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以前、僕のクラスに卯月美魅さんというおっとりとした長い黒髪の女子生徒がいた。
その人は霊感が強いらしく、所謂そっち系の世界の人で、彼女は一人でオカルト同好会を立ち上げた。
そして何故か、自分で言うのもなんだけど、人の良さそうな僕に白羽の矢を立てたらしく、勧誘しに来たのである。
因みに、それまで僕はクラスメートでありながら、彼女と会話すらしたことが無かった。
「猫宮くん……お願いがあるの。オカルト同好会に入ってくれない?」
「はい?」
いきなり僕の席の前で女神さまのように指組みのポーズで佇む卯月さん。
「勇気を出してクラブを立ち上げてみたのは良いけれど、まだ私しかいなくて……」
「え、でも僕、オカルトとか全然疎いですけど……」
「いいの……部員が集まる間だけでもいいから……人助けだと思って……お願い……ね?」
キラキラとした可憐な瞳で懇願されたら大抵の男は堕ちるだろう。
「はあ……」
僕は卯月さんの頼みを断れず、つい返事をしてしまった。
すると卯月さんは感極まったように、普段からおっとりとした目を一段と輝かせ、僕の両手を取って包み込んだ。
「ありがとう、猫宮くん……これから一緒に頑張りましょうね」
——しかし、その三日後、彼女は何も告げず、夜逃げで姿をくらました。
いやいやいや……事情はね、あると思うんですよ、色々。
別に、彼女のこと、恨んでたりするわけじゃないんです。
でも、まあ、所謂、アレです、言いだしっぺが真っ先に逃げるっていう、そんなよくある話で。
結局、卯月さんが立ち上げたクラブを、残された僕が引き受ける羽目になった。
それから数日後、僕の幼馴染であるモミジ先輩が、僕の様子を見に来て、『面白そう』という理由だけで同好会に入った。
本来なら先輩の方が部長になるべきだと思うんだけど、生憎モミジ先輩はそういう面倒なことはしたがらない性格で、結局、僕が部長を引き受けることになったのだ。