風俗の女
ここは風俗店。
人間たちの欲望が最も露わとなる恐ろしい場所。
・・・と言うのは大袈裟かもね。
いえ、あながち間違いではなかったりする。
ここにやって来たお客さんの中には、秘密の情報を漏らしていく方もいたりした。
ある意味、情報屋よりも情報がある場所かもね(笑)
この私、“ジュンナ”も風俗で働く女である。
自分で言うのもなんだが、店で一番人気の風俗女だ。
これも経験と実力の賜物だ。
・・・まあ、威張るようなことではないが。
相手をした人たちはほとんどがストレスを感じている人ばかりだった。
そんな彼らを思う存分甘えさせてあげるのが私の仕事。
少し優しくしてあげれば、まるで子供のように懐いてくる。
その光景はこの世の中の闇を見ているようで、少し怖かったりするが。
当然ストレスがない人もいた。
彼らもとても満足して帰ってくれた。
そんなこんな続けて何年経ったかしらね。
なんかこの暮らしが「普通」に思えて来ちゃったのよね。
側から見れば、全然普通じゃないのに。
慣れって怖いわね。
そして、今日も私は働く。
不満を感じる男性たちのために。
「ジュンナさん、例の「彼」がまた来てますよ。」
やはり今日の来たわね。
ここ最近常連となっている男性がいた。
その男性はおかしなことに「そういうこと」目的ではなく、別のことが目的で風俗に通っている。
その男性の名は“アキト”。
例の連続殺人事件の犯人だ。
数十分後・・・
「やっぱり、アキトは凄いわね・・・。」
事が終わり、私はベッドでグッタリしていた。
体全体が熱く、それが幸せに思えた。
だが、先程まで一緒にベッドにいた私たちだが、事が済むと彼は立ち上がり服をさっさと着始めた。
「ねえ、せめて余韻に浸りましょうよ。 いつもアナタはそうやって・・・。」
しかし、アキトは一切返答はしてこなかった。
いつものことだけどね。
私は仰向けになり、天井を眺めた。
天井には照明しかなく、特に見て面白いものはない。
当たり前だが。
「・・・確認するが、・・・確かなんだな?」
着替え終わったアキトが話しかけてきた。
私は体をアキトがいる方へ向けた。
相変わらず奇妙な格好だ。
「ええ、確かよ。 あの店の主人は金のために人を殺したわ。」
アキトの目的はあくまで情報収集だ。
この店が情報を手に入れやすいことに気付き、それ以来常連となっている。
なんとも奇妙な人だ。
「・・・助かった。」
アキトは情報の報酬の代わりに体で払ってくれている。
まあ、半分私の頼みだが。
最初は金だけ払っていたが、私が遊び半分で「そういうこと」に誘ったら、彼のたくましさに一目惚れしてしまった。
それ以来、アキトには体で払ってもらっている。
「・・・それから、・・・俺の名を簡単に他人に話すなよ。」
え?
名前・・・?
・・・あー、そういうことね。
前にあの青髪の娘に喋っちゃったからか。
「ごめんね。 でも彼女良い子そうだったじゃない。」
「・・・見た目だけで判断するな。」
怒られちゃった。
まあ、そら怒るか。
「・・・またいつか来る。」
彼は一言そう言って、部屋を出て行った。
いつも通りだ。
彼が求めているのは情報であって、私ではない。
それは分かっている。
分かっているのだけど、この気持ちはなんなのだろうな。
顔は怪物みたいだけど、体はたくましくて頼もしさを感じる。
声も低めで物静かなところもイイ。
なにより彼と接して気付いた、彼の内に秘めている優しさに惹かれた。
彼は一見酷く見えるが、本当はとても優しい人間だ。
そんな彼に、私は興味を持っているのだろう。
ミステリアスな彼に・・・。
私は店の外に出てみた。
普段よく見ている背景を眺めている。
この通りは「そういうこと」をする店ばかりだ。
どこもかしこも怪しい匂いを漂わせている。
数ある店の中でアキトがこの店を選んでくれている理由は、ここが一番繁盛しているからだ。
・・・つまり、一番ならどこでも良いわけだ。
私はそうならないように、今日もここで頑張って働く。
そしてまた、アキトに会うために。
「ジュンナさん、こんにちは!」
私の目の前に、一人の男の子が現れた。
よく知っている子だった。
「こんにちは、アキラくん。」
この子は“アキラ”くん。
通りのもっと奥にある男娼の風俗に勤めている男の子。
その店の人気者だ。
その人気の理由は、見た目と声が女の子っぽいからだろう。
背も小柄で華奢だ。
サラサラの長い黒髪を後ろで縛っている。
たまに女装して通りを歩いていることもある。
同性愛者ではない男たちからも人気であり、女性にも人気である。
まあ、彼は男の方が好きみたいなんだけどね。
「なにしてんの?」
「宣伝で出回ってるのです。」
よく見ると、店の宣伝用の看板を持っていた。
「大変ね、君も。」
「慣れてますから。」
彼はいつも笑顔を忘れない。
その姿は完全に女の子のようだった。
アキラくんはそのまま歩みを続け、角を曲がって見えなくなった。
・・・この町の治安は良くないから、襲われてしまうかも。
そうならないことを願おう。
そういえば、アキトは男娼の風俗に情報を求めたりするのかしら・・・?
犯罪者の中には男色の人もいる可能性もあるだろうし、ありえなくはなさそうね。
まあ、だからどうしたって話だけど・・・。
アキトは初めて会ったときから殺しを続けている。
被害者は全員極悪人だが、それが善行だとは私は思っていない。
また、悪行とも言わない。
あくまで私はただ「見ている」だけだ。
彼の行動を。
少なくとも彼はちゃんと考えて行動している。
私が口を出したところで、彼の意思が変わることはないだろう。
彼はこの先も「悪人を罰する」であろう。
なら私は黙って情報を提供する。
それしか彼にできないことだからだ。
そういえば、最近彼に近寄ってる青髪の冒険者のことも気になるわね。
前に風俗の道を勧めたけど、断られちゃってたわね。
彼女ならすぐにでも人気になれると思うのにね。
まあ、私の方がおかしいのは分かってるわよ。
今度通りを出て、町の方へ行ってみましょうかね。
もしかしたら彼女と出会えるかもしれない。
最近といえば、グレンバスターが町に来ているらしいわね。
風俗街には未だ来てはないけど。
まあ女性との付き合いは普通らしいからね。
「そういうこと」には発展しないみたい。
あの性格からして不純な女遊びしてそうなのに意外だったわ。
最近王様もなにか行動を起こしているみたいだし、今後が気になるわね。
嫌なことにはならないでほしいけど・・・。
つい考え事で時間を潰してしまった。
そろそろ中に戻ろう。
二日後・・・。
この日、一つの出来事で騒がれていた。
遠くの町の町民一人と武器屋の店主が殺害された。
どちらも胴体を真っ二つにされていたらしい。
私には誰の仕業かすぐに分かった。
彼・・・アキトだ。
なぜすぐに分かったかというと、その情報を教えたのは私だからだ。
人というのは、何かしら繋がりがある。
どんなに小さな繋がりでも、辿っていけば近くなる。
世の中とは狭いものだ・・・。
私はお客さんの話で、町民の一人が武器屋と共謀して道具屋の主人を殺害した情報を私は手に入れた。
ただ今回は簡単に手に入っただけだ。
普段は小さな情報を手に入れて、後はアキトが独自で調査をするというのがいつもの流れだった。
だが今回の市民と武器屋の悪事は結構噂になっていたらしい。
まあ噂程度だったので、本当に起こるとは誰も思っていなかったのだろう。
道具屋の主人が知ってたかは不明だが・・・。
それにしても、アキトもよくやるわね。
胴体を切断するのは完全に死なせるためらしいが、かなり惨いわね・・・。
間近で見たことは無いから、どういう物かはよく分からないけどね。
彼がここまで悪党に容赦無いのは何故だろうか?
確かに悪党を許せないのは普通だが、どうしてあそこまで・・・。
正直彼の過去は私も知らない。
これまで色々な男性の心を掴んできたが、唯一彼のみ私に心を開いてくれない。
彼の内面をあまり理解してない。
彼のことをもっと知りたい。
いつの間にかそんな彼に惹かれていた。
そう・・・、私は彼に「恋」をしているのだ。
信じられないことだが・・・。
・・・だけど、私では彼を支えることはできないだろう。
私にできることは手を貸すことだけだ。
だから贅沢は言わず、私は今の関係で満足している。
満足している・・・、ハズなのだが・・・。
どうしてこんなに複雑な気持ちになるのだろうか・・・。
いや、本当は理由が分かっている。
あえて気付かないフリをしているだけだ。
私は、今はこれ以上「彼」のことを考えるのをやめた。
悲惨になるだけだからだ。
気持ちを切り替えて、今日も仕事をこなす。
人々のために・・・。




