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僕は卯月さんから着せてもらったローブ姿で、誰にも気付かれないようにスッと木箱から立ち上がると、堂々と中央へと向かって歩いた。
心臓はすごくバクバクと鳴ってる。
フードを深々と被って顔を隠し、信徒達の中へと混じり、白鳥拓海の方へとゆっくりと近づいて行く。
その間にも、先輩達は窮地に追い込まれていた。
信徒の槍隊は切っ先を向けジリジリと二人との距離を縮めていく。
「くっくっく……生贄として死ねーっ!」
白鳥拓海が槍隊に指示を出した。
いよいよ駄目かと諦めたモミジ先輩は泣き出しながらマモル先輩に突然横から抱きついた。
「わーーーん! もう駄目だわーーっ! 犬飼先輩、好きーーーーーっ!」
「お、おい、いきなり何だっ?」
突然抱きつかれた上に告白までされたマモル先輩は動揺した。
「だってどうせ死んじゃうんだもんーーーーっ!」
そして槍は無情にも、二人の若い男女を突き刺す―――ことはなかった。
僕が白鳥拓海にタックルをかますことに成功したからだ。
「ぐあっ!」
衝撃で白鳥拓海は地面に倒れこみ、カランカランと剣を落とした。
僕も一緒になって転んじゃったけど、スグに起き上がって剣を目で追う。
信徒は皆、突然の出来事に驚き、僕と白鳥拓海に気を取られた。
その一瞬を付いて今度はマモル先輩の反撃が始まった。
銃を奪った相手に飛び掛かり、銃を奪い返したのだ。
「動くな! お前ら全員逮捕する!」
思えば失態続きだったけど、ようやく気を取り直したみたいに警察官らしく銃を構えて牽制するマモル先輩。
逃げ惑う人々や、尚も僕らを捕まえようとする人の間を搔い潜り、僕は白鳥拓海の落とした剣を必死に拾い上げると、槍投げのように思いっきり腕を振って高く投げ飛ばし、火台の中へと放り込んだ。
すると火台の炎はこれまでになく膨大に燃え上がったかと思うと、それから青く色を変えて徐々に消えて行った。
そして、銅像からは黒い靄が天に向かって伸び、これも同様に消えて行った。
まるで抜け殻になったかのように銅像から次々と罅が入り、ボロボロと崩れ落ちていくのを見て、僕は悪魔が去って行ったんだと思った。