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加枝留くん曰く、『幽体離脱の旅』はそこで終わり、再び景色がグニャグニャと歪み、気付けば元の桔音くんの部屋へと戻っていた。
「ショーは終わりだ」
桔音くんの声で現実に引き戻された感じがする。
足元の絨毯を見ると、最初の緑色の光の魔法陣も、既に消えていた。
不思議な体験だったけど、なんか面白かった。
でも僕らが見たのって本当の現実なのかな? それとも催眠術や幻覚みたいな類のもの?
それを聞こうとした時、部屋のドアをノックする音がした。
「猫宮様、雨森様」
さっきの執事さんの声だ。でも「様」なんて何だか恐縮ニャ。
「今日のところはそろそろお開きに致しませんと、ご家族の方が心配いたしましょう」
執事さんに言われて時計を見ると、とうに七時を過ぎていた。
僕の家はともかく、確かにこのまま人様の家に居座るのは迷惑かな。
でも今日のこの不思議な体験を記事にする訳には行かないしなぁ……。
すると下の階から桔音くんのお父さんの声がした。
「良かったら明日も来るといい。桔音はいつも休日何処にも行かない」
「い、いいんですか?」
明日は休日だし、それならゆっくり取材ができそうだニャ。
でも桔音くんの了承を取ってないのにいいのかな?
そう思って僕は桔音くんの顔色を伺おうと後ろに振り向いた。
しかし既に桔音くんは僕らが出て行った部屋の扉を閉めてしまっていた。
うーん、さよならも言わないのね……。
そして僕らはオジサンと執事さんに門まで見送られながら稲荷邸を後にした。