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王女の想い


 (わたくし)の名は“マリス”。

 この国の王の娘。


 その立場故、今まで(かご)の鳥のような生活を送っていた。


 町の様子などは報告などで聞くが、実際に目にしたことは一度もない。

 一体どういう風になっているのかを、ただ想像するしかない。



 当然、外に出てみたいと思ったこともあった。

 だが当然、お父様は許してくれなかった。

 ここ数年、悪人たちの増加で危険だかららしい。


 お父様は私と違い、自分の身は自分で守れる方なので大丈夫らしいのですが。


 私も子供ではないので、仕方ないと受け入れ大人しく城に居続けている。

 相変わらず、兵士が報告する町の状況を耳にして。




 国は広い。

 城の兵士たちも無限にいるわけではないので、できることに限りがある。

 それに、「アレ」の調査もしなければならない。

 だから、悪人を逮捕するのも一苦労。


 極悪人の噂なども耳にするが、真偽が不明なので調査させなければならない。

 それで遅れてしまい、次々に犠牲者が出てしまう。


 そして、一部の人々から非難を受ける。

 当然の報いではある。



 だが、お父様はやれることを全力でやっている。

 兵士たちも、人々を守るため一生懸命に活動している。

 決してサボっているわけではない。


 だけど、私たちは人間。

 限度というものがある。


 立場上、裏の人々を利用するわけにもいかない・・・。

 なので情報なども断片的に少しずつ手に入れるしかできない。



 そのような私たちだが、なんとか人々を守れている。

 だが、守ることができなかった人々もいる。

 私たちの力では、無理なのかもしれない・・・。




 そう思っていた日々が続いたが、ある日、一人の人物の情報を耳にした。

 「連続殺人事件の犯人」である。


 最初の頃は、また新たな悪人が現れたのだと思った。

 だが、犯人が殺害してきた人物は、今まで我々が捕まえ(そこ)ねてきた犯罪者たちだった。


 犯人の狙いはなにか分からないが、認めたくないがその殺人は私たちにとって大きな助けとなっていた。




 日が進むにつれ、次々と悪人を殺害していく犯人。

 そしてその情報を耳にする私。


 いつしか犯人様に興味を持ってしまった私だった。



 お父様は、どうすれば人々を守ることができるか毎日悩んでいる。

 普段のご様子からは想像できないが、内心酷く頭を抱えている。

 娘の私だからこそ分かることだ。


 そんなお父様の悩みを少しでも減らしてくださり、さらに自ら汚れ役を演じてくださる犯人様には、正直私は感謝している。



 いくら悪人とはいえ「殺人」は悪いことだということは分かっている。

 分かっていても、私は犯人様に感謝してしまっている・・・。


 でも、私は後悔はしていないつもりだ。






 この前の「転売屋殺人事件」も、「淑女誘拐犯殺人事件」も、被害者は胴体を切断されていた。

 今までにもそういう事件が起きていた。

 同一犯で間違いないとのことだが、私にはその犯人様を模した違う殺人犯ではないかという考えもあった。

 もしくは一連の事件の犯人様は集団で(おこな)っているのではないかという考えもあった。


 今まで謎ばかりであった連続殺人犯の正体が、あと少しで分かるハズだわ。


 明日、グレンバスター様に会う日が楽しみで仕方ないわ。




 それから私は侍女の助けを借りながら、寝室のベッドでぐっすりと眠った。

 次の日が楽しみで仕方なかった。






 そして、次の日がやってきた。


 私は朝やるべきことを終わらし、城内を歩き回っていた。

 お父様を探していたからだ。



 しばらくして、見つけることができた。

 城内にある中庭で兵士に混じって運動をしていたのだ。


「お父様、またそのようなことをなさって・・・。」

「おおマリス。 お前もやるか? 気持ちええぞ!」


 お父様は汗まみれだった。

 半裸になって、タオルを肩にかけている。

 邪魔だと思われたのか、王冠とマントは外されている。


「お父様・・・。 もっと自分が王であることを自覚してください。」

「自覚はしてるぞ! その上でこうしておる!」


 汗まみれの顔で笑顔を見せつけられた。

 無邪気な笑顔で言われたので、それ以上私は言えなかった。



「・・・ところで、グレンバスター様はまだいらしておりませんか?」

「あー、まだじゃな。」


 まだ、か・・・。

 早く来てくださらないかしら?


「そんなにグレンバスターが好きなのか? 奴なら婿(むこ)にしても大歓迎じゃ!」

「違います、お父様! 勘違いなさらないでください!!」

「ああ知っておる。 それって“ツンデレ“って奴であろう?」

「それがなにか存じ上げませんが、絶対に違うと思われます!!」


 これだからお父様は・・・。


 グレンバスター様は素敵だと思われますが、別にそういった感情は持ってはいない。

 ただ、頼もしい人だとしか想っていない。


 今まで、私は「恋」というものをしたことがない。

 お城に(こも)っていることも原因だと思うが・・・。


 これから先、私に運命の人が現れてくださるのかしら?

 ただ、そのようなことを考えている場合ではないことを理解しているが。




「おお、マリス王女。 ご機嫌麗しゅう。」

「ガンダリオス、あなたもお元気そうで。」


 この国の兵隊長である”ガンダリオス“が近くに来た。

 普段は全身を鎧で固めている彼だが、今は鎧は(おろ)か上半身が裸の状態だ。

 筋骨隆々の大柄な体が、汗まみれになっている。


「見ての通り、兵士たちは明日を守るための特訓をしております。 実際に何日か前に兵士の一人が盗人(ぬすっと)を捕らえましたし。」

「ええ、存じております。」


 町に現れた泥棒を成敗したときのことね。

 確かにあの時は頼もしく感じたわ。


「では、私めも特訓をしなければならないのでこれで。」


 そう言うとガンダリオスは庭の中央辺りに戻り、腕立て伏せをし始めた。



「ホッホッホッ、頼もしい(オトコ)じゃ。」

「そうですね。」


 ガンダリオスはその強さから”鉄の(ヒグマ)“と呼ばれており、グレンバスター様ほどではないが沢山の人たちから一目置かれている。

 もちろん、城の者たちにも。


「さて、ではワシも戻るかの。 マリスもたまには体を動かすといいぞ?」

「はい、覚えておきます。」


 私はお父様にお辞儀をして、中庭を離れ場内へ戻った。






 それから、どのくらい時間が経っただろうか。

 空は赤く染まっている。

 つまり夕方だ。


 まだグレンバスター様は来てくださらない。

 それとも、今日は来ないのかしら・・・?


 私は我慢できず、廊下から城門を見下ろしていた。

 城門近くの庭には兵士が見回りをしており、城門にも兵士が二人ほど立っている。

 城だから当然であろう。


 残念ながら町の方の様子は全く見えず、沢山の家の屋根しか見ることができない。

 この城が高い位置に建っているからであろう。



「王女様、そのような場所におられると風邪をひかれますよ?」


 心配した侍女が私を探しに来たようだ。

 ルビー色の瞳で心配そうに見つめている。


「ごめんなさい、すぐに戻るわ。」


 ここで待っててもグレンバスター様が早く来るわけではない。

 私はそう思い、自分の部屋へ戻ることにした。



 ・・・その時だった。

 私が外から目を離す直前に、遠くで人影が見えた。

 コートを羽織り、銀色に輝くフルフェイスヘルムを被った男性だった。


「グレンバスター様だわ!」


 こちらに向かっている最中だった。

 侍女も私の言葉に反応し外を見た。


「本当ですわね。」


 ついに来てくださった。






「ずいぶんと待っていたようだな。」

「なんともお恥ずかしゅう・・・。」


 城の客間で私たちは向かい合って座っている。

 机には紅茶をそれぞれ置かれている。


「・・・で、犯人のことだったか?」

「はい・・・。」


 グレンバスター様は腕を組みながら座っている。

 フルフェイスの兜で頭を(おお)っているため表情が全く分からない。


「姿は見たが、名前はわからねえぞ。」

「そうなのですか・・・。」


 名前は分からないのですか・・・。

 それは正直残念ですね。


「それでどのような姿なのですか?」


 私は言葉を聞き逃さなかった。


「えーと・・・、まず赤いマントを身につけていたな。 フード付きのやつ。 あとボロボロだった。」

「意外と目立つ姿ですね・・・。」

「服は軽装だったな。 腰にナイフを刺していて、腕には鉄の籠手(こて)を付けていたな。 それと皮の手袋を付けていたな。」

「ナイフを武器にしているのですか?」

「いや、アレはサブだな。 メインは二つのオノだろうな。」

「オノ・・・ですか。」


 なるほど。

 それで死体を・・・。


「ああそれと・・・、よく見えなかったが確か目が白目だったな。」

「白目?」

「なぜか知らんが、黒目が無かったんだよな。」

「黒目が・・・。」


 一体どういうお方なのでしょうか・・・。


「大体そんな感じだ。」

「ありがとうございました。」


 名前は知れなかったが、犯人様の容姿は大体覚えられることができた。

 それだけでも満足ですね。



「失礼。」


 グレンバスター様は兜の口元に手を置いた。

 そして兜の口部分の一部を抜き取った。

 すると兜の口元がそれぞれ両側に引っ込み、グレンバスター様の口元が現れた。


「いつ見ても、その兜の仕掛けはどうなっているのですか?」

「知らねえ。 俺もこうなる兜だと知って買った身だからな。」


 一体どこで買ったのでしょうか・・・。


 グレンバスター様は紅茶を飲んでいる。

 肌はやや浅黒く、口髭を生やしている。

 私は見るのは初めてではない。


「さてと、そろそろ失礼するわ。」


 グレンバスター様は紅茶を飲み干すと、再び抜き取った一部を元の場所に差し込んだ。

 それと同時に両側に引っ込んだ部分が出てきて、元の位置に戻る。

 そして元の兜へと戻った。


「悪いが王に用事があってな。 話はここまでにさせてもらうわ。」

「本当にありがとうございました。」


 客間を出ていくグレンバスター様を、私は見送った。




 こうして私は、さらに犯人様への興味を持つのであった。






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