中身は鬼ごっこだった。
「鬼が一人ならば逃げ切ることもできると思ったのですが……まさか、初撃を避けらるとは」
魔法も何も使えない、勝算を上げるため、完全に未知数の真を先に落とそうとした、と言う所だろう。
「まぁ次はないよ二人も同時に相手ができるのか?」
そう言ってベルに向かい合う界と真。
しかしそこに一人近づいて来る人影がいた。
「待つのだ界よ、貴様の相手はいつだって我、ルシュファーである、一対一で相手をしてやる、来るがよい」
やって来たルシュファーは手を広げてそんなことをいう。
「誰がそんな挑発に乗るか!」
相手を完全に分断しようとしているのだろうと考えて界は、キッパリと拒否する。
「いや、あんたは、ルシュファーを捕まえて」
「……は?」
しかし、真はその挑発に乗れと言って来た。
「あんたがルシュファーを捕まえればこの鬼ごっこは終了する、相手がタイマンはってくれるなら乗っておいた方が良い、複数で来られたらやっかいでしょ」
確かにルシュファーが捕まれば爆弾への魔力供給はストップする。
この悪魔達も律儀に約束は破ろうとはしない、一対一をすると言うならば本当にそうなのだろう。
それに始めからルシュファーの封印が目的だった。
「けど、そしたら……」
真と界は分断されてしまう。
捕まることを恐れずに襲って来る悪魔達にただの人間である真、攻撃魔法はないにせよかなり危険であることには変わらない。
「……私は負けないから、さっさと終わらせて来て」
「……!」
ふと、界と真の目が合い、自信満々に答える真。
覚悟を宿した眼差し、そして、どこか安心できるその言葉に界も覚悟を決めた。
「……わかった、負けるなよ真」
そう言い残し界はルシュファーの方に歩き出した。
「はいはい」
相変わらず軽く返す真、初めて名前を呼ばれたなと考えて、真は少し胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「貴方一人で私を相手していただけるのですか?」
話しが終わるまで待つのは、常識です。
「えぇ、なんて言ったって私には、この必殺の両手であるからね」
そう言って、手をひらひらと振って見せると、ベルはフッと鼻で笑う。
「どこかの人が言っていましたよ? 当たらなければどうと言うことはない、と、それに最初の初撃を避けたからと言って調子に乗らないでいただけますか?」
両手をあげてやれやれと言うポーズをとって、まだ本気を出してないとでも言いたげなベル。
「言うじゃない」
と近くで真の声が聞こえた。
「……へ?」
気が付くと真はすでにベルにタッチしている。
すると黒い箱が勢いよく開いた。
「な、なんですとー!!」
そう叫びながらベルは吸い込まれる様に箱の中に入り、箱は再び閉じた。
「はい、一人目ゲットだぜ」
Vサインを界に決める真だった。
「……あっけない!?」
「あらら、ベルが捕まったよ、あの女やるな」
「……あれは、ベルさんが油断してたからじゃないですか?」
少し離れた場所から見ていたブブとマモンが片方は感心、片方は呆れていた。
「ていうか、あっけなさ過ぎません? 開始して三分で捕まるって、これだから、エセ執事は」
そして、ディスりまくるマモン
「よし、じゃ次俺行くわ」
言うとブブが真の方に歩き始める
「え? 分断したんですから逃げた方がいいんじゃないですか?」
しかしブブは、返事を返さ無いで、歩みを止めずに進む。
「……はぁ、ブブさん、油断はしないでくださいね」
何を言っても無駄だと思い、そう忠告するマモンだった。
「なんだか、バトルロイヤルになって来た」
近づいて来るブブを見ながら、一人ずつ来てくれて助かるなーと考えている真。
「真、だったか? 次は俺だ、ベルの仇は打たせて貰うぜ」
「逃げれば良いのに何で来るの?」
実に合理的ではない行動に真が質問する
「聞こえなかったか? 仇うちだよ」
そう言うブブからは、何か気迫を感じる
「……友達思いなことで」
真は、それ以上の言葉を発することは出来なかった。
「来い」
ブブは短い言葉を発してファイティングポーズをとる
「……フッ」
真は息づかいと共にブブとの距離を一気に縮めブブの体にタッチしようと手を伸ばす。
しかしそれをブブの手が真の手首を掴み止めた。
「はやっ! 本当に人間かよ!?」
「一様ね!!」
真はブブに掴まれたまま飛び上がり蹴りを入れる。
「ちっ」
片手の追撃に集中していたブブは首もとに来る蹴りをそのままくらい、よろける。
「っがぁあ!!」
だが持ちこたえたブブは空いた手で真の腹にめがけ拳を放った
「っぐ!」
まともにくらい大きく後方に飛ばされた真、なんとか受け身を取りながら体制を直す。
「マジかよ、今の蹴り普通の奴なら意識飛ぶっての!!」
「そっちこそ、見た目通りタフな癖に、何で俊敏なのよ」
息を荒くして、そう訴えるブブ、同じく殴られた場所を抑えてながら相手をひがむ真。
(ヤバいな真、大丈夫か?)
「よそ見とは、いい度胸だ!!」
真とブブの攻防を気にしていた界の意識がルシュファーに戻ると蹴りが避けれない所まで来ていた。
「がはっ!!」
腹にくらった界だったがそのままルシュファーの脚にタッチしようとする。
しかし、素早く脚を引っ込めて距離を取ったルシュファーには当たらなかった。
「あの小娘が、なかなかやるな? だが、しかしブブもそれ以上に出来るぞ」
ブブと真の攻防は長引いて、どちらもそれ相応にダメージをくらっている。
こちらの攻防も同じぐらいは長引いているが、まだ二人には疲れが見えなかった。
「所詮は人間の体力よ、悪魔に敵う筈がない、早く我を捕まえねば、小娘が先に殺られるな?」
ふん、と鼻を鳴らしすルシュファーに、息を整えてから、界は睨み付ける。
「分かってるさ、けどなそう簡単には負けないだろ、真は、人間は」
「……ふん、そうだな」
そう呟くルシュファーの表情は薄く笑っている様に見えた。
何回目か分からないぐらいは吹っ飛ばされた真。
体力に自信があった真だったが、さすがに息が上がって来た。
(こんなことをしていたら身体もたないわよ、何とかしないと)
と真がなんかないかと制服のポケットを探ってみると
「……ん? ……んー? ……どうかなぁ?」
真がポケットに手を突っ込むのを確認するブブ、真は何かぶつぶつと言っている。
(何か投げて来るのか? まぁ物なら魔法で落とせばいいか)
今回のルールは、相手に攻撃魔法は禁止、なので物なら問題ないと判断するブブ
そう考えていると真がポケットから手を出した。
「ま、一か八か、くらえ!!」
本当に何かを投げて来た真はそのまま突っ込んで来る。
「だんだん考えが雑になって来たな? そんなの魔法で……」
しかして真がブブに投げつけて来たのは
「わーい、飴ちゃん」
「私の殴られた分を返せぇ!!」
「ぶふっ!」
丁寧に両手でキャッチしたブブにおもいっきりビンタする真は、そのまま地面に倒れ込んだ。
すぐに黒い箱が開きそれに吸い込まれて行くブブ。
「しまったぁー!!」
そのブブの断末魔と共に箱は閉じた。
「……な? 負けないだろ」
「……そうだね」
それを見ていた界達は、何で結構シリアスになっていたのか疑問に思い始めていた。
後四十分ですな、とアナウンスが響く。
「……ふふふふ」
疲れて地面に寝転んでいた真が突然に笑い出した。
決してネジが取れた分けではない。
「私が馬鹿だった、こいつらとガチで戦うなんて……」
はぁー、と深く溜め息をつくと真は、ピョンと飛び起き、大きく息を吸う。
「次は、レヴィちゃんを捕まえるぞー!!」
と大声で宣言する。
離れて様子を見ていた四人は、突然の宣言にただ茫然としていた。
「……レヴィ、呼んでるぞ?」
「……え!? マジで!?」
するとマモンがレヴィの背中をぽんっと叩き、ぐっと親指をたてる。
「あれはガチ百合ですね、レヴィさん」
次にアデがレヴィの肩に手を乗せ、ぐっと親指をたてる。
「色仕掛けね、レヴィ」
「ちょっ、ま、待って待って待って!? 色仕掛けって言ったら姉さんでしょ!?」
慌てて二人の手を振り払いアデのことを指差す。
しかしアデは顔に手を当てて、あらあら、と笑って見せてから、レヴィの手を取る。
「そうだけど、ご指名だしね、私は男の子が好きよ?」
「私もだよ!?」
この流れはヤバいとレヴィが察し始めていると、サタンの焦った声が聞こえた。
「おい、走って来たぞ!?」
言われて他の三人が真の方を見る。
走って来る真の目は飢えた獣の目をして、一直線に向かって来る。
「きゃぁああ!? 姉さん!! 助けて!!」
恐怖しか感じられず、アデの後ろに隠れるレヴィ。
「わ、レヴィ!? 押さないで!?」
「私の貞操はルシュファー様だけの物なんですー!!」
そうこうやっている間に真はもう間近まで来ていた。
ちなみにサタンとマモンはもう逃げた。
「まずは、巨乳のお姉さんかー!!」
そう叫びながら真はアデめがけて飛び込む。
「きゃぁああ!!」
そして、アデを勢いよく押し倒し、砂ぼこりが漂い姿が見えなくなり。
そしてレヴィは逃走した。
「姉さんの犠牲は、忘れない!!」
「止めてぇ!! あぁん!!」
そして、黄色い悲鳴が公園に響く、すると黒い箱が開き、砂ぼこりの中からアデが箱の中に吸い込まれて行った。
砂ぼこりが消えると真が一人立っていた。
「ちっ、そうだったおさわり禁止か」
真は手でタッチしたことを後悔して自分の手を見つめていた。
「……でも、ご馳走さまです!!」
……ヒロインです、時々言わないと忘れそうですね?
「まぁ手で触らなければどうと言うことはない!!」
と、無茶苦茶なことを言ってよだれをふき、ギロリとレヴィの方を向く真。
あ、ヒロインですよ?
「次は、レヴィちゃんだー!!」
がぉーと言いながらレヴィに向かって走り始めた。
「きゃぁああ!! 来ないでー!!」
「……俺らは取り合えず安全だな」
かなり離れた場所から二人を見るサタンとマモンは、真の標的から外れていることを確認する。
「レヴィさーん、後三十分ぐらい逃げてくださいねー!」
無責任に適当に応援するマモンだったが逃げるレヴィには聞こえない。
「駄目ー!! 私にはルシュファー様がー!!」
「グヘヘー、良いではないか、良いではないかー」
後三十分で効果がきれる! とアナウンスが響く。