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Entertainer´s ~絶賛就職活動中の主人公と世界一危険な職場~  作者: 鮎川 麻維
始めは情報整理から。
2/3

人質奮闘記と強烈な出会い。

 ザクッ...。

 嫌な、音がした。

「「ぎゃぁぁっ!!」」

 後ろにいる、俺以外の利用者さんと駅員が、悲鳴のハーモニーを奏でる。

「...あっぶねぇなぁ......ホントに刺さったら、どうすんの...」

 間一髪、避けた俺は冷や汗を流す。

 男の振り回したナイフは、俺の一張羅のスーツを、引き裂いていた。上着だけだったようで、どこも痛くも痒くもない。でも、心臓は止められないほどに早鐘を打っている。

「うぁぁぁぁぁぁぁ!」

 言葉にならない声を発して、又も男がナイフを振りかぶる。咄嗟に左へと避けた。

「ひぇ!」

 俺のいた所にナイフが振り下ろされるのを見て、背筋が凍る。

 間違いなく、こいつは俺を仕留める気なのだ。

 もう一度、男はナイフを俺の頭めがけて振り下ろした。

「がぁぁっ!!!」

 余りの恐怖に、腰を抜かしかけて動けない、俺の脳天にナイフが...。










 刺さらなかった。












「え...?」

 恐る恐る、俺が上を向くと。

 そこには、俺を庇うような形で、俺と男の間に仁王立ちで立っている女性がいた。

 女性が高く掲げた手には、ナイフを持った男の手首が。

 その人の短い髪は、眩いばかりの金色だった。

「.........汚ねぇ手だな。早く戻せよ」

 女性にしては低めの、でも、どこかあどけない声が響く。俺よりも随分と年下の少女の声だ。しかし、言っている言葉はキツい。

「なぁ、聞こえねぇの?戻せって言ってんだよ、ソレとアンタの手を」

 ソレ、の所で彼女は空いている手でナイフを指差す。

「テメッ...離せぇぇぇぇぇ!!!」

 暴れた男を、いとも簡単に床に押し付ける少女。

 その小さい体で、どこからそんな力が出てくるというのだろうか。

「動くな。...アタシに逆らうな」

 それでも、男は暴れ出す。床を蹴る音が耳に入る。

 ふう、と息を吐くと、彼女は後ろを振り向いて言った。

「あのー、駅員さーん」

 気怠い声で話しかけられた駅員は、はいっ、とばかりに姿勢を正す。

「お客さん連れて、こっから出てって。後、誰も入れないで。後片付けはやっておくんで」

 そして、何かを考え込むようなそぶりを見せた後。

「警察だけは、呼ばないで」

 そう、告げた。

 その場から動けない人、失神してしまっている人含め数十人が、駅の外に出ていって、残されたのは俺と、彼女と、男と、そして複数の遺体だけ。

 相も変わらず叫んでいる男に向かって、もう一度言った。

「早く、静かになってよ。自分、どうなってもいいんだ?」

 ガギボギという音が、男の手首から漏れる。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ありったけ叫んで暴れようとするのに、一ミリも動かない倒れた男の体。

 眉一つ動かさずに、男の手首を壊すその姿に、俺は戦慄を覚えた。

「動くんじゃねぇって、言ってんだろ」

 ちらりと見えた横顔は、ひどく冷めきっている。

「............何、それともアンタ、」

 バギィッ!

 完全に、骨の砕ける音がした。

「ドⅯ、だったりすんの?」

「ヴガァァァァァァ!!!」

 依然として、男の体は動かない。

 男の流している汗が付くのが嫌なのか、顔を顰めながらも彼女は言った。

「ほら、手ぇ壊しちゃった。アンタなんて、どうにでも出来んだから、そろそろおとなしくなれや」

 当の本人はそんなこと、聞いちゃいない。やれやれといった様子で、彼女は呟いた。

「駄目だ、こりゃ。埒があかねぇや」

 その時。

「撃っちゃおうか」

 誰もいないはずの俺の背後から、銃声が鳴り響いた。

「っ!?」

 ドラマかなんかでしか知らない音は、すぐに止んだ。

 目の前には、血に塗れ、手首が垂れ下がっている、少女に馬乗りになられている男。

「ね、黙ったでしょ」

 こわごわと後ろを振り向くと、一人の男性がゆったりと立っていた。

 あろうことか、笑みさえ浮かべて。











「君、耳、大丈夫だった?」

 俺が見てるのに気付いたのか、銃を弄びながら男性が声をかけてきた。

「...あ、はい...。大、丈夫です...」

「アハハ、声が掠れてるよ。怖かったでしょ、ごめんね」

 にこやかに話しかけてくる男性は、見た目は全然優しそうな人だった。

「トドロキさん、助かりました。ありがとうございます」

 返り血を浴びた彼女が、男性に声をかける。

 トドロキ、と呼ばれた男性は、彼女に向かって言った。

「じゃあ後の片付け、よろしくね」

「了解です」 

 そして、俺に向き合うと言った。

「一旦落ち着くために、外出ようか。色々話さなくちゃだし、君も聞きたいことあるだろうし」

 立てる?、と差し出された手は温かくて、大きくて、今しがた一人殺していた手とは思えなくて。

 だから俺は、誘いを受けてもう一度、プラットホームに行くことにしたのだ。









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