転生した勇者の出逢い
この俺、喜一改めハルードは7歳になっていた。この年になると、自由な時間が増えた。母であるエルザールは俺に一人の自由時間を与えることには反対だったのだが、父が「男は一人で遊んで危険な目にあって、怪我をするくらいがちょうどいい」と、言ったことで自由時間が与えられた。
そこで、俺は毎日近所の森で魔術の練習をしていた。そして、全盛期の4分の1程度の力まで使えるようになった。これは、当時の魔王軍下級将校に匹敵する強さで今の時点で魔族の中でも高位な力を持っているのだがそれを知っているのは俺だけだ。
ある日の朝、いつものように魔術の練習をしていたら気配を感じた。誰かに見られているのだ。最初は父か母に気ずかれたかと思ったが、その割には気配の消し方が下手すぎる。父は魔王側近の第3席であるフリュードラーク・バートンだ、この程度の隠密スキルではない。母も仮にも魔王側近の妻、もう少しマシな気配の消し方ができる。
それに両親だったらわざわざ気配を消す必要もない。
では、誰か?
「おい、いるんだろ?出てこいよ」
そう言った俺に応じて出てきたのは俺と同じくらいの女の子だった。
「おいおい、ダメじゃないか。君みたいな小さい子が一人で出歩いては」
そう言った俺に対して少女は不貞腐れたように言い返してきた。
「貴方だって同じくらいですよね?なぜ貴方が良くて私がダメなんですか?」
「それは……俺なら自分の身は自分で守れるからだ!」
そう言い返しながら感心した。相手は5歳くらいの女の子だ。魔族はあまり教育には気を使わないので敬語を使えない者が多い。流石に軍に入れば叩き込まれるが、それ以外では貴族くらいしか、敬語は使えない。
つまりこの子は貴族ということだ。
「わ、私だって、自分の身は自分で守れます!」
少女はそう言い返してきた。
「いや、ダメだな。せめて戦闘系のスキルが2以上じゃないと森に入るのは危険だよ。弱いとはいえ魔物も出るし……」と、注意したのだが、
「え?2って言いました?2でいいんですか?」
と返された。
まぁ、ガキが見栄を張っているのだろう。5歳で戦闘系のスキル2以上は普通はいない。
ところが、
「……私使えますよ。火と風と闇の魔術が」と、言われてしまった。
「いくつまで使えるんだ?」
俺は恐る恐る聞いた。
「火と風が2までで……」
良かった、流石に2までのようだ。まぁ、ガキが2以上を3つというのも十分異常なのだが、戦闘民族の魔族で貴族ならありえるのかもな。きっと、武の名門貴族だろう。
しかし、少女の言葉は終わっていなかった。
「闇が7までです。」
そうか……闇が7まで、きっと得意属性なんだろうな…………ん?7?それって、宮廷魔術師並みじゃねぇか!
「あと、闇属性の固有魔術も使えます!」
その言葉は俺の常識に止めを刺した。このガキが固有魔術だと……固有魔術というのは一流の魔術士が既存の魔術の術式をいじり自分専用にしたものだ。
それは、とんでもなく強いものとてつもなく使えないものなど性能は作る人によって、千差万別だったがそれを持っている時点で凄い。
ちなみに俺の今のステータスは、火の魔術と剣術が7でその他のスキルは3、光属性だけは魔術も剣術も1のままだ。やはり、魔族の身体と相性が悪いのだろう。
「ねぇ、貴方は名前何て言うんですか?」
少女に訪ねられた。
「僕はハルード・バートン。ハルって呼んでくれるかな?君は?」
「バートン……そう、生き残った側近様のご子息なんですね。
私はレティシア・レイヴンといいます」
そう言った少女は少し寂しげだった。
そして、レイヴンっという名はどこかで聞いたことがあるような気がした……
「やはり、分かりませんか。側近様のご子息なら分かるかと思ったのですが、父上の事など誰も覚えていないのですね。」
「ごめん、君の家は武家なのかな?」
「元は平民でしたが、父が一代で貴族に成り上がったのです。力をもって、魔王様の側近にまで上り詰めて……」
そこで、思い出した。
「……もしや、元魔王側近末席のクルートリヒ・レイヴン様のご息女か?」
「父上を知っているんですか⁉」
それは……クルートリヒ・レイヴンは俺が女神の加護を受けて最初に倒した最上位魔族だった……