20
食堂の隣にある売店に桔音くんの姿を見つけて僕らは駆け寄った。
「あ、桔音く……」
「くぉーらキツネ野郎!」
僕が声を掛けるよりも早く、モミジ先輩が怒鳴りこんだ。
「昨日はよくもアタシ達を見捨てて逃げたわねっ? このひとでなし~っ!」
「……あ~ぁ」
桔音くんは今思い出したと言わんばかりに眉を大袈裟に下げて、すっとぼけたような顔をして言った。
「よく生きてたな虫けらども」
「フザケんじゃないわよ!」
「まあまあ先輩、落ち着くニャ」
喧嘩にならないように僕は二人の間に割って入った。
「ふん! まあいいわ。それよりキツネ野郎。またちょっと力を貸しなさいよ。今度は弾むわよ! その代わり絶対逃げないでよね!」
モミジ先輩は万札をひらひらさせた。
多分、二十万くらいある。
庶民の僕にはモミジ先輩と桔音くんの金銭感覚が恐ろしすぎるニャ……。
ちゃっかりと受け取ると桔音くんは再び眉を大袈裟に下げて、ちらりと横目で売店に並んだパンを見て言った。
「小腹も空いたなぁ~……」
僕は慌てて桔音くんのパンとジュースを購入した。
「気が利くな、お前。僕の下僕にしてやってもいいぞ」
ニヤリと笑う桔音くんに僕は底知れぬ魔性を感じてしまった。
それから学校を後にし、イコンモールに行く途中、僕らは巡回中のマモル先輩と出くわした。
「ん、またお前らか」
背後から声を掛けられ、僕とモミジ先輩は漫画のように肩と背中をビクッと震わせた。
「あ、あら。犬飼先輩? 巡査って案外、暇なのね♡」
流石に今、会うのは嬉しくないようで、モミジ先輩は振り向き早々、満面の笑顔を引き攣らせながら軽く嫌味混じりで応対した。
「お前ら、また何か企んでるだろ?」
「べ、別に企んでなんかないわよ、失礼ね!」
モミジ先輩は腰に手を当ててプンスカ頭から湯気を噴き出している。
「それはそうとマモル先輩。あのミイラの身元、分かりましたか?」
僕は昨日の事件のことをマモル先輩に聞いてみた。
「いや、まだだ。ただ、世の中には行方不明になって捜索願を出されている人々が大勢いる」
僕はマモル先輩の言わんとすることを理解した。
そして、あの可哀そうなミイラの少女が、せめて家族の元へ帰れたらいいなと思った。
「とにかく、遅くなる前に今日こそ、まっすぐ家に帰れよ?」
「分かってるわよっ! 子供扱いしないでよね! ふん!」
のっしのっし歩くモミジ先輩の後に続いて僕らは巧いことマモル先輩を撒くと、イコンモールへと急いだ。