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(こ、ここは?)
目の前に広がった景色は、どうやら閉鎖された無人のイコンモールの屋上駐車場だった。
月明かりと、遠くの住宅や街並みの明かりがわずかに届いているのか、さほど暗くは感じなかった。
(僕らワープしたの?)
桔音くんがよく赤い歪みを出して移動してるからその類かな? と思ったんだけど。
「お前らは僕の部屋から僕の目を通してこの景色を見ているに過ぎない」
(じゃあ桔音くんだけそこに移動したの?)
「僕は意識だけを飛ばしてそれを具現化しただけで本体はお前らと同じ部屋の中だ」
(幽体離脱みたいなものですね)
流石オカルト同好会副部長の加枝留くん、オカルトちっくな例えニャ。
(でも何でここに来たのニャ?)
どうせならイコンモールの屋上なんかより良いところがありそうなのに。
「ここで待ち伏せてれば来るだろうと思ってな」
桔音くんはそう言って辺りを見渡した。
えっ? 待ち伏せ? 一体、何のこと……?
(誰か来るんですか?)
加枝留くんがそう訊ねた瞬間、三カ所くらいあるイコンモールの屋上の出入り口の一つから、黒い人影が現れた。
反射的に身構えそうになったけど、よくよく考えればこれはあくまで意識を具現化した桔音くんの視界であって、僕らの本体は超安全な桔音くんの部屋の中なんだよなぁ……。
人影は段々近付いて行き、顔が見えたところで僕らは「あ」と声を上げた。
その人物は何と、元・人気俳優で現在服役中の白鳥拓海だった。
燉一教の信者で幹部だった人。
略してシラタクと呼ばれてたけど、今じゃ死語になってるっ!
(な、なんでシラタクが此処にっ?)
思わず声に出しちゃったけど、どうやらシラタクには桔音くんしか見えてないらしく、僕らの声も聞こえていないようだった。
そりゃそうか、僕らはあくまでそこにいない訳だから。
「くっくっく……現れたな」
白鳥拓海はそう言って端正な美しい顔を歪めて笑った。
「よく脱獄出来たな」
僕らの視界は桔音くんのものだから、当然桔音くんの顔を窺い見ることはできないけど、いつものように嘲笑を浮かべているだろうことは声の調子からも容易に想像がついた。
「我々の野望の邪魔をした貴様に復讐を誓った私は牢の中で悪魔と契約を交わしたのだ」
シラタクって悪魔召喚できるの? だったら信者じゃなくても良かったんじゃ?
(恐らく、白鳥拓海の強い復讐心と邪悪な心が悪魔を呼び寄せたのかも知れません。悪魔はそういう人間を好んで取り憑くものだと聞きますし。元々、サム・スギルの側にいて悪魔が身近にいた訳ですから……)
(なるほどニャ~)
加枝留くんの推測に僕は納得だった。