3
僕らが憤っていると、背後から聞きなれた声がした。
「よお、お前ら。どうした?」
自転車でパトロール中だったマモル先輩だった。
「マモルさあんっ!」
見るや否や、モミジ先輩が両指を組んだ手を片頬に充てるポーズで、うっとりとした表情で目からハートを飛ばしている。
ウザいモミジ先輩はこの際、無視して僕は話を進めた。
「マモル先輩、ちょうど僕ら交番まで会いに行こうと思っていたんですよ! 銅像のことで!」
「銅像?」
聞き返すマモル先輩へ、興奮する僕の代わりに加枝留くんがサラッと説明する。
「最近、町のあちこちで建ってる『愛と平和』の不気味な銅像のことですよ」
「あぁ……あれか」
「違法ですよね! 撤去して下さい!」
僕の要求にマモル先輩は困った顔をした。
「いや、あれはな……実は……」
マモル先輩の話によると、あの銅像は既に町の許可を取っているらしい。
明らかに町長が買収されてるニャ!
「こうなったら町の権力者の協力を得て撤去するしかないニャ!」
僕は真っ先にモミジ先輩を見た。
「モミジ先輩! 鹿島グループの総力を以って、あの像の撤去の働きかけに尽力してください!」
「いやいやいや、一応、『愛と平和』を謳った像の撤去をウチがやるのは世間的にもマズいわよー。企業イメージに響くのよ」
「じゃあ他に当ては……」
僕は必死に考えた。
「影の権力者……『稲荷家』はどうでしょう?」
助け舟を出すかのような加枝留くんの提案に僕は飛びついた。
「そっか! 桔音くんの力を借りれば、あんな銅像破壊するのも楽勝だよね!」
そうと決まれば、稲荷家にGOニャ!
「駄目よ!」
稲荷家に向かおうとしたところで卯月さんが突然叫びだした。
「どうしたんですか? 卯月さん……」
僕が声を掛けると卯月さんは顔を真っ赤にして目を回しながら言った。
「い、稲荷桔音くんに、会うなんて、そんな、わ、私、ムリよ。ムリだわ、絶対死んじゃう。私は行けないわ、こ、このまま、帰らせていただくわ……っ!」
……忘れてたニャ。
卯月さんは桔音くんが好きすぎて近付くことが出来ないんだった。
桔音くんは魔術師だから力を借りたかったけど、卯月さんだけを仲間外れにするのは可哀そうだし、ここは諦めるしかなさそうニャ。
「でしたら今回、お父さんの崇さんに協力をお願いするのはどうでしょう?」
桔音くんが駄目なら……と、加枝留くんが次の案を提示する。
「彼も魔術を極めてらっしゃいますし、銅像を破壊するくらいなら容易いかと……」
「それもそうニャ。お父さんなら卯月さんも大丈夫だし」
「ええ、お、お父様なら多分、大丈夫……」
卯月さんは落ち着きを取り戻したように頷いた。
そうと決まれば、早く稲荷家へ急ぐニャ。
「そもそもアイツ雇うと高額吹っ掛けてくるから、父親の方が楽かもね」
モミジ先輩も何処か安心したように言った。
パトロール中だったマモル先輩に、また新たに銅像を見付けたら教えてくれるようお願いして別れると、僕らオカルト同好会は稲荷家へと向かった。