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「丁度いい時間かもっ! 気を取り直して無人アパートで心霊写真を撮りに行くわよっ!」
先輩は元気を取り戻して先陣切って歩きだした。
宵々町は割と古い町で無人のオンボロアパートが存在したりする。
そのアパートでは度々、幽霊の目撃談があるから、僕らもいずれ調査をしようと怪奇新聞に載せるネタとしてこれまで保留にしていたのだ。
到着すると、僕は鞄から愛用している年代物の古いカメラを取り出した。
部費がないので中古の安いカメラを自費で購入したのだ。
デジカメと違って現像するまでどんな風に写ったか分らないけど、そこが面白くて僕は割と気に入っているし、モミジ先輩も心霊写真っぽいのが写りやすくてイイって言ってた。
こう言っちゃなんだけど、怪奇新聞に載せるのは如何にもソレっぽいのが写ってればそれで良かったりする。
「ここで心霊写真を撮るんですね」
加枝留くんは二階建ての木造おんぼろアパートを見上げながら言った。
「そうだよ~。誰も住んでないはずなのにここで夜中、度々、白い服を着た人の影が見えるって噂なんだ」
「ヒヒヒ……ユーレイよ、ユーレイ」
モミジ先輩は加枝留くんを怯えさせようと幽霊のような手の動きをしてみせたが、案の定、加枝留くんには全く効果がなかった。
「何で無人なんですか?」
カメラを構える僕に加枝留くんが訊いてきた。
「さあ……? 建物が古いからかな?」
「そうなんですか。幽霊と関係なさそうですね」
「ちょっと青ガエル、勝手に結論付けるんじゃないわよ! 面白くなくなるでしょ?」
「でも、新聞に載せるなら、背景となる物語が必要でしょ?」
「そんなのテキト―よ、テキト―。恋人に振られた女が自殺して自縛霊になって夜な夜な現れる。これで行きましょ!」
「誰か自殺したんですか?」
「知らないわよ! 今考えたんだから!」
「それじゃ捏造記事じゃないですか」
「そ、そだね、加枝留くんの言う通り、嘘は良くない、かも……」
僕らの記事がミス研に比べてイマイチ弱いのは調査に基づいてない、ただそれらしい写真を載せてるだけだからなのかも?
そりゃ『ツチノコ発見!』くらいインパクトのある写真なら良いかも知れないけど……。
ただの心霊写真ならちょっとした物語の背景はいるよね?
「まあ何にせよ、記事にするのはちゃんと心霊写真が撮れてからよ! コバン、早く撮っちゃって!」
「はぁ……」
先輩に促され、僕はカメラを手に無人アパートの一室を適当に選んで、外から窓の中を覗き込んだ。