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変わり続けるこの大地で  作者: カジノチップ
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6. 理由

少し投稿が遅れて申し訳ないです。


魔導書の解読を進めるアンドリューだったが、日々の勉強で精神的に参っていた。


「何度も繰り返しながら頭に叩き込むのが効率の良い勉強方だけどさ。さすがに一ヶ月に一日も休まないのは辛いな。」


魔導書を邪魔にならない場所に置き、ぐったりと書斎の机に寝そべる。


あれから一ヶ月、一日のほぼすべての時間を魔導書の解読と普通の授業で使っていた。そのためなのか、作業ペースが解読を始めた時と比べて一段と落ちていた。


「だからと言ってここで諦めたら、せっかく貴重な時間を割いて魔導言語の授業を作ってくれたメアリーさんに失望されてしまう。」


けれども頭がパンク寸前で考えが纏まらなかった。仕方がないので少し休憩して頭を冷やすことにする。


気分転換に何か読みやすい本でも探そうと、書斎全体を一通り見回ると、他の物よりも少し古ぼけた戸棚から自分の肩くらいの位置に、絵本にしては似つかわしくない物が一冊だけ存在していた。


「醜い半魚人なんてタイトルを子供が読むのか?」


一人ツッコミをしつつも本に手を伸ばし、その場で読んで見る。


内容は川に一匹で住んでいた半魚人が、たまたま通りがかった女の子に恋をしてしまう話だった。


半魚人は来る日も来る日も、女の子が川の近くを通るのをいつも川の中で嬉しそうに観察していた。


ある日、女の子が川の近くで二人組の男に襲われようとしていて、怒った半魚人が陸へと上がり、その男たちをボコボコにしてしまった。


半魚人が女の子に近づこうとすると、女の子は『来ないで!この化け物!』と泣きながら懇願していました。


半魚人は女の子に拒絶された悲しみで、川へと帰っていきました。その後、女の子は川の近くに来ることはなく、半魚人は来る日も来る日も泣き続け死んでしまいましたとさ。


読み終わると同時に本を閉じて、自分の心に嘘をつけないと判断し感想を述べる。


「これ書いたやつ頭おかしいだろ。」


絵本とは思えないほどの、現実味を帯びた本だった。これを最後まで読んだ子供は、間違いなくひねくれてしまうだろう。


「そうですよね~。旦那様が買ってきた絵本なんですけど、やっぱり面白くないですよね~。」


この部屋にいるはずのないメアリーさんに声を掛けられたため、のどを詰まらせたかのような声が出てしまったが、意地でも平静さを取り戻したかのような態度で彼女に接する。


「め、め、メアリーさん。そ、その、違うんです。これはちょっと価値観の違う本を読むことで、魔導書の解読の参考にしようと思ってたんです。けっしてサボってはいません。」


「そうなんですか~。アンドリューちゃんは勤勉なんですね~。」


彼女は微笑みながら少しかがんで、自分の頭を優しく撫で撫でしている。自分の心が針でつつかれたように痛むが、話を逸らすように話題を変える。


「どうしてメアリーさんがこの部屋にいるのですか。さっき母様の用事で呼ばれていたのでは?」


彼女は思い出したかのように話し始めた。


「奥様の用事はもう済みましたよ~。それよりもちょっと私と一緒に休憩しないですか~?」


「.....えっ!?」


それは彼女の口から出たとは思えない意外な返答だった。



-----


メアリーさんと書斎で休憩するために、先程座っていた椅子に腰かけようとすると、机の上に二人分のティーカップが視界に入った。おそらく、彼女がこちらに来る際に淹れてくれた物を持ってきてくれたのだろう。


それを確認し椅子に座るとメアリーさんは隣の椅子に腰かけて自分の目を見て話し始めた。


「アンドリューちゃんは今の勉強は楽しいですか~?」


質問の意図が分からず彼女に問い返してしまう。


「楽しんでいないように見えますか?」


「最近、全然笑ってないですよ~。アンドリューちゃんはまだ子供なんですから、もうちょっと遊んでいてもおかしくないですよ~。」


彼女の言うことは最もだろう。正直に言えば少しは休みたい。だけど、返答次第では失望されるかもしれないので、微笑みながら嘘を言うことにした。


「そんなことはないですよ。魔導書の解読は、やりがいがあって楽しいです。」


「ちょっと笑顔がぎこちないですよ~。もしかして嘘をついているのではないですか~?」


一瞬で看破されてしまうが、ここで黙ってしまえば肯定したと認めたことになるので、強引に話を変えることにする。


「ところでメアリーさんはお仕事で忙しいので、自分に構っている余裕ないと思うのですが。」


「それは大丈夫ですよ~。もう全ての仕事は終わらせましたから~。さっきの質問の答えをまだ聞いていないので、正直に言ってくださいね~。」


苦し紛れの一言を完璧に言い返されてしまう。どうしようもないので正直に話すことにした。


「...ごめんなさい。本当は楽しくないです。」


「どうして誤魔化そうとしたのですか~?」


「楽しくないって言うと失望されるかもしれなかったから...つい...」


失望されたくないがために嘘をつき、挙げ句の果てに話を無理やり逸らそうとしたのは、完全に悪手だった。確実にメアリーさんに見捨てられてしまうだろう。


そう考えていると彼女は椅子から立ち上がって、こちらに向かってきた。


目をつぶり体罰の一つは覚悟した時、体を抱きしめられる感覚がした。


「嘘は良くないですけど、誰にだって嘘をつくことはあります。アンドリューちゃんは良い子ですから私は決して失望しませんよ。」


急に抱きしめられたのか、彼女が真剣な口調で許してくれたのか、何故か涙が出そうになるのを必死に堪える。


ここで泣いてはいけない。そう自分に言い聞かせていると



「いつでも頼ってくださいね。何でも一人で解決しようとすると、心が悲しくなってしまいますよ。」




その言葉に耐えられず、彼女の胸の中で泣き出してしまった。彼女は自分が泣き止むまで、ずっと慰めてくれていた。






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