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「あ、あのね、桔音くんに頼みたいことがあって……」
桔音くんの独特の雰囲気に圧倒されて、僕は緊張しながら事情を説明しようとした。
しかし桔音くんは僕の話を聞こうとせず、相変わらず人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらスッと片手を前に上げて短い呪文のような言葉を唱えた。
「え、何? なんて言ったの? なんかの呪文?」
モミジ先輩は僕の肩に両手をついて不思議そうに桔音くんを見た。
何処の国の言葉でもない不思議な言葉であった。
「オカルト同好会の『猫宮小判』に『鹿島椛』、『雨森加枝留』だな。無人アパートの血痕を調べる為にこの僕の力を借りに来た訳だ」
「え……」
僕たち三人は見事に言い当てた桔音くんに驚愕した。
「まさか記憶を読んだの? 今のは魔術?」
なんと、彼の力は本物だった!
「だが断る。とっとと帰れ、虫けらども」
桔音くんは意地の悪い笑みを浮かべたまま、まるで野良犬を追い払うかのように手の甲をヒラヒラさせて言った。
それは、喜びに沸いていた僕らを一気に奈落の底にたたき落とす言葉だった。
「え、何でニャっ?」
「そうよ、そうよ! ちょっとくらい協力してくれたっていーじゃない! ていうか虫けらって何よ! アンタなんか悪霊みたいな顔してるくせに!」
も、モミジ先輩、それはちょっと失礼かも……。
「何故僕がタダでお前らのようなカスどもの遊びに付き合わなければならない?」
「そ、そんにゃあ~……」
確かにそう言われればそうだけど……。
「タダって何よ! じゃあタダじゃなければいい訳?」
モミジ先輩は腰に手を当てて桔音くんに凄んでみせた。
「……そうだな。ビジネスなら考えてやってもいい。だが僕の魔術は安くないぞ。三十分で三万だ」
うわっ、学生には高すぎるニャ!
「わ、分かったわよ! 三万払うわよ!」
ええ~っ! モミジ先輩が財布から三万出しちゃったよっ!
あの性格の所為か、すっかり忘れてたけど、モミジ先輩は日本でも有数の大企業・カシマカンパニーのご令嬢なのだ。
先輩はあっさりと三万円を桔音くんに渡しちゃった。
「その代わり、ちゃんと仕事してもらうからね!」
そうと決まれば善は急げだ。
桔音くんの力を借りられる時間は三十分しかない。
僕らは早々にアパートへと向かって歩き出した。