殺人鬼 と 鬼人
洋服屋で気に入った服を買っちゃった。
フローリアも満足そうで良かった。
「最高だったぁ~・・・。」
メリーも満足そうだった。
だがそれは服を買ったことではなく、憧れのグレンバスターに会ったからだ。
肝心の服は2着しか買ってない。
まあ、メリーはオシャレなどには興味がないから仕方ない。
「しっかし、『連続殺人事件』ねぇ・・・。」
「最近話題になってるよね。」
急に『連続殺人事件』の話題が出てきた。
彼・・・、アキトさんのしていることね・・・。
「殺されてるのって、全員犯罪者だっけ?」
「話ではそうらしいわね。」
するとメリーは、腕を頭の後ろで組んで空を見上げた。
「殺人犯って、一体誰なんだろう。」
そして、そう言った。
犯人を知っている身としては、何とも言えない気持ちね・・・。
いつか、彼女たちには「本当の事」を話さないといけない。
そんな気がした。
その後、私は二人と別れた。
やはり気になってしまう。
アキトさんは死んでも蘇生する不思議な能力を持っている。
おそらく彼は大丈夫だろう・・・。
問題はグレンバスターの方だ。
彼はとても強い人だと聞いている。
実際の強さをこの目で見たことはないが、「鬼人」と呼ばれたほどの人だ。
相当強いハズ。
・・・しかし、彼は普通の人間。
死んでしまえばそれまでだ。
もしも戦うことがあったら、大変なことになるだろう。
グレンバスターが悪人ではないことは知っている。
アキトさんは殺さないであろう。
・・・だが、その場合はどうなるのだろうか。
どのように決着させるのか。
それが、私の気になるところ。
「ええ、確かにアキトさんに情報を提供したわ。」
私の足は自然と「風俗街」に向かっていた。
アキトさんを最後に見たのがこの場所だったからだ。
「確か、「隣町に嫌な感じの人がいる」という情報だったかしらね。」
「そうですか。 ありがとうございます。」
目的地は隣町ね。
早速出発しなきゃ!
「ところであなた、ウチで・・・」
「遠慮しておきます。」
私は町の入口に向かった。
それから夢中で走った。
そろそろ夕暮れ時になろうとしていた。
だが、そんなことを心配する場合ではない。
一刻も早く隣町へ行かなくては・・・。
もしかしたら既に仕事を終え、他の町へ移動しているかもしれない。
・・・賭けるしかない。
しかし、私が行ったところでなにかの役に立つのだろうか・・・。
あの二人が戦った場合、止めることができるのだろうか?
・・・だが、私は行かなくてはならない。
そう自分に言い聞かせた。
グレンバスターが死んでしまったら、メリーは確実に鬱病か精神崩壊をしてしまう。
最悪な結果にならなければいいが・・・。
「嬢ちゃん、見えてきたぞ。」
途中、馬車を見つけたので隣町まで乗せてもらった。
もちろん前払金を払ってだ。
「ありがとうございます。 ここからは歩いて行きます!」
そう言って私は町へ向かって走った。
町中は特に騒ぎなどは起こっていなかった。
それか、「まだ」起こっていないだけなのか?
真相を確かめなくては・・・!
街中をしばらく探し回ったが、アキトさんの姿は見つからない。
もう終わったのだろうか?
そう考えながら路地裏を歩いていた。
すると突然、右斜め前の家の扉から勢いよく中年男性が一人出てきた。
そして男性は裸足で外に飛び出してきた。
その後ろから縦に回転しながらオノが飛んできて、男性の後頭部に刃が刺さった。
男性は後頭部から血を流しながら、床に倒れて動かなくなった。
突然の光景に私は戸惑ったが、家の中からもう一人出てきたことによって、瞬時に理解できた。
そう、アキトさんが出てきたのだ。
「アキトさん!!」
私の呼び声に彼は私の存在に気付いた。
「・・・また、・・・お前。 ・・・しかも何故俺の名を。」
彼は警戒していた。
そういえば、名前を名乗ってもらっていなかったわね。
「風俗の方に名前を教えてもらいまして・・・。」
「・・・ちっ、・・・あのお喋りが。」
彼は警戒を解くと、男性に刺さっているオノを引き抜いた。
そして男性の遺体を家の中へ投げ入れた。
「・・・で、・・・俺に何か用か?」
家の方へ体を向けながら、頭を少しコチラ側に向け、私を睨むように見てきた。
そして威圧感がある声色で聞いてきた。
「はい、実は・・・。」
私はややビビってしまったが、威圧感に負けず勇気を出して口を開けた。
その時であった。
「みーつけた。」
後ろから声がした。
どこか陽気さを感じる声色だった。
振り返るとそこには、見たことがある姿があった。
コートを羽織り、銀色に輝くフルフェイスヘルムを被った男。
"グレンバスター"であった。
「な、どうしてここにいるのですか・・・!?」
「お嬢ちゃんがなぜか走り回っていたんで、気になってついてきたんだ。」
「それって、ストーキングじゃないですか?」
「かもな。」
グレンバスターは笑いながら答えた。
そしてゆっくりと近付いてきた。
「だが、そのおかげで早速見つけることができた。」
グレンバスターは歩みを止めると、アキトさんに向けて指さした。
「あんたが噂の殺人鬼だろ?」
「・・・何だお前は?」
「グレンバスターだ。」
やや呑気な物言いで話すグレンバスターと、一切警戒を解かないアキトさん。
そして蚊帳の外である私。
「んで、あんたなんだろ? 噂の殺人鬼って。」
再びアキトさんを指さすグレンバスター。
しばらくの沈黙の末、次に口を開いたのはアキトさんだった。
「・・・そうだ、・・・と言ったら?」
アキトさんは一切動揺を見せず、冷静に答えた。
黒目の無い白い目で、グレンバスターを睨み続けている。
「なーに、ちょっくら話をさせてもらうだけだ。 別に戦うつもりはない。」
グレンバスターは軽い物言いで説明した。
しかしアキトさんはオノをしまおうとはしなかった。
「・・・俺は忙しいんだ。」
「まあ、そう言わずに。 すぐ終わる。」
しばらくアキトさんは動かなかったが、数秒後にオノをしまって体勢を変えた。
腕を組んで仁王立ちをしている。
グレンバスターはアキトさんが要求を呑んだことを理解し、すぐさま話をし出した。
「サンキュ! で、さっそく本題に入るが、あんたは何故に殺しをしている?」
「・・・何故そんなことを聞く?」
「殺人の理由を聞きたい奴は俺じゃなくても沢山いる。 別にいいだろ?」
「・・・理解できんな。」
「いいから答えてくれよ。 早く話を終わらしたいんだろ?」
そう言われてアキトさんは俯いて考え込んだ。
しばらくして顔を上げた。
「・・・それが俺の使命だからだ。」
「使命? なんだそれ?」
屋敷のときに私に答えたことと同じことを言った。
アキトさんの答えに首を傾げるグレンバスター。
アキトさんはオノを取り出し、眺めながら一言喋った。
「・・・悪人を罰することが俺の使命だ。」
しかし、グレンバスターはまだ首を傾げている。
「いや、俺が聞きたいのは、どうして悪人を殺すようになったかなんだが・・・。」
「・・・何度も言わせるな。 ・・・それが俺の使命だからだ。」
アキトさんの答えに、やはり首を傾げているグレンバスター。
私もグレンバスターと同じく、アキトさんの言ってることが分からなかった。
「・・・もういいだろ。」
そう言ってアキトさんは先程の家の中に入っていった。
先程の男性を真っ二つにするつもりなのだろう・・・。
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
グレンバスターは慌ててアキトさんの後を追って、家の中へ入っていった。
蚊帳の外だった私も、一応家の中へ入った。
「うわっ!?」
グレンバスターが驚いたのも無理はない。
アキトさんが男性の身体を真っ二つにしようとオノで切っている最中だったからだ。
死体の胴体からは大量の血液が流れ出ている。
「なあ、どうしてあんたは毎回胴体を真っ二つにしてるんだ?」
「・・・二度と目覚めないようにだ。」
また屋敷で私に答えたことと同じことを言った。
彼はブレないようだ。
「じゃあさ。 コイツも悪党だったってことか?」
「・・・ああ。」
「なにをしたんだ・・・?」
「・・・それを聞いて、・・・なにになる?」
「なにもならねえよ。 ただ、気になっただけさ。」
しばらくの沈黙の後、アキトさんの口が動いた。
「・・・"通り魔"だ。」
「ほう、なるほど・・・。」
"通り魔"という単語を耳にし、グレンバスターは即座に納得した。
もちろん私も。
「・・・用が済んだら消えろ。 ・・・目障りだ。」
アキトさんはコチラを見ずに言い放った。
彼は胴体切断に集中している。
「まあ、今んとこは放っておいても大丈夫かもな。」
そういうとグレンバスターは、アキトさんに対して背を向けた。
しかし去り際に一言いった。
「だが、道を間違えた場合は遠慮なく斬るからな。」
そう言い残し、グレンバスターは去っていった。
その時のグレンバスターは、普段の彼と違い、真面目な感じだった。
「あ、あの・・・。」
「・・・お前も消えろ。」
私はアキトさんに話しかけようとしたが、ズバッとそう言い放たれた。
「・・・言っておくが、・・・迷惑だ。 ・・・俺に構うな。」
彼はそう言いながら、死体の解体を続けている。
一瞬たりともコチラを向いてはくれなかった。
「ご、ごめんなさい・・・。」
私は素直にその場を去った。
帰り道で見た夕日はとても赤く綺麗だった。
夕日を見ながら、なぜか私は無意識に涙を流していた。




