18
「ひっ!」
モミジ先輩は腰を引いて後ずさった。
「な、なんなのよこれ……っ、あのミイラってもしかしてアンタが……」
「あーあ、バレちゃったね。悪い子たちだ。オジサン、せっかく忠告してやったのに。悪い子にはお仕置きが必要だよね?」
オジサンの手には鋭利な刃物が握られていた。
そして、狂気じみた口調と笑みで僕らにゆっくりと近づいてくる。
この人、ヤバい人だ。
ど、どうしようっ?
このままじゃきっと僕ら口封じにみんな殺されちゃう!
僕は魔術で何とかしてくれるんじゃないかと目で桔音くんに助けを求めた。
しかし桔音くんは動じることもなく至って冷静で、ちらりと腕時計を見て言った。
「おや。残念だが時間切れだ。僕は帰らせてもらうよ」
思わず耳を疑うような言葉が返ってきた。
「はぁっ? ちょ……どういうことよっ!」
モミジ先輩の悲痛の叫びも虚しく、桔音くんは突然、何もない空間に赤い渦を出現させた。
そして何の躊躇もなく笑いながら飛び込んで渦と共に消えていった。
報酬分の三十分が経っていたのだ。
「う、ウソでしょ? 薄情者~っ!」
モミジ先輩の叫びは当然、桔音くんには届かなかった。
「ひっひっひ……怖がる必要はないよ。すぐに君たちもあのミイラの少女のようにオジサンのコレクションにしてあげるからねぇ?」
一番近くにいたモミジ先輩がオジサンに捕まってしまった。
「いやああああーっ! 助けて~っ!」
モミジ先輩の悲鳴と共に部屋の玄関の扉がバーンと開いて怒号が響いた。
「動くな! そこまでだ!」
現れたのは、拳銃を構えた警官のマモル先輩だった。
「犬飼先輩っ!」
涙目で黄色い声を上げるモミジ先輩。
た、助かった……。
僕らは極度の緊張と恐怖心から解放され、気が抜けてガクッと膝を折って座り込んだ。
結局、男は殺人未遂の現行犯と死体遺棄容疑で逮捕され僕らはその場で保護された。
「わーん! 怖かったぁーっ!」
モミジ先輩はここぞとばかりにマモル先輩に抱きついて大泣きをした。
「あのなぁ、お前達。言っとくがこれ不法侵入だからな! ある意味、自業自得だぞ! 無茶するなと言ってるだろ! たまたま俺が巡回中に悲鳴を聞いて駆け付けたから良かったものの……」
僕らはマモル先輩にこっぴどく怒られた。
アパートの去り際、僕らは押入れのミイラの写真を無断で一枚パシャリと撮って、マモル先輩や警察官の人達に叱られる前に急いで逃げだした。