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しかし、僕らが見たのは血痕などない綺麗な畳の部屋だった。
「あ、あれ? 染みがない……」
単なる写真の現像ミスだったのかな?
「ま、まあこれも心霊現象の一つよね?」
消えた染みも怪奇現象としてモミジ先輩は無理やり納得しようとしていた。
「でもこの畳、新しすぎませんか?」
加枝留くんが畳を指でなぞりながら言った。
「無人なのに買い替える必要あります?」
「またアパート経営を始めるつもりとか?」
「古い木造ですよ。始めるなら建て替えか改装が先では? 襖も壁も窓もボロボロなのに畳だけ変えるってのも……しかもこの部屋の畳だけ」
「確かに……」
隣の部屋に続く襖を開けると、取り外したと思われる六枚の畳が部屋の隅に重ねて積まれているのが見えた。
「あ、もしかしてこれじゃないですか? 古い畳」
「染みがあるかも! 桔音くん、これ全部この部屋に敷ける?」
持ち上げて確認するには時間も掛かるし物音がしてはマズイし、僕は桔音くんの魔術に頼った。
面倒くさそうに桔音くんは再び短い呪文を唱えて指をパチンと鳴らした。
すると畳一枚一枚が宙に浮き、ゆっくりと流れるように床の上に降ろされた。
畳の染みはまるでパズルのように元の配置の形に合わさった。
「やっぱり血痕だよね?これ……」
まるで人を殺害したような夥しい量の不気味な染み。
「これってさ……なんか隠そうとしてるんじゃない?」
嫌な予感がしてモミジ先輩が青ざめる。
するとゴトっと先程の隣の部屋の押入れから物音がして僕らは一斉に振り向いた。
「ちょ……ちょっとコバン、あ、開けてみなさいよっ」
「えぇっ、ぼ、僕ですか?」
モミジ先輩に促され、僕は恐る恐る押入れの襖を開けた。
そして目に飛び込んできたモノに僕らは思わず悲鳴をあげそうになった。
女の子の服であるワンピースを着たミイラが横たわっていたのだ。
物音がしたのは、劣化でたまたま体が横に倒れたのだろう。
「あ、あわわ、ヤバいわよ、ここ……っ」
モミジ先輩は腰が抜けて畳を這うようにしてこの部屋から逃げ出そうとした。
「どこに行くんだい? お嬢さん……」
ふいに不気味なほど優しげな中年男性の声がして顔を上げると、昨夜怒鳴り込んできたアパートの所有者のオジサンが部屋の前で立っていた。