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第六話「父と娘と隣国の港町」



 まだしばらくは《会心の出来映え》など見果てぬ夢かとため息をついて、今日10本目の包丁をアイテムボックスにしまい込むと、私は足りなくなりそうな素材を補充するべく精錬炉に向かった。


 今日はアキとレモンが王都に帰ってくる日だ。

 早目の到着で行き違いになっては怒られるなと、フィールドに出るのは午前中にして、午後は鍛冶場に篭もっていた。

 一つ完成するたびに、出来を確かめて次に取りかかる。


<《出刃包丁》が完成しました>


「きゃああああああああああああああああ!!

 強盗よおおおおお!!!!」


 11本目の完成インフォメーションに被るように、悲鳴が聞こえてきた。

 ……ルナだ。


「……やれやれ」


 私は鍛冶道具を片付けてから、装備を身に着けて表に出た。


「静かにしやがれ!」

「きゃあああああああああ!!!」


 犯人は一人、NPCの男。

 剣を構え、カウンター越しにルナを脅している。


「あ、ライカさんお願いしまーす」

「……はいよ」


 表口に私を見つけたルナは悲鳴を止め、こちらに向けて笑顔で手を振った。

 もちろん、私も大して慌てていない。


「なんだてめえは!?」

「あー、ご近所さんです」

「ぐはっ!?」


 振り下ろす剣に躊躇いはなかった。

 何故ならこの強盗は、HPがゼロになると泣いて許しを乞うからだ。


「ゆ、ゆるしてくれ!」

「はいはい」


 同じNPCでも、強盗に対して丁寧な応対をする気にはならない。

 しばらくしてNPCの王国騎士の一団が現れ、強盗を引っ立てて行って無事終了。

 私は経験値と僅かな報奨金を貰った。


「お疲れさまでした、ライカさん」

「ルナのところに出る強盗は、俺でも余裕で行けるからな」


 これにて強盗イベントの一件落着である。

 私も旧『M2』時代に幾度も襲われたことがあったが、商店街に店を構えていれば経験値狙いと暇つぶしで皆が駆けつけるから、大して不安にも思わなかった。


 強盗イベントは店持ちのプレイヤーに時々発生する名物イベントで、その時に限って防音が切れるので、奥の作業場にいた私の耳にもルナの悲鳴が聞こえたのだ。

 ちなみにルナは戦闘系のスキルを一切持っていないので、NPC強盗の強さも最低ランクである。


「しかしルナ、強盗イベントってこんなに頻度高かったか?

 一週間でもう二回目だろ?」

「それはですね、まだプレイヤーの店が少ないから当たりを引きやすくなってるんだと思います」

「……納得した」

「お店の数が増えると、そうでもないんですけどね」


 もう半ば忘れかけてるよと肩をすくめ、とりあえず手持ちの包丁と草刈り鎌、縫い針セットなどを納品する。


「ルナさんたっだいまー! って、あ、お父さんこっちにいた!?」

「アキちゃん!」

「お帰り、アキ」

「お父さーん!」


 思ったよりも早い到着だ。

 まとわりついてくるアキの頭を撫でながら、レモンを探す。


「もう《魔術師》がLV5になったんだよ!」

「お、負けたかな。

 俺はまだ《鍛冶匠》LV4だよ」

「アキちゃん、姐さんは?」

「レモンさんなら、先にルナさんのお店に行くようにって、私の背中押してからお父さんの仕事場に行っちゃいました」

「……あっはっは」

「そうだ、お父さんもはやく行ってあげて。

 レモンさん、すっごい楽しみにしてたんだから」


 私はニヤニヤとした視線を向ける二人に肩をすくめ、レモンを迎えに店に戻ろうとして───。


「きゃっ!?」

「おっと」


 勢い込んで入ってきたレモンを抱き留める。

 ……私を見て笑み崩れていく様子がアキよりも子供に見えたと言ったら、彼女に失礼だろうか。


「ラ、ライカくんただいまっ」

「お帰り、レモン」


 メールも悪くないが、直に会うのが一番だ。

 私はくすくすと笑う娘たちを軽く睨んでから、レモンを立たせてやった。


「お父さん」

「うん?」

「……全然恐くないよ?」


 アキの指差す先では、私の尻尾が感情を受けてぱたぱたと揺れていた。

 ……意識していないと、こ奴は勝手に動くのである。




 二人の遠征終了を祝し、私たちはその場でサンマの店に予約を入れた。

 奴は既に貸店舗の二階も借りて、お座敷を手に入れている。今夜は宴会だ。


「へえ、昆布茶なんてあるんだ」

「レモンも知らなかったのか?」

「あっちだと普通の緑茶もあるし、わざわざ頼まないかな」

「……ああ、サーバーが成熟していればそういうことになるか」


 あの後、食事までは二人きりにしてあげますと、作業場に追いやられた私たちだった。

 ……ちなみにレモンは作業場に入るなり離れていた分甘えるからと決めつけ、今は私を椅子にしてくつろいでいる。


「鍛冶屋さんの方はどう?」

「まだまだだな。

 稼ぎは悪くないが、しばらくは道具と設備の買い換えに吸い取られるからなあ……。

 まだロング・ソードにも手が出せてないよ。

 今は防具がメインの稼ぎ頭で、合間に包丁とショート・ソードだな」

「鍛冶屋さんってそんなに手間かかったっけ?

 ……って、重いから頭に顎のせないで!」


 戦士が一戦で何度も剣を振るうように、鍛冶屋は一品に何度もハンマーを振るうのだが、あまりに地味すぎて私も半ば忘れかけている。

 しかし、スタミナの関係で戦士ほど数はこなせないから、必然的に成長は遅い。


「《鍛冶匠》上げるのにレベリングも必要だし、そっちばっかりだと今度はスキル経験値が不足する。一点に絞ってもいいんだが、結局は他も上げなきゃ上の装備に手が出せんから同じ事だ。

 ……レモンの現行装備に追いつけるのは、まだまだ先だな」

「ほんとに楽しみにしてるからね?」

「ああ」


 武器はロング・ソードが取り敢えずの目標だが、今の鍛冶炉は安物で、ショート・ソードまでと制限がある。買い換えはもう少し先になるが、《鍛冶匠》をLV4に上げたこともあって、マイナス修正のない並品を作成出来る率が徐々に高くなってきているので、多少前倒しは出来ると踏んでいた。


「そう言えば、レモンの方はどうだったんだ?

 ダンジョンまで行くとは思わなかったぞ」

「んー、久しぶりにパーティー組んだせいもあるけど、こんなに楽だったかなあって……」

「楽……?」

「そうよぉ。

 《乙女部》が解散してからは、攻略戦とかイベント以外ほとんどソロだったから、背中に一人いるだけでこんなに楽だっけって、ちょっと戸惑ったわよ。

 アキちゃん若いのに、よくわかってるって言うのかな?

 無理に前出ようとしないし位置取りがいいから、わたしは単純に死角が減ったことになるの」

「ほう……。

 魔術師は攻撃食らったら大抵瞬殺……ってのは言い聞かせてたけどな」


 当たり前だが、後衛職に防御力を期待してはいけない。

 それにしても、アキも順調に伸びているようで結構なことである。


「そうだ、次はどうするんだ?

 まだアキとコンビ組むのか?」

「わたしはそのつもりだけどね。

 ただ……アキちゃんも、一度はソロでフィールドに出た方がいいと思うのよ」

「……ソロの弱さを知ってると、色々気を付けるようになるか」

「うん、判断力ね。ソロは全部一人で決めなきゃダメだもの。

 それにゲームとのつき合い方を覚えると、プレイに幅が出るでしょ? ……わたしやライカくんみたいに」

「それもあるか……」

「もう一、二回は一緒に行って、それからかな」


 私などはソロから初めて、その内仲間が出来てと言う形でゲームに馴染んでいったから、逆に連携時の位置や目標選択などで苦労したような覚えがあった。差し出がましすぎてもいけないし、役立たずも困るという匙加減は……パーティーに限ったことではないが難しい。


「さて、もうそろそろ時間だな。

 ……ほら」

「この椅子、座り心地良かったのになぁ」

「お前な……」


 しゃんと立たせてやると、ルナの店でアキたちと落ち合う。

 そのまま連れ立って、私たちはサンマの店に向かった。




「よう」

「おう。

 そっちの階段だ、上がってくれ。

 お嬢さん方もようこそ」

「おじゃましまーす」

「こんばんは」


 遠方へと出稼ぎに出ているのか、相変わらずコーリング君の姿はなかったが、《洋食処・まつ風》にはカウンター席の奥に階段が増えていた。

 その急な階段をえっちらおっちら上がると、そこそこ広い洋間には絨毯が敷かれ、ちゃぶ台様の丸テーブルと座布団に近い平らなクッションが置かれている。


「……和洋折衷だね、お父さん」

「だなあ……。

 テーブルは足の長さ調節するだけでもいいだろうが……畳って、どうやったら手に入るんだ?」

「醤油と一緒で、現物も作成方法も、余所の国まで行かないと手に入らないんじゃないかしら?」

「和食は遠いですねえ……」


 それぞれ『お座敷』もどきに腰を下ろし、壁に飾られた和風ではないが和のテイストを垣間見せる淡色のデッサン画や、床の間を模した台の上に飾られた一輪挿しなどを観賞する。代用品なのだろうが、雰囲気は悪くない。

 意外とまとも……と言えば失礼だろうが、流石は本物の店を経営しているだけあって、細やかな部分にも目が行き届いている様子だった。


 しばらくして、閉めた入り口がそっと開けられ、サンマが顔を覗かせた。

 廊下側で三つ指をついて正座、そのままにじるように入室してくる。


「失礼いたします。

 本日は《洋食処・まつ風》にようこそ。

 手前は店主の桑江田秋刀魚と申します」

「初めまして、マスター・サンマ。

 レモンティーヌです。

 向こうでは、時々王都のお店を利用させていただいています」

「お父さんがいつもお世話になっています。

 娘のアキです」

「お久しぶりです、サンマさん」


 この間はあんな口上なかったよなと、何処の料亭だと言わんばかりの態度に困惑しながら、サンマの様子をちらりと窺う。


「……本日はお世話になります」


 ……なんとなく、雰囲気に負けた。

 にやっと笑ったサンマに、フンと鼻を鳴らす。


「ここで先付けをお出しして……と会席の作法でもいいんだが、気楽な打ち上げで堅苦しいのもあれだろう?

 こっちで適当に出してやるから、楽しく食べな」

「すまんな」

「おう」


 その後出てきた料理の幅広さに、私は驚きを隠せなかった。

 ゲーム開始からひと月、いつの間にこれほどのレシピを集めたのかと、料理を運んできたサンマに目を向ける。


「サンマ、これはどういうわけなんだ?

 レシピだって、そう簡単に数が手に入るもんじゃないだろうに……」

「まあ、知らなきゃそう見えるわな」


 ふむふむとサンマはもっともらしく頷き、新しい皿を示した。

 乗っているのは酢の物のようだ。


「例えばだ、材料があって道具やスキルが必要条件を満たしていればレシピ通りの品を作ることが出来るが、多少塩味を効かせたり、薄味にしたりと言った調節も出来る。

 お前が鍛冶仕事やるときにパラメータを弄くるだろう?

 あれと同じだ。

 そして大事なことだが、組み合わせも出来るわけだ。

 《カレーライス》と《トンカツ》を組み合わせれば、誰でも分かるだろうがレシピはなくてもカツカレーが出来る。……《カツカレー》のレシピで作るより、倍の手間はかかるが、出来ちまうわけだ」

「……なるほど、少し見えてきた」

「これなんかだと、《キュウリのサラダ》を塩味酸味多めで作って、《メグロ魚の刺身》を別に用意する。……醤油はねえけどな。

 でだ、それぞれの出来上がりを鉢で混ぜこんで盛りつけたら、『メグロ魚とキュウリの酢の物』としてお客さんに出せるわけだ」


 確かに目の前の皿には、生魚とキュウリを使った一品が乗せられているわけだが……。


「しかし、データ上はどうなってるんだ?

 口にする方も調節されるのか?」

「おう。

 普通のにぎりと一緒だ」

「にぎり寿司?」

「寿司は食うときに、紫……醤油を用意するだろう?

 あれもな、ちょいとつけた時とどっぷりつけた時で、きっちり味が変わる。

 牛丼にかける七味、ラーメンの胡椒もおなじだ。

 それを先に板場でやってるわけだな」

「《料理人》の基本テクニックよ。

 ……攻略サイトにも載ってるけど、ライカくんの興味は鍛冶限定だったと思うし、たぶん見てないんじゃないかな?」


 確かにその通りだと、私は頷いた。

 だが、考えてみれば……多少のちぐはぐさはあれど、その制限の範囲内でさえこの世界はとてつもない再現度を誇るのだ。

 昔の、形しかない料理『オブジェクト』に比べれば、発展途上とは言え大した進歩だ。


「但し、問題もある。

 目の前のこいつは、開発者の手を経て調節されてるわけじゃねえ。データ上で混ざり合ってるだけだ。

 だから、ちょっとした試行錯誤も必要だな。この『メグロ魚とキュウリの酢の物』だって、《キュウリのサラダ》2皿に対して《メグロ魚の刺身》を0.8皿、切り身1枚抜いてこの味になる。……正に『料理』ってやつだよ。

 だがな、行程に経時変化だの熱変成だのがあると、この方法じゃお手上げだ。。昆布〆やヅケも出来やしねえ。

 ……前にも言ったか、《○○さん家のカレー》な、ありゃあ正に出来物を混ぜて出せる味じゃねえんだよ。

 だからこそ、皆がこだわって運営がきりきり舞いしたし、それでも真っ正面から受け止めてレシピの実装に乗り出したってわけだ」


 サンマはそんなところまで気を使ってゲームを『楽しんでいる』のかと、私は少し驚いた。

 彼は三人の息子をゲーム内で修行させていると口にしていたが、本気度が伺える。


「あの、おじさん!」

「おう、なんだ?」

「それって……オレンジジュースとアップルジュースとグレープジュースを混ぜると、《料理人》もってなくてもミックスジュースが作れるっていうことなんですか?」

「そういうことだ。

 食材の《オレンジ》から飲み物の《オレンジジュース》を作るのには道具とレシピが必要だが、出来上がった《オレンジジュース》にその制限はない。

 そうだな、混ぜる量でも味が変わるから、好みになるまで色々試してみるといい。もちろん、さっき言ったように、どう頑張ったって再現できないもんだってある。そこんところは研究次第だし、料理を繰り返していくうちに自然とドロップするレシピだって割とあるからな。

 それこそ方々に足伸ばしてレシピを探し回ってみるのもまた、『剣と魔法のサーガ』じゃあ料理の正道だ。

 お嬢さんにはまだ早いが……カクテル・バーなんかは正に、基本のレシピから先はバーテンダーの腕一つってな」


 料理系のスキルなどは、昔とは比べものにならないことはわかっても、口も挟めないほど複雑化しているようで……まあ、私は食べるに徹するかと、箸を使った。


 供されている料理の中では、賽の目に切って素揚げした白身魚にドレッシングのかかったものがエールによく合っていて美味い。私好みだ。

 女性陣は甘いもの……飾り切りをしたフルーツの盛り合わせに目を奪われているが、あれはレシピではなく、サンマの本来持つ料理技ではないだろうか。完成品に手を加えるという意味が、少しだけ垣間見えてくる。


「ところでサンマ。……のんびりしてるが店はいいのか?」

「今日は上客の予約が入ってるからな。さっき閉めてきた」

「おいおい」

「俺だって久しぶりの低レベルで、こっちで初めて出す料理の出来映えやら作成時間の配分やら、お座敷の今後を見極めてるんだよ。

 これだって仕事だぜ?」


 なるほど、サンマはサンマなりに苦労があるらしい。……自分用のジョッキ持参だが。

 私は新たに出てきた皿から、冷製の海鮮盛り合わせを取り分けた。


「そうだライカよ、ちょいと話は飛ぶんだが……」

「うん?」

「来週は仕入れの旅に出るから、店は休みになる」

「ほう。

 どこまで行くんだ?」

「ディアタンだ」

「ディアタンか……」


 南の隣国、ディアタン皇国。

 徒歩なら二週間、船なら二、三日だっただろうか。

 ファンタジーらしく、隣国とはいえ大きく表情が異なる。中東文化圏風の雰囲気を持たせた暑い国で、察するところサンマの目的は香辛料だろう。


「店畳んで修行兼ねたレシピ集めってのも考えたが、そいつは本店持つまでお預けだ」

「あちらを立てればこちらが立たず、だな」

「そういうこった」


 私もそろそろ鉱石の採集とレベル上げのために遠方へと出たい気持ちもあるが、それこそ日々上げているスキルの練達を中止することになる。まあ、うまい話はそう無いわけで……。

 それにサンマは遠方に出るとは言ってもフィールドに出るわけではないだろうし、街中でNPC商店を渡り歩く程度のことだろう。

 まあ気をつけてなと、私はアイテムボックスから一本の包丁を取り出し、サンマに手渡した。


「今はこれが精一杯でな」

「へえ……《出刃包丁[+1]》ね」

「並品の数の割にプラス見ないなあと思いましたよ……」

「うわ、お父さん、プラス装備作れるようになったの!?」

「ありがたく、使わせて貰おう」


 今日になってようやく《生活用品》がLV2に上がったので、目標パラメータを上げての道具作成に挑んでみたのだ。5本試して1本成功、失敗も並品と結果も悪くなかった。……決して自賛ではない。


「やっぱり、こっちの方がしっくりくるか。

 ……《万能包丁》や洋式の料理ナイフが悪いとは言わんが、そもそも《出刃包丁》そのものが出回らないからな」

「道具その物はレシピの条件に必要ですけど、知らないと本来の使い方するのは無理ですもんね」


 レシピや秘伝の通りに道具を振るえば、素材はアイテムに変わる。このゲームの大原則だ。

 だからこそ、私も喫茶店兼業の鍛冶屋を目指そう等と気楽に言えるのだが、抜け道とも言うべきパラメータの変更や、完成アイテムに手を加える『裏技』も含めて、ゲーム内での達人への道は、あまりにも遠かった。

 しかしそれもまた、楽しみの一つなのである。




 ……その数日後。

 私は何故か、ディアタン皇国の港町ワエリアで買い物につき合わされていた。

 当初は留守番のつもりだったのだが、好物が手に入るクエストの情報をちらつかされてはたまらない。


「アキちゃんはこれ、どうかな?」

「ちょ、ちょっと大人っぽいですよ……」

「姐さん、こっちの色を上に合わせたらどうです?

 アキちゃん細いから、肩のライン少し強めにして……」


 アイテムボックスのおかげで荷物持ちこそしていないが、装備屋ではない純粋な服屋では居場所がないこと甚だしい。

 ちなみにこの小旅行のきっかけとなったサンマは、コーリング青年を連れて港の方でクエストをこなしている。


 私、サンマ、ルナの店舗組は休業の張り紙をしての遠征で、休暇と、王都では手に入らない品の仕入れ契約も兼ねていた。

 コーリング君も含めた冒険者組は、息抜きだろうか。

 サンマ達はクエストに出掛けたが、私たちは到着の翌日とあって、買い物と観光にあてていた。


「次はお父さんだよ」

「うん?」

「ライカくんはどんなのが似合うかな」

「俺はいいって。

 ……若いのが着るようなのを選ばれても困る」

「んー、お父さんまだ若いと思うよー?」

「だよねぇ。

 身体は自前なんだっけ? 狼だと余計わかんないよ」

「ライカさんって四十代ですよね!?

 肌つや、うちの旦那と変わらないし……」

「なんだ、ルナは結婚してたのか?」

「ええ。

 旦那が帰ってこないのでゲーム三昧ですよ」

「航宙士さんなんだっけ?」


 ああなるほどと、私は頷いた。航宙士───パイロットなら仕方あるまい。

 旅客船でも月まで二日、貨物船なら経済性重視で片道一週間二週間はざらである。昔に比べればうんと早くなったらしいが、火星航路や外惑星航路なら数ヶ月単位の『お仕事』となってしまう。


「はい、旦那は来週まで戻らないし、子供はまだいないしで……。

 だからこのゲームの三日間って、丁度良かったんです」

「子供の頃、パイロットは憧れたが……大人になると大変そうだとしか思わなくなったな」

「男の子はパイロット、女の子はお店やさんって?」

「まあ、そんなものだ」


 まともな仕事というものは、給料分だけ緊張と責任を要求されると相場が決まっている。まともでない仕事には、別のリスクがついて回った。

 私のようにVRオフィスに長時間拘束される仕事は、定時で帰宅できて突発的な事態も少ない代わりに、恐ろしく地道な作業を繰り返すことが要求される。

 世の中は、理不尽ながらも上手くできているのだ。


「お父さんの子供の頃とか、想像つかないよ」

「俺も親父……お爺ちゃんの子供の頃は謎だぞ?」

「そうなんだ?」

「ライカさんの子供の頃、ねえ……?」

「うーん、しっかり者の委員長タイプ?」

「逆にやんちゃ坊主だったりして」

「あ、お父さん動いちゃだめ!」


 さてどうだったかなと煙に巻き、長衣を手にして私へと背伸びをするアキから逃げる。古代のローマかギリシャ神話風の、一枚布のひらひらとしたあれだ。

 いかにも異国の港町らしく、文化混交時代無視の雑多な衣装が売られているのである。


「アキ、幾らファンタジーでもそれはちょっと……」

「あはは、エジプトの神様みたいで案外似合うかも」

「人身獣頭の神様が多いんですよね」

「うー、いいと思うんだけどなぁ……」

「あ、これもいいわね」

「……剣闘士?」


 それこそ上半身の筋肉を誇示するが如く、街中ならばプレイヤーも含めて半裸の戦士がうろうろとしてもおかしくはない世界観である。極端に浮くこともないだろうが、私は時代を経て洗練された『普通』の衣服がいい。

 手近にあった、日除けのかぶりものがセットになっている砂漠の隊商風の衣装を指差す。


「……アキ、こっちじゃだめか?」

「……しっぽ隠れちゃうよ?」

「そう言う問題なのか……?」

「うん」


 にっこりと笑うアキの向こうにはニヤニヤとする二人が居て、私は退路が塞がれていることを悟った。




「ライカさんのそれ、ドラマで見たことあるっすよ」

「……俺は教科書で見たかな」

「ちょっと見ない間に随分と、その、なんだ……」

「……言葉を選ばんでいい。余計に居たたまれなくなる」


 夕方、揃って飯でも食おうと待ち合わせたサンマ達に、私はやれやれと肩をすくめて見せた。

 半裸の剣闘士は勘弁して貰ったが、結局、古代ローマ人にしか見えない格好をさせられている。奇異の目で時折人々が振り返るのは、レモンがそれに合わせた衣装を身に着けているからだと信じたい。

 ちなみにアキはジプシーの踊り子風、ルナは頭をすっぽりとスカーフで覆って長いスカートを履いていた。


「えー、ハロウィンみたいで楽しいのに」

「だよねぇ?」

「ゲームの中って、毎日がお祭りみたいなものだって言う人もいますよね」

「違いない」


 皆でぞろぞろと、目についたレストランに入る。

 やはり旅行先では『らしいもの』が食べたくなるのが人間の心理、香辛料をたっぷり使った羊の炙り肉に豆の煮物、竈に張り付けて焼いた薄いパンを注文した。


「あ、ちょっとふにゃふにゃしてるけど、美味しい!

 味のないピザみたいだね、お父さん。」

「似てるけど、文化的にはどうなんだろうなあ……」

「具材を挟んだり、スープを吸わせて食べるのが正しいんだっけ?」

「インドのナンとは、ちょっと食味が違うっすね」

「初めて食べましたけど、変に味が付けてあるよりこっちの方があたしは好きかなあ」


 薄い塩味に、厚生地のピザのような食感。

 中東文化圏の主食はこのようなものだったかなと、疑問に思わないでもない。麦主体は変わらずとも、パンで大凡一括りにされる欧州よりもバリエーションに富んでいただろうか。

 朝食にパンを食べ、昼はいつもの定食屋、夜はアキと相談しながらその日の気分で和洋中なんでもありな私が言えたものではないが……。


「似たようなものは世界中、何処にでもあるからな。

 これも案外、ありものを元に作られたこの世界のオリジナルかもしれんぞ?」


 ふむふむともっともらしく頷くサンマに、なんでもありのファンタジー世界じゃそんなものかと胡乱な目を向ける。

 一通りの料理を皆でわいわいと片付け、食後のお茶が出てくる頃には、すっかりと日が暮れていた。


「ところでな、皆にちょっと知恵を借りたいんだが……」

「あー、どうせなら酒場にでも行くか。

 みんなもそれでいいか?」


 サンマがそんなことを言い出したのでもう一軒、今度は河岸を変えて酒場の扉をくぐる。

 アキはトロピカルフルーツのジュースで、大人は乳酒───馬や山羊の乳を発酵させて造る薄い酒だ───を注文し、乾杯の後で話を聞く雰囲気をつくった。


「クエスト絡みか?」

「ああ。

 メインの一つは一応クリアできたんだが、引継が発生してな」


 連続した一連のクエストイベントの場合、経験値や報酬を得て精算した後に、次回のヒントやトリガーアイテムが残されることがある。

 私はクエストよりもついついゲームシステムを解きほぐす方に興味が行ってしまいがちで、クエストは必要なアイテムを手に入れる為の関門として捉えていたが、謎解きに失せ物探し、簡単なおつかいから戦闘オンリーのダンジョンクリアクエストまで、プレイヤーを飽きさせない工夫はそこかしこに見られた。


「これなんだが、わかるか?」

「……ベタですけど、暗号ですか?」

「数字ばっかり……」

「これを読み解けってことか?」

「おやっさんと二人、頭捻ったんですがどうにも解けなくって」

「……ふむ」


 サンマが取り出した小さな紙片には、数字が並んでいた。



 31 24 22 23 44 23 34 45 43 15



 1から5までの数字が二つ一組、全部で10個。

 もちろん、見ただけで解るはずもない。


「『剣と魔法のサーガ』は俺も大概長いことやってるが、このパターンは初めてだ」

「わたしも初めて見ます」

「なんだか、推理物のアドベンチャーゲームみたいですねえ」

「サンマ、他にヒントはないのか?」

「今日のクエストの最後に出会ったNPCから、『ここに行け』と渡されてな。

 ……さっぱりだ」

「『ここ』……っていうことは、場所なんですね」

「地名かな?」

「可能性は低いが……ないとは言えない。

 元はと言えば王都のクエストの途中で得られた情報から、このガイトルに来たからなあ。

 引継クエストだから、この街のどこかか、最悪でも近隣の街ぐらいまでだとは思うんだが」


 再び数字を眺めてみる。


 使われているのは1から5までの5種類だけで、6から9と0がない。

 単純に見れば組み合わせは5の5倍で25通り、普段使うものではないが、概念としては5進数の二桁が一つ組と言えるかもしれない。

 しかしこれではアルファベットにも足りないから、偶数個であることを考えて二つ一組の5文字と見立て、25の25倍で625通りか、ここにはない6から9と0も使うとすれば100通り……。

 

 それに鍵付きの暗号とは考えにくいから、恐らくはもう一つ二つヒントが手に入れば、自然と思いつくような単語の虫食いに変わるはずだ。


「お父さん、クイズ得意だったよね?

 わかりそう?」

「……他にも手がかりがいるな。

 まあ、暗号その物は難しくないはずだ。

 単純な換字式じゃないかと想像はつくけど」

「かえじしき?」

「あー……換字式暗号のことだ」

「ライカ、俺は暗号の種類までわからん。

 説明を頼む」

「ん。

 ……例えば、あいうえおの五十音表を用意して、『あ』のところに『み』、『い』のところに『か』、『う』のところに『ん』と、字をバラバラに入れ替えるとだ、暗号文が『あいう』なら、平文……元の文は『みかん』になるな。

 たぶん、この暗号なら『11』が何になるか、次の『24』が何になるのか、他のヒントから共通の数字を探していくんだが……」

「うわっ、大変そう……」

「これでも大昔から使われてる一番簡単な暗号なんだがな。

 一つの暗号が一つの文字や単語に対応するから、まだ分かり易い」


 適切なヒントがどこかに用意されているはずで、それを見つけさえすればアキにも解けるだろう。

 第一、解読その物がゲームの主攻略に繋がるのでないならば、適度な難易度が維持されているに違いないのだ。……それがヒントの分かり易さか暗号の簡易さかは、行き会ってみるまでわからない。


「だからまず、第一に探すべきは他のヒントだな。

 この暗号をじっと見てそのまま考えていても、たぶん答えは出ない」

「そうだったんすね……」

「フン、見事に引っかけられたってわけか」


 肩を落とす二人をまあまあと宥め、他に手がかりはないかと促す。


「もう一つの可能性も、ないわけじゃないんだがな。

 実は恐ろしく難易度の高い暗号だと仮定して、解読の鍵になる表や式、読めるNPCが別に見つかる可能性だ。

 全体を通せば、クエストとしての難易度は極端に難しくない……とは思うかな」

「なるほどねえ」

「もう二つほど、このガイトルでこなす予定の料理クエストがあるからな。

 そちらが横に繋がっている可能性に期待しよう」


 サンマは話を締めくくり、後は明日と馬乳酒のジョッキを呷った。




 翌日、アキとレモンは近隣のフィールドに出掛け、ルナは定期船の貨物枠を取得するクエストに挑み、私は私で新たな鍛冶レシピを得る為に街の鍛冶匠組合を訪ねた。サンマとコーリングは、もちろん料理クエストに向かっている。


 私の方はイベントですらないので、鍛冶匠組合で王都の組合では扱っていない《投擲具》のスキルを得て、ついでに《ダーツ》と《投げナイフ》のレシピを購入すると、本日の予定どころか旅程の目的が達成されてしまった。

 予算の都合とレベル不足で、こちらで売っている鉱石や素材は最初から慮外としてある。


「……さて」


 もちろん、余った時間は有効に使う。この為に私は急遽、《料理人》LV2を取得していた。

 話を持ってきたサンマに焚き付けられたようなものだが、この街ではコーヒー豆と、コーヒーを煎れるのに必要な道具が手に入るのだ。


 私は予め教えられていた、小さな喫茶店に向かった。

 裏通りに位置する間口の小さな店だ。知らなければ入ろうとは思わないだろう。


「……いらっしゃい」

「邪魔するよ」


 小さな編み上げ帽子を被った老店主に片手を挙げ、カウンターに陣取る。


「マスター、『深煎り』の『モカ』はあるかな?」

「……ないな」


 店主が小さく首を横に振ると同時に、システムウインドウがポップアップした。


<クエスト『コーヒーを手に入れろ!』を開始しますか?

 想定クリアタイムは2時間、ベストクリアタイムは記録されていません>


 私は内容を見て軽く笑みを浮かべ、イエスを選択した。

 注文時に『マンデリン』でも『ブルーマウンテン』でも、あるいは『粗挽き』でも『シティロースト』でも何でもいいので、煎り方や挽き方、豆の種類などのコーヒー用語を口にすると、クエスト開始のトリガーが引かれる仕組みと聞いていた。


「ご覧の通り、小さな店でな。

 いつもの仕入先に紹介状を書いてやるから、向こうで聞くといい」

「世話になる」


 私は老店主から便箋を受け取って店の屋号と位置を確認し、そのまま下まで目を通して……。


 少し、驚いた。


「……マスター、この数字は?」

「ああ、余所もんにゃ関係ないが、大昔に領主様から頂戴した大事な大事なこの店の番号だ。

 信用の問題でな、紹介状や契約書には記しておくものと決まっているのさ」


 紹介状には昨夜サンマから見せられた紙片と同じく、二桁の数字が10個ほど並んでいた。

 この数字の暗号は、この街のクエスト共通の手がかりなのだろうか?

 私はもう一度礼を言って、喫茶店を後にした。


 歩きながら、再び便箋を広げてみる。



 13 34 21 21 15 15 23 34 45 43 15



 数えてみれば11組の数字、今度は奇数個だ。これで先の暗号が4桁5組ではなく、2桁10組の暗号であると判断できた。

 それにやはり、6から9と0は使われていない。

 とりあえずメニューを開き、メモ帳に『裏通りの喫茶店《グノーシスの店》、紹介状』と書いて数字を写し取る。

 ……あちらの紙片はサンマが持っていったし、こちらでヒントが出るとは思わなかったので、メモを取っていなかったのが悔やまれた。




 今度は紹介状にあった、表通りに面した商店街の外れにある《南十字の夜空商会》と言う名の食料品店に向かう。

 迎えてくれたのは、少年の一歩手前ぐらいに見える子供だった。


「いらっしゃいませ!」

「店主はおられるかな?

 《グノーシスの店》で紹介状を書いて貰ったんだが……」

「申し訳ありません、父は仕入れに出ているんです。

 もうすぐ戻ってくるとは思うのですが……」


 ははあ、そういうことかと私は頷いた。

 おそらく、ここで何かイベントが起きるのだろう。


「待たせて貰ってもいいかな?」

「はい、もちろん」


 待つ間に店内の品物を見て回る。

 小さな瓶が並んだ棚は調味料や香辛料、その下の麻袋は麦や豆。冒険者向きの干し肉や乾パンも売られていた。

 だが肝心のコーヒーが見つからないのは、イベントに絡んでいるせいだろうか。

 

「毎度!」

「いらっしゃい、ファヒームさん」

「おう、坊主! 

 いつもの小麦30袋なんだが……おやっさんは?」

「仕入れに出てます」

「ありゃ、入れ違いだったか」


 ファヒームと名乗った農夫風の男は、ちょいと失礼と私に断り、店の隅に小麦の袋を積み上げて帰っていった。


「こんちはー」

「いらっしゃい、リズワンさん」

「店番ご苦労だな、カラフ。

 昨日頼まれてたヒツジ豆持ってきたんだが……」


 あっと言う間にヒツジ豆が20袋、追加された。


「おーい、バハシュはいるか?

 注文の岩塩、入ったぞ!」

「いらっしゃい、ラシェッドさん」


 今度は岩塩の入った樽がでんと置かれる。


「ういーっす、先週の注文の……」

「よ、待たせたな! 瓶詰めの馬乳酒なんだが……」

「おう、バハシュ。例の荷が……」


 入れ代わり立ち替わり、男達が現れては荷物を置いていった。

 既に店は品物で溢れ返り、少年がおろおろとしている。


「……」


 ……考えなくても解った。

 少年を手伝ってこれを片付けると、丁度店主が帰ってくるという筋書きなのだろう。

 嘆息一つで諸々をおさめると、私は少年に声を掛けた。




 半時間ほどかけて店裏の倉庫に荷を運び入れると、ようやく店主が帰ってきた。

 低頭する彼に紹介状を渡して、コーヒーの入手について訪ねる。


「おお、それはご迷惑をお掛けしました。

 うちの店で扱っているのはこちらの三種類です」


 奥から出てきたのは木札のついた麻袋───先ほどの倉庫にはその様な物はなかったはずだが───で、それぞれ『モカモカ』、『ルウェンゾリ』、そして……『ブラックモンブラン』。


 名前はいかにもゲームらしくつけてあるが、コーヒーの豆知識を多少でも知っていれば、どれが現実のどの種類に当てはまるのかは想像がつく。

 私は飲み較べもいいかと、全て1袋づつ買い取った。本格的な仕入れは、喫茶店を開く時でよいだろう。


 店主から新たな紹介状を受け取り、今度は道具を揃えに行く。

 ……文末にはやはり数字が並んでいたので、メモを取っておいた。




 次に向かったのは、大通りを数ブロック戻った金物屋《ファイサル商店》である。


 ……私も知識としては生活雑貨の中でも金属製品を主に扱う専門店だと知っていても、実際に町中で見かけたことなどない。

 昔はその様な専門店がそこかしこに溢れていたそうだが、集客の期待できるスーパーマーケットに組み込まれたり、あるいは実際の店舗を廃したVR店舗式の通信販売で事が済んでしまうようになってからは急速に廃れたと聞いている。


 店主に紹介状を渡すと、カウンターにすぐ品物が並べられた。こちらではイベントがない様子で、小さく安堵のため息をつく。

 安くない金額を支払って手に入った道具は砂時計、蓋のついた焙煎鍋、古典的な手回しミル、そしてイブリックと呼ばれるターキッシュ・コーヒー専用の煮出し鍋である。

 ドリッパーやパーコレーターなどは、聞いてみたが首を傾げられてしまった。……どうやら、別のクエストになるらしい。


「ふむ、おいしい煎れ方なら……そうですな、この街には名人が居るから彼に聞くとよろしい。

 紹介状を書かせて貰いましょう」


 こちらでは道具こそ手に入ったが、《レシピ》はもう一つ先にあるらしい。

 面倒だが複雑なクエストでないだけましかなと肩をすくめ、豆と道具を手に入れた私はまたまた数字入りの紹介状を手に、クエストのスタート地点である《グノーシスの店》へと足を向けた。

 



「うむ。

 では秘伝を伝えよう」


 これで最後だろうなと、老店主に紹介状を見せる。

 私はカウンターの内側に招き入れられ、実際に道具を並べてコーヒーと向かい合った。



「まずは豆を煎らねばならない。

 焙煎鍋を火に掛けてみなさい。……豆の量は二人分なら二つかみだ」


「浅煎りなら《砂時計》一回分、普通なら二回、深入りなら三回だ。

 今は普通でよいだろう」


「ようし、いいだろう。

 次はこいつを挽くんだが、粗挽きなら10回、普通は20、細挽きなら30。

 《イブリック》の時は細挽きだ」


「分量の粉と水を入れて、沸騰したら火から外してかき混ぜる。

 好みによるが二、三回だ」


「最後は静かにカップに移す。

 粉が沈んだら飲み時だ」


 言われるままに『モカモカ』の袋を開け、砂時計をひっくり返し、鍋を振り、ミルを回し、イブリックを火に掛ける。

 恐らくこの手順は、《レシピ》を使ってコーヒーを煎れるときと同様の物だろう。


「うん、初めてにしちゃ上出来だ。

 お前さん、スジがいいぞ」


 老店主が頷くのを横目に、私も一口味わってみる。

 慣れた味とは言い難い。だがしばらく振りのコーヒーに、ふっと息を吐く。


<おめでとうございます。

 あなたはクエスト『コーヒーを手に入れろ!』をクリアしました。

 レシピ《ターキッシュ・コーヒー》を入手しました。

 クエスト『コーヒーを手に入れろ!その2』の開始条件が満たされました。

 王都キャステリア《ヘレフォード卿の屋敷》の門が解放されました。


 あなたは1人目のクリアプレイヤーです。

 ファーストクリアボーナス《アミラのイブリック》を入手しました。


 クリアタイムは1時間25分55秒、ベストタイム更新です。

 レコードボーナス《アイマンのコーヒーカップ》を入手しました>


「一人目だったのか……」


 サンマ本人でなくともコーリング君あたりがクリアしているかと思ったが、クエスト優先順位の関係か、それとも《おおかみのす》の元マスターとして気遣ってくれたのか、私に回してくれたようである。

 思ったよりも時間は掛かったものの、私は得られたボーナスに気をよくして、《グノーシスの店》を後にした。




 落ち合う先になっている宿屋の一階には、まだ誰も帰っていなかった。

 アキとレモンは夕暮れぎりぎりまで粘るだろうし、ルナやサンマはクエスト次第である。

 私は果実酒を注文し、今日クエストで得た数列のメモを見ながら少し考え込んでいた。



 まず第一は《グノーシスの店》、喫茶店である。


 13 34 21 21 15 15 23 34 45 43 15



 次に《南十字の夜空商会》、ここは食料品の小売店だ。


 22 42 34 13 15 42 54



 最後に金物屋の《ファイサル商店》。


 23 11 42 14 52 11 42 15 43 44 34 42 15



 共通の字組が幾つかあった。

 これを順に潰して行くのだが、手がかりは店の名、あるいは種類になるだろうことまでは想像がつく。


 ちびちびとグラスを傾けながら考えていると、ルナが二番手で戻ってきた。


「ただいまです、ライカさん」

「おー、おかえり」

「……あれ、ライカさんも数字に行き当たったんですか!?」

「うん!? ルナもか?」


 戻ってきたルナと顔を見合わせる。

 これは案外、簡単に行き着けるかも知れない。

 ヒントの数があればあるほど、その道のりは楽になるのだ。


「あたしのはこれです。

 船荷を一時預かりする倉庫でしたよ」



 ルナの引き当てた、《セイフ商会》の倉庫。


 52 11 42 15 23 34 45 43 15



「……喫茶店と後ろ5つがぴったり同じだな」

「そうですねえ」

「○○商会とか△△店って意味かな?

 いや、それだと《南十字の夜空商会》も同じ5つになるはずだし……」



 私はサンマにメールを送り、昨日写し忘れた数列を取り寄せた。


 

 31 24 22 23 44 23 34 45 43 15


 返事にはもう一つ、サンマが今日得た数列も添付されている。

 こちらは《砂の十字路亭》という名の『酒場』とわかっているらしい。


 12 11 42



「……酒場はずいぶんみじかいですね。

 『さ・か・ば』なんでしょうか?」

「うーん、どうかな?

 それよりこの部分だな。

 元の暗号と共通だ……」

「ですねえ。

 23、34、45、43、15って、これが大事なヒントっぽい?」

「ああ。

 それにやっぱり、数字は1から5の五種類ってのも無視できないな」


 この五組の数字が日本語の『しょうてん』や『しょうかい』なら話は簡単なのだが、《南十字の夜空商会》が邪魔をしているし、圧倒的に数が足りない。


 次に考えたのが、ローマ字だった。

 この『剣と魔法のサーガ』は日本自治州向けのゲームであり、小学校で英語より先に習うローマ字の表記は、参加者最年少の12歳の子供でも読めると考えられる。

 特にローマ字では、QやXはほぼ使わない。25通りあれば、十分に足りるのだ。

 しかし……SHOUTENでもSHOUKAIやSYOUKAIでも字余り、MISEなら足りない。

 KISSATENのTENも無理なようである。


 ならば英語───時に共通語やコモンとも呼ばれる世界語───と行きたいところなのだが、25通りではアルファベットに不足で、喫茶店はCAFEやCAFETERIAで11文字に足りず……しかし、この21と15の重なりは同じ文字だから何か……。


「あ!」


 思いついた単語を当てはめれば、都合良くアルファベットがはまり込んだ。

 喫茶店とは、幾種類もの軽飲食店の総称だと気付いたのだ。

 私はメモに書き取りを始めた。

 ……通りでテーブルを並べて飲み物や菓子を出す店とケーキと紅茶がメインの店、あるいは『珈琲専門店』では、異なる英単語で表現もされることもある。

 それに、小中学生でも習いそうな単語……いや、日本語表記ならば、もっと小さな子供でも意味は理解できるだろう。


「なんかわかりました?」

「うん、どうやら英語がベースらしい。

 ……ルナ、英語で倉庫ってなんだっけ?」

「えーっと、共通語はちょっと苦手で……。

 そうだ、姐さん!

 姐さんは確か、英語もドイツ語も滅茶苦茶得意なはずですよ!」

「確か、12歳までヨーロッパ暮らしって言ってたな。

 ……よし!」


 私は素早くメールを書き上げ、レモンに送りつけた。

 『風呂屋』と『銭湯』のような言い換えがあれば、それも教えて欲しいと付け加えるのも忘れない。


 待つことしばし。

 戻ってきた解答を見て、ルナと二人で答えへの手がかりとなる表を埋めていく。


「なるほど……」

「レモン抜きじゃ、こうも早く埋まらなかったな。

 金物屋なんて俺も単語までは知らんし、翻訳機なしじゃどうにもな。

 よし、ここをこうして。……1個余るが、大筋で変化はないか」

「余っていいんですか?」

「……さあなあ。

 でも数字の方もまだ余ってるし、残りの1個は00なり空白なり使うんじゃないか?」


 出来上がった表は虫食いだが、法則性が見て取れたので残りを仮に埋めてやる。

 最後にサンマの持ってきた暗号を崩して完成だ。


「これって……」

「ああ。

 店じゃないけど、意味も通るし間違いないと思う。

 この街にもあったよな?」

「ええ。さっき港で見ましたよ」


 レモンの解答から数字をアルファベットに置き換え、共通部分をサンマの問題に当てはめると、私にも見覚えのある単語が出来上がった。


「ただいまっす」

「おう、さっきのメールってことは、なんかわかったのか?」

「おかえりなさい、サンマさん、コーリングさん」

「お疲れさん。

 ……解けたぞ」

「ホントか!?」

「マジっすかーっ!? ライカさん凄いっすね……」

「で、どこだったんだ?」



「『灯台』だ」



「灯台!?」

「……おお!」


 謎解きはあの二人がテーブルに着いてからにしようとサンマ達を座らせ、私は丁度戻ってきたアキとレモンを手招きした。




「……で、名探偵殿はどうやって謎を解いたんだ?」

「ヒントが沢山集まったからな。

 ちょっと小狡いが、大人のやり口って奴も利用したよ」

「ずるいんだ……?」

「うん、正攻法じゃないな」

 

 食事もそこそこに、私は解説をさせられた。

 皆も気になっているだろうし、出し惜しみをしても意味がない。


「まず、第一のヒントだな。

 対応する数列のわかっていた喫茶店、食料品店、金物屋、倉庫、酒場。

 このうち、暗号と共通する数列があるのは喫茶店と倉庫で、後ろの5組の数字が全く一緒だった」

「ふむ」

「同時に、全ての数列に1から5までの数字しか使われていないことで、共通した法則が成り立っていることもわかった。

 他のイベントのヒントだって可能性が消えたから、ここでかなり楽になったな……」


「第二のヒントは、アキだ」

「わたしっ!?

 ……でもわたし、何もしてないよ?」

「うん。

 でもな、この暗号はアキにも解けるはず……正確には、アキぐらいの歳でも知っている知識で解けるっていう前提が成り立った。

 参加者のほんの一握りしか解けないような問題は、たぶん出ないだろうなと踏んだんだ」

「それが『大人のやり口』ってことね」

「直接暗号には関係ないが、子供に解けないクエストは出せねえな」

「まあな。

 昨日、換字式暗号って断定したのはそれが理由だ。

 ついでにこのゲームに参加してる一般的な小中学生がわかる言語は、日本語と英語だけだからな。

 ……問題文がディアタンのモデルに合わせてアラビア語だったら、完全にお手上げだったよ。

 別のヒントを待たなきゃ解けなかっただろうな」


「第三のヒント。

 これは第一のヒントから発展させた部分かな。

 固有名詞か一般名詞か、集まった数列の長短から判断できた」

「えっ!?」

「こ、こゆう?」

「んー……アキちゃんなら固有名詞は『AKI』とか『アキちゃん』、一般名詞で表すなら『魔術師』とか『女性冒険者』、『エルフ』……あと、『プレイヤー』とかもそうね」

「……えーっと、一学期に習いました。……たぶん」

「話を戻すぞ。

 この数列だが、喫茶店の《グノーシスの店》は11個、食料品店《南十字の夜空商会》は長いのに7個、金物屋の《ファイサル商店》が13個。酒場に至ってはたった3個だ。

 固有名詞が入っているなら日本語でも英語でも、《南十字の夜空商会》が一番長くならなきゃいけないはずなんだが、そうじゃなかった」

「確かに、理屈だな」

「そんなとこまで考えるんだ……」

「お父さん、クイズ好きだもんね」


 ここまでがヒントなら、後半は解答である。


「これで一般名詞だと判断できたからな。

 あとは数打ちゃ当たるで、当てはまりそうな日本語と英単語を思いつく限りあてはめて行った。

 アキ、喫茶店は英語でなんて言う?」

「えーっと……カフェ?」

「うん、正解。正確には元はフランス語らしいけど、蘊蓄はまた今度にしよう。

 でも、CAFEなら11文字にはちょっと足りないな。

 他には思いつかないか?

 カフェ、カフェテリアの他にも……珈琲の専門店ならどうかな?」

「うーん……コーヒーショップ?」

「惜しい。それだと10文字なんだ。

 でも頭の6文字は、COFFEEで正解。

 ほら、2つの21がF、2つの15がEで、丁度FFEEが当てはまりそうだ」

「あ!」

「なるほど、COFFEEか」

「21と15が重なってたのがよかったんすね……」

「これだと後半の34と15も埋まりますね?」



 13 34 21 21 15 15 23 34 45 43 15


 C O F F E E * O * * E



「うん。

 これで喫茶店の数列がCOFFEE*O**Eだってところまではわかった。

 後は頭にCOFFEEとついて、喫茶店って意味と矛盾しない単語を思い浮かべて行ったら……っていうかすぐに思いついた」

「おおー」


 メモ帳の答えの部分を皆に示す。



 13 34 21 21 15 15 23 34 45 43 15

 C O F F E E H O U S E



 喫茶店《グノーシスの店》の数列を英単語と並べてみれば、一目瞭然であった。


「コーヒーハウス。

 ……もっとも、レモンが居なきゃ、もうちょっとヒント集めに走り回ってたかも知れない。

 教えて貰った金物屋のHARDWARESTOREが丁度13文字、これで一気にCOFFEEHO*SEまで埋まったからな」

「お役に立ててどーもっ。

 でもライカくんのことだから、帰る頃には暗号解けてるとは思ってたけど、ほんとに解いちゃうんだもんなあ……」

「ね、言ったとおりだったでしょ、レモンさん」

「数列と単語の文字数が合致するなら、まあ正解だろうなと……」

「でもライカさんが凄いのは、ここからですよね?」

「うん?」

「ライカさんね、みんなが返ってくる前に、ほぼ完全な対応表作っちゃったんですよ」

「うっそー!?」

「……そんな難しいもんじゃないし、皆が集めてきた数列とレモンの単語表のおかげで、大体答えが見えてきたからな。

 喫茶店のCOFFEEHOUSE、食料品店のGROCERY、金物屋のHARDWARESTORE、倉庫のWAREHOUSE。

 酒場は3文字でPUBかBARか迷ったんだが、他の単語のおかげで*ARだとすぐにわかった。

 で、これをアルファベット順に並べてみると……Aが11、Bが12、Cが13と、わかりやすい法則性が見えてくるかな」


 ついでに言えば、数列に使われているのが2桁の5進数なら、5掛ける5の表に出来る。



 挿絵(By みてみん)



 確定した文字だけを入れた解読表を皆に見せると、納得してくれた。


 ……アキのような中学生にも理解出来る暗号でないと、間口の広いRPGのサブクエストとしては成り立たない。

 逆に普段使わないか、翻訳機のおかげですっかり忘れている大人達の方が苦労するようなクエストかもしれないと、私は顔も知らない開発者の意地悪な笑顔を思い浮かべようとしてみた。


「ま、ともかくだ。

 ここまで埋まると、あとは予想がつく場所を潰していって……こうなるわけだ」



 挿絵(By みてみん)



「結局、Kだけはわからなかったが、本筋には関係ないから放置してある。

 でだ、この表で最初の暗号を解読すると……」



 31 24 22 23 44 23 34 45 43 15

 L  I  G H T H O U S E


「ライトハウス……灯台だね」

「単語自体はあたし聞き覚えもありますね。……うろおぼえですけど」

「とりあえず、明日灯台まで行って確かめてくれ」

「おう、すまんな。

 ……ふはは、これで米が手に入る!」

「やっぱ、ライカさん達頼りにしてよかったっす」

「なにっ!?」

「お米のごはん……期待させていただきます」

「昨日と今日で一通りの香辛料とレシピもあるからな、カレーが作れるようになるはずだ。

 帰ったら、みんなで食おう」


 にやっと笑うサンマに、皆の目が輝いたことは言うまでもない。

 粒の飯は久方ぶりである。




 翌日、私はアキとレモンに同行して外で冒険、サンマとコーリング君は灯台、ルナはサンマの方で見つけたが後回しにしていた派生クエストを受け取りと、方々へ散った。


 私の方はレベル差がついたおかげか二人におんぶ抱っこでいいとこなしに終わったが、サンマ達の方は無事にクエストをクリアして、米の入手ルートを確保したようである。


 ……しかしだ。


 このゲームの運営は、やはり意地が悪いようだった。


「《インディカ米》だったとは……。

 これでは寿司が握れん」

「……カレーにはそっちの方がいいんでしょうけどねえ」


 私のコーヒーが《ターキッシュ・コーヒー》であったのと同じく、米の方にも《ごはんを食べよう!その2》という新たなクエストが発生し、サンマとコーリング君はかなり落ち込んでいた。


「まあでも、いいじゃないか。

 今回のクエストでは確実に一歩、米の飯に近づいたわけだし……。

 それに洋食屋なら、カレーはつきものだろう?」

「品書きは増えるし来てくれるお客も喜ぶだろうがな、なんとなく納得がいかんのだ」


 指で寿司を握る真似をするサンマに、私はやれやれと肩をすくめた。


 明日もう一日、サンマ達は予定のクエストをこなすが、それにて旅程は終了となる。

 王都ではまた、鍛冶場で材料と向き合う日々が待っているだろう。

 アキやレモンとものんびり過ごせたし、コーヒーも……まだ先は長そうだが取っ掛かりが出来た。

 無理矢理引っぱり出されたこの旅行は、私にとっても有意義な旅になったと言えるだろう。

 たまには全ての手を止めて息を抜くのも、よいものである。




 ▽▽▽


 おまけ お父さん(とレモンさん)には見せられないわたしの日記帳(43日目)


 ▽▽▽



 サンマおじさん、コーリングさん、ルナさんとはパーティー組んでないのでレベルと装備はわかりません。

 ……みんな30から40ぐらいなのかな?



お父さん(ライカ)

 

 種族:《狼人族》LV35


 職業

  《戦士》LV3/《片手剣》《突き》

  《鍛冶匠》LV4/

   鍛冶技能《手入れ》《修理》《精錬》《採鉱》《分解》

   作成技能《片手剣》《小刀》《生活用品Ⅱ》《農工具》《金属鎧Ⅱ》《投擲具》

  《料理人》LV2/《菓子》《飲料》


 装備

  《ロング・ソード》攻撃力[8]

  《黒兎のヘルメット》防御力[1]

  《牛皮のソフト・レザー》防御力[5]

  《イゼンア鉄の小盾》防御力[5]

  《トカゲ皮のブーツ》防御力[2]



レモンさん(レモンティーヌ)


 種族:《人間族》LV44


 職業

  《戦士》LV7/《片手剣Ⅱ》《盾》《突きⅡ》《払いⅡ》

  《裁縫師》LV1/《補修》《普段着》


 装備

  《ロング・ソード[+1]》攻撃力[9]、クリティカル[+1]

  《小青玉のサークレット》防御力[2]、耐性[+1]

  《黒鉄のチェイン・メイル》防御力[12]、敏捷[-2]

  《タンコ鉄の中盾》防御力[9]

  《狐のブーツ》防御力[2]、回避[+1]



わたし(AKI)


 種族:《エルフ族》LV37


 職業

  《魔術師》LV5/

    《プチ・ファイアⅡ》魔法攻撃力(火)[12]、《プチ・アイス》魔法攻撃力(氷)[10]

    《エナジー・アロー》魔法攻撃力(無)[20]、《マジック・ウェポン》魔法攻撃力(無)[+10]付与

    《スリーピング》攻撃強度[15]、難易度[0]

    《アンロック》、《トラップ・サーチ》、《ガード・チャイム》

    

  《薬草師》LV2/《薬草学》、《ポーション作成》、《調香》


 装備

  《アルト樹のワンド》成功値[+1](エナジー・アロー、スリーピング)

  《マジック・リングⅢ》(プチ・ファイアⅡ、プチ・アイス、マジック・ウェポン)

   /《マジック・リングⅢ》(アンロック、トラップ・サーチ、ガード・チャイム)

  《流れ星の魔法帽》防御力[2]、魔法防御力[+2]

  《白の魔法衣》防御力[3]、魔法防御力[+4]

  《狐のブーツ》防御力[2]、回避[+1]




 たっだいまー!

 ディアタンから戻ってきたよ!

 今日は約束通りサンマおじさんにカレーライスをご馳走して貰ったんで、すっごいテンションあがってる!!

 おじさん照れてたけど、ほんとに美味しかったよー!


 というわけで、旅行は無事終了でーす。


 おっきい帆のついた木の船で片道3日……とは言っても、街道と同じで旅モードになるけど、海は海でちょっと楽しかったかな。

 暇つぶしにカードゲームとかしてたよ。……意外なことに、顔に出やすいレモンさんが超強かった。


 それにしても、いやー、旅行じゃお父さん大活躍だったよ。

 お父さんはいつも会社で難しいことしてるから、数字のクイズとかクロスワードパズルが得意なのは知ってたけど……。

 ほんとに解いちゃうんだねー。

 わたしは説明されなきゃわかんなかったよ。

 ちなみに次の日のサンマおじさんのクエストで、表からあぶれて残った『K』は、『121』だってことがわかったっけ。

 また次にディアタン行くときにはお父さんの暗号表が役に立つかもしれないので、全員でメモにコピーしたよ。


 ディアタンは海外旅行してるみたいで面白かったな。

 ウインドウショッピングもレストランも、王都と全然違った。

 他にも《デザート・スコーピオン》とか《サンド・リザード》とか、まあまあ強いモンスターも倒せたしドロップ品もいっぱいで、旅行の割には儲かったよ。王都で売る方が高いからって、ルナさんがおまけしてくれた。

 今度は東の隣国メリエフにも行ってみたい。


 そうそう、今日はカレーライスも食べたけど、コーヒーも飲んだよ。

 おじさんのお店の厨房借りて、お父さんが煎れてくれた。

 ちょっと濃いめだけど、美味しかったかな。特にね、香りはよかった。すこーし大人気分。

 トルコのコーヒーは粉がそのまま入ってるから、ちょっと飲みにくい。

 代わりに残った豆の粉で恋占いも出来るって、ルナさんが教えてくれた。

 あと、早くお父さんにはカフェオレが作れるようになって欲しいってお願いしといたよ。


 でもねえ……。

 お父さんは《料理人》取って喫茶店を本格的に……ってことじゃなくて、ただコーヒーが飲みたかっただけなんじゃないのかなって、レモンさんと顔見あわせたよ。


 一口飲んでは目閉じて『フッ……』って感じ。浸ってた。


 ……たぶん、間違ってないと思う。



 追記。

 実はディアタン旅行で、わたしとレモンさんも新しいクエストを見つけたんだよね。

 剣と魔法だけのコンビじゃないのよー! ……なあんて、カッコつけてみたりして。

 まだ二人だけの秘密だけど、頑張ったら……ふふふ、『いいもの』が手にはいるかもしれないのです!






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