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廊下を出て暫く歩くと、突然後ろを歩いていた卯月さんの足がピタリと止まった。
「どうかしましたか? 卯月さん」
僕らが振り向いて声を掛けると、卯月さんは決心したように俯いた顔を上げて言った。
「やっぱり私、決めたわ!」
「決めたって……何をです?」
「私、除霊師になる!」
突然、意味不明なことを宣言してきた。
「除霊師ですか?」
「ええ、そうよ。ずっと考えてたの……! 私は将来、一体何をするべきなのかって……。さっきの呪いのカメラの件で決心したわ!」
確か卯月さん、霊感が強いって言ってましたっけ。
「私、きっと『美人霊能力者』で有名になれるような気がするの! 『霊能力美少女』でも良いけど」
じ、自分で言ってるよ、この人。いや、まあ、その通り美少女ですけど。
「いつも巫女さんのような衣装を着て世の男心をくすぐりつつ、雑誌やテレビなんかのメディアに取り上げられて心霊番組に呼ばれたり依頼がじゃんじゃん舞い込んで、一儲けできるような気がするの……!」
おっとりとした表情と可憐な指組のポーズで何気にエグイこと言ってるんですけどっ!
「なるほど。僕は良いと思いますよ。卯月さんらしいと思いますし、そこにビジネスチャンスを見い出したなら挑戦するべきです」
「やっぱり、雨森くんもそう思う?」
加枝留くんに賛同されて卯月さんは大喜びでますます気持ちを固くしたようだ。
「という訳で、しばらく私、修行に出ようと思うの」
「しゅ、修行ですか?」
僕は意味が分からず再度訊ねた。
「ええ、そうよ。今のままじゃ私……ただの霊感がちょっぴり強いだけの美少女に過ぎないから……」
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ、急にそんな話されてもついていけないんですけど……っ! 取りあえず修行ってどういう意味ですかッ? 一体何をするんですかッ? てかどこ行くんですかッ? 『しばらく』っていつまでですか? 学校はどうするんですか? 折角戻ってきてくれたのに、オカルト同好会はどうするんですかーッ!」
僕は全ての疑問を一気に吐き出してしまった。
「ちょっと猫宮くん、そんな一気に聞かなくても大丈夫よ、安心して。修行と言っても一週間山奥のお寺で修業するだけよ」
「え、そうなんですか? や、でも、一週間学校休んで授業の心配とか無いんですか?」
「ウフフ……やあね、猫宮くんったら……。さっき言ったじゃない。私、将来、美人霊能力者として生きてくって……。だから私に勉強なんて必要ないのよ」
すげーっ! この人、将来の不安とか全くないんだーっ!
「でもたった一週間の修行で霊能力を身につけたり除霊師になれるもんなんですか?」
「大丈夫よ猫宮くん……私、霊能力に関しては才能があると思うの……きっと上手くいくわ」
何ですかその根拠のない自信はっ!
卯月さん、見た目も中身もフワフワしてるから心配だニャ……。
「そうと決まれば今夜にでも出発ね。お家に帰って荷造りをしてくるわ……。猫宮くん、雨森くん、後のことはよろしくね……?」
そう言うと卯月さんは優雅にターンをして歩き去って行った。
相変わらず我が道を行く人だなぁ……。
「アタシもそろそろ行くわ。犬飼先輩との待ち合わせに遅れちゃうし」
モミジ先輩も腕時計を見てそう言い、卯月さんと同じ方向に去って行った。
残されたのは僕と加枝留くんのみ。
「取りあえず、『呪いのカメラ』は僕のロッカーで保管しとくニャ」
「そうですね。卯月さんが帰ってきたらきっと除霊してくれるかもですし」
僕はカメラを自分のロッカーにひとまず置いてくると、加枝留くんと一緒に学校を出た。
時刻は四時半――。
今から二人で桔音くんの家に向かうのだ。