第五話「父と商人と大将の事始め」
王都東門の前で、私たちは王都に残る私とルナ、旅立つアキとレモンに別れて立っていた。
家の玄関よりも外で娘を見送るなど、中学校の入学式以来だ。
感慨深げにアキの姿を眺め、私は一人頷いた。
アキの頭を撫で、レモンと目を見交わして頷き合う。
レモンも昨日の今日では、私の側に寄る程度が精一杯、ガイトル行きをやめると口に出さないだけの分別は彼女にもあった。……そのような部分もまた可愛いところだが、それはともかく。
「二人とも、無理はするなよ?」
「はーい。
……レモンさん?」
「あ、うん、えへへ……。
お見送りありがと、ライカくん。
じゃ、じゃあ行って来るね。……毎日メールするからねー!」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい、姐さん! アキちゃん!」
ガイトルに向けて歩き出すアキとレモンを見送った私は、自分の装備を確認するとルナにも軽く手を挙げ、そのまま狩り場に向かおうとしたのだが……。
「さてと、俺も《北の荒れ野》に……」
「ラ・イ・カ・さん、逃がしませんよ?」
「うん? 何のことだ?」
ルナにがっしりと腕を掴まれ、引き留められてしまった。
彼女はアキと同程度の小柄な女性だが、今に限って妙な迫力がある。
「何のことって、とぼけてもダメですよー!
何ですか姐さんのあの幸せそうな顔!? あんなにとろけて……。
あたしも大概姐さんとはつき合い長いですけど、ここまで機嫌いいところなんて、これまで一度だって見たことないですよ。
だいたい、あたしどころかアキちゃんのことすら目に入ってないし、昨日のアレの直後ですから、これはもう、原因はライカさん以外に考えられません。
……で、何て言って口説いたんです? それとも姐さんの方から押し倒したとか?」
女性にとって、それは最大の娯楽と言われるだけあって、ルナもその嗅覚を最大限に発揮しているようだ。
この熱意は、是非とも他に振り向けて欲しいところである。
「どうせ毎日メールでやりとりするだろうに。
今晩にでも本人から聞いてくれると助かるんだが……」
「ダメです。
気になって今日一日仕事になりませんよ。
さ、男らしく吐いて下さい」
《乙女部》の面々が恋愛話に目がないことは、嫌と言うほど知っている。
この場で誤魔化すのは無理と悟り、私は逆襲を試みることにした。
小手調べを放って彼女が食いついたところを、もう一撃して離脱。うん、これしかない。
「まあ、別に隠す気はないからいいか。
昨日部屋に送っていった時に、レモンと少し話をしたんだが……」
「……」
レモンとの会話の大部分───いつから好きで、どれだけ好きで、これまでどれほど想い続けてきたかを延々と語られ、私も彼女の気持ちを受け入れた───は端折り、にやりと笑って一番最後だけを口にする。
「狼はキスがしにくいと小言を言われた」
「……ほほう、それから?」
本当は追加の一撃に、『そうでもないぞと狼の長い舌を使ったら怒られた』と付け加える予定だったのだが、ルナの表情をからするとこれはどうにも分が悪い。
……下手にこちらから口を開くのは愚策だ。
「そ、そういうことなんで、あんまりレモンの事はからかわないでやってくれ」
「あ、ライカさーん!?
……帰ってきたら、続きを聞かせて貰いますからねー!」
運良く逃げることが出来たというより、見逃して貰えたという体だったが、私は今度こそ城門の外へと歩き出した。
もちろん遊んでばかりはいられないので、私はフィールドに着く前に頭を切り換えた。
このゲームでは初となるソロでの戦闘に、気を引き締める。
慣れが先かと、いつもの《北の荒れ野》でトカゲを狩ることに決めていたが、若干このあたりもパーティーが増えてきていた。
「ふんっ!」
出会うトカゲを一刀に切り捨てつつ、私は洞窟手前のかなり深い場所まで足を伸ばすことにした。
《リザード・プラント》には少々手こずるものの、命の不安が出る程ではない。数戦に一度、アキが置いていってくれた《HPポーション》で回復を行って体力を保つ。
「でやっ!」
パーティーからソロに鞍替えしたことで一戦ごとに入る経験値は倍になったが、少しの寂しさも同時に味わいつつ、私は機械的にトカゲを狩り、あるいは採集アイテムを拾い続けた。
この地道な作業こそが、明日の開花に繋がるのだ。
ルナが正式に店を開け、アキとレモンの旅立ちを見送って数日。
朝から夕方までフィールドに出て狩りを続け、夜はルナと情報交換をしながら食事。
部屋に戻るとエールを片手にメールを二通開くのが、日課になりつつあった。
『お父さんへ。
今日はガイトルの近くにある《南の廃村》に行ったよ。
廃村って言う名前だけどフィールドで、《チャージング・ボア》っていう猪がいっぱい出てくるの。熊より強い猪とかどうなの? って思ったよ。
メインで倒すのはレモンさんだけど、今朝取った《スリーピング》の練習台にもしてるんだ。魔法が効くとちょー楽勝だよ。
お父さんはそろそろお店の準備で忙しいのかな?
わたしたちも頑張ってるので、お父さんも頑張って下さい。
じゃあ、お父さん。またねー!』
『ライカくんへ。
今朝、ルナから時間外のメールが来たんだけど……出発初日以来のものすごい長文の質問攻めって、ライカくん一体どんな話し方したの!?
もう何聞かれても黙ってて。お願い。心のHPがゼロになりそうよ……。
それから……帰ったら、納得の行く説明をきっちり聞かせてね? って言うか絶対に許さないから!
あと、アキちゃんとの二人旅は順調だから心配しないで。
彼女、ほんとにプレイヤーとして伸びそう。
魔法の使い方に躊躇いがないのは、ライカくんの教育の賜物かな?
おかげで今日はレベルアップに専念出来たわ。
明日からはダンジョンでもいいぐらい。
でも……。
そろそろ会いに戻りたい、かな。
アキちゃんの前じゃ泣き言言えないから、ここだけにしておくね。
また明日。おやすみなさい、ライカくん』
ふんふんと頷き、一言二言つけくわえてメールを送り返す。
短い返事に筆無精だと言うことはとうにばれているだろうが、繋がりを絶やさないことが大事なのである。
それにしてもだ。
彼女たちのメール送信時間が毎日ほぼ同時というのは、何か狙って示し合わせているのだろうか?
……少々気になるところである。
そのようにして合計一週間ほどをソロの狩りに徹し、少し余裕が出来たかとアイテムボックスの中身を確認すれば、なかなかの充実振りに苦労が報われた気分である。
私は専業の戦士から足を洗い、開業の準備を始めることに決めた。
残念ながら開業はサンマに先を越されたが、あいつはあいつで苦労もある。
寿司屋にはなくてはならない《醤油》が、仕様の変更とやらで外国に出てイベントをこなさないとレシピが手に入らないのだとメールには書かれていた。
現在は仕方なく、修行と称して洋食をつくっているらしい。
宿に帰ってルナとの二人きりにも慣れてきた夕食後、アイテムリストを開いてこの二週間ほどを掛けて貯めに貯め込んだ《トカゲの肉》と《トカゲの皮》、ついでに《丸い小石》などの採取品を彼女に示す。
「ルナ、そろそろこれを頼む」
「うわ、流石にいっぱいありますね。
あたし、ちょっと今手持ちの現金が少ないんで……」
「開店直後だもんな、了解。
卸売りの時、一緒に行くよ。朝一番の方がいいかな?」
「はい、お願いします」
一部はアキと折半していたとは言え、合算すれば1500個を余裕で越える数だった。概算だが、大体4k……4000アグを少し越える金額になる筈だ。
「そうだ、ライカさんは《商人》取らないんですか?
ご自分で売られたら経験値も入るんですし、喫茶店もされるんでしょう?」
「あー、うん。
店を開く時には要るんだが、今は鍛冶伸ばす方に専念したい。
便利使いさせて貰って悪いけど、ルナが専業の商人だからな、私がやるより利益率もいいだろうしそれまでは任せるよ」
作業場の他に店まで持つならば《商人》職も必要だが、当分は卸売りに限定する予定だった。
当面は鍛冶仕事に集中したいという私の希望もあるが……武器屋にせよ喫茶店にせよ店舗まで同時に持つとなれば、もう一月ぐらいはトカゲ狩りに精を出さねばならない。
「じゃあ、えっと……4983アグで任されました」
「5kになるなら予定より少し楽になるな」
ルナは一瞬で計算して見せた。
アイテムリストを見ることで数は分かっても、《商人》職とは違って暗算技能は普通のプレイヤーには与えられていないし、時々の相場もわからなかった。
それにメモを取りながらメニューの計算機能を使うのはちょっとした面倒で、商人プレイヤーの『らしさ』演出にも一役買っているのだ。
「ルナの店の方はどうなんだ?
まだ落ち着いたわけじゃないだろうが……」
「概ね予定通りですけど、駆け出し向けの防具がちょっと不足気味ですね。
売れ筋は初級の真ん中あたりですけど、本気でライカさんにお願いしたいところです」
「そうなのか?」
「はい。
マイナス補正付きの失敗作でも、素材に戻さず持ってきて貰えると助かります」
装備する方もあまり嬉しくはないだろうが、例えば防御力[1]の《羊皮の小盾》しか持たないなら、防御力[3]の《鉄の小盾[-2]》のような現装備より優秀な失敗作は、真剣に財布と相談すべき『商品』となる。
「同等性能の店売り品より安い値付けが出来るなら、今は売れますよ」
「失敗作まで引き取って貰えるなら、出せる数が単純に増えるから売り上げは良くなるが……。
まあ、世間に装備が充実してきて、売れなくなったら引き上げればいいか」
駆け出しの鍛冶屋が、当初から高品質の品を量産するなど不可能だった。経験値取得とスキルの熟練度アップを兼ねた地味な作業こそ、職人プレイヤーの根気の見せ所なのである。
翌日、ルナに付き添ってNPC商店を尋ね、彼女から商品の代金を受け取った私は、その足で先日も尋ねた不動産屋に飛び込んだ。
「いらっしゃい。どうぞ?」
「鍛冶場に使える作業場を探している。
広さは中くらいの部屋1つでいいんだが、立地が南東街区の商業地区寄り……地図で言うならこのあたりで空き部屋はあるかな?」
「はい、もちろん」
「こちらなどは如何でしょう?
通りには面しておりませんが、ご希望の場所に近いかと」
私のある意味曖昧な要求も、システム側が思考制御を通して受け取っているおかげか、NPC店主にも上手く伝わっているようでなによりだ。
示されたのは希望通りルナの借りている店と同じ建物、表側は彼女の店になっているが、その奥まった部分だった。二階より上は貸部屋の並ぶ、典型的な賃貸物件である。
「広さは中程度の部屋でも比較的広い10スクエア、頭金は1200アグ、月々の家賃は350アグとなっております」
「借りよう。
手続きを頼む」
私は即決した。
予定よりも少し家賃が高くなったが、10スクエア───1スクエアは約1坪でこのゲームが日本産であることを小さく主張している───あれば当分は困らないし、ルナの店に近ければ近い方がいいという面からはほぼ最高の立地だった。
商品を卸しに行くのも楽なら、彼女に仲介料を支払って修理の仕事を取って貰うこともできるだろう。
私は頭金とひと月分の家賃を店主に支払い、代わりに契約書と鍵を受け取った。
その足で借りた部屋より先に向かったのは、中央広場に面した鍛冶組合である。
数日前にスキルの取得に訪れたばかりだが、それ以外にも、納品依頼や素材の販売、そして作業場の工事などもこちらで受け付けていた。
しかし残念なことに、鍛冶組合には受付嬢は一人も居ない。
カウンターでむっつりと座っているのはこれ全て髭面の《ドワーフ族》であり、私にはこれも鍛冶職不人気の一翼を担っているのではないかと思える。
「どうした、新人?」
「鍛冶場に炉の設置を頼みたい。
一覧表を見せて貰えるか?」
「うむ」
ぎょろりと私をねめつけたいかにも職人と言った風体のNPCドワーフは、節くれ立ったごつい手で手元の冊子を開き、価格、性能、設置スペース等が書かれた表を示した。
予算から当座の生活費と道具類や素材の購入費用を引いた残りは2000アグ、先ずは借りた部屋に設置できる炉の中では下から二番目の《見習いの炉》を選ぶ。
そしてもう一つ、鉱石やアイテムを素材に変える精錬炉。
こちらも安物だが部屋の広さと予算の兼ね合いもあるから、開業早々に良い物は手に入れられない。
冒険者の装備と同じく、良い道具は身に着ければプレイヤーの能力を補正する。良い設備は品目制限の解除の他に同じ作業でも効率や成功率が高くなった。
懐が暖かくなればもっと性能の良い炉に入れ替えるつもりだが、今はこれが精一杯である。
「よし、《見習いの炉》に決めた。精錬炉は《暗色の精錬炉》だ」
「二つ合わせて代金は1800アグだ。工賃も含まれている。
王都内なら明日には仕上がっているだろう」
「了承した。
住所はこちら、設置は部屋の北西の隅に南向きで頼む。精錬炉はその隣だ。
それから道具類なんだが……」
私は残りの予算から、ふいご、火かき棒、大小の鍛冶挟み、数種の《秘伝》など当初必要な道具類を手に入れて、別のカウンターへと回った。
「《普通の炭》300アグ分と《イゼンア鉱石》300アグ分が欲しい」
「今日の相場なら、それぞれ炭が100個に鉱石が150個だ」
「それでいい」
組合で売っている二種類の鉱石のうち、安い方を注文する。
相場は平価、今は心配事も価格より作成失敗の方に軍配が上がる。
……特にこのゲームは副題に『《戦乱の向こうに》』とついていたから、私も少々気にしていた。国同士の戦争で、NPCが売る商品の値段が変わることもあるからだ。
ただ、いつ来るともわからないイベントを気にしたところで、今は素材の買いだめが出来るほど余裕はなく、どちらにせよもう少し先の話になるだろう。
当座の鍛冶仕事に必要な物を買い揃えた私は、安物の椅子と机をNPCの経営する家具屋に注文して、ようやく自分の仕事場───表はルナの店でもある───へと足を向けた。
《雑貨屋ルナ》というシンプルな屋号の看板にちらりと目を向け、扉をくぐる。
「邪魔するよ」
「あ、ライカさん。
お仕事場、決まりました?」
カウンターの向こうでにこにこと手を振るルナに片手を挙げる。
開店祝いに遊びに来た時よりも、陳列棚が一つ増えていた。
ルナの店は表通りに面していて、私の作業場と同程度の広さがあった。
そこにセール品を置く平台や、武器防具をディスプレイする大型の陳列棚が並んでいる。内装はプレイヤーへの見栄えとしても大事だが、まともな経営を心懸ければNPCへの売り上げの方が大きくなるので、店主としても力の入るところだった。
「ああ。同じ建物の奥の部屋だ」
「まだ店舗ラッシュ前だから、選び放題ですもんね」
「そんなわけでな、こっちで手入れ依頼を仲介してくれると助かる」
「うちも売りが一つ増えますからありがたいですけど……率はどのぐらいで行きましょう?
鍛冶屋が増えて値下げ合戦が始まる前ですから、料金が八掛け、手数料が二割ってとこですか……?」
「会計も含めてそっちに任せる。相場次第で値下げをしてくれてもいい。
俺が覚えてる時代は、NPC鍛冶屋の半値が相場だったよ」
「ゲームが続くと安くなっていきますもんね」
「そういうことだ。
どちらにしても明日から頼む。
俺は部屋見てから、フィールドでもう一稼ぎしてくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
今はまだ昼にもなっていない時間だ。明日から鍛冶に専念することも考えれば、半日も身体を遊ばせておくのは少々勿体ない。それに生産職は実入りは大きいのだが、経験値の入手は低く押さえられているから、適度にフィールドへ出ることがバランスの取れた成長にも繋がった。
ルナの店を出た私は、店の隣にある、二階への入り口も兼ねた通路を奥に進んだ。薄暗い雰囲気と横手に伸びる階段は、雑居ビルのそれに近い。
「ふむ……」
突き当たりの木の扉の向こうが、私の借りた作業場だ。
鍵を開ければ、がらんとした土間の殺風景な部屋が一つ。
とりあえず、購入した椅子と机を隅っこに配置しておく。仮眠用のベッドは炉が出来てから買うつもりだ。
ふと思い立って、サンマ宛に仕事場を借りたとメールしておいた。
夕方遅くになって王都に戻った私は、ルナも誘ってサンマの店を尋ねた。場所は港に近く、先日寄った洋食屋の近所である。
招待はされていたのだが、アキとレモンが遠征に行ってしまったので訪問を先延ばしにしていたのだ。
だが寿司屋になるまで待つのもどうかと思ったし、明日からは鍛冶で忙しくなる予定で丁度いい機会でもある。アキとレモンを連れてくるのはまたの機会に譲るとしよう。
「今更ですけど、《スシ教会》のマスターと知り合いとか、身持ちの堅かった姐さんを一瞬で落としたりとか、ライカさんって意外に大物?」
「……そんなわけないだろう。
《狼人ホーム》は好き勝手やってたから、確かに有名なプレイヤーも多かったけどな。
俺なんて、のんびり鍛冶屋と喫茶店やってただけだぞ?」
「あやしいなあ……」
「いやいや、『M2』の頃から現役で続けてるレモンやサンマがすごいんであって、俺がすごいってわけじゃない。
だいたいレモンだって、俺がいいってだけで身持ちの堅さが変わったわけじゃ……」
私たちはそれぞれの言い分を相手に投げながら、港の方向へと向かった。
たどりつけば、思った通り小さな店だ。《洋食処・まつ風》と書かれた一枚板が下げてある。
私は暖簾の方が似合いそうな横開きの木戸を、きしきし鳴らしながら手で開けた。
「へい、らっしゃい……おう」
「よう。
……流行ってるな。待たせて貰っていいか?」
「すまん」
席はカウンターのみの六席、夕食には遅い時間だったが夜は飲み屋になるのだろう、ジョッキを手にした酔客で席の全てが埋まっている。
順調な滑り出しで何よりだ。
看板メニューは10アグの《トビコミ魚の塩焼き定食》。……どこが洋食かと思えば品書きに白飯と味噌汁の文字はなく、パンとスープになっている。
今の私に一食10アグは高いが出して惜しいとは思わないし、プレイヤーが店で出す料理としてはかなり安い。
しばらく待つとエールを飲み終えた二人連れのNPCが出ていき、私たちは席についた。
「で、そちらが噂の娘さんか?」
「いや、娘は出稼ぎに行ってる」
「む、失礼した。
《洋食処・まつ風》の店主、桑江田秋刀魚だ。サンマでいい」
「はじめまして、マスター・サンマ。ルナ・フィールドと申します。
『《魔界の入り口》』では、マスター・サンマの王都本店から一つ離れたフローレンス通りで《雑貨屋ルナ》をやっています」
「サンマでいいぞ。
その店なら知ってる。……あんたがこいつの言ってた商人さんだったのか」
「あたしもちょっと驚いたんですけどね」
初対面ではないが、お互いに名は知っているというあたりだろうか。
それぞれ店持ちで近所なら、接点はなくとも知っていて不思議はない。
「娘さんは次回に期待するとして……じゃあ、もう一人の《乙女部》ってのは誰なんだ?
こいつからは現役だって聞いたが……」
「レモンティーヌさんっていう《猫人族》の戦士です、ソロの。
最近だと、魔界の西方戦線で《第二の試練場》クリア者に名前出てたかな……?」
「……なるほど、『嫁き遅れの戦乙女』か。
《乙女部》と聞いて先に思いつくべきだったな」
「あのう……せめて本人の前では、『最後の戦乙女』か『ラスト・ヴァルキリー』って呼んであげてくださいね?」
「……」
それにしても、『嫁き遅れの戦乙女』。
《乙女部》が転じて戦乙女、そこから《乙女部》の終焉で『最後の』とついて、ああ、猫頭で年齢不詳の古参とくれば、身持ちの堅さも相まって……最後って意味のラストと錆び付いたって意味のラストは日本語表記だと同じで、そのうち混ざったか入れ代わったか……。
コーリング君が彼女のことに気付かなかったのは、彼にとって幸いである。
これもある意味私のせいなのかと、私は黙り込んで天を仰いだ。
それからルナよ、せめて『嫁き後れ』の部分ぐらいは否定してやってくれ。
……ああ見えてレモンは繊細なんだぞ?
「あ、でも」
「どうした?」
「もう『乙女』じゃなかったりして。
ね、ライカさん?」
「……ほう、案外手が早かったな。いや、狼だから前脚か?」
「そう! 正に送り狼でしたよ。
酔った姐さんを腕一本で抱き上げてですね……」
「ほほう、それで?」
「二つ隣の部屋に送っていっただけなのに、三十分は帰ってこなかったんですよ」
「おお、そりゃあ確かに送り狼だ」
「でしょう!
いやあ、姐さんにもようやく春が来たって、あたしも嬉しくてですね……」
「……」
話す手間が省けたと喜ぶべきか、はたまたサンマにまで余計なことを知られたと嘆くべきか。
にやにやとした視線をぶつけてくる二人に抵抗を続けた私だが、不利を悟って降参した。……傷口は少しでも浅い方がいい。
「……と、待たせたな」
「洒落と言うか……随分と皮肉が効いてるな」
「だろう?」
「無国籍料理……?」
それは確かに定食だった。
トレイに置かれた主皿には切り身の塩焼き、付け合わせにはキャベツの千切りとレモンが添えられている。
だが丼には丸いパンが盛られ、洋風っぽい貝のスープも汁碗、フォークとナイフの代わりに箸が置かれていた。
「王都でも和食器は手に入るんだ。不思議なことに、いくつかの和風レシピもな。
……ただ、醤油とか味噌、緑茶はまだまだ先になる。鰹節は俺のレベルが足りねえ。
しばらく洋食屋の看板は降ろせんよ」
「醤油はイベント絡みだって言ってたな」
「そうだ。
隣国で済むのか、その向こうの国まで出なきゃならんのか……。
コーリングが昆布を手に入れてきたが、アイツは今マリアレグに出てるからこっちも供給が止まってる」
「《フェルの昆布》ならありますよ?」
「おお、あとで20ほど譲って貰えるか?
《昆布茶》の在庫が頼りなくてな」
「毎度あり!」
昆布なら、王都にほど近い《海岸の白い洞窟》で手に入る。
私もアキと潜ったときに、《フェルの昆布》はドロップさせていた。
「ほう?
サンマ、《昆布茶》があるなら出してくれ」
「はいよ。
和食が恋しいなら、他にそれっぽいのは《カブの塩漬け》だな。
……まだ《レシピ作成》が取れないからな、昆布があっても和風の浅漬けにゃならねえが」
「ん?
今は《レシピ作成》なんてのがあるのか?」
「ライカさん、ご存じ無かったんですか?」
「鍛冶にも《秘伝作成》があったはずだが……」
「何っ!?」
『M2』当時はなかったはずだし、攻略掲示板でもそのような話題は見ていない。鍛冶をしようかと以前のゲームとの仕様を細かく見比べていた私が見逃すはずはなかったと思うのだが、現役ユーザー限定の掲示板の方で語られていたとすればお手上げである。
今更悔やんでも仕方がないかと、私は大人しく続きを聞くことにした。
「数こなすと自然に生まれる《レシピ》もあるが、《レシピ作成》はスキルだ。
それに、職業レベル20に加えて幾つかの関連スキルとか、イベントのクリアも必要だからな。
下手すると、このサーバーじゃ誰も達成できない可能性もある」
「流石に遠いですからね、20って。素で種族レベル210要りますもん」
「特に料理はな、物によっちゃあシステムから不可ってメールが来ることもある。
応対してくれた開発者の話だと、基本的には提携してる食品関連のデータベース会社からデータの融通を受けてるんだが、そのままじゃゲームにぶちこめねえそうだ。
おふくろの味なんて各家庭で違いすぎな上に、いくら不人気でも《料理人》LV20なんて何百人もいやがるんだ、ユーザー・リクエストが多すぎてシミュレーションとその後の調整が追いつかないらしい。
《○○家のカレー》なんて、今でさえ数十種類あるんだぞ」
「そんなに……」
「味覚や嗅覚は、触覚以上に後回しにされてきたからな。
このゲームにまともな料理が実装されたのだってここ数年だぜ。
まだまだ機械は人間に追いついてねえ……いや、人間が無茶を言い過ぎてるのか?
ま、そんなところだ」
時代は進むものだなあと、私は久しぶりの箸で塩焼きをつついた。
うん、確かに青魚の塩焼きだ。《トビコミ魚》……いや、飛び魚の味かどうかまでは自信はないが、そこまでは要求しない。
だが同時に、少し疑問も浮かんでしまう。このサーバー特有の問題だ。
「ん!?
しかし、この『《戦乱の向こうに》』は時間軸が現実世界から切り離されてるだろう?
データにない《レシピ》や《秘伝》の実装はどうするんだ?」
「さあな。
詳しくは知らんが管理側からも人は出てるし、間に合わせでも何でも、調整ぐらいは出来るんじゃないか?」
「ですねえ。
それこそお城には調整用のVRルームがあってスタッフが常駐してるって話ですし、王国高等法院の裁判長みたいに表に出てるゲーム・マスター……GMもいますからね」
「ま、時間軸は違ってもデータはすぐに余所から引っ張ってこれるだろうし、調整含めてゲーム内時間で《レシピ》実装までに二、三日かかるのはいつものことだ」
そうかと頷き、私はもう一杯エールを注文した。
……この一杯も紆余曲折と努力の末に、裏方さんが調整した一杯なのだと思えば感慨深い。
それにしても職業レベル20とは、なかなかに無茶な要求だ。
せっかくの機会なので私も《秘伝作成》とやらは試してみたいが、NPCの勇者様が最後の戦いに赴く前に辿り着けるかどうかは、二人の口振りから考えるに少々厳しいかもしれなかった。
翌朝私は、昨晩貰ったアキとレモンからの祝いのメ-ルに少々浮かれつつ、ルナと連れ立って仕事場に赴き鍛冶場を披露した。
既に《見習いの炉》と《暗色の精錬炉》が設置され、それらがあるだけで『らしさ』まで出ている。
「まあ、開業当初だからな。
現行作の方じゃもっと立派な鍛冶場も見慣れてるだろうが……」
「そうですけど……これはこれで楽しいですよ。
開業前の初級鍛冶場なんて、初めて見ますもん」
「なるほど、成熟期の現行作からすると逆に珍しいものになるか。
確かに、俺も『M2』の中盤、鍛冶屋の開業決めて以来だな」
アイテムボックスからぽんと《子犬の金床》と《小型のふいご》を取り出し、それぞれ使いやすかったのはどの位置だったかと、記憶を頼りに配置する。
「何か作ってみようか?
最低限も何も本当の一回目だから、下手しなくても失敗作になると思うが……」
「じゃあ……金属鎧で一番簡単なやつを」
「なら《鉄の胸当て》だな。
マニュアルで確認しながらにするか……」
《鍛冶匠》職を取った時にメニューのルールセクションに追加された項目を開き、ルナにも見えるようオープンにする。
「昔と比べてな、ちょっとだけ手順が変わってるんだ。先に見ておいて良かったよ。
最初に《イゼンア鉄》だな。
鉱石と燃料は、えー……『投入した材料の量と指示の元に所定の比率で素材化されますが、余りが出た場合は無駄になります』。
……ここは同じか」
「《裁縫師》の機織りだと、素材の無駄じゃなくて工程の方が止まりますね」
アイテムに加工すれば単に鉄としか呼ばれない《イゼンア鉄》だが、レベルの低い今は難敵ですらあった。
二つの炉は既に赤々と燃えていて熱気も感じるが、見た目だけで実際には待機状態だ。
用意した素材を放り込み、ふいごで風を送って火かき棒でかき混ぜることが作業開始の合図となる。
「ああルナ、時間掛かるから出来たら持っていくよ」
「じゃあ、あたしもお店開けに行きますね。
出来上がり、楽しみにしてますから」
「……期待しないで待っててくれ」
くすくすと笑うルナを見送った私は、以前と少々取り扱いが変わった精錬炉にとりつき、マニュアルと格闘しながら一時間ほどを掛けてようやく胸当て2つ分、10個の《イゼンア鉄》を手に入れることが出来た。
金属素材の中では一番の下級品だが、全ての精錬作業の基礎でもある。
組合では鉱石の他に精錬済みの《イゼンア鉄》も売っているが、買うよりも安いことと、《精錬》スキルも他の技能と同じように育てておかないと、中盤から後半に掛けて重要となる《魔法銀》や《王鋼》など高級素材の精錬に支障が出ることを私は知っていた。
「次はこっちか……」
鍛冶組合で買った《秘伝》を開き、作成手順と材料を再び確認する。
《鍛冶匠》にも《料理人》や《薬草師》に於ける《レシピ》に相当する《秘伝》というものがあって、作成条件や工程が記してありこれがないと仕事にならない。
出来上がったばかりの《イゼンア鉄》と炭を今度は《見習いの炉》に放り込み、火かき棒でぐりぐりとかき回す。
「この手間とスタミナの消耗さえなきゃな……」
しばらくして一塊りに変化した鉄塊を鍛冶挟みで取り出し、金床の上に乗せる。鍛冶挟みは左手に持ち替え、右手には補正のない素ハンマー。道具はいずれ変われど、これが基本の鍛冶スタイルである。
予定アイテムのパラメータを下げれば成功率は上がるのだが、一番最初の鍛冶仕事だ、品質はデフォルトのまま特に数値は修正しないことにした。
<25回鍛えて下さい>
インフォメーションの指示通りにハンマーを鉄塊に叩きつけると、僅かに素材が光り出す。
ステータスや《鍛冶匠》レベル、スキル上昇による補正があるので、《鉄の胸当て》など将来はハンマーで1回叩けば出来上がるのだが当初この回数を要求された。……だが、《鉄の胸当て》がハンマー数回で作れるようになる頃には、プレイヤーが初級装備を欲しがる時期も過ぎているから、結局は毎日何十回とハンマーを振るうことになる。
鍛冶はこの地味な作業の繰り返しだ。
実際の鍛冶仕事とは何もかも比較にならないほど簡略化されてはいても、剣と魔法で解決できる戦闘よりは、選ぶプレイヤーが少ないのは致し方あるまい。
だが、際限なく高品質の武器防具を供給できないからこそ、その価値は保たれるし、トップ集団が苦労の末に手に入れるレアドロップ品と競い合うように、我々職人も日々切磋琢磨する。
だからこそ、日々ハンマーを振るうのだが……。
<《鉄の胸当て[-1]》が完成しました>
「ふむ」
作成光と呼ばれる淡い光が薄まると鉄塊は消え去り、鈍色の、いかにも鉄ですと言った見栄えの胸当てが一つ、金床の上に鎮座していた。
既にいつでも装備できる完成された状態だが、裏地のあて布や皮の止め紐がどこから『生まれて』来たのかなどと野暮なことを言ってはいけない。
失敗だったが、初回にしては悪くない。……と思う。
大失敗なら素材の喪失もあり得たのだから、良しとしておくべきだろう。
「どれどれ……」
ステータスを開けば、数段階ある失敗の内でも防御力が[5]と並品より1低いだけで問題はなかった。これが防御力だけでなく、他の数値にまでマイナスの補正がかかるようだと、ルナには内緒で鋳潰していただろう。
逆に確率は低いながらも大成功の場合は何らかのプラス補正が付き、更に特殊な成功の『会心の出来映え』ともなれば、補正も大きいが一点物として作成者がアイテムに命名出来るのだ。……これが実は、密かな楽しみだった。
「スタミナの減りは鉱石の製錬と合わせて二割ほど……1日5個か。
こりゃ先は長いな……」
私はもう一度同じ作業を繰り返し、全く同じ《鉄の胸当て[-1]》を作成することに『成功』した。
「おーい、ルナ」
「あ、出来ました?」
店内に客が居ないのを確認して、カウンターの上に胸当てを二つ、でんと置いてやる。
「残念ながら失敗だったよ」
「えーっと、《鉄の胸当て[-1]》……いいんじゃないですか?」
「予定通りと言えば、まあ、そうなんだがな。
開業初日から贅沢は言えないけど、今日中に一度ぐらいは成功したいところだよ」
「防御力[5]なら十分ですよ」
早速二つとも引き取って貰う。
並品ならNPC売価200アグだがそこは失敗作、材料費の合計が1個70アグあたりになるのでよりも高ければよしと言ったところだ。
「売値は120ぐらいを考えてるんですが……利益五分五分の卸値80でどうでしょう?
防御力[4]の《熊皮のジャケット》が実売100ですから、今はこのあたりなんですが……」
「助かる!」
この調子なら、しばらくは鍛冶だけで回しても低いながら利益は得られそうである。
私は代金を受け取ると、早速次の仕事に取りかかることにした。
ショート・ソードに胸当て、小盾。時に鍋、鍬、銛、裁縫針。
開業して数日。
私は財布と相談しながら組合で売っている安い《秘伝》を次々に買い込み、レパートリーを増やしていった。
出来た上がった品は全てルナが引き取り、プレイヤーに売れない不人気商品もNPCの店に押しつけ……もとい、卸しているので、私としては楽をさせて貰っている。
「ちょっとは安定してきましたか?」
「悪くないとは思うが……まだ器用度の心配をするほどいいアイテムには手を着けられないし、今のところはスタミナがネックだな」
安い《秘伝》で作成できるアイテムは、売価も低いが難易度も低い。
それでも相変わらず、出来たアイテムには[-1]だの[-2]だの余計なものがくっついていたが、繰り返すごとに徐々に並品も姿を見せるようになってきた。
そして、並品で売り上げ金額が伸びて懐が充実すれば、補正のついた道具や設備を買えるようになる。まずはそこからだ。
「レモンには早く装備を作れとせっつかれてるが、正直いつになるかわからん」
「姐さん、もうLV35まで行ってますもんねえ」
「二人がガイトルに向かってそろそろ二週間か」
アキが《アンロック》と《トラップ・サーチ》を取得したので、時にダンジョンにも潜っているそうで、こちらも負けてはいられなかった。
おかげで罠付きの宝箱にも手が出せるから、レモンの方など獲物を《ロング・ソード[+1]》に変えたと嬉しそうに報告してきている。……私に早くまともな装備を作れと催促しているに他ならない。
「ライカさん、姐さんメールで泣き言言ってるんじゃないですか?
『ライカくんにあいたーい!』って」
「……。
割に意地っ張りなところもあるからな、ルナの方にだけ泣き言が書いてあるんじゃないか?」
「その間が怪しいですね?」
「ご想像にお任せするよ」
キリのいいところで王都に戻ると先日メールに記されていたので、あまり不用意なことは言えない。
にやにやと勘ぐるルナに肩をすくめ、私は昼寝をするために鍛冶場へと戻った。サボりというわけではなく、これも立派な仕事だ。睡眠でスタミナを回復しなくては、次の仕事に取りかかれないのである。
その夜、彼女たちから届いたメールを、嬉しさ半分、心配半分で眺める私だった。
『お父さんへ。
明日王都に帰るね!
レモンさんと頑張ったから、ルナさんが驚くぐらい稼いだんじゃないかな?
今日はお疲れさま記念でお風呂付きのホテルに泊まったよ!
《草原の狩人亭》10泊分のちょーリッチなお部屋だったけど、広くて豪華で感激だよ!!
はぁ……同じVRのベッドでも、上等だとこんなに柔らかいんだね。
夕食のワニ? も美味しかったし、お父さん、今度一緒に行こうね!
お風呂上がりでぽかぽかしてて眠いので、今日は短めにします。
おやすみ、お父さん』
『ライカくんへ。
アキちゃんとの初遠征、無事終了よ。
やっぱり彼女、伸びると思うわ。
ダンジョンまで入るつもりなかったんだけど、途中で予定の変更したのは正解だったみたい。
お土産いっぱいあるから期待しててね。
明日の夜には会えるから、詳しいことはその時に。
おやすみなさい、ライカくん』
そうか、もう明日かと、私は残りのエールを飲み干した。
正直、下積みが続く私の鍛冶生活は、順調だが花がない。
レモンの装備ももちろんだが、サンマに約束した包丁の為の《生活用品》作成技能のレベルアップと、需要の大きい防具類がどうしても仕事の中心になる。
見栄えのするアイテムを作れるようになるまでには、もうしばらくかかるだろう。
彼女たちが帰ってくる前に、一つぐらいは自慢の出来る逸品を作成しておきたいところだったが、これは次回に後回しかとため息をつき、短い返事を送った私は大あくびをしてからベッドに潜り込んだ。
▽▽▽
おまけ お父さん(とレモンさん)には見せられないわたしの日記帳(32日目)
▽▽▽
お父さん(ライカ)
種族:《狼人族》LV……いくつだろう?
今はわかんない
レモンさん(レモンティーヌ)
種族:《人間族》LV36
職業
《戦士》LV7/《片手剣Ⅱ》《盾》《突き》《払いⅡ》
装備
《ロング・ソード[+1]》攻撃力[9]、クリティカル[+1]
《小青玉のサークレット》防御力[2]、耐性[+1]
《黒鉄のチェイン・メイル》防御力[12]、敏捷[-2]
《タンコ鉄の中盾》防御力[9]
《狐のブーツ》防御力[2]、回避[+1]
わたし(AKI)
種族:《エルフ族》LV31
職業
《魔術師》LV5/
《プチ・ファイアⅡ》魔法攻撃力(火)[12]、《プチ・アイス》魔法攻撃力(氷)[10]
《エナジー・アロー》魔法攻撃力(無)[20]、《マジック・ウェポン》魔法攻撃力(無)[+10]付与
《スリーピング》攻撃強度[15]、難易度[0]
《アンロック》、《トラップ・サーチ》、《ガード・チャイム》
《薬草師》LV1/《薬草学》、《ポーション作成》
装備
《アルト樹のワンド》成功値[+1](エナジー・アロー、スリーピング)
《マジック・リングⅢ》(プチ・ファイアⅡ、プチ・アイス、マジック・ウェポン)
/《マジック・リングⅡ》(アンロック、トラップ・サーチ)
《流れ星の魔法帽》防御力[2]、魔法防御力[+2]
《白の魔法衣》防御力[3]、魔法防御力[+4]
《狐のブーツ》防御力[2]、回避[+1]
やっほーい!
ガイトルの街への遠征、無事にしゅーりょー!
ほんもののお風呂上がりでテンションあがってるんだよー!!
一泊80アグは伊達じゃない!!!
というわけで今夜はガイトル最後の夜、ちょっとこの遠征を真面目にまとめておこうと思う。
せっかく無理言って連れてきて貰ったんだから、わたしがしっかりしておかないと、レモンさんだけじゃなくて、送り出してくれたお父さんやルナさんにも失礼だもんね。
……ほんとに真面目にやるよ?
遠征前半。
最初はちょっと不安だったけど、レモンさん頼りになりすぎ。
初日のわたしとか、ただのおまけ状態だったよ……。
でもレモンさんは、後ろにわたしがいるから戦えるんだって、強さの秘密を教えてくれた。
一人だと、どうしても周囲に気を配らなくちゃいけない。
でも二人いればお互いの死角もカバーできるし、フォローも出来る。
お父さんも同じ様なこと言ってたなって思い出した。
最近、やっと意味が分かってきたような気がする……。
後半はわたしも新しい魔法に挑戦して、最初よりはすこしだけましな『弟子』になれたかな。
フィールドだけじゃなくて、ダンジョンにも挑戦。
ちょうどガイトル近くの《東の森の鍾乳洞》が攻略されて、ギルド支部の掲示板に出てたんだよね。
宝箱はわたしが任せて貰えた……って言うか、わたしが立候補して引き受けた。
宝箱の鍵開けには、《盗賊》のスキルか《魔術師》の魔法がいる。
レモンさんが盗賊技能を取ろうか迷ってたんだけど、取得イベントのクリアに一日潰れそうだって聞いて、お父さんと冒険行く時にも使うかなってわたしが取ることにした。
それからもう一つ。
わたしもレベルが上がったし少しいい装備に変えたけど、レモンさんがモンスターの相手を出来るかどうかが、このパーティーの限界を決める。
『戦術の切り替え』とか『連携乗算の法則』とか難しい理屈はわからないけど、前衛のレモンさんが倒されない限り、後衛のわたしは倒れない。倒れないということは魔法が使えるということで、少しの不利もひっくり返せる。
だからレモンさんが《戦士》職だけにスキルポイントを集中してより強くなる方が、二人『合計』の強さがアップしてお得になるんだ。
大魔法使いへの道は遠いけど、レモンさんが『魔法も剣もほんとは頭で使うものよ』って、的確な判断をするのが大事だって強調してたから、頭脳プレイで頑張ろうと思う。
こんなところかなぁ?
お父さんのセリフじゃないけど、地道に行きますのことよ……。
それ以外にも……女の子二人連れは目立つのかな?
わたしもついででナンパされたけどレモンさんモテ過ぎ。
外見はメイキングで操作できるし、おっぱいは盛れるからあんまり関係ない。だから、美人度よりも仕草かなって思う。
ナイフとフォークの使い方もお上品で綺麗。嫌味じゃなくて見習いたいし……っていうか、こっそり見本にさせて貰ってる。
レモンさんのお皿、音鳴らないんだよ。……どうして!?
中級手前の狩り場で今の最前線にも近いガイトルは、家族のパーティーは見かけなくて、若い男の人がほとんどだった。
パーティー組まないかっていうお誘いから、本物のナンパまで、最初の何日かは落ち着かなかったよ。
最初は軽くかわしてたレモンさんだけど、現行作『《魔界の入り口》』では有名なプレイヤーだったみたいで、名前が知れ渡るとナンパはされなくなった。
逆にレモンさんと知り合いで、うわさを聞いて挨拶に来た人もいたっけ。猫じゃないんですねって珍しがられてた。
……というかですね。
レモンさんはちょっと恥ずかしそうにしてたけど、向こうだと『最後の戦乙女』……ラスト・ヴァルキリーっていう二つ名で呼ばれてるんだよ!
すごいよレモンさん! ちょー憧れる!
ほんものの二つ名持ちプレイヤーとか初めて見たよ!!
しかもわたしとコンビ組んでる人だよ! 素敵すぎる!!
元のギルド《乙女部》の名前にひっかけてあるのかな?
女戦士だしぴったりだとわたしは思ったけど、レモンさんはあんまり嬉しそうじゃなかった。
……格好いいのに、なんでだろう?
そ・れ・か・ら!
あしたがすっっっごい楽しみ!
この二週間、レモンさんとはお父さんの話を沢山した。
わたしは、リアルのお父さんのことを。
レモンさんは、狼男のお父さんの事を。
初恋の人と再会して結ばれちゃうとか、やっぱりロマンチックだよ。きっかけわたしだし。
わたしは……お父さんとレモンさんが結婚しても、いいんじゃないかなって思っている。
お父さんが浮気したのなら、わたしは怒ってお父さんが嫌いになるかもしれないけどそうじゃない。お父さんは立派な独身だ。
お母さんのこと考えるとちょっと複雑だけど、再婚してるからいいのかな? だからお父さんもレモンさんも気を使わなくていい。
それにわたしも、一緒に暮らして楽しくやっていけると思う。
でも、そんな先のことはおいといて。
わたしもお父さんやルナさんに会えるのは楽しみだけど、お父さんの前でレモンさんがどんな顔するのかが……てへへ、早く見たくてしょうがないよー!
……隣見たら、レモンさんがふにゃふにゃの笑顔でメール送ってた。
うん、あれはお父さん宛で間違いなし。
わたしも恋人が出来たら、あんな顔しちゃうのかな?
見る分には可愛くてなごむからいいけど、ちょっと恥ずかしいかも知れない……。
よし、わたしもお父さんとルナさんにメールして寝ようっと。
おやすみなさーい。