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神父のオッサンは急いだ様子で謎の小さな黒い木箱と聖書を取り出した。
本気で悪魔祓いを始める気だ!
「加枝留くん! 大変だ! オジサンを呼んで来て!」
「は、はい! 分かりました」
僕はヤバい気がして加枝留くんにオジサンを呼んで来てもらうことをお願いした。
「バカめ! お前ごとき人間が、僕を封印できるものか!」
桔音くんは何とか右手に掛った鎖を手繰り寄せ、最も苦しいと思われる首元の鎖を掴みながら神父のオッサンに向かって叫んだ。
「強がっても無駄だ、お前はもうそこから動けぬ! 魔法も使えまい」
神父は首にかけていた十字架を胸の前に翳して、聖書のような本を開いた。
「恐れを抱かせる悪魔よ! イエスキリストの名の元にお前を縛り上げる! その者の身体から出ていくことを命ずる!」
神父が呪文のようなものを詠唱し始めると地面に置いた黒い謎の木箱がカタカタと音を立て始めた。
桔音くんからはいつもの余裕の笑みが消え、その目は怒りに満ちていた。
「やめろ! 僕にこんなことをしてただで済むと思うなよ! 下等な人間どもめ! お前らの目ん玉と腸と脳味噌を全部引き摺り出してグチャグチャにしてぶちまけてやる!」
「悪魔よ! お前の脅しには屈せぬ! 私には神の御加護が付いている!」
神父が再び詠唱の続きを始めると、何かの力が作用しているかのように強い風が吹き始めた。
すると桔音くんは糞だの何だの悪態付きながらも鎖で繋がれた両手を可能な限り頭の前に引き寄せて風を防ぐように身を屈めた。
桔音くんが何も反撃出来ないなんて、本当に魔力を封じられてるんだ。
「な、何だこれは! 一体何が起こってるんだッ?」
たった今、加枝留くんに呼ばれて駆けつけてきたオジサンは目の前で繰り広げられている光景に愕然としていた。
「オジサン! 昨日の神父さんが悪魔祓いをするって桔音くんを拘束したんです! 桔音くん、魔法が使えないみたいで……」
僕の説明を聞きながらオジサンは状況を把握しようと目の前の光景に視線を巡らせていた。
そして、未だ手を三角形にして魔法陣に気を集中させているサム・スギルを目で捉えた。
「サム・スギル……奴が此処へ来たということは、やはり桔音は『燉一教事件』に関わっていたのだな……」
「す、すみません、黙ってて……」
結局、桔音くんが燉一教事件に関わってたことをオジサンにバレてしまい僕は一言謝った。
しかしオジサンは元々そうじゃないかと思っていたらしく、特に驚いた様子もなく、僕らを責め立てることも無かった。
それよりも目の前で起こっていることの方が深刻だった。
「桔音の体を拘束しているのはあの神父で、桔音の魔力を封じているのはサム・スギルの魔法陣だ。二人がかりでようやく抑え込む事に成功したというところだな」
オジサンはそう分析した。
魔術師だからそういうのが分かるみたい。




