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私にできること


 私シルヴィアは、現在依頼の最中。

 魔物(モンスター)を倒すことなんて楽勝だ。


 ・・・ということを言えない状況である。



 現状は最悪・・・。

 今私は岩陰に隠れながら魔物を観察している。


 地上にいる二体は辛うじて倒せる。

 問題は空にいる一体だ。


 アイツの足の爪はかなり鋭く、人間の体なども(つらぬ)けるくらいだ。

 地上の二体も危険だが、油断さえしなければ私は大丈夫。

 ちなみにどちらも同じ種類の魔物だ。

 だが空中の敵は苦手だ。

 私の槍で対処できるだろうか・・・。



 ・・・仕方ない。

 まずは一体を(おび)き出すか。


 私は手頃な石を拾い、地上の魔物の片方に向けて投げた。

 石は魔物にぶつかった。

 当然魔物はすぐさま周りを見渡し始めた。


 私は再び、残り二体の魔物が気付かないように石を投げた。

 今度は魔物の(ひたい)に当たったため、流石に魔物は石が飛んできた方向に歩き出した。

 つまり、私がいる方向にだ。



 私は後退(あとずさ)り、魔物に見つかっても余裕がある距離をつくった。

 しかしそれでは安心できないため、巨大な岩を利用して他二体からは姿が見えないところへ移動した。

 これで私を発見できるのは近付いている一体のみだ。


 岩陰から魔物が姿を現した。

 私は瞬時に魔物の正体を見破った。

 図鑑で見た事がある魔物だったからだ。



 この魔物の名は”ヘッドドラゴ“。

 名前の通り、頭が胴体と同様の存在となっており、その頭から手足が生えているドラゴンだ。

 この生物を侮辱(ぶじょく)するわけではないが、なんとも奇妙な姿の魔物である。


 ヘッドドラゴは私を発見すると、勢いよく突進してきた。

 大きな口を開けながら突進してきており、下手をすると一発で胃袋の中へ放り込まれるだろう。

 だが、この攻撃には弱点がある。

 口を大きく開けることができるが、そうすると全く前が見えなくなるのだ。


 当然、私は素早くかわした。

 そして横を通り過ぎようとしているヘッドドラゴの頭頂部近くを槍で貫いた。

 皮膚はそこまで硬くないので、鉄でできた私の槍なら貫くことが可能だ。


 槍は脳をも貫いたようだ。

 すぐに槍を引き抜き、距離を置く。

 ヘッドドラゴは盛大に前のめりに倒れた。

 図鑑通り、弱点は脳だったようだ。

 ・・・というか、脳をやられれば誰でも死にそうだが。




 ヘッドドラゴを討伐したことを確認し、私は再び先程の岩陰に戻り魔物たちの様子を(のぞ)いた。

 もう一体のヘッドドラゴも討伐しようと思ったが、そのもう一体の姿が消えた。

 どうやらどこかへ行ってしまったようだ。


 ・・・仕方ない、空の奴を先に倒そう。



 私は堂々と空の魔物の前に姿を現した。

 当然魔物は私に気付き、威嚇(いかく)をしている。


 私も考え無しに飛び出たわけではない。

 ちゃんと魔物のことを思い出していたからだ。


 あの魔物は見た目通り"スカイクロー"という魔物だ。

 名前の通り爪が特徴的な空飛ぶ魔物。

 爪に刺されればどんなに強い冒険者でも命の危険がある危険な魔物だ。

 おまけに飛んでいるから厄介。


 そんな相手を倒すことができるのか・・・。

 正直不安でしょうがない。

 だけど、ここで逃げてはならない。

 私だってやればできることを証明するんだ。



 さて、図鑑通りならスカイクローはしばらく威嚇を続けるだろう。

 奴らは警戒心が強いからな。

 ここで下手に逃げたりすると全速力で追いかけてくるのでとても危険だ。

 ここは奴から目を離さないようにするのが重要だ。


 そして第二段階。

 威嚇をしても無駄だと分かると、今度は足の爪で刺してこようとする。

 標的に向かって全速力で接近し、飛び蹴りのように足を前に出して爪で刺してくる。

 本来ならそれで標的を仕留める。


 だが、事前にその知識があった私には通用しない。

 すぐに避けて、奴の背後をとった。

 スカイクローの爪は地面に刺さった。

 この、地面から爪を抜こうとするときが攻撃のチャンスなのだ。


 私は力強く槍を奴の首目掛けて突き刺した。

 槍は貫通し、スカイクローは悲痛な鳴き声をあげている。

 血を大量に流れ出し、動かなくなるのは時間の問題だった。


 じつはスカイクローは自分より強い生物に会ったら逃げる習性の持ち主だ。

 威嚇をしているときに逆に威嚇をすれば逃げることもある。

 だが、私の目的はあくまで討伐なのでそれはしなかった。

 ・・・まあ、できるとは言ってないが。



 首から槍を抜き、スカイクローが地面に倒れるのを確認した。

 地面に突き刺さった爪のせいで、片足を上げたまま倒れている。

 酷い姿だ・・・。






 二体のモンスターを討伐した私は、最後の一体を探していた。

 そんなに遠くへは行ってないと思うが果たして・・・。



 しばらく探し回った。

 そして、ちょっとした坂を下りた小さな岩場で奴を発見した。

 しかも誰かと交戦中であった。


 一体誰だろうか?


「あっ!」


 思わず声が出た。

 なぜならヘッドドラゴと戦っていた人物は、私の知っている人だったからだ。


「アキトさん!!」


 私は勢いよく坂を下りながら、彼の名前を呼んだ。

 アキトさんも私に気付いた。


「・・・またお前か。」


 彼はため息まじりに言葉をもらした。


「・・・本当にストーカーだろ、・・・お前。」

「いえ、本当に偶然です!」

「・・・そんなバカな。」


 私も信じられないが、本当に偶然アキトさんと会うことが多い。

 一種の運命なのだろうか?



 ヘッドドラゴが会話中のアキトさんに突撃してきた。

 それに気付いた私はアキトさんに知らせようとしたが、アキトさんは分かっていたのか、二つのオノを取り出してガードの構えをとった。


 ガードをしているアキトさんと口を開けながら突撃してきたヘッドドラゴが正面衝突した。

 上顎を交差させた二つのオノと両腕で防ぎ、下顎を膝で押さえている。

 よく見ると、膝に下顎の牙が刺さって流血している。

 とても痛そうだった。


「・・・迷惑だと言っただろ! ・・・早く消えろ!」


 そんな状況の中、私に聞こえる声で言い放ってきた。


 ヘッドドラゴの顎はとても丈夫で、普通の人間の力なら押さえきれないくらいだ。

 鍛えている人間なら押さえることはできるが、押し返すことは基本無理であろう。

 彼もどうやら、押さえることで精一杯のようだった。


「アキトさん! その魔物の弱点は頭頂部付近です! ですが皮膚が少し分厚いので斬るのではなく、刺してください!!」

「・・・あ!?」

「オノではなく、ナイフで頭頂部付近を突き出してください!!」


 あの屋敷で確かナイフも使っていたのを私は知っている。


 アキトさんはしばらくヘッドドラゴの顎を押さえていたが、隙を見て後ろへ跳びヘッドドラゴから離れた。

 その時の牙に刺さっていた膝の抜き方が、普通に抜くのではなく、さらに上に削らせて抜かせるというなんとも痛々しい抜き方だった。


 ヘッドドラゴは勢いよく口を閉じた。

 下顎からアキトさんの血が垂れてるのが見えた。


 アキトさんの方は膝が縦に切られて血塗(ちまみ)れだった。

 しかしそんなことは全然気にしていないようで、二つのオノをしまい、腰に刺しているナイフを手に取った。

 逆手持ちでナイフを握り、ヘッドドラゴを(にら)んでいる。


 ヘッドドラゴは再びアキトさんに向かって突進した。

 アキトさんは余裕で回避をし、通り過ぎて行ったヘッドドラゴの後を追った。

 ヘッドドラゴがゆっくりと歩みを止め始めたところで、アキトさんは両手で持っていたナイフを頭頂部に突き刺した。

 ナイフの刃が全部ヘッドドラゴの頭の中に入っていた。

 アキトさんはナイフをさらに深く刺し、そのまま手前に強く斬った。

 深く斬った(あと)がついた。

 そして、先程の個体と同じく前のめりに倒れ、動かなくなった。



「大丈夫ですか!!?」


 私はアキトさんに歩み寄った。

 アキトさんの膝は血塗れで真っ赤だった。

 だがアキトさんは平気そうだった。


「・・・死んでも蘇ると言っただろ。」

「そうですけど・・・。」


 死んでも蘇る光景は、あの屋敷でよく見た。

 だけど、わかっていても心配してしまう。


 するとアキトさんは私から目を()らして、ヘッドドラゴの方へ歩み出した。

 その途中で、言葉が聞こえた。


「・・・だが、・・・助かったことは事実だ。 ・・・礼は言う。」


 一切こちらを見ずに、アキトさんは言った。

 ・・・でも、その言葉は私にとってとても嬉しかった。

 やっと役に立てたからだ。



 アキトさんは動かなくなったヘッドドラゴの口の右側からオノで斬り始めた。

 どうやら、いつもの切断だろう。


 彼の過去は知らない。

 一体どうして彼はこのようになったのだろうか?

 いつか、彼は話してくれるのだろうか・・・。




「・・・なぜコイツの弱点を知っていた?」

「えっ!?」


 予想外だった。

 彼から話しかけられた。

 切断しながらだが・・・。


魔物図鑑(モンスターマニュアル)を少し暗記したのです。」


 私が答えると、彼は「・・・ほう。」と言った。

 一切腕を止めてないが・・・。


「・・・魔物のことには詳しいのか。」

「戦闘面ではあまり活躍できないので、こういうところで活躍しようかなと。 これならアキトさんのお役に少しは立てると思います!」


 私はやや自信満々に言った。

 すると、アキトさんは今まで止めてなかった腕を止めた。


「・・・俺は死んでも蘇る。 ・・・必要はない。」

「えっ?」


 相変わらずコチラを見ずに喋っていた。

 アキトさんの言葉に反論しようとしたが、その前にアキトさんが喋り始めた。


「・・・他の冒険者などを助けろ。 ・・・奴らにはお前が必要だ。」

「え?」


 彼はそう言うと腕を再び動かし、切断作業に戻った。


「他の冒険者・・・?」


 私はアキトさんに聞くように言ったが、彼は何も言わなかった。

 ただ彼は魔物を切断していた。



「・・・早く行け。」


 最後に一言、彼はそう言い放った。

 そして言葉は無くなり、聞こえるのは何度も魔物を斬るオノの音だけとなった。


 私はこれ以上は無駄だと思い、離れることにした。

 ・・・だけど、これだけは言いたかった。


「アキトさん、またどこかで会いましょう!」


 彼の返答を聞こうとはせず、私はその場を去った。




 私は今回のことで心に決めたことがあった。

 「自分の知識で、他の冒険者を助ける」。

 先程アキトさんに言われたことだ。


 私はまた一つ、成長したと感じた。






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