戦の鬼vs暗殺者2
ガトーの本来利き手では無い左腕が次々に王国兵は屍と化していく。王国の弱兵から精鋭までが有象無象のように葬り去られていく。
「何と言うことだ、なぜ我々がおされている。おい、貴様。敵兵に毒をもったのでは無いのか?精鋭は撃破したのではないのか?なぜ、我々が負け出したのだ?」
王国軍の将軍が喚く、そして問い詰められているのは黒き青年だった。
黒のローブに身を包み、その瞳は冷たく深い。
(…………まさか、あいつが出てくるとはな)
「申し訳ない、今からあの男を殲滅してこよう」
黒き青年の声は暗く、何をかんがえているのかを悟らせない。
「貴様がやれるのか?何者かは知らんが見ている限り相当に強いぞ」
「問題は無い、奴がいくら強かろうがたった一人。俺だってすでに人間を止めているんでな」
その青年の言葉を聞いて将軍は唾を飛ばし、汚ならしい高笑いをする。
「ガハハハ、そうだなお前の価値は戦うことにあるものな~!!
人権の無い貴様は使いやすい駒だよ」
将軍の酷い罵倒に対して青年は顔をしかめる訳でもなく、文句を言うわけでもなく、ただただ無表情だ。
「更にお前は強い!流石はあの化け物と同じ異界人だな!ガハハハ」
そこで青年は初めて表情を歪ませた。この男は友を笑い、化け物と罵ったのだ。
「なんだ、その顔は?文句でもあるのか?本来は処刑すべき、異界人の貴様を生かしてやってるのだぞ?」
青年は立ちあがり、ピクリと腕を動かした。否、腕を動かしただけに見えた。しかし、達人が見れば青年が一瞬のうちに懐のナイフを取りだし、将軍を切りつけたところが見えただろう。
直後、将軍は倒れた。
「貴様らの中にいるといろいろな情報が入ってくる。だから日本に帰れるまでは力を貸すが仲間じゃなければ貴様らの奴隷でもない。俺のことをなんと言おうが構わない、だがあいつのことを、喜一のことをバカにするならその場で殺す」
そう呟き、青年は…………異世界、日本より勇者召喚に巻き込まれて召喚された男、自分の出来ることを探して最強の暗殺者となった男、ジュンヤ・セキグチは戦場へと消え去っていった。
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次々と王国兵を薙ぎ倒していくガトーだったが、ふと強者の覇気を感じて手を止める。
「何者だ!!その覇気、ただ者ではないだろう!出てこい」
戦場にガトーの怒号が響き渡る。そして、とうとうその者は姿を表した。
「フフフフ、すごいね君は。気配を消していたのだけど気付かれてしまったよ」
現れたのは黒のローブに身を包んだ青年だった。
「よく言うな!貴様は全力で気配を消していなかった。そして、わずかな殺気に俺が反応できるか試したのだろう!?」
青年は笑って答える。
「そこまでお見通しかい?やるねぇ。僕は暗殺者ジュンヤ・セキグチ」
ジュンヤの名乗りにガトーも答える。
「帝国戦士団元団長ガトー・フェルゼン。そこらの弱兵はともかく左腕だけで貴様のような強者に勝てると思うほど希望的観測はしていない、だが刺し違えてでもここで止める」
ガトーのかっこいい名乗りに対してジュンヤは
「面白いね君は。あの中には王国の精鋭もいたと言うのにそれを弱兵扱いかい?あと、せっかくかっこよく決まったとこ悪いんだけど今、君と争う気は無いよ」
「全軍、撤退だ」
ジュンヤの一言に全軍渋々従うが一人、歯向かうものがいた。
「貴様、異世界の人間のくせに指揮官ずらして何様のつもりじゃ?大体な、撤退は将軍の許可がいるはずじゃ」
ジュンヤに歯向かうのは、否、歯向かえるのはこの場においてこの男ただ一人、大魔導士バース。
ほとんどの兵がバースと同じことを思っているが実力的に従っていたのだ。
「将軍殿は流れ矢に当たって死んだ」
戦争で戦っていた帝国兵はレティシアとガトーのみ、矢など飛んでくるわけは無い、無いのだが。
「なに⁉将軍が戦死?だが、なぜ貴様が軍を仕切る?これから先は儂がこの軍を仕切る!」
そう、叫んだバースだったが、
「なら、君はあの男に勝てるのかい?」
その殺気のこもった一言でバースは仕方ないというふうに撤退命令を出す。
ジュンヤほどになると会話の中の殺気や口調で相手を自分が有利な方へ誘導できる。
さっきの矢の件もその方法で信じ込ませたのだ。
かくして、これが王国の暗殺者ジュンヤ・セキグチと戦の鬼ガトー・フェルゼンの最初の出会いである。