あべこべだから、主人公は立ち位置的にはヒロインになるのかな?
「部屋からラップ音が聞こえるんだけど……」
「HEY YO YO YO!!」
「いや、そっちのラップじゃねーよ」
「え? 妖怪がラップ対決してるんじゃないの?」
「どうしてそうなった」
フリーフォールにバンジージャンプと恐怖を売りにしているだけあって、様々な絶叫アトラクションがあり、俺達はフリーパスの優先的にアトラクションで遊べる権利を使って、片っ端から制覇していった。
「バンジージャンプってはじめてやったけど、面白いな」
バンジージャンプを初めて体験した俺は、そう言いながら歩く。
あれスッゲー楽しいな。機会があればまたやりたいな。
「有利君初めてだったの? 後ろ向きに跳んだからてっきり慣れてるのかと……」
「だって、そっちの方がスリルあるじゃん」
正直前から飛ぶのが怖かったから、後ろ向いて跳んだだけなんだけど……まぁ、そっちの方がよっぽど怖かったけど。
「お化け屋敷の時とはえれぇ違いだな……あんなにビビりまくってたのによ」
「うるせーよ」
バンジージャンプは覚悟を決めれば一瞬だけど、お化け屋敷はずっと恐怖が続くじゃねーかよ。しかも、どこから襲ってくるかわからねーしよ。
「喉乾いたな、俺ちょっとなんか買ってくるわ……皆何がいい?」
かなり遊んで、喉が乾いた俺は皆にそう聞く。
「俺はなんでもいい」
「アタシは別にいらないかな」
「私も喉は渇いてはいないな」
そう言う来栖さんと麗奈さん。
「あ、私も一緒に行こうか?」
「ん、一人でいいよ。奏ちゃんは何がいい?」
奏ちゃんが手伝いを申し出てくれるが、一人で足りるので大丈夫だと断る。
「……えっと、じゃあ、オレンジジュースとかでいいよ」
「オッケー、買ってくるよ」
俺はそう言って、売店に向かう。
「近くにはないか……少し遠いな」
辺りを見回して売店がないか探したが、近くにはなかった為、地図を開いて一番近い売店に向かう。
「すいません、オレンジジュース三つお願いします」
売店まで来た俺は、売り子のお兄さんにそう言う。
「600円になります」
俺はお金を渡して、ストローの刺さった、プラスチック製の蓋付きのコップに入ったオレンジジュースを受けとる。
「えーと、こっちだっけ?」
記憶を頼りに、来た道を引き返しながらそう呟く。
「ねえ君、一人?」
「可愛いね、高校生?」
「私達と遊ばない?」
少し歩くと、数人の女性が俺に話しかけてくる。
んお? なんだ、ナンパか? よいぞよいぞ。
しかし、タイミングが悪い。
今は一人で遊びに来てるんじゃなく、皆を待たせてるからな……悪いけど、付き合えない。
街中で一人の時なら別だけどさ。
「すいません、ちょっと連れがいるので」
俺はそう言って、その女性達の脇を抜けようとする。
「えー? いいじゃん、アタシらと遊ぼうよ」
「そっちの方が絶対に楽しいからさ」
しかし、そう簡単には逃がしてもらえず、行く手を遮られた上に周囲を取り囲まれてしまう。
参ったな……どうしようか。ナンパされたことないから、どう対処していいかわからん。
漫画とかだと、ナンパされた時ってヒロインはどうやって対処してたっけ?
…………ダメだ、あいつら全員主人公に助けてもらってやがる。参考にならねぇわ。
「えーっと……友達を待たせてるので、通して貰えませんか?」
俺は女性にそう言って横を通り抜けようとする。
「そんな事言わずにさ、いいじゃない少しくらい」
しかし女性は、俺の行く手を遮り、さらには俺の肩に腕を回してくる。
……逃げれぬ。どないしましょ。
いやね、俺もお姉さんと遊びたいですよ。美人さんですしね。
けど、今は友達と遊びに来てるんで、そっちを優先させてもらえませんでしょうかね?
「えっと、また今度にしてもらえませんか?」
それなら俺も遊べるからさ。
「えー? じゃあ連絡先教えてよ」
携帯を取り出してそう言う女性。
やっぱ、そうなるか……。
あんまり個人情報は教えたくないんだが……教えなきゃ解放してくれなさそうだな。
しゃーない、LIMEのIDだけ教えるか。
俺は少し考えてそう決めると、ジュースを片手で抱えるようにして持ち、ポケットから携帯を取り出す。
「LIMEでいいですか?」
「オッケーオッケー、全然いいよ」
そう言いながら、LIMEの画面を開く女性。
「有利君!」
「……ん、奏ちゃん」
俺も携帯のロックを解除して、LIME のアプリを開こうとしたとき、奏ちゃんの声が聞こえたので、顔をあげて声のした方向に目を向けると、奏ちゃんが走ってくるのが見えた。
「あの! 私達、友達とまわってるので、そういうのはやめてもらっていいですか?」
奏ちゃんは走ってくると、そのまま女性と俺の間に割り込んでそう言う。
……なんか、こういう展開よく漫画とかで見るんだけど、立ち位置逆じゃないっすか?
奏さん、俺の位置ヒロインポジなんだけど、俺はヒロインじゃなくて主人公なんだけど。
「はぁ?」
「いいじゃん、その子ちょっと貸してよ」
女性が、突然割って入ってきた奏ちゃんに苛立ちを覚え、詰め寄りながらそう言う。
「無理です!」
しかし、奏ちゃんはそれに動じずキッパリとそう言う。
「アタシらもさ、暴力とか嫌いなんだよね~」
そう言いながら、奏ちゃんの肩を掴む女性。
おいおい、待てよ。こんなところで喧嘩でもするつもりか? バカなのか?
「へぇ、奇遇だな、アタシも暴力とかそう言うの嫌いなんだよね」
突然、後ろから女性の肩を組んで、威圧するようにそう言う来栖さん。
来栖さんも来てたんだな。
つか、迫力すげぇ……俺に向けられてる訳じゃないけど、めっちゃ怖いっす。
「ほ、ほんとそうだよね~。暴力とかこの世から消えてなくなればいいのにね~」
「そ、それなー」
来栖さんのその鋭い眼光と、迫力に気圧されたのか、女性は作り笑いを浮かべながらそう言う。
「ご、ごめんねー。友達と遊んでたのに邪魔しちゃって」
「ま、またねー」
そして、作り笑いを浮かべたまま、逃げるように去っていく女性達。
睨みだけで退治するなんて……来栖さんすげえ……。流石ですわ来栖様。
「有利君、大丈夫だった!?」
ナンパしてきた女性達が居なくなると、奏ちゃんがすごい勢いでそう聞いてくる。
「ああ、大丈夫」
俺はなにもされてないからな。
「そっか、よかったー……絡まれてたから危ないと思って」
「まぁ、危なくはなかったと思うけど……というか、なんでここに?」
俺はどうして奏ちゃんがこんなところにいるのか尋ねる。
「なかなか帰ってこないから、ちょっと心配して、それで探してたんだ」
「そうだったんだ。おかげで助かったよ、ありがとう」
わざわざ探しに来てくれるなんて、ええ子やでホンマ。
「いいよ。それより、有利君がなんともなくてよかったよ」
ほっと胸を撫で下ろして、微笑みながらそう言う奏ちゃん。
くっ……可愛い過ぎるだろっ! その笑顔!
「そろそろ戻ろうぜ。他の二人も待ってる」
携帯をいじりながらそう言う来栖さん。多分龍之介か麗奈さんに連絡してるんだろう。
「そうだな」
俺はそう返事を返す。
「私は目玉オヤジだYO」
「そんなオヤジいやだ」




