中身は最終決戦だった。
残り五、六分です、とアナウンスが響く。
真が二人の近くに来るとちょうどにアナウンスがなっていた。
界は真に気が付くと、ルシュファーと一旦距離を取り乱れた呼吸を整える。
「後五分、界よ、そろそろ諦めたらどうだ?」
涼しい顔をしながらよく分からない立ち方をして提案するルシュファー
「誰がするか、そっちこそ疲れて来てないか?」
涼しい顔はしているが、ルシュファーの動きが鈍くなって来ていることに界は気が付いている。
ビクッと肩を揺らすルシュファーだったが、ポーズはそのままでごまかす。
「ばっ、そんなわけ無いし、むしろこっから本気出すし!!」
ニートみたいなことを言うルシュファー
「言ってろ堕天使が!!」
言葉と共にルシュファーに突っ込んで行きタッチしようと攻防が始まる。
「うっさい、ばーか、ばーか!」
何か反論しようとしたが、特に何も思い付かなかったためとりあえず罵倒するルシュファー。
「何でもいいから速くしないと死んじゃうよ?」
残り三分っての結構ネタがあるよね?
とアナウンスが響く。
攻防はそのまま続いたが、まったくの平行線状態で残り三分を切った。
ルシュファーの動きが鈍くなってきているのは確かだったが界の方も同じぐらい鈍くなっていて、やはり拮抗状態が続く。
「もう時間がないぞ? 貴様とは今日をさかいに会うことも無いだろうな!!」
負けフラグだった。
避けながらも喋る体力はありますよ。勿論です。
「くそっ!!」
しかし界にはツッコむ余裕は無く、空振りする手に舌打ちする。
「光の戦士ならここからだって! スペシウム光線は後二分待って!!」
と、適当に声援する真、まったく危機感がない。
「……貴様、本当にもう作がないのか? 」
攻防を続けているとルシュファーが低い声で界に聞いてくる。
「あ?」
いきなりのまじめトーンに思わず聞き返す界、しかし実際の所何か作戦があるわけでも無かった。
言い返せないでいると、ルシュファーは何かを諦める目をして。
「……ならばさっさと我が同胞を解放して去れば良い、そして二度と我の前に姿を見せるな」
諦める様に促す、先程とは違う、有無を言わせない迫力を秘めた重い言葉だった。
「……駄目だ!」
しかし、界はそれを拒否する。
「僕は、絶対にお前を捕まえる!」
そう言ってルシュファーに向かって行く、しかしそれを軽くいなすルシュファー
「このままだと無理だ、貴様もあの娘も死ぬ、力の無い者が、傲慢なことをするな」
避けた界の手首を掴み勢いを利用して界を引き前のめりにさせて体制を崩す。
そこから腹部に蹴りを入れようとするルシュファーだったが、界はそのまま崩れた勢いを使い手を地面に着けて前転して避ける。
体制を建て直してふたたびルシュファーに向かって手を伸ばす。
「……っつ!? 貴様!」
しかしその動作が異様に速かった、それに焦って飛び退くルシュファー。
「言ってなかったけどな、こっちもまだ本気じゃないんだよ」
界は手を止めること無くルシュファーに向かって行く。
先程までとは比べ物にならない、反応速度に敏捷、腕力、判断力が上がっていた。
そのまま防戦一方になるルシュファー。
魔力を使い身体を強化しているのは分かる、
だが、ここまで自分の身体能力を強化すれば身体にかかる負担は計り知れない。
「そんなことをして身体が保つのか?」
激痛が身体を走っているのは間違い無い、
しかしそこまでして何故必死になるのか、そう含んだ問をする。
「真がここまでやってくれたからな、僕が諦める訳には行かない」
意地なのだろう、真にここまでの苦労と貢献をさせて今更逃げ出すことが出来なくなっている、
それはただ傲慢で自分勝手の行いだ、
(だからこそ面白い!!)
「……ならば、見事捕まえて見せろ!!」
それが人である。
怠惰があるから壊れない。
嫉妬があるから努力する。
色欲があるから恋をする。
貪欲があるから発展する。
暴食があるから諦めが無い。
憤怒があるから優しくあれる。
傲慢があるから他人を導くことができる。
どれが無くなってもいけない。
それが人が人であるための罪
これが我らが愛する人なのだから
残り一分
「界よ、まさか自分だけが奥の手を持っているとは思って無いだろうな?」
界がじわじわとルシュファーを追い詰めているとルシュファーがにやりと笑う。
すると界の手を避けた瞬間にルシュファーは姿を消した。
「消えた!?」
慌ててルシュファーが避けた先に手を振るが手応えがない。
「フフフ、これぞ邪道!! 相手に攻撃的魔法を使わなければ良いのだろう? 甘かったな?」
近くから声が聞こえて来るが姿が見えない、発言から察するに姿を見えなくした様だった。
「馬鹿が、声で分かるだろ!」
そう言ってルシュファーの声が聞こえた方向に突っ込む界。
「貴様がな」
が、まったくの空振りで界の横っ腹に強い衝撃が襲って来た。
「がはっ!」
その勢いで真の近くまで吹っ飛ばされる。
あ~あと言いながら界の近くまで行く真。
助言でもするのかとも思ったが。
「馬鹿だねー、場所が分かっても動きも見えないんだから捕まえれないでしょ」
容赦ない罵倒。
「って、そんな場合じゃない!!」
頬をピクピクさせる界だったが直ぐに立ち上がり回りを見渡すが。
やはりルシュファーの姿は見えなかった。
残り三十秒
「さぁ、どうする!!」
と真が界に振る
「お前が言うなよ!?」
界が焦る様に辺りを見渡すがどうして良いものかわからずにさらに焦る。
「真、どうしたら……」
ヤバイ、と真に助けを貰おうとする界
「速く速く! 死んじゃうって!?」
めっちゃ焦っていた。
「ちょ!? 何でいきなり焦り始めるの!?」
残り十秒
あー、と声を出して手を顎に持ってきて打開策を探す真。
「増えろ! 増殖しろ! 今すぐ!!」
と無茶を言う
「はぇ!? ちょ待っ、分かった!!」
分かっちゃった。
宣言どうり界がすぐに四人になった。
鬼ごっこのルール的に有りか? とも思うが、まぁ増殖したら駄目と言うルールも無いし、文句は鬼ごっこに言うべきである。
「良し、あいつを囲め!!」
そう言って腕を凪ぎ払う真。
「「「「おす!!」」」」
ハモる界達、正直恐い。
「「「「……あれ、あいつどこ?」」」」
全員でキョロキョロする、恐い。
「……あれ?」
放送は秒読みを始めて。
……三
「やばっ」
そう言って他の界は消え、界は真を抱えこむ様に抱き付いた。
……二
「ちょっ!」
真はびっくりして界を着きはなそうとするが、界の力が思ったより強く放さない。
「結界を張る、離れるな!!」
……一
「……ごめん」
界は腕の力を緩めずにそう呟いた。
そして、そのまま。
……タイムアップ
どうしようも無く放送は修了を告げる。
「その後、彼らの行方を知る者は誰もいなかった」
ゲームオーバーの台詞を言うルシュファー。
「……………………あれ? 何で?」
しかし、いつまでたっても何も起きず、界が声を出しキョロキョロと辺りを見渡す。
「ちょっと、放して放して」
すると真がもぞもぞと動き界の腕から離れるとルシュファーの声が聞こえた方向に歩き始める
「確かこの辺」
聞こえた辺りで手を振り回す真
「……いて」
二三回振り回した所でルシュファーに当たったのか手応えが有り、声も聞こえた。
そして、箱が開き
「何故だぁぁぁぁぁぁ!!」
ルシュファーの声だけが箱の中に入って行き、箱の蓋が閉まる、姿は見えなかったがちゃんと入ったのだろう。
「いやぁ、良かった良かった、何とかなったね」
あっはっはっと、真が笑いながら呆然としている界の所へ向かって歩いて来る。
「……何で?」
と首をかしげて問う。
そして真は時計の方を指差して言った。
「いや、あの放送、嘘だし」
つまり、少し速めに放送していたらしく、時計の針は今五時になった所だった。
「……ウソーン」
ちゃんちゃん