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住宅街の外れにある、古びたお城のような石造りの豪邸――そこが桔音くんの家ニャ。
豪邸だけど、庭の木は黒く枯れ果て、前回同様、無数のカラスが留まってギャアギャアと不気味に鳴いてる。
今日は外壁に黒猫の姿はないみたい。
本来猫好きの僕だけど、何故かあの猫には近寄りがたい何かを感じてしまった。
また夕方に来た所為かな? 屋敷の背景の空がこの世の終わりのように真っ赤に染まってる。
そんな桔音くんの家の前に一人の見慣れないおじさんが立っていた。
白髪混じりの灰色がかった長めの髪を後ろに一つに束ね、少し浅黒い肌に大きな瞳、そして深い皺と彫のある顔立ち……。見るからに外国人の方だ。
学生服みたいに上下黒い服を着ていて首に十字架をぶら下げている。
あの恰好は多分、神父とか牧師とか、そういう類の人だと思う。
でも一体、誰だろう?
桔音くんの家に用があるのかな?
知り合い?
疑問に思いつつ、僕らも用がある為、桔音くん家の門の方へと近付いて行くと、男はささっとその場を去って行った。
うーん、明らかに不審者……でもまあいっか。
僕らは早速、インターホンを鳴らした。
すると、インターホンのモニターのカメラが作動したような、僅かな電子音と共に、桔音くんじゃない渋い男の人の声が返ってきた。
『……誰だ?』
本人じゃなく身内の人が出てくるとは……。
予想外のことに僕らは緊張して意味もなくドアホンの前でピンと背を正してしまった。
「あ、あの、僕ら神輿高校に通ってるオカルト同好会の者ですが……っ」
「……桔音の友達か?」
「え、友達っていうか……」
うーん、友達と呼んで良いほど親しくさせてもらってないけど……。
この場合、何て言い返したらいいんだろう?
クラスメートでもないし、同級生とか、知り合いって言うべき?
なんて考えてる間に門戸が開いて先程の声の主と思しき人物が姿を現した。
「どうぞ上がりなさい。桔音なら恐らく部屋にいるだろう」
「は、はい」
うわっ、桔音くんのお父さんかな?
黒髪のオールバックに黒づくめの燕尾服で更に襟の高いマント羽織ってるオジサンが出てきた。
如何にもというか、まんまドラキュラなんですけどーっ!
稲荷家はやっぱり特殊なのかっっ!
「あ、あの、桔音くんのお父さんですか?」
「そうだ。まさかあの桔音に家まで訪ねてくるような友人がいたとはな」
「いや、友人って言うか……っ」
本当は部活の新聞のネタとして取材に来ただけなんだけど。
「猫宮くん、ここは友人ということにしておきましょう」
加枝留くんが僕にそう耳打ちをした。
まあ確かに説明するのも面倒だし、何より桔音くんのお父さん、何だか歓迎してくれてる気がして、水を差すようなことは言いづらかった。
そして僕らは桔音くんのお父さんに案内されて家の中へと入った。




