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それから暫く、三人で美味しいものを摘んでいると、ふいにモミジ先輩が何かを見付け、指差した。
「ねえ、やだっ、ちょっと、アレ。見てよ」
「はい?」
いきなり何なんだろう?
僕と加枝留くんは取りあえずモミジ先輩の指さす方へと振り向いた。
「人気俳優の白鳥拓海じゃない?」
「えっ? まっさかー。」
背の高い男がサングラスと共に、深々と帽子を被り、数人の男を引き連れて、スーツ姿の中年男性に何処かへ案内されているのが見えた。
サングラスして帽子で顔を隠しているようだけど、鼻筋や口元、輪郭から、端正な顔立ちなのが容易に想像できる。
背も高くてスタイルも抜群。
間違いなく、人気絶頂のイケメン俳優・白鳥拓海っぽい。
白鳥拓海……略してシラタクとも呼ばれてる国民的スターだ。
もう全然スターのオーラが隠しきれてないっ!
僕ら庶民には眩しすぎるニャ!
でも何でそんな大スターが、宵々町のショッピングモールなんかに?
「キャー! やっぱりそうよ! シラタクに間違いないわ! アタシ大ファンなの! 握手して貰わなくっちゃ!」
モミジ先輩は興奮のあまり立ち上がって白鳥拓海の向かった方へと後をつけていく。
「ちょっと先輩! マズイですよ! 芸能人のプライベートに踏み込むのはっ」
僕は止めに入るべく慌ててモミジ先輩を追った。
加枝留くんも勿論、僕の後に付いてきた。
そんな僕らに気付くこともなく、白鳥拓海御一行様はフードコートの向かい側にあるエレベーターの横に隠れるように位置する『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉へと入って行った。
僕は流石にまずいと思ったけど、モミジ先輩が尚も付いて行こうと扉を開けた。
すると御一行様の姿は既に無く、その先には下りの階段があり、更なる扉があった。
「先輩、ここ立ち入り禁止って……流石にヤバいですよ」
僕の制止も聞かずモミジ先輩は階段を下り扉を開けようとしたが、鍵が掛かっていた。
「もう! 何よ! もう少しでシラタクに会えるところだったのにぃ~!」
先輩は悔しそうだ。
「帰りましょ先輩」
僕はしょんぼりする先輩の背中を押しながら謎の扉の前を後にした。
「それにしても……変わった紋様の扉ですね」
去り際の加枝留くんの呟きに僕はもう一度振り返って扉を見た。
扉には三角形を三つに重ねて作った星型とその上に赤と黒の渦巻きを塗りつぶしているマークが描かれていた。
一体、何のマークだろ?
結局、白鳥拓海の謎は解明されないまま、イコンモールを出ると、空はすっかり夕闇に染まって、一番星がうっすらと顔を出していた。
 




