ケンティーの正体
藤野よりケンティーの方が、背が小さいです
「おまえ、ケンティーか...?」
藤野は目の前の男に問うた。
その男は、藤野に背中を向け、拳を上に突き上げたまま微動だにしない。
さっきの巨大な瓦礫は拳でかち割ったのか...?
「お、おい...なんとか言えよ」
「...そ、その声もしかして藤野か?」
男は後ろを振り向く。
予想通りケンティーである。
「なぜ藤野がここにいる!ここは戦場だぞ!!」
「ケンティーこそ、避難せずに学校を出てなぜここに来たんだ!そんでその服!!」
ケンティーはさっきまでのキチっとした制服とは違って、ぴちっとした青いタイツのようなものを着ていた。はたから見れば、戦隊モノのコスプレのような...ヤツである。
「藤野の目を盗んで学校を出てきたつもりだったが、やはり見られたか...」
ケンティーは深くため息をつき、口を開いた。
「...俺はオクタゴンに所属している」
「おまっ、オクタゴンって...」
「オクタゴンといっても下っ端のほうだ。バイトヒーローと呼ばれる部類だよ」
オクタゴン。エイテサウザの日本占領の際につくられた警察組織である。ほぼ警察と変わらない。
バイトヒーロー。聞いたことがある。広告やCMでも見たことがあるが、本当に存在していたのか。
「バイトヒーローだって?」
「別名、緊急特殊災害救助隊。滅多に起こらないテロのようなものが発生した際、救援に向かい、行動や功績に応じて給料を貰える、という仕組みだ」
「なら、お前は給料のために...」
「なにも、そのためだけじゃない。それに、しっかり訓練も受けているから大丈夫だよ」
まさか、クラスメートがヒーローで日々、訓練を受けていたなんて...。
でも、緊急特殊災害なんてものが、今、青巻市で起きていることを藤野は再認識した。
「それはそうと、その...かかっている緑色の液体はなんだ?」
「え...?」
右手を見ると、さっきまで右手に握っていたびんが割れて、中身が空になっている。
「まさか...」
その時、藤野は悟った。さっき感じた冷たさは、これだと。
緑色の液体は、藤野の頭から肩まで思いっきりぶっかかっていた。きっと、瓦礫から頭を守ろうとして、衝撃でびんが割れてしまったらしい...。
「うわぁっ!どうしよう!やばいやばい!」
「やばいってどういうこと⁈なんなのこの液体⁈」
焦って拭き取ろうとするが、恐ろしいスピードで消えていく。まるで皮膚に吸収されていくように...。
その時、
「手を上げろ。テロリストよ」
男の低い声が聞こえる。
前を見ると、数人が並んでこちらに銃を向けていた。
機動隊のような黒い防護服を身にまとい、ヘルメットのようなものもしている。しかし、明らかにテロリストの服装とは違っている。
さっき声をかけてきた男は、高貴な服を着ていてまるで無防備だ。偉いやつなんだろうか。
「さっさと手を上げろ」
「なっ...」
彼らの胸についているエイテサウザ星軍のマークが、藤野を戦慄させる。
エイテサウザ星軍のマークは、∞を2つ組み合わせたようなマークです。シンプルです