運命の出会い
私は“マリス”。
王女でありながら「殺人事件の犯人」に興味を持っている者。
あれから数日が経った。
グレンバスター様に渡した手紙が、どうやら無事に「彼」の元へ届いたようです。
一体どうやって届いたのかは聞き忘れたが。
手紙には、今夜町の隅に生えてある一本の木のところでお会いするお誘いを書いた。
あとは「彼」が来てくださるかだが・・・。
「おやおやマリス王女様、ご機嫌麗しゅう。」
・・・。
会いたくない人に出会った。
レアンドル大臣。
私がこの城の人間で唯一苦手としている人だ。
「いや、それにしてもこの国の犯罪は増える一方ですね。」
「・・・お父様のせいだと言いたいのですか?」
「いえいえ。」
この通り、遠回しに嫌味を言ってくる性悪な人だ。
遠回しなせいで下手に怒れないのが嫌なところだ。
「もう王様も良いお年ですし、無理をさせたくないですね。」
「・・・そうね。」
心配しているような言葉だが、翻訳すると「早く王様を辞めろ」と言っているのだ。
もちろん私の返事は普通の意味でだが。
「では、私は大変お忙しいので、失礼します。」
そう言ってレアンドルはお辞儀をして去っていった。
今のは私に対しての嫌味だろう。
翻訳すれば「王女は働かなくていいな」というところであろう。
今すぐにでも城から追い出してやりたいが、それを決めるのはお父様のご判断だ。
お父様がレアンドルの嫌味や皮肉に気づいているかは不明だが、もし気づいていたとしても気にしてはいないであろう。
お父様はそういう人だ。
「ではマリス様、おやすみなさいませ。」
「はい、おやすみなさい。」
侍女のルルに就眠の挨拶をし、私はベッドに入った。
そして、4時間が過ぎた。
私はティアラを着けて、ベッドの下に隠しておいた茶色のローブを取り出した。
そしてそれを羽織り、扉を静かにノックした。
すると扉が開き、一人の兵士が外から顔を入れた。
「今は自分だけです。」
“ギヌソン”という兵士だ。
詳しい話は分からないが昔はかなりの悪い子供だったらしく、今回のことを彼に相談したら協力してくれることになった。
なんでも、昔を思い出すらしい。
「夜中に脱走なんて、子供の頃を思い出します。」
彼はそう言いながら、扉を開けてくれた。
私は足早に外に出て、ギヌソンは扉を閉めてくれた。
「そろそろ見張りの交代時間です。 急いであちらの木でお待ちください。」
彼は城の外を指差した。
そこには城からかなり近い位置に生えている城外の中庭の木があった。
ここは二階なので、そこそこ大きい。
「分かりました。」
私はそう言って、木に向かって走った。
そして城外へ飛び出し、木につかまった。
なんとかギヌソン以外には気付かれてないようだ。
私も少しだが、お父様や兵士たちの運動に付き合っていた。
そこそこ腕力があるのだ。
しばらくして木の下に人影が現れた。
合図をくれたので、そのまま木を降りた。
そこには銀色の兜を被り、コートを身につけている男性“グレンバスター”様がいた。
「話には聞いていたが、王女もなかなかの身体能力だな。」
彼も脱走に協力してくれたのだ。
さすがに初めは止められていたけど・・・。
「さあ急げ。 すぐに見張りが来るぞ。」
「はい。」
私はグレンバスター様の背中に捕まった。
そして彼は柵を易々と登り、町へと下りた。
「脱出成功! あとは目的の場所へだな。」
「はい。」
グレンバスター様に待ち合わせの場所を教え、案内してもらった。
そして待ち合わせの場所に着いた。
夜中で人があまり寄り付かない場所なので、周りに人はいない。
いるのは私と護衛してくださっているグレンバスター様。
そしていずれ来るであろう「あの方」のみだ。
「しっかし、本当に来るのかね・・・。」
「来ます、絶対・・・。」
グレンバスター様の疑問に私は即答した。
あの方なら必ず来るであろう。
なんとなく、そう感じていた。
「王女様は前向きだなぁ。 まあそういうの嫌いじゃないし、むしろ好きだが。」
グレンバスター様は笑っていた。
この人はいつも明るくて羨ましい。
私にもこの人のような強い精神力があれば、少しでもお父様のお役に立てるのに・・・。
「ところで、どうやってお手紙を渡したのですか?」
「ん? ああ、知り合いに奴が来そうな場所を知ってる子がいて、その子に頼んだら無事に届けてくれたよ。」
グレンバスター様はサラッと言った。
「え!? いつか、その方をご紹介してもらえませんか・・・?」
「まあ、いつかな。」
私は意外と本気で言ったのに、グレンバスター様は軽く返事をした。
「ん・・・? おおっと・・・!?」
グレンバスター様が私の斜め後ろを見て声を出した。
私は「まさか!」と思い後ろを向いた。
私の目の先には人影が一つ近づいてきていた。
やがて人影は月明かりに照らされ姿を映し出した。
赤くボロボロのフード付きマントを身につけ、服装は軽装、腕には皮の手袋に鉄の小手。
前にグレンバスター様から聞いていた通りの姿だった。
「マジで来やがった・・・。」
グレンバスター様は奇妙なポーズをとりながら唖然としていた。
私は横目でグレンバスター様を見てから、再び目の前の人物に目線を合わせた。
私は無言で三歩ほど近づいた。
「あなた様が、連続殺人事件の犯人でございますか・・・?」
私が言葉をかけると、「彼」の歩みが止まった。
そして数秒の間を置いて、「彼」は言葉を発した。
「・・・そうだ、・・・と言ったら?」
「彼」は低い声で口数少なく、私に質問をしてきた。
私はやや戸惑ったが、勇気を出して「彼」に言った。
「私はこの国の王である”レオカディオ4世“の娘、王女”マリス“です・・・! ・・・と言いますが、既にお手紙で存じられておりますよね。」
私はローブのフードを脱ぎ、顔を見せた。
おそらくティアラが月明かりで輝いていることであろう。
「あなたにお会いしとうございました。」
ローブ越しにドレスのスカートの裾をつまみ、おじぎをした。
彼は何も言わず、ただ無言でこちらを見つめていた。
その様子はどこか、警戒をしているようにも見えた。
「・・・王女がなんの用だ?」
「彼」は一言そう聞いてきた。
どうやら答えなければ一切口を聞いてくれなさそうだ。
「私はあなた様がやられてきたことを否定するつもりはありません。 もちろん肯定もしません。」
しばらく間を置いて、再び口を開く。
「ですけど、私はあなた様にお力を貸したいと思っております。」
「・・・力だと?」
「彼」はこちらを凝視している。
黒目の無い白い目が私を睨む。
迫力が凄く、正直に言うと怖かった。
だけど私はなんとか話を続けた。
「国が隠している秘密や事件があるのです。 それであなたを手伝えたらと・・・。」
「おいおいおい、王女様!! さすがにそれを話すのはヤバいんじゃ・・・。」
グレンバスター様が若干慌てていた。
さすがに国が秘密のしていることを話すことは抵抗があるようだ。
・・・しかし、「彼」ならなんとかしてくれるかもしれない。
「責任は私がとります。 どうか手を貸してくれませんか?」
私は「彼」をじっと見つめて言った。
「彼」は少しの沈黙の末、言葉を発した。
「・・・なにが目的だ?」
「彼」は一切警戒を解かない。
王女が殺人に協力すると言ったら、そうなってしまうだろう。
私は正直に言った。
「この国は治安が悪くなる一方。 お父様はなんとか人々を守ろうと奮闘しておられますが、それ以上に事件が次々に起きてしまうのです。 お父様は日々、その事実に苦しめられているのです。」
私は「彼」の方を向き、話を続けた。
「ですが、あなた様が殺人を起こすことによって、お父様の苦労が和らいでおられているのです。 事実、お父様は昔より元気になられているのです。」
「・・・だから、俺に殺人を続けろと?」
「彼」は腕を組みながら、私に言った。
身長の関係でやや上から私の顔を見下ろしている。
「はい・・・。 その通りでございます。」
認めたくなかったが、これが現状で最も平和に近づける方法だと私は思ってしまった。
お父様にバレてしまったら、凄くお怒りになられてしまうだろう・・・。
「・・・狂っているな。」
しかし、彼は冷たい言い方で私を罵った。
「・・・「国のためなら殺人をも許す」。 ・・・そう言いたいのか?」
「・・・あくまであなた様の殺人を・・・です。」
「彼」は見下しながら私を睨みつけている。
私は恐れず、言葉を続ける。
「あなた様は国の平和のために殺人を犯している・・・。 そうですよね?」
私は勇気を振り絞って「彼」に聞いた。
すると「彼」は腕を組むのをやめ、言葉を発した。
「・・・違う。 ・・・俺は悪党を処罰するだけだ。 ・・・世界の平和に興味はない。」
その返答に私は軽く絶望した。
「彼」はただの悪人を殺すだけの殺人鬼だったようだ。
・・・だけど、この際どうでもよくなった。
「なら・・・、この先も悪人を殺してください。 私は一切あなたを止めませんから。」
私はキッパリと「彼」にそう言った。
「彼」はしばらく黙っていたが、やがて言葉を発した。
「・・・「国や父親のためなら、悪にでもなににでもなる」。 ・・・お前はそう言うのか?」
「・・・はい。」
「彼」は無感情な喋り方で問いた。
そしてその問いに私は静かに答えた。
「・・・国や父親のためだけにそこまでするか。」
「彼」は一言そういうと、目を閉じた。
そしてすぐに開いた。
「・・・「秘密」とはなんだ?」
「彼」は言った。
「やってくださるのですか・・・?」
「・・・悪党を罰せられるなら、俺はなんでもいい。 ・・・早く話せ。」
「彼」は無感情に話しながら、数歩近づいてきた。
「ありがとうございます。」
私は「彼」にお辞儀をした。
「こいつは、すげえことになりそうだな・・・。」
後ろで黙って見ていたグレンバスター様が呟いた。




