中身は悪魔だった。
「ジョークだって、ジョーク!! サメサメってそれはシャー……っくは!!」
丁寧に縄で縛られて正座させられて、まだ、ふざけたことを言うルシュファーだったので、殴る界。
「まったく、油断も隙もないな」
そして、なぜその場で封印しないかと言うと、まぬけだからである。
「それと、後十分で開始だけどルシュ、一人しかいないのか?」
界がその質問をすると、パソコンを使い時計をいじっていた真の手が止まる。
「……あの、ゴメンね、友達連れてこいなんて暴言」
自責の思いで悲しみの目を向ける真、一緒に暗い
BGMが流れる。
「止めて! とても悲しくなる!! 来るから、もうすぐ来るから!!」
すると、真達のすぐ近くの空間が歪み始めた。
歪みが徐々に大きくなっていき、そこからくぐって来る様にして男性が現れた。
「おーい、来てやったぞ……って何やってんだ?
ルー」
「サタン! 来たか!」
サタンと呼ばれた男性、ツンツンした髪で、どこかヤンキーっぽい雰囲気を出している。
ルシュファーの近くに来て縄をほどいてあげている。
「ルシュファー様、ただいま参りました!」
そこに、また現れたのは女性だった、髪をポニーテールにした元気そうな子で、セーラー服を着ていた。
「……ってサタンあんたテメェ! ルシュファー様に何してんだ!!」
そして怒り出した。
「レヴィ!?」
「は? ちょっと待っでぇ!!」
レヴィと呼ばれた女性は言うやいきなりサタンに殴りかかって行き、サタンをぶっ飛ばした。
すかさず、レヴィはルシュファーのほどきかけの紐を掴み、サタンの代わり紐をほどく。
先の怒りは嘘の様に剥がれ落てニコニコしている。
「ルシュファー様? 大丈夫ですか? 今ほどいて上げますね」
「お、おぉ、ありがとう」
さすがのルシュファーも若干引きぎみになった。
「……レヴィ、お前はぁあ!!」
吹っ飛ばされたサタンは、立ち上がってレヴィを睨みつける、かなり怒ってます。
「何よ? ルシュファー様にこんなことして置いて文句があるの?」
「あるわ! テメェ、俺がルーの縄ほどいてるのわかっててやりやがったな!!」
「…………何のことカシラ?」
目を反らして、棒読みです。
「殺す!」
「やってみな、この単細胞!!」
「待て待て待て!! お前ら待て!!」
火花を散らす様にメンチをぶつけ合う二人、ルシュファーはあわてて二人を止めに入ろうとする。
「また、一文にもならないことを、ほっとけば良いんですよ」
しかし、それを子供の声が止めた
「マー君」
いつの間にか居た子供、小学生五、六年生ぐらいに見えボーイッシュな服装。
マー君と呼ばれたことに不満そうな顔をする
「ルシュファーさん、その呼び方は止めてって言ってるじゃないですか、僕はマモンです」
見た目のわりにしっかりとした口調、しかし、口を尖らせ、見た目通り幼いいじけ方をする。
「あぁ、はいはい、わかったわかった」
何度も繰り返しているやり取りなのだろう、ルシュファーは軽く受け流す。
「絶対わかって無いですよね!? ちょっ、頭を撫でるのは止めてください!! 金取りますよ!?」
ルシュファーがマモンの頭を撫で始めると、レヴィが早速気づき、サタンとくり広げていた攻防を一方的に止めて二人に駆け寄って行った。
「マー君、何してんのずるい!! ルシュファー様、私も撫でてください!!」
「レヴィテメェ待でごらぁ!!」
「レヴィさん、その呼び方止めてください!!」
「賑やかになってきたねー」
先程までの一連を一歩引いた場所で見ていた真がそう呟く。
こういうノリは嫌いではないのか真には、自然と笑みがこぼれる。
「あぁ、なんだか、全員来そうな予感」
「全員って?」
「幹部的な奴ら、六人居るんだけど」
現在は、サタン、レヴィ、マモンと三人、界の予想ではあと半分来るらしい。
「そうね、あと私とベルさんとブブかしらね」
すぐ後ろからいきなり女性の声が聞こえ、界と真が振り向く。
そこにいたのは、まさにお姉さんと言うような色気のある露出度高めの服を着た女性だった。
「アデさん、来てたんですか? 」
「やぁ、界ちゃん、元気そうね」
界とアデのくだけたやり取りを見るに、おそらく界は他の6人とも顔見知りなのだろう。
「あんたらやっぱ仲良いんでしょ」
そこにまた後ろから、声がかかる。
「おーす、やってるな」
薄汚れた作業着を着た少し太りぎみの男性が、居酒屋にでも入る感じで来る。
「……で、宝松よ、なんか食いもん無い?」
「……なぜ僕に聞く?」
直感で先程名前の出たブブだ、と思う真。
アデが、呆れた様に溜め息をつき男性をたしなめ
る。
「ブブ、そういうのはベルに頼みなさいよ」
真の直感は当たっていた
「呼びましたか? アデ様?」
そして、お決まりのごとくいきなり現れ話しかけて来たのは、燕尾服を来た初老の男性。
「なんか執事っぽい人が来た」
「お、来たかベル、腹へった、食いもん」
早速ブブがベルに食べ物を要求する。
はい、と返事をすると服の内側を探り出す。
「それでは、こちらにおにぎりがございます、どうされますか?」
どこかからおにぎりを差し出すベル。
「お、おにぎりが、た、食べたいんだな……って何やらせる!?」
言いながらもおにぎりを受け取り食べ始めるブブ。
「自分からやったんじゃないの」
ますます、呆れながらツッコミを入れるアデだった。
「何だか個性的な人達だね」
界の肩に手を置いて、ニッコリ笑顔で言った。
「……人のこと言えないだろ」
「さて、こちらは揃った、我々はこの七人でいどませてもらおうか」
いったん落ち着いたルシュファー達は七人並んで真達と向かい合う。
「ルシュファー様? あちらの女は誰ですか?」
レヴィが真の方を見ながら他の五人を代表して手を挙げて聞く。
「私は三帝 真、そっちの方はこの魔法使いに聞いたから大丈夫だよ、よろしくね、レヴィちゃん」
軽く自己紹介して手を振る。
「レ、レヴィ……ちゃん?」
そう呼ばれ馴れていないのか、たじろぐレヴィ
「口説くなよ、そいつら悪魔だから」
「大丈夫! かまわない!」
「かまえ!!」
真に突っ込んでから、界は、ゴホンとわざとらしく咳をしてルールの確認を始める。
「時間は一時間、範囲は公園だけ、魔法は瞬間移動、飛行、攻撃魔法は禁止だ良いな?」
「良いだろう」
ルシュファーは大きく頷く。
「あの、ルシュファー様、我々はいったいどのような決闘をするのですか?」
そこにベルがそう質問する。
「あれ? 言ってなかったっけ? 鬼ごっこ」
「……まじで?」
「ふざけんな!」「ルシュファー様と鬼ごっこ!!」
「聞いて無いわよ」「金をよこせ!」
「だるいでございます」
「まぁまぁまぁまぁ」
なんとかみんなを落ち着かせるルシュファー。
開始まであと三分、とゆっくりめなアナウンスが聞こえる。
「さて、これは我からのプレゼントだ」
そう言ってルシュファーはどこからともなく赤い宝石の様なものを取り出す。
「この宝石に逃げて回って居るあいだ我の魔力を送り続ける、そしてこいつは一時間後、貯めた魔力をすべて自動的に解放し、爆発する様になっている、貴様のもろいバリヤーなどたやすく破壊するだろう」
詰まり、宝石は爆弾で、一時間以内にルシュファーを捕まえられないと爆発に巻き込まれて木っ端微塵になると言うことのよう。
ルシュファーは宝石を時計の近くに置く。
次に界も黒い多面体の箱を取り出しそれも時計の近くに置いた。
「なら僕らの手のひらに触った瞬間にこの箱に入る様にするぞ」
すると真の手が淡く輝き出した。
「わっ!? 私のこの手が光って唸る!」
かと思ったらすぐにもとに戻ってしまい、少し残念そうな顔をする真。
「待ってください? と、言うことは僕達まで箱に入れられるってことですか?」
と、質問するマモンに、ルシュファーは遠くを見つめながら。
「……一蓮托生だね」
「ルシュファー様と一蓮托生!」
喜んだのはレヴィだけで、他はブーブー文句を言っている。
「ふざけんな!! 俺は帰る……って出れないし!! ルー、テメェ」
おそらくこの公園から出ようとしたが、出られなかったのだろう、サタンは激怒してルシュファーを睨む。
「いやいや、今この別次元の結界を解くと、あいつら逃げるかも知れないだろ? それにそろそろ始まるし」
ルシュファーは、深く溜め息をつきながらそう言って返して、仕方ない、仕方ない、と呟いている。
その反応に対しサタンは青筋を浮かせて低い声で話し始める。
「ルシュファー、お前とはながーい付き合いだからよぉ、仕方ないから、俺が引導を渡してやるよ、
ゴラァ!!」
「ったく、押さえるぞ」
「仕方ないですね」
とうとう、抑えられきれなくなり暴れだそうとするサタンを、ブブとベルが二人で押さえる。
「放せぇ! 奴は、奴だけはぁ!!」
そしてその奴は、耳の穴をかっぽじっている。
「サタン、あきらめなさいって、ルー君は言ったら聞かないってそのながーい付き合いで知ってるでしょ?」
まったく、と呟きながらもアデが説得してみるが。
「ウルセェ!! 知ってらぁ!!」
聞く耳持たないサタンにアデがこういう時は、と、レヴィを見る。
何で私? と言うような顔をするが、文句を言いながらも承諾してくれたようでサタンの前にでて一言
「てか、負けるのが恐いんでしょ? サタンは」
「んなわけねぇよ!! あぁ、わかったやってやらぁ!!」
「ちょろいな、サタンは」
みんなに聞こえないようにそう呟くルシュファーだった。
開始三十秒前と、ゆっくりアナウンスが公園に響
く。
公園の中心に鬼の界と真がスタンバイして、後の逃げる側の七人は鬼から離れて、思い思いの場所にいる。
「さてと、どういう作戦で行く?」
そう言って真を見ると、フム、と顎に手を持って来る。
「作戦も何も、鬼が二人で逃げる範囲が決まってるなら、二人で一人ずつ角に追い詰めて行けば確実に私達の勝ちだよ」
制限時間が一時間もあり、逃げ切るのは難しく、逃げ側が圧倒的に不利な状況である。
「確かにそうなんだけど……」
「あっちが何かして来なければ、ね」
「……まぁ、なんかして来るよな」
こんな分の悪い勝負に乗って来たルシュファー達何もして来ない方がおかしい。
それに、開始前に襲いかかって来た、と言う前科がある。
十秒前
「取り合えず、最初の内は追い込むって作戦で行こう」
そう言って、軽く屈伸運動する真
「了解、後は臨機応変ってことで」
最終確認を終えて界も開始にそなえる。
カウントダウンが始まる。
……三
……二
……一
……開始!!
「失礼しますよ」
「……!!」
開始直後、真の目の前で突然と何かが風を切った。
真がそれをベルの蹴りだと認識するのは咄嗟に避けた後だった。
「……おや、今のを避けましたか、やれやれ少し甘く見ていましたね」
燕尾服を整えながら溜め息をつくベルに、界がくってかかる。
「おい! ベル、お前!」
「待って、確かに、私達の手に触れなきゃ良いんだから別に襲って来るのはルール違反じゃない」
そう言って、界を落ち着かせる真
「……だけどこいつ、瞬間移動を」
確かに、ベルは突然と目の前に現れたように見え
た。
「開始する直前に瞬間移動したか」
迂闊であった、このまの抜けた奴らがこんな奇襲をすると考えていなかった。
「はい、その通りでございます、貴方はご聡明のようだ、説明する手間が省け何よりです」
頭を下げて、にっこりと微笑むベル、
(今の蹴り、当たってたら気絶どころじゃなかった……)
開始直後にいきなり殺りにくる、目の前敵が本当に悪魔なんだと、ゾッとする真だった。