3. 家族の暖かさ
感想やご意見を書いてもらえるのであれば幸いです。
転生者であるアンドリューは自らの母親であるマリーのために数十分ほど泣き続けていた。
(卑怯だよな。泣くだけで、あんなに嬉しそうな顔をするなんて。ていうかもう泣くの疲れてきたんだけど。)
感傷に浸ることができないことに哀愁を覚えるが、声を発する喉が限界を向かえようとしていたので、泣き止むことにした。
彼女が少し寂しそうな顔をしているが、泣けないものは泣けないのだ。どうしようもない。
狸寝入りでもして誤魔化そうとした時、マリーに抱きつかれて喜んでいるはずの彼が、彼女を優しく引き剥がし、声を掛けた。
「すまないなマリー。そろそろ仕事に行く時間だから、お前の側にいてやれない。」
「せっかくこの子が元気になってきたのだから、少しくらい休んでもいいじゃない。」
「いや、それはできない。俺がいない間に何かあると思うと不安でな。」
説得を試みるが、彼女は顔を膨らまして、少し不満げな表情をしていた。そこにメイドさんが現れ、彼に助け船を出した。
「奥様気持ちはよく分かります~。しかしながら旦那様のお仕事は、この村を守ることに繋がりますので、あまり引き止められないほうが良いと思います~。」
「メアリーの言う通りだ。俺がここで頑張らないと、他の誰かが死んでしまうかもしれない。もしかしたら、家族の誰かが犠牲になる可能性もある。後悔だけはしたくないんだ。だから頼む。」
彼の真摯な頼みに彼女はため息をついて
「分かったわ...でもあまり無理はしないでね。」
静かにそう言うと彼は頷き、彼女に背を向けて部屋を後にした。
「あの人無茶ばかりするから放っておけないのよね。そんなところも好きなんだけど。」
「いつもののろけ話は一旦置いておくとして~。奥様はこれからどうなさいます~?」
「帰ってくるあの人のために私の手料理を食べさせてあげたいわね。メアリー、アンドリューの様子を見つつあなたも手伝いなさい。」
「奥様~。ちょっと私の扱いが酷くないですか~?」
「あら?あなたなら簡単にやってのけると思うのだけど見込み違いだったかしら。」
「赤ちゃんの世話をしながら料理の手伝いなんて私には無理ですよ~。」
彼女達は雇い主とメイドとは思えないほど他愛のない会話をしていた。ようやく話が終わり彼女は自分の寝ているベットに近づいてきた。
「じゃあねアンドリュー、また来るからね。」
そう言うと彼女は顔を近づけると自分の頬にキスをした。ほんの少しだけ自分の心が暖かくなったように感じた。
「メアリー、あなたはアンドリューの世話が終わったら料理の手伝いに来るように。」
「分かりました奥様~。精一杯やりますよ~。」
「くれぐれもアンドリューの世話で手一杯でした~って言うのはダメよ。」
「わ、分かってますよ~。」
そう言い残すと彼女は部屋を出た。仕事を頑張る夫に料理を振る舞うためなのか、彼女はとても嬉しそうな顔をしていた。
そこで突然睡魔に襲われた。おそらく泣き続けていたので体力を消耗したせいだろう。
(そろそろ寝るとするかな。後のことはメイドさんが何とかしてくれるさ。)
色々と考えることがあったかもしれないが、もうどうでもよかった。この心の温もりが冷めない内に眠ることの方が大事だった。