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「あ、あの、大丈夫ですかっ?」
僕は取りあえず桔音くんのお父さんの傷が心配で声を掛けた。
「大丈夫だ。これでも魔術師の端くれ……普通の人間よりも回復は早い」
お父さんは包帯の巻かれた手の甲にもう片方の掌を乗せて言った。
治癒魔法でも掛けてるのかな?
「今、魔術師って……やっぱりオジサンもそうなんですか?」
「『も』、とはどういうことかね?」
僕の言葉にお父さんの眉がぴくりと反応したように見えた。
何かマズイこと言ったかな?
「……ところで君達に聞きたいことがあるのだが」
「は、はい、何でしょう?」
「『燉一教事件』のことだ。猫宮小判くんに雨森加枝留くん、君達オカルト同好会が関わったことは新聞の記事やニュースなんかで知っている。だが……
あの燉一教事件にウチの息子は関わっていないだろうね?」
「え……?」
関わったも何も、桔音くんがいなければ解決できなかった事件だけど……。
でも桔音くん、お父さんに何も言ってないのかな?
そう言えばあの事件の解決直後、警察が押し寄せてきた時には桔音くんはスグに姿を消してたんだよなぁ……。
だから手柄は僕らオカルト同好会だけになってたし。
「……猫宮くん。燉一教事件に稲荷くんは関わってないことにした方が良さそうです」
隣にいる加枝留くんが僕にそう耳打ちをした。
確かにお父さんの言い方も何だか桔音くんが『燉一教事件』に関わったら都合が悪いかのような言い方だし、第一、桔音くん自身がお父さんに言ってない訳だから、僕らが勝手に言うのもなぁ……。
うん、ここは黙っとこう。
「あの、どうしてそんなこと聞くんですか?」
「我々、闇の世界の勢力図が変わろうとしているのだ。燉一教の時代は終わった。
燉一教を倒したのが桔音だとしたら、いずれ担ぎあげる者が現れる。
私達はこの静かな宵々町でただただ平穏に暮らしたいだけなのだ。
それに……サム・スギルは恨みに対して何処までも執拗な奴だ。
必ず報復に来る。私はそれが心配なのだ」