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「くっ……これほど自在に操り強い魔力を持つ者がこんなところにいたとはな」
サム・スギルは火炎放射をかわすと火の鳥から再び人間へと姿を変え二階の柵の手すりに着地し、桔音くんを上から見下ろした。
「だが、いくら子供とは言え、闇の世界を知る君なら私が世界でも上位高等な魔術師として君臨していることはよく知っているだろう。更に私はデーモンとの『契約』により力を増幅させている。小童ごときが私に勝とうなどと……」
サム・スギルの言葉を最後まで聞かず桔音くんは、黒目から瞳孔ごと塗りつぶしたような赤い悪魔のような目に変わり、ニタリと笑った。
「契約したから何だ? 僕は『デーモン』そのものだ」
えっ……? 今、なんて言いました?
突如、桔音くんの足もとから赤い魔法陣が浮かび上がり黒い炎のような靄が噴き出した。
あわわわ……何かますます危険なことになってきた予感が……っ!
これ以上、ここにいて巻き込まれる訳にはいかない。
僕は今、自分達のすべきことを思い出した。
「加枝留くんは此処から逃げて警察を呼んできて! 僕はもう一度降りて先輩達を助けに行くから!」
「は、はい! 分かりました。猫宮くん、気を付けて……」
「う、うん!」
僕と加枝留くんは、桔音くんとサム・スギルが今なお壮絶な魔法バトルでボンボンやり合っている中を、被弾しないように搔い潜りながらそれぞれの役目を果たすべく先を目指した。
僕ごとき庶民が、桔音くんの身を心配するには及ばなそうだし……。
加枝留くんと分かれた僕は、流れ弾ならぬ流れ炎に当たらないように身を屈めながら、急いで止まったままのエスカレーターを駆け上がった。
そして例の秘密の扉へと向かい、もと来た場所へと戻るべく地下へのエレベーターに乗り込んだ。
礼拝堂にはまだ信者達がいるだろうし、怖いけど……先輩達を助けなきゃ!
エレベーターが到着すると僕は早速、信者達が待ち構えてるんじゃないかって身構えたけど意外にも誰もいなかった。
僕らの存在に気付いたのは追いかけてきたサム・スギルだけだったってことかな?
遠くで火の灯りと共に映る無数の人影と声……何かやってるみたい。
僕は急いでその礼拝堂へと向かった。