出会いは、木枯らしと共に。
初めまして、こんにちは。鮎河 麻維と申します。
自分の事をペンネームで呼ぶというのは、とても恥ずかしいことですね。
さて、私の初めてのシリーズとなります本作品は、設定としては今から数十年後の日本という設定で書いています。
それから、ロボットなどの差別的描写、特殊能力を使ったアクション、血などが飛び散る残酷描写、歳の差恋愛、超複雑な人間関係、歳の差恋愛、少しのBL的要素を含みます。
一応15歳未満の方は閲覧をお控えくださいませ。
私の趣味と偏見で書いていますので、分かりにくい所などあると思いますが我慢をお願いします(笑)。
上記の事を了承していただける方と、頼りない主人公で全然OKだぜ!という心優しいお方は、ぜひお読みください。
出会いは、秋―。
「...寒っ」
電車から降りた途端の俺の体に、夜の木枯らしが吹きつけられた。
今日はついてない。ため息も白く変わる。
今日は散々だった。
半年前から求人チラシで目星をつけてた、とあるゲーム会社に面接に行った。が、落とされた。
驚くほどに呆気なく。
「大学出たって、就職できなきゃ意味無いよなぁ...」
意気揚々と手渡した、学生時代の頃のゲームソフトは踏みつぶされ。履歴書なんて受け取ってもらえず。挙句、何十人といる他の就職希望者の前で、名指しで説教を受けた。ご丁寧に、手渡しで不採用通知まで。
帰り道の電車が混んでいなかったことは嬉しかったが。
「...古い...起承転結が無い...絵が下手...操作がしづらい...つまり不合格、と」
この頃の就職活動なんてそんなものだ。秀でた者が立派な肩書を手にし、落ちこぼれはどこまでも落ちていく。
「さすがに、焦んないとだな...」
焦らないといけない、それは分かってる。自分が、幼い頃から夢見続けた、仕事ができるようにするために。何よりも、焦らなくてはいけない。
俺の夢である、ゲームクリエイターになるために。
小さい頃から、周りの沢山の子どもたちと同じように、時に怒られるほどゲームに熱中していた。
でも、周りと違ったのは、憧れた人、だった。
周りは「ゲームのキャラクター」に憧れていた。俺は「ゲームの製作者」に憧れていた。
いつか俺も、皆から憧れられるようなゲームクリエイターになりたいと、勉強を頑張った。プログラミングを学べる高校をトップレベルで卒業して、推薦で大学に入った。
大学は、数々の有名クリエイターを輩出していて、そんな学校に推薦入学なんて、我ながらよく頑張ったと今でも思う。
けれど、そこまでで。
大学では上の方のはずだった。親からもそこそこ期待されていた。担当教師は沢山の就職先を紹介してくれた。恋愛もなかなかに順調だった。もちろん、友人関係も。
だから、油断した。
気付けば皆、居なくなっていた。皆、どこへ行ったんだろうか。
-もう、仕送りはしないからね。
-君には幻滅したよ。
-あなたの事、私、もう好きでいられる自信がないの。
-お前がそんな奴だなんて、知らなかったよ。
三者三様に離れていった。悪いのは自分なのに、その時はとても被害者ヅラしていた。
大学に、自分の居場所はなくなって、あれは本当に地獄だった。
それでも何とか、卒業したっていうのに。
「今更後悔しても遅い...か」
プラットホームから駅内に入り、隅のベンチに腰掛ける。
『白河義恭様
採用試験選考結果のご通知
拝啓
時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、先日は当社入社試験にご応募いただき誠にありがとうございました。
厳正なる選考の結果、残念ながら採用を見送りましたことをご通知いたします。
ご希望に添うことができませんでしたが...』
「シラカワ...ギキョウ...」
それが、俺の名だった。
いつぶりに自分の名を呼んだだろうか。ひどく耳障りな響きに聞こえた。
「...そもそも、先日じゃないしね...」
ブツブツと愚痴る就活者は、数人の通行人―残業終わりのサラリーマンや部活後の学生―の目に危なく映っていただろう。別に、ここまできたらどうでもよかったけど。
ボーッとしていたついでに、考え事をする。
今日の夕食は何にしよう...。また、何にも食べられないのかな?嫌だなぁ、もう二日と、何も食べていないっていうのに。
そんなことを考えて、ふと、目線を上にあげた途端...。
「「キャァァァァァァッ!!!!」」
「!?」
耳をつんざく悲鳴とは、正にこの事か。
複数人の女性の必死の叫び。ドッキリかなんかだとは、到底思えない。
「どうかしましたか!?」
その声を聞き、声のする方へと走っていった駅員を目で追いかけて、俺も席を立つ。
改札を抜けて、売店などが多く立ち並ぶホールへ。
「あの、何か...」
「来ないでください!!...お客様、安全な場所への避難をっ!!」
「いや、だから、どうしたんで...」
悲鳴を聞いた時から、何か事件でもあったんだろうな、とは思ってた。でも、まさかここまでとは誰も思ってないだろう。
そこで、俺の見たものは。
気がふれたかのように叫んで指示を出す、駅員と。
「早くっ、急いで!!」
床一面に広がる〈紅〉と。
「......何...が...」
人形のように不自然に倒れた、複数の人間と。
「お客様ぁっ!!!」
それらに囲まれて、立ち尽くしている―男。
「...うっそぉ」
思わず、天を仰いだ。
夕食の事なんて呑気に、考えているんじゃなかった。
俺には、下手したら1時間後の命まで残っていない様な、そんな危機的な状況が待ち受けていたっていうのに。
全く今日は、ついていない。
「お、お、お前らァァっ!!おおお俺の、近くにィっ、来たらどうなるか分かってんだろうなァ!!??」
さっきまで、ネジが切れたかのように呆然としてたのに、いきなり暴れ出した男。
震えている右手に握りしめているナイフの切っ先は、俺。
「お客様......」
いや、待ってくれ。
そんなに縋るような眼で、俺を見ないでほしい。
多分、この駅員は、ナイフを持っている危険な奴を見ても、一歩も引かない俺が強そうな奴にでも見えたのだろう。
本音を言うと、動かないんじゃない。動けないんだ!
「おい、そこのお前ぇぇ!!こっち来い!!」
固まったまま数分後。男が、俺を呼んだ。
「......っ!」
後ろの駅員の、息をのむ音が聞こえた。それはつまり、そういうことで。
「人質ってこと...?」
どうして、そういうゲーム展開になるのか...。
クリエイターってこういうことを味わわなければいけないのだろうか。あまりにも大きな恐怖が、俺を襲う。
ふと、後ろを向くと、何とも言えないような表情でこっちを見ている駅員。と、僅かな巻き添えを食らった利用者。
俺が、ここで体を張らなければ、この人たちが犠牲になるかもしれない。
そう思ったら、驚くほど素直に覚悟が決まった。そう、俺はこの、劇的展開の主人公なのだ。
「...分かった」
足を一歩踏み出す。
ここまでの日々が、一気に脳にフラッシュバックする。これが、走馬燈っていうやつか。
これで、皆助かれば、それでいいか、なんて思ってた。
でも、そんな終わり方になるには、あまりにも覚悟を決めたのが遅すぎたのかもしれない。
「早く来いって言ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
「おわぁ!!!??」
痺れを切らしたのだろうか。ナイフを前に突き出したまま、男が突進してきた。
逆鱗に触れたか。
「まっ、ちょっ、待って!!待ってってば!!」
必死に叫ぶ俺。
久しぶりかも、こんな声出したの。
気付けば俺の喉元に、鋭利な刃先。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の鼓膜を、またも悲鳴が揺らした。
就職先は見つからず、ろくにご飯も食べれず、独りぼっちで、こんな事件に巻き込まれてしまった俺。
実質ニートの英雄気取りの弱っちい俺は、この先どうなるんだろうか。