体育祭とかさ、写真一緒に撮ってくださいっていうの多いよな。
俺も何度かお願いされたことあるぜ。
ピストルの合図で騎馬が一斉に走りだし、三つ巴もとい四つ巴の戦いが始まる。
合図と同時に、一気に駆け出す来栖さんの騎馬。
「行け! どれでもいいから突っ込め!」
来栖さんは騎馬を組んでいる生徒にそう指示すると、真っ向から突進し、取っ組み合う も与えずに額からハチマキを奪い取る。
「よし、まずは一つだ!」
奪い取ったハチマキを掲げてそう叫ぶ来栖さん。
「圭行けー!」
そして、俺の隣に座って叫ぶ奏ちゃん。
敵を応援しすぎじゃないっすか? 大丈夫? 周りの人怒ってない?
そう思い、周囲の声に耳を傾けてみる。
「あれ、有利くんだよね」
「はじめて生で見た……」
「ヤバイ、超かわいい」
「隣の人もイケメンだ」
「写真一緒にとれないかな」
「誰か行きなよ」
耳に入ってくるのは、怒りの声ではなく俺の噂。いやー、なんつーか俺ってば人気者だな。まさに学園のアイドルって感じ?
「あれが有利って奴?」
「女受け狙ってキャラつくってるだけだろ」
男からの評判は相変わらず最悪だなおい。
「あの、よかったら写真一緒に撮ってもらってもいいですか?」
意を決したように、二人組の女の子が声をかけてくる。多分、先輩かな。
「いいですよー」
待ってましたと言わんばかりに頷き、その女の子達と一緒に写真を撮る。
「ありがとうございます」
嬉しそうに俺との写真のデータが入ったデジカメを、大事そうに胸にあててお礼をいう女の子。
おのれデジカメ……羨ましいぞ。俺と代われよそのポジション。
俺もパフパフされたいぞ。
「いえいえ、あ、写真今度くださいね」
俺はできるだけ自然な笑みでそう返す。
どうよこの神対応。人気者はやっぱりファンサービスも充実させてあげなきゃだろ。
「はい、今度持っていきます」
嬉しそうにそう言うと、女の子はデジカメを抱えたまま、もといた所へ戻っていく。
今度持っていきますって、会いに行く口実まで作るとは……ちゃっかりしてんな。
「あの、私たちともお願いします」
「私たちも」
「よかったらボクたちとも撮らないかい?」
「私たちともお願いします」
一組と一緒に撮ったのを皮切りに、自分も自分もと人が雪崩のように押し寄せてくる。
「え? あの、ちょっ……龍之介! 助けて!」
人の波に翻弄され、たまらず龍之介に助けを求める。
「おう、頑張れ」
しかし龍之介はこちらを一瞥すると、一言そう言い再び競技の方に目を向ける。
こいつ! 速攻で見捨てやがった!
「あ、ちょ、押さないでもらっ」
最後まで言い切る前に、人混みに埋もれてそれどころではなくなる。
龍之介がダメなら奏ちゃんヘルプミー。
「いけー圭! 西條麗奈をぶっつぶせ! よし、そこだ右! ガードあがってボディがら空きだよ!」
あー、ダメだ。応援に夢中で気づいてない……あれ、これとにた状況前にもあった気がするな。
って現実逃避してる場合じゃなく、この騒ぎをなんとかしてくれ……おい誰だ、どさくさに紛れて俺の尻やら、あまり鍛えられていない胸板をまさぐってる奴は。
「そこまでにしてもらおうか!」
突然、どこからかそんな声がかかる。
「あ、あれは……」
「まさか伝説の」
その一声により、騒ぎは一気に静まり
「我ら!」
「空条有利!」
「ファンクラブ!」
「四天王!」
そう言いながら現れる四人組の女子。
えっ……このタイミングで新キャラ!? っていうかファンクラブ四天王ってなに!?
「あなたたち、写真を撮るときはルールを守って楽しく撮影! が基本よ」
一眼レフのカメラを首に下げた、少し地味な女子が先ほどまで騒いでいた生徒達にそう言う。
しかし、そんなルールを守って楽しくデュエル! みたいなノリで言わんでも……。
「あれは、有利君の写真を撮ることだけにすべてを捧げた、ファンクラブ四天王の一人、東さつこ(あずまさつこ)」
「その撮影の手腕から、東さつこの撮った有利くんの写真は高値で取引されているという……とりわけ、生着替えの写真は末端価格で万は軽く越えるとか越えないとか」
ん? なんだ? なにをボソボソと話してるんだ?
「有利様が困っておいでです、速やかに一列に並びましょう」
優しそうな雰囲気をもった、まるで女神のように慈愛に満ちた笑みを浮かべている女性がそういう。
「あれは、有利君の私物が盗まれた時、本人にバレないようにこっそり補充しているという噂の、蓬周子」
「でも、噂によれば自分で用意したものと有利くんの私物を入れ換え、有利くんの使用した私物はファンクラブ間で開かれる闇オークションで高値で取引されているとか」
さっきから、なにを言っているんだろう。
「有利様、困らせる、私、許さない」
かなり筋肉質な女性が、指の間接をならせながらそう言う。
こう言っちゃ失礼だが、一瞬ゴリラが動物園から抜け出してきたのかと思ったぜ。
そして何故に片言?
「ミシェル・アマゾネス……どこの国かは知らないけれど、どこかの国からの留学生で、有利君に下心を持って近づこうとする輩を片っ端から力でねじ伏せるらしいよ」
「けど、その見た目とは裏腹に彼と親しい人には決して手を出さないという、淑女さを兼ね備えていることから、有利くんに近づく為の第一の壁として有名な、あのミシェル・アマゾネスよ」
さっきから何をブツブツ言ってるんだ……すげー気になる。
「さあ、整理券を用意した、これを受け取って順にならびたまえ」
たしか……これ、あれだよな、俺のファンクラブだよな。
なんで男がいるんだ? いや、本当……なんで? ホモなの?
「あ、あれは、西條当麻先輩……男が好きって噂は本当だったのね」
ホモかよっ!
「はじめまして、空条有利君。僕の名前は西條当麻、君のファンクラブのNo.2さ」
微笑みを浮かべながら、俺の所へ歩いてくる西條当麻先輩。
おい待てこっち来んな。
「すまない、少し怖い目に合わせてしまったね。いや、しかしそれまた……っとすまない、欲望が体の端から滲み出てしまったようだ」
そう言いながら、口元を拭う西條当麻先輩。
俺は現在進行形で、身の毛もよだつような思いをしているところです。あなたのお陰で。
「いえ、お構い無く……あ、それより応援しなきゃなー」
俺はその場から逃げるために、白々しくそう言って自分のテントに戻ろうとする。
悪いが俺はノーマルなんで、そっちの趣味に付き合う気はないんで。
別に同性愛を否定するわけじゃないっすよ? いいんじゃないっすか同性愛。ただ俺は遠慮します。というわけでさようなら。
「おっと待ちたまえどこへ行く? ここには君のファンが大勢居るのだ、少しくらい付き合って貰えないだろうか? 大丈夫、少しだけ、少しだけだから」
「……凄い信用できない」
「はは、勘違いしないでくれ、僕はホモではなく可愛い男の子が好きなだけさ」
……いや、それはもう、そういう意味にしか聞こえないんですけど。
「いや、これでは誤解が解けないな……そう、可愛いは正義という言葉があるだろう? 僕は可愛いものが大好きなのさ」
ああ、そういえば前の世界でも女子が『○○ちゃん可愛いー、もう本当に天使』って話をしてたし、この世界の男は多少そういうところはあるのか?
「とりわけ、君は僕が会った男の子の中でも一番可愛い、それこそもう……おっと、想像するだけで興奮してきた」
あ、ちげぇ、コイツはただのホモだ。そして変態だ。よし、関わらないようにしよう。
「あの、有利くん……そろそろ写真を」
「あ、そうですね」
おずおずとカメラを持ってそう話しかけてきた女の子に、笑顔で頷き一緒に写真に写る。
あの変態は放っておいて、今は可愛い子と写真を撮れるってことを楽しもう。
撮る方のお願いをな。




