産み落とされた魔族『ハルード』
目を覚ますとそこは薄暗い家のなかだった。
(ここは……そうか、俺は魔族へ転生したんだったな。)
俺は、ここがそれなりの階級の魔族の家だと判断した。
理由は2つ。
1つ目はさっきから巡回しているメイド服の魔族と魔王軍正式戦闘服の魔族。
魔族は割と人間に近い暮らしをしている。
メイドを雇えるということはある程度は裕福な者に限られてくる。
さらに、魔王軍の軍人が警備に当たっていると言うことは魔王軍の幹部と言うことも考えられる。
2つ目は家の内装。
さすがに魔王城に劣るとはいえ、かつて魔王と戦い、魔神を封印した、かの城によく似た内装になっている。
よって、ここはそれなりの家だと言うことだ。
(もしかすると俺の父親は面識のある奴かもな。
な~んて)
それはそうと目が覚めてから探したいるのだが、両親の姿が見あたらない。
(しゃーない、呼んでみるか。)
「あーウ、あ~あん、アイー」
声を出そうとするのだが思ったとおりしゃべれない。
(しまった、今の俺は赤ん坊だったのを忘れてた。)
だけどこれじゃあ意志疎通が測れない、あいつらが今どうなっているのかは愚か、今が何年なのか、世界がどう変わったかも分からない。
考えても解決策が浮かばないので俺は思考を放棄して再び深い眠りに落ちて行った。
■
西のウィズタム帝国の戦士長室で一人の女性がため息をついた。
その女性は美しく整った顔立ちに、ポニーテールでまとめたブロンドの髪、豊満な胸周り、全身にしなやかにつけられた筋肉、これらを持ちながら纏うオーラは歴戦のそれであった。
「おーい、どうしたんだため息なぞつきおって。
せっかくのかわいい顔が台無しじゃよ、レティシアらしくもない。」
そう言うのはウィズタム帝国副戦士団長ガル・フィードだった。
彼は3世代前の戦士長の頃から副戦士団長を務め、幾度の戦場を駆けて来た歴戦の戦士である。
「あ、ガル爺。
聞いてよ、今さっき陛下から伝令があってさ~」
そのオーラや容姿に似合わぬかわいらしい声でウィズタム帝国戦士長レティシアはガルに愚痴をこぼす。
と言うのも、普段の公の場では毅然に振る舞っている彼女だが、兄の恩人であり、まだ未熟な自分を影から支えてくれるガルに対しては素の自分を出せるのだ。
「ほ~う、陛下からの~。
何か匂うな。して、内容は?」
「王国が戦闘準備を整えている。戦争に入る可能性があるので警戒せよ!!だって。」
ガルは訝しげな顔で暫し考え事をしたあと、不可解な点について語った。
「王国と帝国では、戦力差は歴然。王国が勝ちを見いだすとしたら勇者じゃが………王国がみずから勇者を処刑したのじゃ。勝ち目のない戦いをあの国がするかの?
いささかおかしくはないか?」
「まぁ勇者の仲間だった4人がいるじゃん。
全員、勇者と同じレベルの実力者なんでしょ。」
だが、彼は納得できない。彼は人魔戦争後の勇者の仲間達の模擬戦を見ているのだ。
さらに彼は先の戦争中、勇者を含めた彼らと共闘した経験もある。
「いや、確かに昔の奴らは勇者と同じレベルの者達だった。
だが、戦後の奴らは束の間の平和に安堵し、牙の抜けた獣だったよ。」
「そっか、じゃあいっそのこと陛下からの伝令が間違ってたのかもね!?」
そんな彼女の言葉にガルは静かに首を振った。
「今の皇帝陛下は稀代の賢帝じゃよ。陛下がそう言ったのなら戦争になることは避けられんじゃろ。」
レティシアはガルに多大な信を置いている。
それは、先々代の戦士長が戦死したとき次の戦士長は、ガルで確定だと座言われていた。
だがしかし、戦士長が戦死した戦いで初陣にして敵の7割の戦力を1人で無力化した人間離れした者がいた。
『ガトー・フェルゼン』……帝国史上最強の剣士であり初陣で戦士長に昇格した天才、そしてレティシアの実兄である。
自分が手に入れるはずだった地位を行きなり出てきた若造に取られても文句も言わずに彼は補佐を務めた。
そして兄が魔王の側近を討ち取った戦いで腕を持っていかれ戦えなくなった時に戦士長にと言われた時も、
「こんな老いぼれよりも若き才能だ」
と、戦士長の座をレティシアに譲った。彼をよく知っているからこそ、とても間違っているとは思えな。
「まぁ、何はともあれ気を付けるべきじゃ。」
レティシアは無言で頷き、退室する彼の背中を見ていた。
(…………ありがとう、ガル爺。)
■
目が覚めたら、今度は俺の前にめちゃくちゃ美人な魔族がいた。
その雰囲気は妖艶でとにかく美しいの一言につきる……そんな感じだった。
(これが俺のかーちゃんか、すんげー美人だなー、おい)
その魔族は言葉を発した。
「〆〇≦∞∴÷$*@§#」
おっと、魔族共通語か久々に聞いたぞ。
昔なんか覚えたんだよな~。
ちなみに、今のを翻訳すると
「あら~、ハル起きたのね。お腹空いた?
そろそろおっぱいあげなきゃね。」
と、なる。
そして俺は抱き抱えられ、母の胸元に近ずけられたので乳首をなめてやった。
「あっ、う~う。くすぐったいわ。ハルやめて。」
母がそう言ったのを聞いて俺は萌えた…………。
どうにか授乳を終えてまたどこかへ行ってしまった母を見て行かないでと、思ったがお腹いっぱいのせいだろうかまた眠気が襲って来た。
(こんな生活なら悪くないぜ。)
そんな、本来の目的とかけ離れた思考を最後に俺の意識は落ちて行った。