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羆(ヒグマ)は背を見せず


 王国兵士隊隊長"ガンダリオス"。

 それが俺の名だ。


 現在、山頂を目指して登山中。

 三人の兵士を引き連れて。



 王様からの命令で、山頂に向かった冒険者たちの消息を確かめに向かっている。

 五日前に山頂にいる魔物を退治しに行った四名の冒険者がまだ戻ってきてないらしい。

 その消息を調べるのが俺たちの仕事だ。


「五日前か・・・。」

「もう死んでるんじゃないっスか?」

「そうだとしても、調べなきゃならないんだよ。」


 他三人の兵士は、話しながら登山している。

 ずいぶんと余裕だ。


 ライケン、ガスタード、クガ。

 それが三人の名だ。


 真面目なライケン

 物静かなガスタード。

 若者のクガ。


 見分けるとしたらこんなところか。


「喋るのはほどほどにしろ。 体力が奪われるぞ。」

「了解しました。」


 一応注意をしておいた。




 山道は足場が悪くて歩きにくい。

 場合によっては無駄な体力を消費する動きをしなければならない。


 俺はともかく、三人は大丈夫だろうか。


「足場が悪いっスね。」

「慣れておけよ・・・。」

「早い内からこういうことを知ることができて、お前は得してるぜ。」


 大丈夫そうだな。

 それだけ喋れるなら。




 さて、当然それだけでは済まん。


「隊長、上から六本足の魔物が接近中です。」


 ほらな。

 魔物(モンスター)だ。


「やっべえ(笑)」


 クガがなんかワクワクしている。

 さすが若者。


 ガスタードは黙って武器の準備を完了していた。

 ライケンも武器の準備をしている。


「俺が先に仕掛ける。 後はいつも通りに頼む。」


 俺は左腕の小手に仕舞い込んである刃を出した。


 俺の左腕の小手にはある部分を押せば、普段は隠されている刃が飛び出る仕組みがある。

 この小手は『東の国』で貰ったもので、俺にはこの仕組みの詳細はわからん。


「いつも通りって、なんスか?」

「隊長が一発大ダメージを与えるから、その後俺らでトドメを刺すんだよ。」


 俺の後ろでクガがライケンに確認をとっていた。


 二人の話が終わったのを確認し、俺は魔物に向かって歩き出す。

 山道なので全く走れないが、俺には関係ない。


 前からは六本足の大型のアリのような魔物が近付いてきた。

 俺らを喰うつもりだろうが、それは無理なことだ。

 (アリ)(ヒグマ)を喰えるか!!



 アリの大きく開けられた口の中に勢いよく左手を入れ、アリの口蓋(こうがい)目掛けて腕を振り上げた。

 次の瞬間、アリの頭から俺の左腕にある刃が飛び出してきた。

 口から頭まで刃が貫通したのだ。


 そして腕をアリから見て前方の方向に移動させ、斬り裂いた。

 当然アリの頭からは血が()き出した。


 だが、これで終わりではない。

 体を回転させ、アリの体に刃を突き刺した。

 そして前進するアリを利用して逆方向に進み、体を斬り裂く。

 刃がアリの体から離れたと同時に流血し出した。


 出血により、アリがバランスを崩しながら前方に飛ぶ。

 そこを待機していた三人の兵士が三本の槍で串刺しにした。


 顔面がぐちゃぐちゃになったアリは、そのまま動かなくなった。



「ヒェェェー、すごいっスね・・・。」


 クガが若干引いてるような声を出した。

 ライケンとガスタードはアリが動かなくなったことを確認し、脚を使って槍を引き抜いた。


「腕力がある隊長だからこそ、できる芸当だ。」

「力ある刃は、肉を裂く・・・。」


 アリに肉があったか知らんが、深く引き裂いたのは確かだ。

 死ななかったとしても、普通なら重傷であろう。



「油断するな。 これで終わりだとは決まっていない。」

「了解。」


 俺らは警戒をしながら再び参道を登り始めた。






 しばらく登っていると、やや平地になっている場所に着いた。


「ふぅ・・・、助かったぁ・・・。」


 クガは思わずそう言葉を漏らした。

 ガスタードは何も言わなかったが・・・。


「それじゃいつまで経っても一人前にはなれんぞ。」


 ライケンはやはり忠告をした。

 あくまでクガのために注意しているだけだ。



「だが、あれも調べる必要があるな。」


 俺は指差した。

 やや遠くにある横穴を。


「もしかしたら、あそこにいるかもしれないと?」

「ああ。」


 ライケンの質問に即答した。

 なんらかの理由があって、あの穴にいる可能性もあるからな。


 俺らは穴に近付いた。

 穴は結構奥に続いていた。

 入って確かめるしかないか・・・。


「ガスタード、悪いが見張りを頼む。」

「了解。」


 ガスタードを見張りに着かせて、ライケンとクガと共に穴の中へ入っていった。

 中は当然ながら暗く、足元が見えない。

 途中、見えないが坂道になっているようだ。


「このまま進むのは危険だな。」

「どうしますか?」

「クガ、お前に渡したランプを使うぞ。」

「了解っス!」


 クガはランプに火をつけ、明かりを(とも)した。

 周りがやや見えるようになった。

 とりあえず、足元も見えるようになったので再び進む。


「ついてこい。」


 俺はランプ片手に穴を進む。

 二人も後ろから付いてくる。


「こんな暗い穴にいたとして、生きてるっスかね・・・?」

「あくまで確認だからな。 いなかったらいなかったで大丈夫だ。」


 後ろの二人の話を耳に挟みながら、黙って奥に進む。

 やがて坂道が平地になった。



 その時だった。


「・・・誰?」


 声が聞こえた。

 弱々しい女の声だった。


 声のした方に進むと、明かりの中に一人の女性が現れた。

 身体を布で(くる)ませ、壁にもたれ掛かっていた。

 また、怪我をしている。


「お前は、五日前に山頂の魔物を退治しに来た冒険者か?」


 彼女は少し黙っていたが、やがて口を開いた。


「・・・たぶん、そう・・・。」


 どうやら喋る気力がないようだ。

 仕方ない。


「我々は王国の兵士だ。 とりあえず、入口付近に移動するぞ。」


 そう言って俺は彼女を抱え、ランプをライケンに持たせた。

 ライケンに先導してもらい、入口まで戻った。


 入口には見張りをしていたガスタードが待っていた。


「冒険者を一人保護した。」


 その一言でガスタードは理解した。




 とりあえず彼女に応急処置をし、飲み水を与えた。


 薄紫色のやや短い髪がボサボサになっている。

 布の下に隠していた服もボロボロだ。

 左目は髪で隠れていて分からないが、見える右目は閉じかかって元気がなさそうだった。


「少し元気は出たか?」

「・・・はい。」


 声は全然元気そうではなかった。

 一体いつからここにいたのだろうか?

 そして、彼女の身に何があったのだろうか?


「他の仲間は?」


 俺は膝をつき、彼女を見ながら聞いてみた。


 ・・・すると、水が入っていた器を手から落としたかと思うと、急に頭を抱えて震え始めた。

 「うぅ・・・」という(うな)り声をあげている。


「ごめん・・・なさい・・・、ごめんなさい・・・!!」

「ど、どうした・・・?」


 彼女は急に謝り始めた。

 だが、様子からして俺らに向けてのものではないようだ。


「隊長・・・。 この様子だと彼女の仲間は・・・。」

「ガスタード、周辺を偵察してきてくれ。」

「了解。」


 俺はガスタードに偵察を頼み、それに従ったガスタードは山を登りに向かった。

 彼女がこの調子だと、情報を聞き出すのに時間がかかりそうだからだ。

 ガスタードは斥候(せっこう)のプロだ。

 今になにかしら情報を手に入れてくるハズだ。




「大丈夫、落ち着いて。 俺らが付いてるから安心して。」


 クガは震える彼女を(はげ)ましている。

 彼なりの自分ができることをしているのだろう。

 バイザーを上げ顔が見えるようにして話している。


「隊長、穴の中には彼女の荷物らしきモノ以外には特に何もありませんでした。」

「わかった。」


 ライケンに穴の中を調査させたが、何もなしか・・・。

 となれば、残るはガスタードがなにかを見つけるか、彼女の口から聞くかだな・・・。


 だが、彼女になにがあったのか分からない。

 もし精神的に追い詰められるような状況を体験したのなら、下手に聞くとトラウマを思い出させてしまう可能性がある。

 ここは彼女が落ち着くのを待とう。



「俺はクガ。 君はなんていう名前?」

「・・・。」


 彼女は黙っていた。

 しかし徐々に口を開いた。

 そして・・・。


「・・・ソニア。」


 名前を言った。


「ソニア・・・、いい名前だ。」

「・・・ありがとう。」


 ソニアは少しずつクガに心を開き始めている。

 若者だけあって、クガはコミュニケーション能力が高いようだ。


「そっちにいるのがライケンさんだ。 今この場にいないのがガスタードさん。 それでそちらの大きい人が隊長のガンダリオスさんだ。」

「・・・。」


 ソニアが俺たちの姿を交互に見ている。

 気のせいか、少し顔色が良くなってきているようだ。


「俺らはさ、王様に頼まれて君たちの救出に来たんだ。 必ず君を助けてあげるからさ。 元気を出しなよ。」

「・・・。」


 クガはソニアの両肩を掴み、目を見つめながら彼女を励ました。

 俺は普段のクガからは想像もつかないほどの頼もしさを感じていた。


「だからゆっくりと、落ち着いてから、なにがあったか話していいよ。」


 クガは終始笑顔のまま話した。



 その励ましのおかげか、今度はソニアの方から口を開き出した。


「・・・あの、じつは・・・。」


 彼女はついに、なにがあったか話す気になったようだ。

 俺たちは黙って彼女の話を聞いた。


「私たちは男二人、女二人の編成でここに来ました・・・。 長い山道を登り、ついに目的の魔物を発見したのです・・・。」


 長く話せるまでに元気が戻ったようだ。

 ・・・ところが、次の話をする際に暗い顔に変わった。


「魔物の正体は、2メートルくらい背があるサルのような魔物でした・・・。」

「猿・・・?」


 猿のような魔物か・・・。

 見たことがないな。


「その猿の魔物はとても強く、私たちのパーティは壊滅しました・・・。」

「壊滅・・・。」

「男の子たちは二人とも殺され・・・、もう一人の女の子は猿に捕まりました・・・。」


 ソニアは(うつむ)きながら話を続けた。


「私だけはなんとかここまで逃げてこれました・・・。 助けを求める彼女を見捨てて・・・。」

「それで、魔物と満足に戦えないほどの怪我をしたせいで帰ることができず、3、4日間も帰ることができなかったというわけか?」

「はい、その通りです・・・。」


 なるほど、そのようなことが・・・。

 さっきの謝罪は見捨ててしまった女の子へか・・・。


「でも、捕まったということは女の子はまだ生きているかもしれない!」

「だが、そうじゃない可能性もある。」

「ライケンさん、なぜにそんなことをわざわざ言うんっスか!?」

「3、4日も経っているんだぞ。 しかも相手は魔物だ。 普通なら殺されているハズだ。」


 ライケンの言葉を聞かないようにソニアは耳を(ふさ)いでうずくまっていた。

 その彼女の姿を見て、クガはライケンを(にら)んだ。

 普段おちゃらけているクガが真剣な表情をしていた。




 ややギスギスしだした二人だったが、ちょうどそこに偵察から戻ってきたガスタードが登場した。


「ガスタード、なにかわかったのか?」


 この場の空気を変えるために、俺はすぐにでも聞きたかった。


「その前に・・・、そちらはどこまで情報が入りました・・・?」

「わかった、今話す。」


 俺はガスタードにソニアから聞いたことを話した。

 話終えると、すぐにガスタードが口を開いた。


「では、やはりあそこにいたのが冒険者の一人だったか・・・。」

「なに、見つけたのか!!?


 ガスタードの話にさっきまでギスギスしてた二人も入ってきた。


「生きてたっスか・・・?」

「・・・ああ。」

「ほら見ろっス!」

「まあ、良かったじゃないか。」


 とりあえず口論は終了したな。

 しかし、無事で良かった。


「いや・・・、生きてはいるがアレは果たして無事と言えるか・・・?」

「・・・なんだと?」


 ガスタードの言葉に再び場が静まり返った。

 ソニアも恐怖を感じる表情をしている。


「詳しくは言えませんが・・・、どうやらあの猿は人間に欲情(よくじょう)するようです・・・。」


 その言葉を俺らは察した。


 ライケンは舌打ちをし、クガは拳を握りしめ、ソニアはショックを受けている。

 そして俺は、静かに(いか)っていた。


 すぐに俺は行動を開始した。


「クガ、ソニアを頼む。 ライケン、ガスタード、俺についてこい。」

「了解・・・。」

「隊長、やるんですね。」

「ああ。」


 奴は魔物で立派な犯罪者だ。

 そんな奴にすることといえば一つだけだ。


「これより冒険者の女性を救出し、魔物を断罪する!」


 俺の故郷には、妹が住んでいる。

 子供の頃から可愛がっている大切な妹だ。

 だから俺は、善良な女を傷つける奴が特に許せねえ。

 人間でも魔物でも関係なくだ。


「ソニア、お前の仇は俺がとってやる。」


 俺は一言そうソニアに言って、ライケンたちと共に山を登っていった。




「大変・・・! 彼らを止めなきゃ・・・!!」

「大丈夫、大丈夫。」

「でも、あの猿は本当に強いんです・・・!!」

「なら隊長はもっと強いさ。」

「え・・・?」

「それに、隊長は一度も敵に背中を見せたことがないらしいんだよ。 どちらにしても、隊長は敵に立ち向かいに行っちゃうさ。」






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