旅は道連れ……世はなさけ……
自販機にジュースを買いに行ったはいいけど、何故か家に帰ったら財布だけ持ってた。
「よし、揃ったな……それじゃあホテルに向かうよー」
そう言って、スクールバスの運転席に座る顧問の先生。
学校が終わり放課後になると、部室に集合して必要な荷物を纏めるとスクールバスで大会の開催される会場がある市に向かう。
明日から県総体だからな、前日の今日から現地入りするのだ……てか、先生バスの運転免許持ってたんだな。先生なのに。
「あ、奏ちゃん、隣座っていい?」
スクールバスに乗り込んだ俺は、先に席に座っている奏ちゃんに話しかける。他にも席は空いているが、折角の旅こ……もとい、総体なんだ。移動も楽しみたいじゃないか。
「あ、有利君。いいよー」
笑顔でそう言う奏ちゃん。
「楽しみだねー」
俺は奏ちゃんの隣に座りながらそう言う。
明日から県総体だな! 楽しみすぎて昨日の夜はなかなか寝付けなかったぜ。お陰で現在進行形で……すごく……眠……たい……。
奏side
「暇だな……城之内、なんか面白い事ない?」
「え? じゃあ、ピザって十回言ってよ美穂ちゃん」
「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
「ここは?」
「……ピザ?」
「んー、その発想はなかったかな」
「だろ?」
「バカなだけだろ」
「おいコラ近藤表でるか?」
「サンタさんに一度でいいから会ってみたいと思いません?」
「……毎日会ってるだろ?」
「……えっ」
「えっ」
「サンタさんは12月25日にしか来ないんですよ?」
「いや、そうだが……サンタは親だろう?」
「えっ」
「……えっ」
「一ノ瀬さん、サンタさんは本当に居るんですよ? 毎年プレゼントをくれるんですから」
「……えっ? いや、だからそれをしてるのは親だぞ?」
「……えっ」
「……えっ」
なにこの『英会話』ならぬ『えっ会話』? うん、今のは座布団一枚かな。
県総体の前日、顧問の運転するスクールバスで会場近くのホテルに向かう水泳部。その車内では、学年毎に様々な会話が広げられているんですけど ……私には会話をするような余裕はない。なぜなら……。
「すー……すー……」
有利君が私の肩に寄りかかって熟睡しているこの状況。本当に最高です……神様ありがとう。
この肩に感じる柔らかくもしっかりとした体の感触、至近距離にある髪からただよう甘い香り……そして、何よりもどんな疲れでも一瞬にして吹き飛ぶような天使の寝顔。天使だ。結婚したい。
ああ……この時が永遠に止まればいいのに。
「よし、着いたよ。チェックインして荷物置いたら晩飯行くから。ちなみに先生の奢りだぜぃ」
……ああ、短い至福だった。
しかたない、少し……いや、かなり残念だけど有利君を起こすかな
「有利君、有利君、着いたよー」
私は有利君の肩に手を置いて、寝ている有利君を起こす。
「んあ? ……あっ! ご、ゴメン! いつの間にか寝てたみたいで……いや、その、ていうか邪魔じゃなかったか?」
目が覚めると私に寄りかかって居たことに気付き、慌てて顔を真っ赤にしてそう言う有利君。
ヤバイ可愛い。死ぬ。悶え死ぬ。
「大丈夫、むしろこちらこそありがとう」
「え?」
私がそう言うと、キョトンとした表情で首をかしげる有利君。
「いや、なんでもない」
危ない危ない。危うく有利君の感触と匂いを全身全霊を以て堪能していたとバレるところだった。
「……そうか、あ、早く降りないとな」
そう言って、有利君は荷物を以てスクールバスを降りる。
ホテルにチェックインした後、各自が止まる部屋の鍵を渡される。
三年はツインの部屋で、二年はツインとシングルの部屋、私と有利君は二人ともシングルの部屋だ。女子は全員同じ階だったが、有利君はふたつ上の階だった。
「じゃあ、荷物を置いたらここに集合してねー」
顧問がそう言うと、 皆、自分の荷物を部屋に持って行き再びロビーに戻ってきた。 全員が戻ってきたのを確認すると、 顧問は全員を連れてとあるレストランに向かう。
「ここ、先生の馴染みがやってる店なんですよ。なので、毎年必ず来るんです」
月島先輩が私と有利君にこっそりと教えてくれる。なるほど、そうだったんだ。
「今年も来たぞー」
店に入るとそう言う顧問。
「いらっしゃい、先週振りだな って、男の子がいるじゃん! 珍しいのな」
中から、エプロンを身につけた男性が出てくる。って先生……先週も来てたんですね。もしかして常連客なのかな?
「どうも、空条有利君です」
軽く頭を下げて挨拶をする有利君。
「あ、僕はこの店のオーナー兼シェフの戸村航と申します。あ、席に案内します」
そう言って、席へと案内する航さん。
「にしても毎年総体前に、うちに部員みんなを連れて来るなんて優しいな、流石先生だ。しかも全部自腹で奢りだなんてね」
「ま、まぁね」
航さんに褒められ、少し上機嫌に答える先生。
もしかして、この男の人に良いところを見せたいから、私たちを連れて来てるんじゃ……というか、常連客だし、この人を狙ってるよね。
「あ、その顔……奏さん気付いたっぽいですね」
月島先輩がニヤリと笑みを浮かべてそう言う。
なるほど……私の勘は当たりらしい。是非ともその恋が成就することを祈ろう。
うちの顧問男だけどさ……あ、嘘だよ。普通に女だよ。
ご飯はたいそう美味しかった
奏sideend
やべえ、ジュース自販機に起きっぱなしだ。ちょっと取ってくる。




