この世界の男は、キャーこの人痴漢よー! って言うのかな?
この間さ、定食屋で夕食を食べて手を洗っていた時に、ちょうどK君がトイレ来たんだ。
そこのトイレは女用と男女兼用で別れててさ、女用に『姫』って書いてあって、男女兼用の方に『姫殿』って書いてあったんだ。
K君は『姫殿』って文字をみたときに何を思ったのか「男の娘用か……じゃあ、俺は使えないな」と呟いて引き返したから
「いや、姫殿下はアルスラーンだろ」ってツッコミをいれたけど
「あ、ヤバイ生地が足りない!」
休日、部対抗リレーで使う衣装を作るために、部室でミシンを使って作業している時にそう叫ぶ坂本先輩。
「一年生、すまないがちょっと手が離せないから代わりに買ってきてくれないか?」
俺の採寸をして、それを用紙に記入していた近藤先輩がそう言う。
「はいはーい」
俺はそう返事をする。
二年生の裁縫スキルはかなり熟練されている。一見、大雑把そうな坂本先輩が細かい作業を丁寧にやっているのには驚いた。
一方、俺や奏ちゃんは裁縫はボタンつけ位しかできないので、殆ど役に立てない。それこそ、モデルか雑用位しかやれることがないため、買い出しは断れない。
「ありがとうね、お金はこの封筒に入ってるの使って、どんな布買うかはこの
メモに書いてあるけど、わからなかったら写メって送ってきて」
城之内先輩は、そう言いながらメモ用紙に必要な布の色を記入していく。
「了解しました」
奏ちゃんはそう言って、城之内先輩からメモ用紙と封筒を受けとる。
「行こうか有利くん」
封筒とメモ用紙をリュックに入れると、そう言う奏ちゃん。
布の買い出しには、電車で隣街のデパートまで行かなくてはならないので、自転車で駅まで向かい、その後電車に乗り込むのだが。
休日の昼間だからか、休日の昼間だというのに……どう言えばいいのかわからないが、電車内の人口密度は高く全車両満員電車となっていた。
暑苦しいので、できればこういう人混みは避けたかったので、できるだけ人が少ない車両に乗ろうと車両のざっと見渡すと、男性専用車両と書かれた車両は、他と比べると比較的空いているようだったが、「ここが一番暑苦しそうだ
」と思ったので、大人しく普通の車両に乗り込んだ。
そして電車の扉が閉まり、隣街に向かい始めてすぐに尻に違和感を覚えた。
まったく、誰だね俺のおケツを触っているのは……まぁ、満員電車だし多少当たる位は仕方ないか。
……いや、違うな、がっつり揉んでるな。
これはあれだな……痴姦だ。
まったく、俺がいくら女の子が大好きだって言ってもね、勝手に人のおしりを触ってくるなんて、けしからんもっとやれ。
全身くまなくそれなりに鍛えてるから、俺のおケツのさわり心地は一級品さ。はっ、お金とれるんじゃね? 五千円で……いや、言い過ぎか、五百円位なら行けるかな?
って、それ売春っ!
って言ってる場合じゃない……この状況をなんとかせねば。
正直、一方的におしりだけを触られるっていうのはあまりいい気はしない。だって、おしりしか触ってもないんだもの。もっとこう、全身を使って包み込むような……せめて、オプションとしてオッパイを押し付けてくれるくらいはしてもらわないと。
俺のおケツはそんなに安くないんだよ。さっき五百円って言っちゃったけど。
そんな事を考えていると、女性の手が前へと回って来て俺のベルトへと手をかける。
流石にそれはダメだと思い、俺はベルトのバックルに手を置き、ベルトをはずされないようにする。
公然猥褻罪なんかで捕まりたくはないもんね。
公共の場では脱がないぜ。
脱がせられるものなら脱がせてみろ!
……ばっ! おまっ! チャックを下ろそうとするんじゃねぇよ! それはやっちゃダメだから!?
ベルトを諦めたかと思えば、すぐにその下に手を持っていきチャックを下ろそうとするのでそっちも必死にガードする。
端からみれば両手で股間を押さえている変な人に見えるだろうが、この際やむを得まい。
まあ、その気になれば「この人痴姦です」と腕を掴んで上に引っ張り挙げるくらいはできる。
駄菓子菓子! それしちゃうと、いろいろ面倒になる。この人を駅員に引き渡して、事情を話して、警察来るのを待たなきゃいけない。
先輩達も待っているし、奏ちゃんにも迷惑がかかるのでそれはしたくない。なにより俺が面倒くさい。
というか、あれだぜ? 痴漢されてるって大声で言うとだな、電車が駅で止まるから、ツイッターとかで、痴姦くらいでいちいち電車止めさせんな世とか心ないことを言われたりするんだぜ?
酷い話だよな、勇気を出して言ったのに逆に責められるなんてさ、周りに合わせるという日本の悪い所だよ。
もっと自分を出していくべきだよな。なのでここは我慢「何してるんですか?」
俺の斜め後ろから、よく知った声が聞こえてきた。
俺に話しかけられたのかと思ったが、どうやら俺のズボンを脱がそうとしている女性に声をかけたようだ。
「な、なんでしょう?」
「この手は、何ですか?」
動揺する女性の腕を掴んで、そう言う奏ちゃん。
女性のてはガッツリと俺のベルトを掴み、チャックに指をかけていた。
言い逃れは出来ないだろう。僕の勝ちだニアって勝利宣言したのに誰も死ななかった時のライト並みに無理な状況だ。
しかし奏ちゃん、まるで主人公の登場みたいだな。なんならそのままスーパーヒーローの着地でもする?
冗談だ。
「ありがとう奏ちゃん」
俺は奏ちゃんの方を振り返りながらそう言う。
そのままその人を穏便に返してくれれば、それで万事解け「次の駅で降りてくださいね」
女性の腕を掴んだままそう言う奏ちゃん。
あー、面倒な方向に持っていっちゃったか……。
ツイッターが荒れるわ。
冷静になって考えたら、俺のツッコミが一番謎だな。
携帯な、機種変したよ。
新しいのが届くのに二週間かかるって言われたけど、流石に二週間は待てなかった。
連絡とれないのは死活問題だからな。




