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「廊下の方から聞こえるニャ」
僕らは食堂から廊下を出て耳を澄ませた。
真っ赤な夕日に照らされた廊下は、今の状況を演出するには最高なほど不気味な雰囲気を漂わせてるニャ。
声のする方を辿ると、どうも食堂の横にある男子トイレから聞こえていることが分かった。
「ちょっとアンタ達、見てきなさいよ」
モミジ先輩が僕と加枝留くんの背中を押して、中を確認してくるよう促した。
「うぅ……」
場所が男子トイレなだけに、僕らが行くのは仕方がないけど、嫌だなぁ……。
恐る恐る勇気を出して男子トイレに入ると、一番奥のトイレからその呻き声が聞こえてくるニャ。
「猫宮くん、僕カメラ構えてるんで、扉開けてください」
「えぇ~っ!」
今度は加枝留くんが僕の背中を押す。
こ、怖いにゃ~。
もしウンコしてるだけのただの男子生徒だったらどう言い訳するのニャっ?
「ええーい! ままよ!」
僕はヤケクソで思いっきりバーンとそのドアを開けた。
てか、鍵掛けてなかったのかよっ! ていう突っ込みも頭によぎったけど、それ以上に衝撃的な光景が僕の目に飛び込んできた。
なんと、中にいたのは、あの時のオカマのオバちゃんだったのだ!
「あ、あの時のオバちゃん……何故そこに……っ!」
オバちゃんは、渦に飲み込まれたあの時の、真っ赤なボディコンワンピのまま、便座の前で蹲ってメソメソ泣いてたのだ。
「うっ、うっ、気付いたら何故かここにいたのよぉおおおおお」
オバちゃんは遂にぶわっと大粒の涙を流しながら泣き喚いた。
「やっと……やっと念願叶うと思ったのにぃいいいい」
うーん、あの渦、近未来には繋がってなくて、何故か此処にワープしたのか。
ていうか、この人どうしたらいいんだろう?
一応、ここ、学校内だから明らかに部外者の不法侵入ってことになるんじゃ?
見るからに怪しい恰好の不審者だし。
通報した方がいいのかな?
でもなんかちょっと可哀想な気もするしなぁ……。
「あの、よく分かりませんが、ここにいるとほかの生徒や先生、警備員さんとかに見付かって色々マズイんで、早く逃げたほうが良いですよ」
僕はそっと助言をしてあげた。
「うぅ……そうね、そうするわ。ありがとう坊や達……」
オバちゃんはそう言うと、トイレの窓を開けて、外付けされた排水管のパイプを伝って脱出した。
なんかすんごい手馴れた動作に見えたのが気になったけど。
結局、何で近未来に行こうとしたのかオバちゃんは教えてくれなかった。
ひょっとしたらあのオバちゃんも、老女のように色々と余罪がある人なのかも……? なんて思ったり。
「結局、怪奇現象でも幽霊でもありませんでしたね」
加枝留くんはガッカリしたようにカメラを下げた。
「しかし、近未来かぁ……」
僕は何となくそう呟いた。
未来に全く興味がないって訳じゃないけど、僕は今が一番楽しいから、ずっとこのままでいたいけどなぁ……。
「ちょっとコバン? 何かあったー?」
廊下の方からモミジ先輩の焦れた声がして僕はハッとした。
そうだ、二人をドアの外で待たせたまんまだった。
「何にも無かったですー!」
僕と加枝留くんは慌てて男子トイレを後にした。
結局、今回のことは、色々と謎のままで何だか不完全燃焼だったけど、これで宵々町も神輿高校も、いつもと変わらぬ景観を取り戻したってことで、結果良しとするかニャ。
【宵々町奇譚―オカルト同好会編― 魔像と異界の扉・終】
今回はいつも以上に短い〝おふざけ回〟となっております。
たまにはこういう事もあるということで……(笑)
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