女神の加護
目の前に広がる世界、俺の前にいる1人の女性、この現象を俺の頭は理解できてない。
否、分かっている、分かっていても俺の記憶と結び付かない。
(えっと…何でこうなってるんだったけ?確か
俺は処刑されて、何もできずに死んで)
パニックになった俺は必死で記憶を掘り返す。そして思い出す。
そう、確かに俺は死んだのだ。ものすごく無様にカッコ悪く。
(何で此処にいるんだ? 俺は確かに死んだ。)
そんなことを考えていた俺に目の前の女性が話しかけてくる。
「お久しぶりですね!!ご機嫌いかがですか?青山喜一?」
幼い幼女のような無邪気なこえで話しかけられた俺は即答する。
「いいわけねーだろ!!」
(間違えない。そっくりさんかとも思ったが、この人、間違えなく女神だ。)
その、俺の返答を聞いた女性―女神は、ふんわりとした、回りを包み込むような優しい笑みをこぼした。
「そうでしたね。死んだのでしたね。」
やはり、女神の声には人を操る力でもあるのではないか。
女神の声を聞くと、自然に女神に従いたくなる。
「そんなことより女神様、何で俺が此処にいるのかお教え下さい。」
女神を押し倒してイロイロしたい気持ちを押し込め、一番の疑問を女神にぶつける。
「簡単なことです。私が呼び出したのですよ。」
女神は、何事もないことのように答えるが、俺にとっては疑問が増える一方だった。
「なぜ、そんなことをしたのですか?」
俺の問いに女神は、少し考えから悪戯な笑みを浮かべ、ふざけた調子で答えがかえって来た。
「理由がなかったら呼び出してはダメですか?」
答えた女神は、上目遣いでしばらく俺を見つめて来る。うん、やっぱり相変わらず女神は、可愛いな~。
「いえ、だめという訳ではありませんが、何かしら理由があるんですよね?」
そしてこの一声で女神の表情が一気に変わる…訳もなく相変わらず可愛らしい表情でこちらを見つめて来る、女神はそっと口を開いた。
「私が貴方に与えたものを覚えていますか。」
もちろん覚えている、忘れろと言われても忘れられないものをもらった。
「当然ですよ。女神の加護ですよね?」
女神の加護には助けられた。あの力がなければ、魔王討伐に少なくともあと5年は、かかった。
「ええ、そのとうりです。では、あれがどういったものか知っていましたか?」
当たり前の問いに俺は簡単に答える。
「もちろんですよ。全スキルのレベルをMAXにし、勇者の装備と光の魔法を与えてくださったのですよね。」
スキルには、レベルが存在する。
それぞれスキルは、レベル10まであるのだが、そのスキルのレベルがすべて一気に10に上がるなどというのはそれこそチートである。
想像して欲しい、料理スキルがあったとする。
レベル1が料理を覚えたての小さな少年であったとすると、レベル7はもう、超一流レストランの料理長の域である。
分かっただろうか? スキルのレベルを1あげるのには絶え間ない努力をひたすらにしなくてはならないのだ。
「いえ、私が貴方に与えた女神の加護とは、そんなものではありません。」
「えっ」
きっぱりと答えた女神の前に、俺はなんとも言えない間抜けな声を出していた。
「大体、スキルのレベルを上げたのは、もともと持っていたスキルを強化しただけですよ。」
謙遜なのか、素で言っているのかとんでもないことを女神は、言った。
「いいですか、女神の加護は、あなたのその先の人生に幸福を願うものなのです!!」
(今…なんつった)
女神の一声に頭がついていかなかった。
確かに俺は、女神の加護に助けられたのだ。
では、勇者の武器はなんだったのか? 魔族に対して絶対の威力を誇るあの剣は。
更には光魔法もだ、勇者固有の魔法とされ、歴代の勇者が扱ってきた、あの魔法は。
そんな俺の考えを読み取ったかのように女神は、言った。
「勇者の武器は、初代勇者が使っていた武器でした。彼は世界を救った後、私にこの武器を預け、願ったのです。『どうか、この先に俺と同じ境遇にある者が現れたらこの武器をその者に託して欲しい』っと。
そして私は、その願いを聞き入れ、歴代の勇者にこの武器を受け継がせて行ったのです。」
女神の言っている事は、辻褄があっている。
だが、俺には納得できない部分もいくつかあった。
「では、光魔法はなんだというのですか。あの強大な魔法は女神様の力としか思えません。」
そう、光魔法は神の力といえるほど強力なのだ。
「あれは、2代目勇者が生み出した物です。
歴代の勇者に受け継いでいってるのは、まぁ勇者の武器と同じ経緯です。」
俺は、ふと疑問に思う。辻褄が合わないのだ。
さっきまで完璧だった話の内容に、ずれが出ている。
「2代目勇者は勇者の武器を受け継いでいるはずです。 なぜ光魔法等という物を生み出したのですか?」
彼、もしくは彼女は、勇者の武器を受け継いでいるはずなのだ、あれがあれば光魔法等なくとも魔王は倒せたはず…なのになぜ光魔法をわざわざ生み出したのだろうか?
そんな疑問は、一瞬で解明する。
「それは、彼女に剣を扱う才能がなかったからです。」
なんとも単純な事だった。
言われてみれば、いかに勇者であれど人間である以上、得意や不得意は存在するのだ。…まぁ俺は両方使えたけどね。
では、女神の加護とはなんだったのか? 女神の言うとうりだとしても、俺はあの後の人生、幸せとはかけ離れていた。
そもそも、あんな死にかたはしないはすだ。
「では、女神様はあの人生が幸せだったと言うのですか? 仲間に裏切られ、国賊となり、最後に親友を信じられなかった、あんな人生が!!」
幸せなど、微塵も感じなかった。
あれで幸せなら、世界の人々は、皆、幸運の持ち主だ。
「そんなはずないでしょう? だから私は貴方を呼び出したのですよ。」
次の女神の一言は、思いもよらないものだった。
「私、世界の創造神たる1人、女神アニスは、世界の理に干渉し貴方にこの世界での2回目の生を与えます。 貴方の望むように。」
俺の望む、命を与えると言うのだ。
ここで俺は考えた、どうにかしてあの仲間どもに一泡吹かせてやりたい。
……………そうだ、魔族に転生してアイツ等に復讐しよう。俺の味わったもの以上の地獄を見せてやろう。
俺、勇者キイチ・アオヤマはこの日、復讐を誓った。
裏切られた元勇者の大復讐劇が始まる―。
週に2回程度の更新を目指しています。