5. 解読
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あれから数日間、魔法を使えるようになるため頑張っていたのだが、現在、書斎の机に突っ伏して寝ているような状態で、嘆くかのように呟いた。
「こればっかりは無理かもしれないな。」
自分にしては珍しく弱音を吐いているが、今日は授業を受け持つメアリーさんが、母様の料理の手伝いで忙しく、書斎に一人しかいないので言うことが出来るが、もし聞かれたらその時点で魔導書の授業を廃止されかねない。
メアリーさんの期待を裏切るわけにはいかないので、とりあえず教えてもらった魔導書に関する情報を整理してみる。
まず、魔法を使うには魔力と呼ばれるエネルギーを使用するのだが、人に魔力は存在しないみたいだ。
それを補うために、魔導書を用いることで様々な魔法を使うことが出来るようになった。
もちろん魔導書の力は無限ではなく、魔導書内の貯蔵した魔力を使っているため、いずれ尽きてしまうが使い捨てというわけでもない。
魔力の回復方法は二つあって、一つ目は魔導書には自動で空気中に存在する魔力を少しずつ吸収する機能がある。しかし魔力を満タンにするのに三日は掛かるため効率が悪い。
もう一つは先程の方法に似ているが、魔力結晶と呼ばれるアイテムを足元に落とすことによって、高濃度の魔力が足元で発生するので、そこに魔導書を置くことで、短時間で魔力の回復を行うことができる。ただし、魔力の貯蔵が尽きた魔導書の魔力を満タンにする魔力結晶は、非常に高額で気軽に使うことができない。
ここまでは覚えることはできたが、問題は魔法を使うことが出来る条件が鬼門になっていた。
まず、魔導書を使用するにはこの本に書いてある内容を把握する必要があり、魔導書を読もうとするのだが、今習っている文字ではなく魔導言語と呼ばれる文字で書かれているので、解読する必要がある。
父様が元々この魔導書を持っていたことを思いだして、この本の内容を聞きに行こうしたのだが、メアリーさんに止められてしまった。
どうやら魔導書を自力で読まなければ、何故か魔法を使うことが出来ないと、メアリーさんが言っていた。
理由を聞くと、仮説ではあるが魔導書には意思があり、それに認めてもらう必要があるため、教えてもらっただけでは使用することは出来ないと話していた。
つまり、魔導書の解読は自分一人でやらないといけないのだ。
「そんなことを考える暇があったらメアリーさんが帰ってくる前に、一つでも魔導書の解読をした方が有意義だな。幸いにも、魔導言語の方は教えてくれるみたいだし。」
今までの考えを一蹴し、辞書のような分厚い魔導書をペラペラとめくりながら、まだ解読出来ていないページを探し、作業に戻っていった。
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自分なりに頑張っていたかもしれないが、解読の成果は著しくなかった。まだ五ページくらいしか進んでおらず、二百ページ以上残っている状態だ。
この魔導書の内容は魔法に関することが書かれていると考えていたのだが、解読を進めていくと何故か童話のような物語が書きつづられていた。
魔導言語は少しだけ分かるようになった。どうやら魔法言語は文字が右から左へ書かれており、理解するまでに時間が掛かった。解読で一番疲れるのは、登場人物の違いによって言葉が変化していくことだった。
例えば、この魔導書の書かれている主人公は風の精霊で、友達であった火の精霊と旅をする話なのだが、風の精霊が行動と火の精霊が同じ行動をしていたとしても使われている言葉が違っていた。
要するに似たような描写でも、登場人物によって表現が違うので解読が面倒だということだ。
一度解読をやめて、指を合わせ両腕を天井に伸ばすように上げて体をほぐしていると、誰かが読んでいる声が聞こえた。
「アンドリューちゃん。お父さんが仕事が終わって帰ってきたから、家族みんなで夕食にするわよ。」
どうやら母様が呼んでいるみたいだし、今日の解読はこれぐらいにしようかな。
「母様。今すぐ行きます。」
すぐに返事をし、魔導書を机の上に放置して、アンドリューは食事へと向う。
書斎のドアを閉める直前に、動くはずのない魔導書が少し振動したように見えたが、きっと気のせいだろう。