28
桔音くんは自分の空間に赤いバリアのようなものを張って迫りくる炎を防いだ。
「馬鹿め! 何度やっても同じだ! 僕の方が魔力はずっと上だ! ましてやお前は今、悪魔の力を得てないときた!」
桔音くんは小馬鹿にしたように笑って言った。
そう、前回サム・スギルは悪魔との契約で力を更に増大させてたんだ。
それでも桔音くんに負けちゃった訳だから、今のサム・スギルが、例え桔音くん達の言う〝闇の世界〟とかで名高い魔術師だったとしても勝てる訳がないよ。
しかもその悪魔との契約は前回、僕が剣を炎の中に放り込んだことで消滅しちゃったし。
とはいえ、子羊のようにか弱い庶民の僕と加枝留くんは、燉一教事件のイコンモールの時のような惨事を思い出し、この原っぱが焼け野原になるんじゃないかと危惧しながら、二人のバトルフィールドから距離を取って安全な岩陰に隠れた。
「確かに今の私は新たな悪魔との契約はしていない。だが、貴様を倒す術ならある」
サム・スギルには何か策があるのか、引く気はないようだ。
「フン、単なる虚仮脅しだ」
桔音くんは一笑すると両の掌から炎を浮かび上がらせ、それを次々とサム・スギルへと投げつけた。
サム・スギルは再び不死鳥のような姿になって飛びながら桔音くんの攻撃をかわしていく。
「チョロチョロと……逃げるだけの能無しめ。お前も豚箱送りにしてやる!」
桔音くんの攻撃は執拗だった。
いつ撃ち落とされてもおかしくないくらいスレスレの状態で、サム・スギルは桔音くんの攻撃を回避するので精いっぱいな感じだった。
でも時々、一定の間隔で低空飛行をしているのが僕は何故か気になった。
サム・スギルは桔音くんを攻撃しようとしているのではなく、何か『別の狙い』があるように感じた。
そしてその悪い予感は的中してしまった。
最後の目的を達成したサム・スギルは気が緩んだのか一瞬の隙を見せてしまい桔音くんの炎の攻撃を直に受け、吹っ飛ばされてしまった。
衝撃で不死鳥の姿が解け、人の姿で転げ落ちるサム・スギル。
だが、痛みを堪えクックと不気味な笑みをこぼしながらゆっくりと立ち上がる。
「完成したぞ! これで貴様は動けまい!」
サム・スギルが両の手で三角のような形を作ると、突然桔音くんの足元に黄色い魔法陣が浮かび上がった。