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イメージ的に洋館っぽい長方形の長―いテーブルが待ち受けているかと思ったら、意外と普通の四人掛けで丁度いいくらいの大きさのテーブルがそこにはあった。
とはいえ、、上質な真っ白い布のテーブルクロスには豪華な蝋燭立と高級レストランのような上品な食事が並べられていて、桔音くんのお父さんの座る席の斜め後ろには執事らしきおじいさんが控えて立っている。
桔音くんのお父さんを中心に、右側の席に桔音くんが、左側の席に僕と加枝留くんが二人隣り同士並んで座った。
つまり、僕と加枝留くんは桔音くんと向かい合わせになっているってこと。
豪邸なのにテーブルがそんなに大きくないってことは家族が少ないってことなのかな?
さっきからお父さん以外の家族らしき人の姿が見えないから、きっとそういうことなんだと思う。
僕は慌てて膝の上からコッソリと携帯を出して家族に帰宅が遅くなることと、外で夕食を済ますことをメールした。
「さあ、遠慮なく食べてくれ」
「は、はい。いただきますっ」
パクッと口にする。う、美味過ぎるニャ!
庶民の僕はテーブルマナーとか自信なくて、慣れないナイフとフォークを駆使しながら、滅多にありつけない上品なフレンチに舌鼓を打った。
「ところで君達の名前を教えてくれないか?」
桔音くんのお父さんに言われて僕らはハッとして慌てて自己紹介をした。
「あ、すみません。僕は猫宮小判です」
「雨森加枝留です」
「猫宮くんに雨森くんか。息子がお世話になってるようで……」
「いえいえ、とんでもない。どっちかっつーと僕らが助けてもらってるって言うか、お世話になっちゃってるって言うか……」
そう言いながら僕はチラリと正面の桔音くんに視線を向けたが、桔音くんは僕らの方を見向きもせず、無言のままお皿の上の肉を、拳で握ったフォークで何度も何度も刺していた。
本来、ナイフで薄く切って食べるような分厚い肉の塊を、食べるでもなくただ刺している。
グサッ、グサッ、グサッ……!
しんと静まり返る食卓で桔音くんのそのフォークの音だけが響いてるちょっと異様な空気。
き、機嫌が悪いのかなぁ……? 僕らが急に家に押し掛けて来たからかな?
ちょっと狂気じみてて怖い。
「桔音……やめなさい」
人前でお行儀が悪い、とでも言わんばかりにお父さんが制止の声を掛けるが、桔音くんは取り憑かれたようにその手を止めることはなかった。
「桔音ッ!」
言うことを聞かない子供を叱りつけるように、お父さんがダンッ! と拳をテーブルに叩きつけたと同時に、桔音くんはフォークを持つ手を振り上げお父さんの拳の上にグサーッと容赦なく突き刺した!
「ギャァアアアアアアアアア!」
激痛に叫ぶお父さんと、それを見ていた僕らと執事さんの悲鳴が重なった。
「だ、旦那様!」
執事の人が慌てて白い包帯を持って応急処置を施す。
目の前で見てたけどかなり深く突き刺さってたんですけど! 確実に穴あいてるよね?
包帯はみるみる真っ赤に染まっていく。
「はわわわわ……」
まるでエクソシストか何かの映画のワンシーンを見ているかのような衝撃の光景に、僕と加枝留くんは、か弱い子羊のようにガクブルと震えた。
当の桔音くんは悪びれた様子もなく、いつもの嫌味な笑みでサラッと言った。
「あぁ……いきなり大きな音立てて怒鳴るもんだから、ビックリして手元が狂ったよ」
ええええーっ、それだけ? 謝らないの? てか絶対ワザとでしょ今の!