を動かさない。
ずっと机の上でなにかを書いている。
「ああフロープス、紹介するぜ。 こっちは友人のシルヴィアだ。」
グレンバスターは私に近付き、フロープスさんに紹介した。
すると、フロープスさんは手を止め、こちらを向いた。
「は、初めましてシルヴィアです。」
「フロープスだ。」
やや無感情な感じで言ってきた。
すると、再び顔を戻すかと思ったら口を開いた。
「お前が友人を紹介するなんて珍しいな。」
やはり無感情だったが、さっきよりは感情があるように聞こえた。
「シルヴィアは色々と凄い奴だからな。」
「ほう・・・、と言うと?」
なんか急にグレンバスターが話し始めたのだが、フロープスさんは体までコチラに向けたため興味が沸いているようだ。
グレンバスターは私の肩当てに手を置き、大声で言った。
「なんと、あの「魔物図鑑」を暗記しているんだぜ!!」
「ほう・・・。」
「ええ、凄い!!」
フロープスさんは声色を変えないが、目がさっきより開いていた。
隣ではナレさんが褒めてくれた。
改めて大々的に言われると、なんだか恥ずかしかった・・・。
「なるほどな。 お前が気にいるわけだ。」
「ああ、だからお前にも紹介したわけだ。」
グレンバスターは嬉しそうに言った。
フロープスさんは「フンッ・・・。」と鼻で笑うと、再び体を机の方へ戻し作業に戻った。
「んじゃ、頼んだぜフロープス。」
そう言うと、グレンバスターは入ってきた入口へ向かった。
私も後を追おうとした。
「あー、 シルヴィアくん だっけ?」
すると、フロープスさんに呼び止められた。
私は体をフロープスさんの方へ向けて返事をした。
「はい・・・?」
「すまないが、いつか君の力を貸してほしいときが来るかもしれない。 その時は手伝ってくれないか?」
相変わらず作業に集中しており、背中を向けて話してきた。
しかし先程の無感情な声ではなく、しっかり感情がこもった喋り方だった。
「はい、わかりました!」
私は即座に答えた。
そして、私も入口へ向かった。
「サンキューな。 いつかお土産でも持ってくるわ。」
「ふふっ。 楽しみにしてるわ。」
二人共、楽しそうに会話をしていた。
フロープスさんといい、グレンバスターと彼らは昔からの付き合いなのだろうか?
「んじゃ、またな。」
「あっ、ちょっとシルヴィアちゃんと話をしていい?」
「え、まあいいが・・・。 んじゃ、一階の入り口近くで待ってるぜ。」
そう言って、グレンバスターは先に階段を下りていった。
私は、下り階段からナレさんの方へ目線を向けた。
「ありがとうね。 フロープスが他人に興味を持つなんて久しぶりだわ。」
「そうなのですか?」
「ええ。 普段他人と関わろうとしないからね。」
ナレさんは白衣のポケットに手を入れながら、斜め上の方向を見ていた。
そしてしばらくして、再び目線を私に戻した。
「フロープスは愛想はないけど良い人だから、もし今度会ったらそのときは仲良くしてね。」
「は、はい。」
私がそう答えると、ナレさんは微笑みながら小さく手を振って「またね。」と言いながら扉を閉めた。
私は彼女の姿が見えなくなるのを確認し、階段を下りていった。
しばらくして一階へ着き、入口の外でグレンバスターが待っていた。
「なにを言われたんだ?」
グレンバスターは近付き、聞いてきた。
私は軽く微笑み、冗談交じりに言った。
「ちょっとした「依頼」を受けました。」
私の答えに、グレンバスターは「へ?」と言って首を傾けた。




