表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Entertainer´s ~絶賛就職活動中の主人公と世界一危険な職場~  作者: 鮎川 麻維
始めは情報整理から。
3/3

乙女体験と新たな交流。

「いやぁ、やっぱり夜が寒くなってきたねぇ」

 階段を下りながら、男性はズボンのポケットから手袋を出した。

 防寒用かと思ったが、指の先が空いている皮でできている様なゴツめの黒い手袋だった。

 (後で聞くと、レザーでつくられている、フィンガーレスグローブというものの一種らしい。)

 ジッと俺が見ているのが気になったのだろうか。

「...俺の格好、変?」

 階段を下り終わり、ホームに立つと、男性が問いかけてきた。

「.........え?...あぁ、いや、珍しいなぁと思っただけで...」

 まぁ実際、かなり目立っているというか、個性的な着こなし方だった。

「アハハ、よく言われるよ。変わったファッションセンスをお持ちですねって。」

 パッと見ただけでも目を引く、少し明るめでサイズ大きめの青色パーカー。前についているチャックは全開で、中に着ているセピア色のタータンチェックのベスト(これもボタン全外し)とYシャツが見えている。よく見ると緩く結ばれているネクタイは、黒と青のこれまたチェック。

 でも、パーカーにスーツなんてありえない組み合わせなのに、似合っているんだから不思議だ。ふと、正直な感想が漏れる。

「似合って、ますね...」

「ん、そう?ありがと。まぁ、チャカついちゃっているように見えなくもないけどねー。歳も歳だし」

「え?御歳いくつなんですか?」

「細かくはもう、数えてないけど...多分、56とか...57とか...そんくらい?あ、もっといってるか」

「えぇ!?」

 全然見えない。確かに、短い髪の毛に白髪が混じってはいるものの、下手したら40前半くらいには余裕でサバ読めるのではないだろうか。

 先程の会話の中でも、時おり少年のような、いたずらな表情を見せることがあった。若く見られることも多いだろう。

 そんな年齢不詳の男性は、パーカーのフードを被ってベンチに近づくと、俺に向かって手招きをする。

「座ろっか。このままだったら、疲れちゃうでしょ?」

 不意にその瞬間、先程の光景が頭に浮かんだ。人質に取られる前、ベンチに座っていたからかもしれない。

 頭がグラグラする。急にその場に立っていられなくなって、貧血になった時のように前のめりに倒れた。

「うわっ!ちょっと、どうしたの!?」

 男性が、すぐに支えてくれたおかげで床には衝突しなかったけれど、なんだか気分が悪い。

「......あの、すみません......、なんか、吐き気っていうか......気持ち悪くて...」

「あー、無理ないね。そりゃ、あんな光景いきなり見ちゃったんだもの、具合悪くなるよ」

 ちょっとごめん、と言うと、男性はいきなり俺を『お姫様抱っこ』した。

「ひゃい!?」

 ありえない体勢と、味わったことのない浮遊感に、俺は奇声を上げて暴れようとしてしまう。

「落ちるから危ないよ、じっとしててね?...それにしても、軽いねぇ。ちゃんとご飯、食べてる?」

 推定体重60㌔の、ほどよい重さの俺を、軽いと言ってしまえる力がどこにあるのか。金髪の彼女といい、なかなか人は見かけによらないものだ。

 まぁ、確かに食には困っているけれども。

 すると、そのままどこかへ行こうとする。慌てて聞いた。

「ちょ、どこへ行くんです?」

 男性は笑って答えた。

「んー、君を連れて、家に帰ろうかと」

 当たり前のように、言ってのけた。

「......へ?」

「だって、ここで話してても君が辛そうだし、そんなの嫌だからね」

 だから、と男性は続けた。

「家へおいでよ。住んでんのは俺だけじゃないし、皆、個性強いけど、深く関わらなけりゃ大丈夫さ」

 そうこうしてるうちに階段を上り終え、通路を戻り、先程の現場の近くへ。

「おーい、レオー!帰るけど、そっち終わってるー?」

 レオ、というのがあの少女の名前らしい。

 大声を出してまでホールに入らないのは、俺への気遣いだろうか。

 なんだか、途端に嬉しくなった。

「あ、そういえば名前聞いていなかったけど、なんて言うの?」

「え?」

「君の名前。ほら、いつまでも君じゃおかしいでしょ」

「...し、白河義恭...です」

「ギキョー?うん、分かった。ギキョーね」

 ギキョー、ギキョーかぁ、と呟く男性に向かって、俺は、ゲームのヒロインのように尋ねた。

「あの、あなたは?」

「あれ、俺も言ってなかったか」

 男性は、あの特徴あるいたずらな笑みで笑いかけてきた。



轟渉(トドロキワタル)



 腹に染み込むような、低音だった。

「トドロキ...さん?」

 俺は、レオが前に呼んでいた、呼び名で呼んだ。

「うん、ギキョー。よろしくね」

「こちらこそ...、よろしくお願いします...」

 俺を覗き込んでくるトドロキさんの、大きい黒目から目が逸らせなかった。

 男同士、お姫様抱っこの体勢のまま見つめ合うという、異様な状況に顔を引き攣らせたレオがやって来るまで、あと1分と30秒。


















「何を、やっているんですか」

 ここは車内。

 トドロキさんが運転する、7~8人乗りSUVの2列目シートに、俺とレオは座っていた。

「いやぁ、だって、ギキョーが具合悪いっていうから。歩かせるわけにもいかないでしょ?」

 結局、抱っこされたまま俺は、車に乗せられてしまったのだ。

 ちなみに、もうレオとは自己紹介をしている。レオの本名は、田中玲王(タナカレオ)といった。

「だからトドロキさん、人たらしって言われちゃうんですよ」

「アハハハハ、ごめんってば」

 駅の死体は、驚くことに綺麗さっぱり無くなっていた。どんなことをしたのか、と尋ねたら。

「あなたには関係のないことです」

 と、きっぱりと言われてしまった。

 どうやら、レオは俺のことを大いに警戒しているらしい。今だって、全く目線を合わせていない。

「俺、車入れてくるから、先に客室に案内してあげて。すぐ行くから」

 そんなこんなで、着いたらしい。景色を見るに、西麻布のあたりだろうか。

 フラフラも治まり歩けるようになった俺は、外へ出た。

 すると。

「......え?」

 目にした建物が、予想外で思わず声を上げる。

「...何か、おかしいですか?」

「...いや、これ......家っていうか...」

「ビルディングですよ、地下1階と地上5階建てです」

 相当大きかった。

「こちらです」

 中に入ろうと、扉に向かって歩いていくと―。

「レオ!おかえりなさーい!!」

 中からピンク色の、否、ピンクの髪の人物が飛び出してきた。淡いオレンジ色のパジャマを着て、ニコニコ顔でレオに飛びつく。

「まだ起きてたの、カザカミ!先に寝ててって言ったでしょ?」

 口では文句を言いながらも、俺の隣にいた時とは比べ物にならないくらいの笑顔を、レオは浮かべる。

「ねー、レオ。この人、誰?」

 そのピンクの髪の人物が、俺を指さす。

「白河さん。標的(ターゲット)の人質に取られてたから、トドロキさんが連れてきたの」

「お父さんが?そうなんだ」

 にっこりと笑うと、その人物は右手を差し出してきた。

「初めまして。風神(カザカミ)です」

「あ、おれは白河義恭です」

 手を、握り返した。なかなか、友好的で安心した。

「シラカワさんって呼んでいい?その代わり、ボクの事もカザカミって呼んで」

 カザカミは、腰より下まで伸びた長いピンクの髪を二つ結びにしていた。年は聞いていないけど、俺よりだいぶ下という事が分かった。中学1年か、そのくらいだろう。

「シラカワさん、どこか具合が悪いの?」

 カザカミが、俺に問いかける。

「え?何で...?」

「だって、お父さんは、体が良くない人とか障害がある人とかにものすごく優しいから。普通の人を、ここへ連れてくるなんて、有り得ないんだもの」

 一つ、新たなトドロキさんの一面を知った。答えようとすると、レオが遮るように口を開く。

「そうよ、白河さんは具合が悪いのよ。だから今から、客室にお連れしようと思っているのよ」

「じゃあボクが、連れていく」

「駄目。カザカミは、早く寝るの」

「そんなのずるいよ!白河さんとお話ししたい!!」

 カザカミは駄々をこねる様に、レオに向かって言った。

「何が、ずるいんだい?」

 背後から、いきなり声が聞こえる。後ろを見ると、トドロキさんが立っていた。相変わらず、気配を消すのがうまい人だ。

「お父さん!あのね、レオが、ボクをシラカワさんとお話しさせてくれないの」 

「そうかい?でも、カザカミ。レオに、客室にお客さんを連れてってあげてねって言ったのは、俺だよ?いじわるしてるんじゃないと思うなぁ」

 トドロキさんは、カザカミに諭すように話しかける。

「......」

「カザカミに早く寝てほしいから、言ってるんだよ?お話ししてないでって」

「......分かった、寝る」

 何かを我慢したかのように、カザガミは言った。

 でも、次の瞬間、いつもの笑顔になると俺に言う。

「じゃあ、明日、お話ししようね!」

 つられて笑顔になる。

「うん、分かった」

 それを見たトドロキさんは、カザガミの頭を撫で、提案した。

「よーし、今日は俺と寝るか?」

「え、いいの!?うん、一緒に寝よっ!」

 そして二人は、ビルの中に入っていった。

「お休み、レオ、シラカワさん」

「じゃ、後の案内頼んだぞ」

 パタンとドアが閉まって数秒後、レオは俺に向かって話しかける。

「...さて、遅くなりましたが、客室にご案内いたします。」

 家族と話していたのが、良かったのだろう。

 先程より、柔らかな声だった。








































 

 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ