この国の王
俺の名は"グレンバスター"。
当然この名は本名ではない。
一体誰が呼んだか知らんが、「谷壊し(グレンバスター)」という異名がいつの間にか広まっていた。
谷なんか壊したことねえのに。
実は“グレンバスター”にはもう一つ由来があるのだが、まあどうでもいいや。
そんな俺は現在お城に向かっている最中だ。
王から頼まれた仕事を終わらせたからだ。
≪連続殺人事件の犯人捜し≫。
とりあえず、殺人鬼は発見した。
奴は見た目や行いはともかく、結果的に町を護っていることには変わりない。
まあ、良い行いかどうかは知らんがな。
「どうも、王。」
俺は王の間にやってきた。
言葉に礼儀がないが、問題はない。
元主人だが、友達みたいなものだからな。
どういう関係かを話すと、かなり長くなるから省略するが。
「グレンバスター。 戻ったか。」
こちらがこの国の王様である"レオカディオ4世"だ。
見た目は子供並みの小柄で、髪は薄い。
一見前髪しか生えてないようにも見える。
大きなカイゼル髭を生やし、口が閉じていると隠れる。
王という立場でありながら、兵士や市民などにも対等に接し、簡単に言えばフレンドリーな王だ。
そう言われると呑気に見えるが、国のことは真剣に考えている。
普段はのほほんとした顔だが、真面目な話をしている時などは真剣な顔つきへと変化する。
今の顔は「真面目モード」だ。
そんな王だ。
「それで、見つけたのか?」
「ああ、隣町で見つけた。」
あの女性のおかげでな。
しかし、どうして彼女は奴の場所を知っていたのだろうか?
知人みたいだったし、何か知ってそうだな。
「で、どうだった?」
「ただ悪党を殺しているだけみたいだ。 それが「使命」だと言っていた。」
「使命・・・?」
「よく分らんが、それが悪党を殺している理由らしい。」
「ほう・・・。」
「使命」・・・。
アイツは一体なんなんだろうか。
まず、顔が人間離れしていた感じだったな・・・。
「本来なら放っておくわけにはいかない案件だが、この国には犯罪者が多くなってきた。」
「そうなんだよな・・・。 遠くの方も旅をしたが、いやがったぜ。」
「こういうことを言いたくないが、正直彼には助けてもらってる。 犯罪者たちには悪いが、彼らのせいで善良な市民たちが酷い目に遭うのはなんとしてでも阻止せねばならない。」
「仕方ねえよ。 両方を救うことができるのなら苦労しねえ。」
それに、犯罪者たちに関しては完全に因果応報だ。
改心させることができる奴はごく僅かだ。
正直認めたくないが、アイツのやり方が今のところ一番有効なのだろうな。
「そういえば、前々から言ってた「アレ」はどうだった?」
「まだ不明だ。 下手に近寄ったら多くの犠牲が出てしまう。」
「アレ」はまだ不明か。
できれば、予感が当たらなければいいが・・・。
「もしかしたら、お前の力を借りるかもしれん。」
「了解・・・。」
まあ、もしもの話だ。
そう本気にならなくていいだろう。
「・・・さて、とりあえずこのくらいかな。」
「まあ、今日のところはここまでだな。」
俺らは一度深呼吸をした。
そして、王が顔を上げた。
「んじゃ、グレンバスター。 飲みに行くとしよう!」
顔つきが一瞬にして変わった。
頬は赤くなり、目は細く、そして言葉から威厳がなくなった。
この、のほほんとした顔が王の普段の顔だ。
だから親しまれているのだろう。
「飲みに行くのなら、良い店知ってるぜ?」
「おお、それは楽しみだわい。」
王が玉座から飛び降り、俺の足元に近付いてきた。
そして俺らは部屋の扉に向かって歩いた。
少し遠い場所にあった扉を開き、廊下へと出た。
当然王を置いて行かないように注意した。
「あら、お父様・・・と、グレンバスター様。」
廊下を歩いていると、ある人物に出会った。
俺も一度会ったことがある。
「マリス、こんなところでなにをしておる?」
「少し、お散歩を・・・。」
マリス王女。
王の娘だ。
銀色のティアラ、純白のドレスを着て、長く美しい黒髪をしている。
出している左耳の後ろの髪には青いメッシュが混じっている。
容姿も良いが、性格面もちゃんとした人だ。
そして父親に似て、この国をとても愛している御方だ。
「夜はもう遅い。 さっさと寝なさい。」
「お父様は、また飲みに行くのですか・・・?」
「そうじゃよ。」
「お酒なら城でも飲めるではありませんか。」
「町の酒はまた一味違うんじゃよ。 その内お前にもわかるときが来る。」
そう言って、さっさと歩いて行ってしまった。
俺は王女に一礼をして、王の後を追って行こうとした。
しかし、瞬時に王女に腕を掴まれた。
「すみません、グレンバスター様。 でも、どうしてもお聞きしたいことがございまして・・・。」
「な、なんだ・・・?」
彼女は何か言いたそうにしていたが、なかなか口に出さなかった。
少しの沈黙の末、彼女は口を開いた。
「あの、殺人事件の犯人に会ったというのは本当なのですか!?」
なんかすごい勢いだった。
「お、おう・・・。 そうだが・・・。」
王女の勢いに押され気味だったが、伝えることはできた。
すると、王女は俺の腕から手を放した。
そして再び口を開いた。
「あ、あの・・・! その御方のことを詳しく・・・。」
「おい、グレンバスター! なにしてる、早く行こう!!」
王女の言葉が終わる前に、王が角から俺を呼んだ。
まあ、待たすわけにはいかんな・・・。
奴のことを話すと、やや長くなりそうだしな。
ここは仕方ない。
「悪い、姫さん。 話は明日ゆっくりするからさ!」
「は、はぁ・・・。 わ、わかりました。」
王女に一礼をし、今度こそ王の後を追った。
話のこと、覚えておかなきゃな・・・。
「ここだ、ここだ!」
俺たちはとある酒場にやってきた。
建物の見た目はややボロいが、酒は美味い。
見た目で判断する前に、中身で判断することが大切だ。
だからもちろん、見た目が綺麗で酒も美味い店もある。
「ほっほー。 なかなかに貫禄があるな。」
王はわかっている人間だ。
昔、俺が巨乳も貧乳も好きだと言ったら「ワシもだ。」と言った人だ。
最高の人間だ。
「んじゃ、入ろうか。」
俺は先導し、店の扉を開いた。
中に入ると既に結構人がいた。
満席・・・というか、正直この店は席がなくても問題ないくらいの雰囲気の店だ。
皆が皆、見知らぬ人とも仲良く飲み合うフレンドリーな店だ。
「すごい空間じゃな。」
「酒飲んで喋って笑うだけの店だからな。」
俺は王を連れ、空いたカウンターの席に座った。
相変わらず騒がしい場所だ。
だが、それがいい。
「あら、グレンバスター。 今日も来てくれたのね。」
「ああ。」
マスターだ。
見た目は女性みたいだが、歴とした“男”だ。
あくまでマスターがオネエなだけで、ちゃんと普通の酒場だ。
「それより、この人ってもしかして・・・。」
「ああ、その通りだ。」
マスターは無言で驚いた顔を見せた。
無理もない。
国のトップがここに来ているからな。
「あ、ああ、あたし、ちゃんと出来るかしら・・・?」
「テンパるな。 いつも通りで良いんだよ。」
マスターは緊張のあまり、グラスを逆さまに持っていた。
「大丈夫じゃよ。 ここにいるのは王ではなく、ただの客じゃよ。」
「は、はぁ・・・。」
王も優しく話しかけ、マスターの緊張をほぐそうとした。
その後は何事もなく、俺らは酒を飲んだ。
周りの人々も王の存在に気づき、とても盛り上がった。
だが、それはまた別のお話。




