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第四話「父と娘とそれぞれの進む道」

 


 《古王国の遺跡》そばのラネ村から王都に帰ったのはその日の昼過ぎで、帰還の報告とドロップ品換金のために私たちはまずルナの店に寄った。


 プレイヤーにとっては資産でもあるアイテムだが、そのままでは生活費には出来ない。……調子に乗って少々飲み代が嵩んだせいでもあるが、それはともかく、鑑定費用も捻出しなくてはならなかった。


「《古王国の遺跡》、どうでした?」

「うん、噂通りだったかな。

 今ぐらいのレベル帯なら一人で行けるのは第一層まで、運が良くても……ってところかしらね。宝箱も見かけなかったし。

 第二層の降り口で死にかけたわよ」

「三人いても危なかったからな」

「ガイコツ16匹はもういやです……」

「そんなに!?」

「一戦交えてる最中にもう一組、増援扱いでかち合ってしまったんだ」


 大量にある《キツネの皮》と《ネズミの皮》をルナに預け、査定を頼む。

 《蜂の毒針》はアキがいずれ解毒剤の材料にするだろうと彼女に持たせ、《キツネの尾》は服飾品に使うとレモンが買い取った。《壊れた剣》や《壊れた鎧》は、将来の素材として私の預かりである。


 レモンは均等な分配を主張し、私とアキは若干レモン多めぐらいが適当だと少しすれ違いはあったが、アキがレモンに何事か囁くと彼女はすぐに折れた。

 内緒と言われて中身は聞けなかったが、アキは時にレモンを押さえ込めるらしい。


「ルナ、王都はどうだった?」

「うーん、目立つニュースはまだないですね。

 《北の荒れ野》の奥で見つかった《海岸の白い洞窟》っていうダンジョンが、発見すぐに攻略されたぐらいでしょうか?

 ギルドの掲示板に貼ってありましたよ」

「へえ……近場にもあったのね」

「《古王国の遺跡》よりも攻略難度は低かったみたいです。

 ボスはもういませんけど今は場所も公報に載ってますから、ちょっと腕に自身のある人なんかが入ってるみたいです」


 ダンジョンの情報をプレイヤーに売ることは出来るが、入場料を取るようなことは出来ない。それにボス・モンスター討伐によるダンジョンクリアや連動したイベントによってゲームの進行度が上がると、ギルドや王国によって概略位置とボスの名前は公表される仕組みになっていた。


 もちろん、公表に繋がるボス攻略をせずに、モンスターのドロップ品や毎日更新される宝箱の独占に走っても良い。だが、誰かに先を越されて貴重なボスドロップを逃しても困るという心理戦にもなっているから、プレイヤー同士の駆け引きも重要だった。


「ねえ、ライカくん」

「うん?」

「開発側はそっちがファーストダンジョンのつもりだったんじゃ……?」

「かもなあ……」

「うそー!?

 そっちが良かったなあ……」

「あはは、アキちゃんには貴重な体験と言うことで」

「ルナさあん……」


 ルナには今夜また宿で詳しい話をしようと手を振り、私たちは代金を受け取って鑑定屋に向かった。


 王都にあるNPCの鑑定屋は一軒だけ、商店が立ち並ぶ東の街区の一番端の方である。


「いらっしゃい」

「失礼する。

 鑑定を頼みたい。アイテムはこの3点だ」


 私は《?ネックレス》、《?ロング・ソード》、《?スモール・シールド》と、3点の未確認アイテムをカウンターに並べた。レモンとアキはわくわくと、店主と私のやり取りを見ている。


「3品の鑑定なら150アグになるが、よろしいかな?」

「了解だ」


 私が預かっていた鑑定料金を支払うと、店主はもったいを付けることもなく淡々と鑑定を済ませた。

 NPC英雄が決戦で身に着けるような伝説級のアイテムだと、この店主も違った反応を見せるが……そもそも今の私たちが入れるようなダンジョンで、そんな品がドロップされるわけもない。


「首飾りが《真珠の首飾り》、剣が《ロング・ソード》、盾が《タンコ鉄の小盾》だな。

 次回もまた頼むよ」

「ありがとう」


 三人で順にパラメータを確認すると、《真珠の首飾り》に補正効果はなくただの装飾品、《ロング・ソード》は私の剣と同じものだった。


 贅沢を言えばきりはないのだが、まあこんなものだろうとも思う。

 《真珠の首飾り》の方はルナにでも見せないと値段は分からないが、《ロング・ソード》の方は売れば100アグにはなる。


「《タンコ鉄の小盾》は……小当たりかな。

 持ってる人は見たことあるけど、売られているのはまだ見たことないわ」

「レモンが使えよ。今の盾よりは上等だろ?」

「んー……私は嬉しいけど、いいの? 割と高いよ?」

「代わりに今使ってる《熊皮の小盾》を譲ってくれ」


 私の盾は店売りで一番安い物だが、レモンの《熊皮の小盾》はもう二段ほど上等の装備で防御力も高い。しかし私が彼女のお古を譲り受ければ、お互いに防御力が上がる計算になる。


 それに彼女は第一線に向かうことが多いし、少しでも防御力が高い方が私もアキも安心する。


「そういうことなら喜んで。

 じゃあ、《真珠の首飾り》はアキちゃんが持ってて。

 その内、似合いそうなドレスでもプレゼントするわ。

 舞踏会なんていうのもあるのよ?」

「舞踏会ですか!?」

「うん。割とすごいわよ。

 《裁縫師》や《細工師》にも一大イベントだからねー。

 モデルさんの引き抜き合戦もあるし、それからね……」


 《裁縫師》がどんな衣装を作れるのか、柄やデザインは、着心地は、材料はと盛り上がる二人に、ああ、やっぱり女の子だなと苦笑する。


「さー、これであとは《ロング・ソード》を売れば、分配も含めて一通りは終わったかしら?

 ライカくん、打ち上げはどうする?」

「打ち上げ?」

「そうよぉ。

 全員無事だったし、アキちゃんのダンジョンデビューおめでとうの打ち上げ。

 お祝いよ、お祝い」

「わたしのお祝いですか!?」

「……そうか、今は料理もまともに味がするから、打ち上げなんてのがあるんだな」

「そうそう。

 あ、先にルナに連絡入れておきましょ。

 《草原の狩人亭》で彼女だけ一人待ちぼうけは怒られるわ」


 残念ながらプレイヤーの経営するレストランはまだなかったので、NPCの経営する店での打ち上げとなったが、レモンの勧めた店だけはあり私たち父娘も十二分に満足した。

 惜しむらくは洋食続きで、久しぶりに醤油の味が恋しくなったことぐらいか。この店は鶏肉のパイ包みが美味かったので、誰かが店を開くまでしばらくは外食で世話になるかも知れない。




 《古王国の遺跡》から王都に戻った翌日。

 私は早速サンマこと桑江田秋刀魚を尋ねて王都の港に足を運んだ。

 大きな帆走軍艦から手こぎの漁船まで、桟橋の割り当てが決まっているのか、大きさの順にまとまって揺れている。


 ちなみにレモンは数日の予定で南方の街ガイトルへとフィールドの様子を見に出掛け、ルナは露天で平常営業、うちの娘は宿に篭もって《薬草師》スキルを鍛えていた。


「昔より賑やかなのはいいが……」


 NPCの数は市街地とさほど変わらぬほど、ベンチや荷車などのオブジェクトも数多く配置されている。

 港の外観はさほど変わっていなかったが、漁師プレイヤーにとっての冒険者協会とも言うべき漁協や王国海軍の本部など、私の知らない建物が増えていた。魚市場───『M2』当時は漁船の前で待つ漁師に声を掛けて直接交渉していた───も出来ていたし、《船乗り》向けのアイテムを扱う専門店も見える。


 失念していたがこの時間では漁に出ているかと半ば諦め気分も入りかけたところで、おそらくは仕事中───冒険者協会の依頼以外にもNPCに直接雇われて給与や経験値を得る事もできた───なのだろう、トロ箱を持った男性プレイヤーを見かけたので声を掛ける。


「あー、すみません」

「はい?」

「申し訳ない、クワエタ・サンマさんという名前の漁師プレイヤーを探しているのですが、ご存じありませんか?」

「いやあ、わたしは市場の方ばかりなんで、漁師さんはちょっと……。

 たぶん、あちらの漁協前の桟橋で聞かれた方が、可能性高いと思いますよ」

「ありがとうございます。

 お邪魔しました」


 同じ港でも、職が違えば交流も薄いらしい。そのまま少し先にある漁協を目指す。コーリングにもう少し詳しく聞いておけば良かったのだが、今さら悔いても時間は戻らない。


 冒険者ギルドに比べれば小さいが、倉庫に挟まれたそこそこ大きな建物───『キャステリア漁業協同組合本部』の前で私は立ち止まった。

 開け放たれた入り口から、少しだけ中を覗いてみる。


 ……プレイヤーがいなかった。


 途方に暮れたが、こうなったらNPCに聞くしかない。


「申し訳ない、人を捜しているんですが……」

「はい、こんにちわ」


 私は目に付いたNPC主婦に話し掛けた。

 NPC相手だからと、いいかげんな態度は出来ない。誰がイベントに関わってくるかもわからないし、評判がいいと反応も好意的になるのだ。

 難しいことは考えず、現実世界と同じように『普通』の接し方をしていれば問題なかった。


「漁師のクワエタ・サンマさんという方を探しているんですが、ご存じありませんか?」

「存じませんわね……。

 でも漁師さんなら、お昼前には一度港に戻ってくるんじゃないかしら?」

「そうですか、ありがとう」


 漁師は漁に出るものだ。時間帯で採れる魚もかわるだろう。

 私は主婦に礼を言い、時間を確かめた。正午にはまだ2時間ほどを余している。


 一度宿に戻ってもいいのだが、往復に半時間では微妙なところだった。フィールドに出るのも同様に時間がかかる。

 少しだけ思案した私は、見学がてら漁協へと入っていった。


 内部は幾つかのカウンターや依頼、掲示板と、冒険者協会と大差ない様子だった。

 『《ツキメ鰯》漁の手伝い』、『養殖場の餌係』、『《ナナイロ珊瑚》の採取』、『《イッカク鮫》の退治』と、漁協の名の通り、海関連の依頼が並んでいる。


 待つ間にアキから『ルナさんとご飯食べてきます』とメールが届いたので、後で落ち合おうと返事を返す。


 ならば時間は少し余裕が出来たかとしばらく暇を潰す内に、プレイヤーらしき漁師が入ってきた。彼が依頼の報告を終えるの待って声を掛けてみる。


 狼の頭に驚かれたところを見ると、このゲームに慣れていないプレイヤーなのかもしれない。ついでに言えば完全な獣頭は最近あまり人気が無く、ルナのように耳と尻尾でクウォーター獣人族を演出するのが流行らしい。


「ああ、サンマさんね。

 今日は同じ《トビコミ魚》漁の依頼だったから、あの人もそろそろ帰ってくるんじゃないかな?」

 

 それはどんな依頼なのかと聞けば、漁師の男は面白いですよと詳細を教えてくれた。

 《トビコミ魚》漁は、水中から飛び出してくる飛び魚に似た《トビコミ魚》を棒で船内にたたき落とすのだが、なかなかに素早くて難しいそうだ。

 また同じ依頼でも、プレイヤーは一艘につき一人、NPCの老船長と組んでそれぞれ違う漁船で海に出るらしい。


 軽い雑談の後、私が漁師に礼を言ってしばらく。

 やっとサンマが現れた。


 彼は筋肉質の大男なので、遠目でも一目で見分けがついた。

 それに何やら心に決め事があるのか、当時もせっかくのVR技術を使わず、顔も体も一切修正無しでゲームに参加していた猛者である。当人から聞いたので間違いない。


「おお、ライカか?

 コーリングから聞いて驚いたぞ。

 ……十六、七年振りになるか、久しぶりだな」


 右手を差し出してきたどう見ても五十代には乗っていそうな筋肉男に、私は相好を崩した。

 当時の面影を残しつつもずいぶん老けたサンマのごつい手を、しっかりと握り返す。


「……えらい老けたな」

「ずっとかぶりもんのお前に言われたかねえよ」

「体はサンマと同じで自前だぞ?」

「ふん、腹が出てねえところを見ると、それなりに鍛えてるってやつか」


 眉を少し上げたサンマは、子供が泣きそうな笑顔を作って凄んできた。

 私も負けじと牙を剥き出しにして笑う。


「ちょっと待ってろ。

 依頼済ませてくるから、メシでも食おう」

「はいよ」


 狼男と大男の二人連れ。

 異種族入り交じるゲーム内でも、サンマと連れ立って歩けばずいぶん目立ったなと、当時の、あるいはすっかり忘れていた余計なことを思い出しながら魚市場の裏手にある食堂へと歩く。


「そうだ、コーリングから聞いたぞ」

「うん?」

「嫁さんと娘、連れてきてるんだってな?」

「ああ。

 コーリング君には少し誤解があったようだが、娘は確かに連れてきた。

 と言うかだな、娘にせがまれてこのゲームに参加したんだよ」

「嫁さんは?

 えらい美人を二人も連れてたって聞いたぞ?」

「一緒にいたもう一人は嫁じゃないよ」


 不思議そうな顔をされても困るが、レモンは今のところ嫁でも恋人でもない。

 ゲーム云々は別として、お互いに、まあ……多少以上に好意的な関係ではあるが、その線引きは厳格にしておくべきだと私は思っている。


「昔馴染みでな、こっちでばったり会った。

 《乙女部》って覚えてるか?」

「名前だけはなんとなく、だな。

 確か女性限定のやかましいギルドだったか」

「そこの元メンバーでな、こっちも驚いたよ」

「大した偶然だ。

 ……ほれ、そこだ」


 顎で示された先には、NPCで賑わっている洋食屋があった。

 ここは洋風煮付けが旨いんだと、勧められるままに座った奥のテーブルで色の濃いスープに赤肌の魚がでんと乗った皿を受け取る。


「味は悪くないんだが、大概の食堂はメニューが少ないからな。

 俺も店が持てるまでは外食よ」

「そう言えば、リアルでも店持ってるんだってな。

 おめでとう、夢が叶ったじゃないか」

「ふん、もう十年も前の話だ」


 サンマの真似をして、フォークとナイフで小皿に取り分ける。

 見た目通りブイヤベースのようだが、日本自治州ではあまり見かけない魚で───ファンタジー世界とは言っても、そう無茶な食材は『極希にしか』出てこないので大丈夫だろうが───身は締まっていて味は鱈に近い。濃いめのスープとよく合っている。


「サンマは現行作の方でも《スシ教会》と店やってるんだって?」

「俺が居ない間は息子達に任せてる」

「ほう、息子さんたちも『剣と魔法のサーガ』をやってるのか?

 そう言えば俺が引退する前、二人目が生まれるって言ってたか」

「次の年もう一人生まれて、男ばっかり三人だ。暑苦しくてしょうがねえ。

 ……っと、まだ若造の手前にもなりゃしねえんで、リアルでスシは握らせられねえが、接客の練習にはなるからな。

 知ってるか?

 ゲーム内じゃあスシの味はデータ通りにしかならねえが、お客の好みを見ることと礼儀や挨拶ってのはリアルと同じ要求をされる」

「……なるほどな」

「だから風体を変えずにゲームをやってんだ。真面目に取り組みゃあ、見返りもあるってことさ」


 VR技術を利用した専用のシミュレータなど導入すれば相当な金額となるだろうが、ゲームならその数十分の一で同じ事が出来るわけだ。NPCに限らず老若男女ありとあらゆるプレイヤーも店を利用するのだから、サンマが得意げに笑むのもわかる。


「ん!?

 そうだ、嫁さんはどうしたんだ?

 娘連れてきたのに嫁はほったらかしで、その上別の女連れとは戴けんぞ」

「あー、去年離婚した」

「む……」

「『M2』引退の理由には、結婚ってのもあったんだがな。

 今は気楽な子持ちやもめだよ」

「で、たまたまこっちで見かけたその元《乙女部》のプレイヤーと、よろしくやってるってぇわけか?

 娘さんもかわいそうに……」


 私の口調に離婚は気にしていないことを感じ取ったのか、サンマはからかい半分ににやりと笑った。


「さてな……。

 ああ、彼女の後輩で、同じ元《乙女部》の猫人族商人の娘とも同じ宿取ってるぞ?」

「フン! いい年こいてどこのナンパ小僧だ。

 ゲームは真面目にやれ」

「羨ましいか?」

「ほざいてろ」


 当時はこれほど親しくもなかったはずだが、何故かサンマとの会話はテンポよく弾んだ。

 共通の体験や思い出が、後押ししているのだろうか。


「まあ、昔話はともかく……ライカ、お前は今何をやってんだ?

 やっぱり鍛冶屋か?」

「鍛冶屋はやりたいが、今のメインは稼ぎ重視で戦士だよ。サンマと同じで下積みさ。

 どうせ将来はフィールドの奥まで鉱石を掘りに行くことになるから、そこそこの力は必要だしな。

 娘が庭付きの一戸建てでペットを飼いたいらしいから、そこに鍛冶場と喫茶店と……いつになるやらわからん」

「開店は俺の方が早かろうなあ。

 最初はカウンター席のみの小さい店でいいからな」

「現行作の方じゃ大きい店なんだってな?」

「おう、お座敷まで入れりゃ百人は入る」

「そりゃすごい」


 王都市中でも繁華街に大店を構えるなら……現行作の不動産相場は知らないが、相当な資金が必要だろう。私など王都内での開店は諦めて、隣村のどこかにしようかと迷っているほどだ。


「どちらにしても、開店したら呼んでくれ。

 娘が行きたがってるし、俺もお前の料理を今度こそ口で味わいたい」

「……ああ、昔は見た目ばっかりだったからな。料理は五味が揃ってこそだ。

 実際、アップデートのたびに味も上がったり下が……本物に近づいてる。ああ、星一つ星二つってな具合で料理の出来にも差があるんだぜ?」

「ほう」

「もちろん、昔は昔なりに楽しくもあったが」

「違いない」

「本当はリアルの店に来て貰うのが一番なんだが、まあ、贅沢は言わねえ。

 店が持てたらイの一番に招待してやる」

「しばらく先になるが、開店祝いは包丁か何かの方がいいか?

 店はともかく、組合でも鍛冶場は借りられるからな」

「フン、期待してる」


 私とサンマはその後もしばらく雑談を交わし、互いの近況をもう少し詳しく教え合ってから、サンマは午後の依頼に、私はアキの待つ露天市場へと別れた。



 午後、落ち合った私とアキは、冒険を取りやめにして王都の繁華街をうろうろとしていた。

 休憩を兼ねた買い出しだ。一分一秒を惜しむほど、ゲームに支配されてはいない。


「懐に余裕があるっていうのは、いいことだな……」

「お父さんは金床? を買うんだよね」

「ハンマーもだな。

 これでメイスと金属鎧の手入れも出来るようになるから、最初は修理専門の鍛冶屋でもいいか」

「わたしは《三種調合器具》と《アンチポイズン》のレシピかな」

「魔法使いの装備はいいのか?」

「うん。

 ルナさんに相談したんだけど、無理して買うよりはレベルも一緒に貯めた方がいいって」


 屋台での買い食いに始まって、ルナの店で扱っていない《鍛冶匠》や《薬草師》の仕事に必要な道具類の買い出しと、並ぶ店を興味の湧くままにハシゴする。半分はウインドウ・ショッピングになってしまったが、ステータス上は意味が無くても着替えは欲しいし、ちょっと歩けば喉を潤したくなるものだ。


「そうだ、アキ」

「なに、お父さん?」

「冷やかしになるけど、不動産屋にも行こうか。

 目標金額だけでも見ておきたい」

「お庭はいるからね?」

「ああ、もちろん」


 情報投影の建物名に気を付けていても、視界内に無ければ店は見つからない。少し戻って十字路から見渡すと、NPC経営の不動産屋は別の通りに面して店を開いていた。


「いらっしゃい。どうぞ?」

「今日のところは冷やかしですまないが、相場を知りたくてな。

 頼らせて貰っても構わないかな?」

「ええ、もちろん。

 当店は王都一を自負しておりますので」


 王都に一軒しかない不動産屋に一番も二番もないのだが、そこは触れぬことにする。

 NPCの店長は丸眼鏡を拭いてから、冊子をテーブルに積み上げた。


「ご希望は?」

「店舗付きの一軒家で庭は広め。作業場もそれぞれ必要だな。寝室は最低二つ」

「お父さん、お風呂場とキッチンも」

「そうだな。

 店舗除いて部屋数は七、八ってところか」

「では……こちらなどどうでしょうか?」


 ぺらぺらと冊子をめくっていた店長は、一つの間取り図を示した。

 店舗付き裏庭ありの二階建て、部屋数は八。


「市街南の繁華街、大通りではありませんが、それなりに人通りがある街区です。

 ほぼご希望通りの間取りでこちらは800万アグ」

「……」


 口には出さなかったが、とんでもなく高い。今の収入なら買うのに二百年以上かかってしまう。

 『M2』の時に買った店は庭もなく部屋数も半分、場所も悪かったのでそこまでの価格ではなかった……ような覚えがある。


「王都の外、例えば近隣の村で同じぐらいの構えだと、どのくらいになるかな?」

「そうですな……。

 こちらは王都南のラネ村、街道沿いですがこのぐらいですな」


 一昨日まで滞在していたラネ村の物件は、庭は広くなったが部屋数が二つ減って六部屋。農業も楽しめる畑が3枚ついていて、これで30万である。まだ現実的な数字だ。


 王都の内と外で、不動産には大きな価格差がある。これはプレイヤーの利便性の他に治安度も関係しているから、安いには安いなりの理由があるものと受け止めるべきだった。


「こちらは王都に近いトルフェル村で、先と同じ様な物件です」


 王都東門のすぐ向こうにあるトルフェル村の建物。

 部屋数六つで庭は多少小さいが、こちらは畑が2枚の40万。王都に近い分かなり割高だ。


「フェルの大河の向こう、ラマーエ村ですと更にお安くなります」


 部屋数六、畑が3面で25万アグ。但し治安は若干低かったはずだ。

 川を渡るのも面倒だし、こちらは除外していいだろう。


「ありがとう、参考になったよ。

 ついでにもう一つ、いいだろうか?」

「はい?」

「王都内で部屋数四つ、厨房と風呂あり、店舗無し庭無しならどのくらいになるだろう?

 一番安い物件でいい」

「それでしたら、こちらですな」


 示されたのは王都南東部の住宅街の一軒家。

 それでも価格は60万と書かれている。王都に持ち家は、本気で遠いかもしれない。

 このあたりが下限かと、私は『本来の用件』を店主に切り出すことにした。


「同等の物件で、借家ならどのぐらいかな?」

「同じものを借家としてご用立てさせていただくのであれば、頭金が3750アグ、月々の家賃が1250アグとなります」

「では、長屋の一室か何か……作業場に使える一部屋だけを借りるなら?」

「頭金は概ね1000アグ前後、家賃が月々250アグから300アグというところですな」


 借家なら、少しレベルを上げて鍛冶スキルを鍛えると同時に、頭金と道具類と設備の予算を少し貯めれば最低限───小さな炉では大きな武器や高品質のアイテムが作れないなどの制限がある───の開業は不可能ではない、というあたりに設定されているのは変わらない様子だ。


 私はアキとしばらく顔を見合わせてから、店長に礼を言って店を出た。


「……ぷっはあ」

「ん? 緊張したか?」

「うん。……高いね、やっぱり」

「中盤越えると、最初の店でもそう無理な金額じゃないんだが……」

「そうなの?」

「中級の鍛冶屋でも、日に1k、2kと……ああ、千アグ単位で稼げてたからなあ。

 最初は借家住まいだったけど、寝る部屋と鍛冶場があればよかったし」


 当たり前だが、借家の部屋は改造して作業場にもできるが、宿屋の客室に鍛冶場は開けない。道具を使って《手入れ》は出来ても、《修理》以上のスキルにはほぼ必須となる炉の設置が不可能なのだ。


「最初は借家にするかな……」

「そうだね。

 他のプレイヤーさんはどっちが多いのかな?」

「生産系ならまずは借家かな。戦闘メインなら転戦が必要だから、家持ちも基本は宿暮らしになるし……」


 住む分には借家と持ち家に差はないのだが、毎月の家賃が面倒なこととゲームらしく固定資産税がないこと、そして───これが一番重要かも知れない───『ようこそ、我が家に』とフレンドを招待できる持ち家を得ることは、現実同様にある種のステータスだった。


「ただ……うーん、この『《戦乱の向こうに》』だと、本当の初心者はそこまで行き着けるか心配もあるな」

「どうして、お父さん?」

「上手く行かなくて、飽きる人も出てくる。そうなるとログアウトがそのまま途中退場になるからなあ……」


 長丁場だと最初から分かっているし、料金は変わらないにしても、飽きはメーカーにとってもプレイヤーにとっても最大の敵なのである。


「でもな、例えば……アキもたらいのお風呂より、湯船に浸かる方がいいよな?」

「もちろんだよ!」

「でも、たらいのお風呂が5アグなのに、個室に湯船のあるホテルは安くても一泊で50アグぐらいだ。

 幸いVRゲームだから不潔なことにはならないけど、ちょっと今は手が出ない」

「うん……」

「でも今は手が出ない高級ホテルでも、現実よりはずっと身近なんだ。

 このゲームは、レベルアップで後戻り無く確実に強くなれるから。

 それがいいのか悪いのかは横に置いて……アキも初日より強くなったよな?」

「うん」

「強くなればより強いモンスターを倒せるようになるから収入が増えて、そのうち個室に湯船のあるホテルにも余裕で泊まれるようになる。家もそうだな。

 そこがプレイヤーのやる気、そしてゲームの面白さに繋がるわけだ。

 もちろん、ダンジョンの攻略だってそのうち出来るようになるさ」


 今よりもいい物が欲しい、他人より贅沢がしたいという人間の真理に基づき、プレイヤーの深層心理を上手く煽ることで競争心を刺激し、あるいは満足感幸福感を得るという形で各プレイヤーのモチベーションをコントロールしていることが、食事の種類や値段と言った何気ない当たり前の側面からも読みとれた。


 現実ではバックボーンが大違いでも、何せVRゲームなのだから、専門店の最高級ブランド牛ステーキと屋台の串焼きは、データの量や必要な処理という面から見れば大差ない料理アイテムだ。……にもかかわらず、ゲーム中では価格に差がつけてある。


 だが先日も皆で話をしたように、初心者、特に子供の付き添いできた父母などには家族サービスでファンタジー風のテーマパークへと遊びに来たつもりが、右も左も分からないまま依頼という名の戦いや労働を強要され、そのサービスには如実な差がついて行き、やがては理不尽に思えてくるかもしれない。


「でもなあ、そこまで辿り着くには相応の手間と苦労もあるわけし……。

 な、アキ」

「なあに?」

「前にルナが、初心者について悩んでいただろう?」

「ギルドのお話?」

「うん。

 これはアキには少し難しいかも知れないけど、制作者側の意図として、このゲームはある程度ゲーム世界やRPGに慣れたプレイヤーを対象に作られているなと、父さんたちは感じている。……いや、知っていると言った方がいいか。

 初心者にはちょっと説明不足なんだ。

 でも何でもかんでも説明すると、今度はちょっと慣れたプレイヤーにはつまらないゲームになってしまう。

 その人たちは無視できないボリュームゾーン……一番人数の多い層だからな」

「……」

「初心者プレイヤーはどうすれば稼げるのか、それさえ知らないことだって多いんだぞ?」

「えーっと、チュートリアルは?」

「内容は理解できても、その通りにならないことも多いからな」


 メニューから開ける説明書には、確かにアイテムの装備から基本的な職業やスキルの取得方法、簡単な日常生活の流れまで書いてある。


 しかしそれを活用するとなると、チュートリアル───ゲームの基本的な操作や流れを説明する初心者向けのイベント───では不足があった。いや、最初から詰め込みすぎないように気を使っている、もしくはプレイヤーの工夫を喚起するに留めた内容に絞っている……と言った方が良いだろうか。


「誰かに聞ければいいんだが、それも敷居が高いかなあ。

 例えば、制作者側はチュートリアルで『プレイヤー同士で交流を深め、仲間を作りましょう』と言ってるけど、一人で参加した初心者ならそこで躓くことだってある」

「あ、わたしはお父さんが居たから……」

「うん。

 必ず知り合いがゲーム内にいるってわけじゃない。

 知らない人に声を掛けるのは、勇気がいるもんだ。

 まして、連絡がいつでも出来るフレンド登録だし、名前も明かすことになる。……変な人だったら困るしなあ」

「あはは」

「あー、ギャンスット卿なんて隠語があるくらい、大事な問題なんだがな……」


 聞けば分かると思っている初心者は多く、中級者にはわずらわしいものに思えてしまう。

 質問は決して悪いことではないのだが、現実と同じく度を超してしまうのは問題外だ。それを揶揄して『どちて・ボーイ』、『ギャンスット卿』などと蔑称が送られていた。


 どちて・ボーイは『どうして?』『どうやるの?』と聞きまくることから、とある古典作品のやはり質問を繰り返す登場人物から取られたという。

 ギャンスット卿はおなじ意味の某地方の方言『どぎゃんすっと?』から転じて『ど』をフランス語圏の貴族家名に冠する定冠詞『de』と見なし、名門ド・ギャンスット家のバカ息子で世間知らずなのだ……などと、余計な設定までまことしやかに付随していた。


「でも、運営側がすぐに救済も含めた手出しをするべき問題か、と言うとそうじゃない。

 他の大多数のプレイヤーの苦労とそこから得た楽しみを、無視することになる。

 プレイヤーが互いに助け合うのはともかく、『剣と魔法のサーガ』という作品の理念が根本から覆りかねない。初心者と中級者以上とのバランスを取ることが、そのままゲームの面白さに繋がるわけじゃないからな。

 ……このあたりはゲームの理念、社会の縮図、思想の対決でもあるから、お父さんにも答えがわからないよ」

「わたしはもっとわからないよ……」


 ゲームの裏事情など知らなくていいのだが、親の傲慢と笑わば笑え。

 これもまたゲームを利用した社会勉強、大人への階梯にある一つの段差なのだ。

 とりあえずは今は『お父さんがゲームのことで難しい話をした』、そのことを覚えてくれていればよかった。


「ところで、アキは庭付きのおうちが欲しいって言ってたけど、今の話を聞いても頑張ろうと思うかい?」

「……よくわからなかったけど、そりゃあ頑張るよ」

「ほう?」

「わたしはゲームがやりたくて、お父さんに頼んで一緒に来て貰ってここにいるんだもん。

 それに毎日楽しいし、やりたいことはいっぱいあるよ。

 大魔法使いにもなりたいし、ペットも飼いたいもん」


 アキの言い分は正しい。

 そうだった。私たち父娘は、ゲームを楽しむためにここにいるのだ。


「そうだな、それでいいんだ。……うん、大人は理屈っぽくなってだめだな。

 よし、俺も鍛冶屋をする。冒険もする。

 ……今の話も忘れていいよ」

「お父さんごめん。ほんとは半分もわかんなかったよ……」


 私はもう一度、それでいいんだと言ってから、アキの頭をくしゃりと撫でた。


「まあ、難しい話はちょっと置いておくとしてだな、いい機会だから今後どうするか、もうちょっと話をしておくか」

「うん」

「アキが今言った大魔法使いは……ともかくレベル上げ、それと魔法を沢山使うことが大事だな。

 俺の鍛冶屋も同じだ。

 だから、少し先……そうだな、借家を手に入れたぐらいから、俺は鍛冶屋に掛かりきりになると思う」

「冒険中は鍛冶屋さんできないもんね。

 わたしも一人立ち?」

「そうだな」


 現地で、あるいは宿でも武器の《手入れ》は出来るが、炉がなくては正直鍛冶仕事にならない。鉱石の採集は出るつもりでも、本格的な戦闘は厳しいはずだ。


 それに……親離れ子離れの練習にもいいのだ。

 応援に留めることが出来るかは私次第、甘えが抜けきらないかはアキ次第。

 お互いを一人前のプレイヤーとして認めること。それが第一歩かも知れない。


「ねえ、お父さん」

「うん?」

「レモンさんにパーティーを組んでって、聞いてみてもいいかな?

 あ、自分で頼むから、お父さんから言っちゃだめだよ?」

「そうか、じゃあアキに任せる。

 ……けど、レモンがどう返事するかは俺にもわからないな。

 ソロが長いみたいだし、ああ見えてベテランのプレイヤーだからなあ。

 ゲームとは真剣勝負で向かい合ってて、気合いも入ってる。ただの優しくて綺麗なお姉さんじゃないんだぞ?」

「たぶん、大丈夫だと思う」

「自信ありげだな?」

「実は……えへへ、旅行中に約束したんだ。

 今度二人で冒険に行こうって!」


 いつの間に……。

 してやったりと、笑顔でVサインをするレモンの姿が目に浮かぶ。


「じゃあ、それまでは俺と二人で頑張るか」

「うん!」 


 私が鍛冶屋開業を目指すこと、そしてアキが魔法使いを主軸に冒険者生活を選んだことは、レモンもルナも知っている。

 先に手を回してくれていたのだろうか。ここは女性らしい細やかな気遣いと、素直に感謝しておくことにした。


 宿に戻り、レモンの欠けた夕食に少し寂しいものを感じながら、ルナも加えて今日一日の出来事を交換する。

 一週間ぐらいの予定と言っていたから、しばらくは三人での食事が続くだろう。


「最初は宿から作業場通い、ちょっと貯めて少し大きな借家か、東隣の村で家を買う……ぐらいが無難かな」

「お父さんが考えてたみたいに、庭付きならそっちの方がいいかも」

「じゃあ、近日中に仕事場借りるんですか?

 ライカさんも本格始動ですね」

「慌てることもないんだが、ライバルがいるからな……」

「ライバル?」

「サンマ。

 あいつも店は早々に始めるって」

「ああ、《スシ教会》のマスターさんですね」

「これって、競争なんだ……?」


 あちらは現役、こちらはロートルの復帰組だが、年回りもあちらが多少上にしても似たようなもので、寿司屋と鍛冶屋、畑は違っても何となく負けたくない。


「そう言えば、ルナの方は?

 そろそろ貸店舗なら行けるんじゃないのか?」

「資金はあるんですが、これがなかなか……。

 プレイヤーさんだけじゃなくてNPCの常連さんも増えてきたし、店の位置も覚えて貰ってますから、場所を変えると一時的にしても売り上げが落ちます。

 タイミングの見極めが難しいんですよね」

「そういう問題もあるか」

「貸店舗から自前の店を持つ時も、やっぱり同じ問題が出てきますし……」


 一手目を喫茶店は後回しで作業場の確保に絞ると割り切っている私には、王都の市中なら場所は関係なかった。

 しかしルナの場合は商人で、それこそ立地は重要な思案どころとなる。


「鍛冶場を開けたら卸売りと仕入れの方で頼りにすると思うから、改めてよろしくな」

「安定した仕入先はそれだけで経験値に繋がりますから、こちらこそ、ライカさんを頼りにさせて貰いますよ。

 利益は折半でいいですか?」

「任せるよ。

 仕入れの方でも面倒かけると思うし」

「毎度ありー!」


 《鍛冶匠》の最初から作れるようなプレイヤー需要の低い普及品でも商品は商品、私はそれをルナに引き取って貰い、ルナは《交渉》を使ってNPCに『多少高く』売る。代わりにルナは、私がNPCから直接買うより『多少安く』素材を仕入れて私に回す。

 スキルを利用した小技で手間も掛かるが、そう馬鹿にしたものではない。


「しかし、開業は早ければ来週……とい言いたいところだけど、頭金に道具、設備を考えるともうちょっと先か。

 内装に気を配らなくて済むから、ルナよりは楽だろうけど……」

「貸店舗でも什器にカウンター、内装も壁紙に床に照明に……こっちも頭痛いです。

 店番NPCも欲しいから、《店長》スキルもそろそろ取らないと・……」

「こっちも《マイスター》技能で徒弟NPCは欲しいけど、ちょっと遠いな……」


 ルナと二人顔を見合わせて、はあっとお揃いでため息を付く。

 開業の第一歩は、楽しみな反面必要な準備も多い。


「お父さん、ルナさん。

 もしかして、冒険者の方が気楽なのかな?

 あ、レモンさんが楽ちんってわけじゃなくて、えっと……」

「どうだろうな。

 どっちもどっちな気はするが……」


 性格的な向き不向き、本人の希望、求められるプレイヤー・スキル、それらが複雑に絡み合うので、やってみなければわからないというのが正直なところだ。


「面倒事の方向は違いますよね」

「そうだなあ……。

 戦闘メインなら武器防具に気を使う、生産メインなら道具や環境に気を使うとか、わかりやすい違いもあるけど」

「モンスターが相手かプレイヤーが相手か、と言うのも大きいですよね?」

「ああ、それの方が大きいか」

「でもアキちゃん、ライカさんもあたしも、選べる中から好きなことをやってるのは変わらないわよ?

 もちろん姐さんもね」

「あ、はい」

「だからアキちゃんも魔法使い、頑張れ。

 たぶん、大変だよ?」

「はいっ」


 私の準備にしても彼女の準備にしても、先立つものが必要だ。数日はフィールドへ出ずっぱりで稼ぐ必要があった。

 レモンが戻ってくる前に戦士と魔法使いの連携のコツでも伝授しておくか、それとも変な癖をつけず現役のレモンに任せるべきか。それだけでも今夜中に考えておいた方がいいかと、私は黒エールを飲み干した。


 夜半、そのレモンからガイトルに到着したとメールが来たので、返事ついでに相談をした。彼女の『わたしに任せて』という心強い言葉に、頼りにしていると返事を送った私だった。




 翌日からはアキと二人、《北の荒れ野》を中心に、午前と午後に分けて休憩を取りながら目につく全てのモンスターを狩っていた。

 レベルは以前ほど上がらないが、モンスターが群れていないので手っ取り早くドロップが稼げる上、王都からの距離が近いので移動が楽なのだ。


「これがお父さんの言ってた『るーちん・わーく』?」

「そうなるなあ。

 飽きたのなら、明日は《海岸の白い洞窟》にでも行ってみるか?」

「んー……」


 単調な作業の繰り返し。

 手順を作り上げれば効率はよいが、モチベーションを下げてしまう。


 だが今は、危険を冒してでも前に進まなければならない場面ではない。

 念のため、死に戻りを警戒してドロップ品は生活費への充当分以外は売らずにアイテムボックスに放り込んであるほど、堅実な進め方を心がけていた。


「一度は見ておきたいかな。

 うん、明日行こうよ」

「わかった。

 俺も王都近郊のフィールドやダンジョンのマップは埋めておきたい。

 ちょっと多めにポーションの補充よろしく」

「はーい」


 《北の荒れ野》の奥にある《海岸の白い洞窟》は、先日酷い目にあった《古王国の遺跡》よりも難易度は低い。ルナからは徘徊するモンスターの情報なども聞いていた。

 油断や慢心、それからプレイヤー。

 これらが最大の障害かも知れない。


 次の日、勇んで朝から向かった《海岸の白い洞窟》は、想像とは少し違う状況であった。

 まず、入り口で三人パーティーに出くわす。流石に情報が表に出ているだけはあるなと、私は内心で頷いた。


「こんちゃー」

「こんにちは」


 戦士、神官、魔術師、男性三人の基本に忠実なパーティー構成である。アキは私の後ろに隠れてしまった。

 そうそうPKなど……いや、油断は禁物と、自分に言い聞かせたばかりだ。

 警戒するに越したことはない。


「あんたらは二人かい?」

「ああ。

 こっちのダンジョンは初めてでね。……お先に失礼するよ」

「お気をつけてー」

「いってらー」


 学生だろうか、言葉遣いから若い雰囲気がする。

 たいまつに火を着けた私とアキは、三人に見送られながら洞窟への一歩目を踏み出した。

 追ってくる様子もないので待ち合わせか休憩だろうと、胸を撫で下ろす。


「アキ」

「お父さん?」

「一応、大丈夫だと思うけど、後ろから何か来たら大声な?」

「うん」


 しばらく歩くと、二方向への分かれ道に出会った。

 とりあえず、左を指差す。


「モンスター、いないね?」

「そうだなあ」


 いないのではなく、先行するプレイヤーに狩られた後を歩いているような気もするが……そのうちわかるだろう。

 一度倒されたモンスターは一定時間の後に復活するので、丁度その隙間を歩いている可能性があった。


「また分かれ道だよ」

「左だな。

 マップを見る限りだと円にもなっていないし、どこかで行き止まりになるんじゃないかと思う。

 そこが当たりならいいんだが……」


 この洞窟は、恐らく一つの入り口と複数の袋小路、そして一つのボス部屋で構成された、一番単純な作りのダンジョンではないかと私は想像している。

 それ故に、行き止まりには……。


「いた! 《フィッシュ・ベッド》だ!」


 《フィッシュ・ベッド》は直訳すれば『魚の寝床』、海草のモンスターだ。体力は高いが攻撃力は低い。

 そのうねうねと伸びてくる、触手のような海草を切り払う。

 打ち合わせの通りに、アキが私の斜め後ろに陣取った。


「《プチ・ファイア》!」


 一撃とは言わないが、植物系のモンスターだけあって火には弱い。

 アキに続いて私も攻撃を行った。

 がつんと手応えはあったが、前評判通りしぶとい。

 たいまつは攻撃にも使えるが、一回きりとあって使うわけにはいかなかった。


「もう一回! 《プチ・ファイア》!」


 再び斜め後ろから、火球が私を追い越して行く。命中。

 《フィッシュ・ベッド》が怯んだところに、《突き》のスキルを乗せた私の剣が追い打ちをかける。


<プレイヤー側の勝利です。

 ドロップ品を2つ入手しました>


「《フェルの昆布》と《フェルの昆布》? ……同じ物が2つだね」

「まあ、そういうこともあるさ」

「そう言えばわたし、宝箱も見たことないよ?」

「鍵無しならここでも見つかる可能性はあるさ。

 ただ、先を越されてるとは思うけどな」


 たいまつの残り時間を確認し、来た道を戻る。

 休憩は要らなかった。アキもLV1の頃とは違って《プチ・ファイア》の1発2発で残りMPを心配するようなことはない。


「今度は右だよね?」

「ああ。

 どちらにしても、マップは完成させておいていいか。

 アキには悪いけど、俺は助かる」

「はーい」


 今度の突き当たりにはイルカを食うほどでかいドルフィン・クラブ、再び戻って次の行き止まりは一時的な麻痺という特殊能力を持つヒトデ《オレンジ・スターフィッシュ》と、いかにも海辺らしいモンスターに出会ったが、ほとんど苦労なく私たちは洞窟を踏破していった。


 あまりのあっけなさに、ファースト・ダンジョンはやはりこちらだったかと、二人で肩を落として苦笑いを交わす。


「あっちよりは簡単だけど、ソロ・プレイヤーにはちょっと歯ごたえありそうだったな。

 俺も戦士を《LV5》ぐらいまで上げるか、今より種族レベルが10ぐらい上がればなんとかいけそうだが……」

「LV5ならスキルポイント5だから、お父さん、鍛冶屋さん出来なくなっちゃうね」

「今LV3だから4の分も足して合計9だ。全然足りない」

「あはは……」


 ソロでの冒険は、実際視野に入れる必要があった。

 鍛冶仕事は量をこなそうとすれば、作業時間よりもスタミナが先に限界となることが多い。残った時間は冒険に出て稼ぐわけだ。


「アキ、これがボス部屋らしいぞ」

「へえ……。

 ちょっとだけ広いね」


 幾度か袋小路に入ったが、私たちは連戦もなく余裕でボス部屋に辿り着いた。

 白い洞窟広間の中央には、攻略後に王国によって設置されるボスの名前、攻略の日付、最初の攻略プレイヤーの名が刻まれた石碑がある。

 

「攻略者はメン・タイコさんだって」

「流石に知らない名前だな。現行作で有名な人の可能性もあるけど。

 それからボスが《ヘル・シザース》……蟹か何かか?」

「さっきのよりもっとおっきい蟹かも。あ、でもロブスターかもしれないよ。ハサミがあって───」

「誰か来た」


 足音に振り返れば、入り口には三人連れの男女パーティーがいた。

 ボス攻略後、広間は休憩所になるので人とかち合う可能性は高く、不思議ではない。


「父さん、ここがボスの部屋だよ」

「おお、休憩が出来るんだったか?」

「……」


 全員が人間族で、男性戦士が二人に女性の射手。装備は私たちの方が若干いい程度で、大きな差はなかった。

 少し偏っているが、仲間内で好き勝手をやっていた《狼人ホーム》のパーティー編成などもっと酷かったから、とやかくは言えない。


「こ、こんち……」

「こんにちは」

「や、どうも」

「……こんにちは」


 家族連れならまあ大丈夫かと緊張を解いた私は小さく会釈をし、アキを促して場所を譲ろうとした。

 それを父親らしい男性が、慌てた様子で止める。


「ああ、お気遣いなく。

 あなた方も休憩されていたのでしょう?」

「いえ、休憩をしていたわけではないので……」

「ほう?」

「地図を埋めているところでして。

 ご存じのようにボスはとうに倒されていますから、狩り場に使えるかどうか、確かめに来たんです」

「お二人でこのダンジョンを!?

 うちは三人でも苦労していますのに、そりゃあすごい!」

「まだまだですよ」


 アキが私にぴったりとくっついて微妙な視線を送ってくるが、小さく頷いて落ち着かせる。

 PKを気にしているのか、それとも子供の頃のように人見知りが再発したのか、最近のアキ……千晶はよく甘えてくるようになった。


「お二人はカップルでのご参加ですか?」

「カ……!?」

「ええ、そのようなものです」


 とても何か言いたげなアキを制して、私は曖昧に頷いた。

 元よりプレイヤーの外観を操作できるこのゲームだが、《狼人族》の外見は私をより年齢不詳に見せることが多い。


 そして、だ。

 名前も知らない息子さんよ、申し訳ないがうちのアキがいくら美人でも、その視線は少々遠慮して貰いたい。

 保護者付きということから考えてもアキと同年代、カップルと聞いてあからさまに落胆するところは少年らしくもあるが、青いな小僧と一刀で切り捨てておく。


「うちは息子にせがまれましてねえ、家族旅行のつもりで参加したんですが、いやあ、なかなかに手強いゲームですな」

「はい、苦労の連続ですね」


 父親と雑談を続ける合間、母親らしき女性が一言も喋らないなと疑問に思いながらアキに視線を向ければ、少々退屈な様子である。


「じゃあ、そろそろ行くか?」

「う、うん」

「それでは失礼します。

 御武運を」

「失礼しますっ」

「ええ、お気をつけて」

「あ……さ、さよなら!」


 親子連れに軽く一礼してボス部屋を後にした私たちは、残りのマップを埋めにかかった。

 少し距離を取ったところで、袖を引かれる。


「うん?」

「お父さんが、カ、カップルなんて言うからびっくりしたよ!」

「……あれは向こうのお父さんが言ったんだぞ。

 俺はアキに悪い虫がつかないようにって、ちょっと返事を誤魔化しただけだし?」

「うー……」

「あの男の子が、アキの方をずっと見てたからな」

「うん。

 なんかね、体育の時のクラスの男子みたいで、ちょっとやだった」

「お、アキはモテる方なのか?」

「わかんない。

 ……何回か告白されたことはあるけど」

「何っ!?」


 初耳だった。


 いや、いやいやいや、うん、よく考えれば父親の耳に逐一貰ったラブレターの報告をするような娘がいるはずもなく、それはそれでアキが中学生女子として平均的なバランスを保った思考と精神を持っていると結論付けられるし、愛娘がモテるそのこと自体は嬉しいもので鼻も高いが、だからといって不純異性交遊は以ての外で清い交際なら許すのかと言えばそんなわけもなく、家にボーイフレンドでも連れて来ようものなら私はたぶん機嫌が急降下して───。


「お父さん、お父さんって!」

「あ、ああ、アキ?」

「全部断ったよ?」

「……そうか」

「……お父さん、しっぽと耳が戦闘モードになってるよ?」

「お!? ……おお」


 アキの視線を受けて耳に手をやればピンと立っており、尾は毛が逆立っていた。

 いらぬ考えが先走って、少々熱くなってしまったらしい。


「そだ。

 さっきちょっと思ったんだけどね……」

「うん?」

「……お母さんが一緒に来てたら、うちもさっきのパーティーみたいに、微妙な雰囲気だったかな?」

「あー、あいつはVRゲームあんまり好きじゃなかったからな」

「だからね、お父さんにこのゲームしたいって言うの、すっごくドキドキしたんだよ、怒られるかもって。

 それなのにすぐにオッケー貰えて、『VOX』だけじゃなくっておっきいソファまで注文するから、ほんとにびっくりしたよ」

「ゲーム機はともかく、あの冷凍睡眠ソファ、本当に性能がいいやつなんだ。ちょっと前から目を付けててな……。

 それに昔はゲーマーだったとか、アキに話をしたことなかったか」

「うん、そっちも驚いたかな。

 一週間前にサービス開始した最新作なのにすごく手慣れた感じだし、お父さんの友達もいるし、狼男だし……」

「狼男は関係ないだろ?」


 くすくすと笑うアキの頭を照れ隠しに小突き、見えた分かれ道を左に曲がる。

 マッピングは順調、残りは三割もない。午後は丸々、《北の荒れ野》での狩りに使えそうだった。


 ……鍛冶を諦めて戦士職一本でアキとコンビを組み続けるのもいいかと思ってしまう自分の現金さが、少しばかり情けないところである。

 現行作を……今度は私からアキを誘い、戦士でプレイするのもいいかと、わずかに遠い未来図が脳裏を過ぎった。




 《海岸の白い洞窟》を調査して三日ほどすると、レモンが王都に戻ってきた。

 行きと装備が若干変わっているところから、そこそこによい結果で冒険を終えたのだろうと推測する。


「ガイトルの街も悪くなかったわよー。

 トップグループは奥に行ってたからほとんど狩り場は重ならなかったし、射程持ちのモンスターもいたけど、盗賊ぐらいだったかな。

 あ、これ、お土産ね」


 『剣と魔法のサーガ』シリーズでは、最近のゲームとしては珍しく、王都への死に戻り以外には超高価なアイテムを消費するしか転位の方法がない。

 開発者の言葉によれば『英雄たちが旅をした同じ道を歩くことで、物語世界の風を感じて欲しい』とのことだが、総じてプレイヤーには受け入れられていた。


 もっとも、都市間の移動に半日かけて実際にVR世界を歩けというのも無茶な話で、街道上を移動する場合のみ、時間経過と移動距離をシステム側でサポートする《旅モード》で体感時間を調節するようになっている。

 イベントに遭遇すると、通常の時間経過に戻るわけだが……そのようなシステムのフォローがなくては、頻繁に都市間の移動を行う気にはなれないだろう。


「お、どれどれ」

「えーっと、《ガイトル・ドーヴェルニュの赤ワイン》?」

「ああ、姐さんの好きなやつですね」

「そうよ。

 MPの小回復効果もあるけど、安くて美味しいからね。宿に帰ったらみんなで飲みましょう。

 王都でも売ってる店があればいいんだけど……。ねぇ、ルナちゃあん?」

「はいはい、そのうちあたしが仕入れますから……」

「うん、お願い!」


 レモンが帰って来た途端、賑やかになったなと目を細める。

 アキも嬉しそうで何よりだ。


 夜は四人で食卓を囲み、一週間でほんの少し開いてしまったお互いの距離を縮め、食後は帰りがけに買った酒肴を客室のテーブルに並べて皆で乾杯した。


「お父さん、わたしも飲んでいいの?」

「一杯だけな。

 システムの規制もあるし、時期はずれのお屠蘇だと思えばいいだろう」

「アキちゃん、今時お酒は二十歳以上なんて日本自治州ぐらいよ?

 わたしもお父さんの実家……ああ、ヨーロッパ自治州にあるんだけど、そっちにいた時はふつーに飲んでたわ。

 十二歳まで向こうの学校にいてね、街にも王都広場のちいさいやつみたいな石の広場もあったのよ」

「へえ……」

「向こうは水代わりに飲むんだったか。

 学校給食にワインがつくなんて話をニュースで見たよ」

「でもアキちゃん、こっちでは飲んでもいいけどリアルで飲むのはダメよ?」

「はいっ」


 実は法規制によって未成年者にはシステム上酩酊感さえ得られないようになっているのだが、ここでそれを口にするのは野暮だろう。

 ビールなどはノンアルコールビール以下の酷い味にされているし、ウイスキーは単に色のついた水らしい。ちなみに煙草の方はストローを口にくわえているのと変わらず、火もつかないようにされていた。


「じゃあ、乾杯しましょっか!」

「ライカくん、お願い」

「ん、俺か。

 ……では、アキとレモンのコンビ結成と、ルナの商店と俺の鍛冶場の発展を祈念して……乾杯!」

「カンパーイ!」


 グラスを合わせて、皆で小さく笑みを浮かべた。


 アキとレモンは明日より東南のガイトルで冒険者生活を送る。

 私とルナは、王都に残って仕事場を開くために奔走する。


 ここからが、私たちにとっての本番、本当のゲーム開始かもしれない。


「ほう、割といけるな。

 レモンは辛口が好みなのか?」

「うん。

 甘いのも好きだけどねー」

「アキちゃんの口には合わなかったかな?」

「うー、甘いような気もするけど……なんか酸っぱ渋い?」

「そんなもんだ」


 抜かれているのはアルコール分だけじゃないからなと、心の中で呟く。

 私だって酒が美味いと思えるようになったのは三十の手前だったし、子供の舌というだけでなく、文化的背景も違うからレモンとは比較できない。


「それにしても、ライカくんもルナもいよいよ店持ちかあ」

「スキルは取ってきたけど、俺はもうしばらく冒険で稼いでからだな。

 工具を自作できるところまでは、一気に設備を整えておきたい」

「あたしは明後日ぐらいですね。

 貸店舗の確保と内装工事は済んでますけど、お客さんに引っ越しを伝えている最中です」

「アキちゃん、負けてられないよこれは!」

「はい、頑張りましょう、レモンさん!」


 今生の別れということもなく、離れるとは言ってもフレンドリストからメールのやり取りはいつでも出来る。

 私たちはそれぞれの門出を祝う小さな宴会を、ゲーム故の気楽さで心ゆくまで楽しんだ。


 ……酔って寝てしまったレモンを部屋に送る時にちょっとした問題が発生したのだが、これはまあ、いいだろう。




 ▽▽▽


 おまけ お父さんには見せられないわたしの日記帳(17日目)


 ▽▽▽


お父さん(ライカ)


 種族:《狼人族》LV25


 職業

  《戦士》LV3/《片手剣》《突き》

  《鍛冶匠》LV3/

   鍛冶技能《手入れ》《修理》《精錬》《採鉱》《分解》

   作成技能《片手剣》《小刀》《生活用品》《農工具》《金属鎧》


 装備

  《ロング・ソード》攻撃力[8]

  《黒兎のヘルメット》防御力[1]

  《牛皮のソフト・レザー》防御力[5]

  《熊皮の小盾》防御力[3]

  《トカゲ皮のブーツ》防御力[2]


わたし(AKI)


 種族:《エルフ族》LV27


 職業

  《魔術師》LV5/

    《プチ・ファイア》魔法攻撃力(火)[10]、《プチ・アイス》魔法攻撃力(氷)[10]

    《エナジー・アロー》魔法攻撃力(無)[20]、《マジック・ウェポン》魔法攻撃力(無)[+10]付与

    

  《薬草師》LV1/《薬草学》、《ポーション作成》


 装備

  《マジック・リングⅡ》(エナジー・アロー/マジック・ウェポン)

  《マジック・リングⅡ》(プチ・ファイア/プチ・アイス)

  《ほうき星の魔法帽》防御力[1]、魔法防御力[+1]

  《露草のローブ》防御力[2]、魔法防御力[+2]、属性防御力(火)[+2]

  《狐のブーツ》防御力[2]、回避[+1]




 いえーい!

 ついに一人立ちだよ!

 わたしはほんものの、一人前の魔法使いになったのだー!


 ……って言いたいところだけど、たぶん、レモンさんの弟子にしてもらったっていうのが正しい。


 冒険のイロハと『剣と魔法のサーガ』の常識、それから女性プレイヤーが気を付けなければいけないことをみっちり仕込んで貰うようにってお父さんが言ってたけど、レモンさんもルナさんもその通りって頷いてた。わたしもそう思う。


 わかってるけど、魔法使いってソロだとちょっと厳しい。

 魔法使いは普通の鎧が使えない。着ると魔法が使えなくなってしまうからね。

 だから、魔法の発動体を指輪から杖にして、戦士技能上げて《杖》を取ってもまだ足りないぐらい、そばに寄られるとアウトな職業だった。

 その代わり一撃の威力は強いし遠距離で連射も攻撃できるから、パーティーには歓迎されるみたい。

 ……でも、しばらくはレモンさん以外と組むつもりないから、それはいいか。

 

 そのレモンさんの話だと、中盤以降は《魔法銀》とか魔獣の鎧が手に入れば、正式な職業じゃないけど魔法戦士っていう複合職で活躍することも出来るんだって。

 つば広の帽子にだぶだぶローブの正統派もいいけど、これはこれで格好いいかなと思ってしまいましたのことよ。ちょっとゆらゆらしてる。


 私とレモンさんが正統派の冒険者なら、お父さんとルナさんはお店一直線だ。


 今日、ルナさんには開店準備中のお店を見せて貰ったけど、いつもの露天から少し離れた商店街よりの場所で、近所のお店はNPCの雑貨屋さんばっかりだった。

 そのうちプレイヤーのお店が並んでいくみたいだけど、いまはルナさんのお店一軒だけ。

 がんばれ、ルナさん。


 お父さんは、実はもう少しだけ冒険者をする。自分で作った計画表見ながら、あーでもないこーでもないって唸ってた。

 一昨日、組合で鍛冶屋さんのスキルを一気に十個ぐらいとってたけど、細かく予定を立てていく時に、初期の道具類をもうちょっとだけいいもの買うことにしたみたい。スタートが肝心なんだって。

 がんばれ、お父さん。


 それから、わたしのお師匠さまのレモンさん。

 戦士としては当たり前だけどお父さんよりずっと格上で、プレイヤーとしてもトップランナーのちょっと下ぐらいにいる。

 わたしはレモンさんについていけるのか心配だけど、レモンさんは遺跡でガイコツに挟まれたとき、あの状況で言われたとおりにきちんと動けたわたしの様子を見て、一緒に連れていっても大丈夫だって確信したんだって。

 お師匠さま、明日からよろしくおねがいします。


 ガイトルってどんな街かな……。

 ちょっとだけ心配だけど、レモンさんと一緒なら大丈夫。

 ガイコツはもういやだけど、アキはほんとの本気でがんばります。



 追記。

 えへへ、これは絶対に書いておかねばならないのですっ!


 宴会の最後、酔ったレモンさんがお父さんに寄っかかってたんだけど、んもー、これがいい雰囲気で……。

 わたしとルナさんがにやにやしてたら、お父さんは大きなため息をついてからレモンさんをお姫様抱っこした。

 ルナさんが『お持ち帰りですか?』って聞いて怒られてたけど、お父さんもちょっとぐらいは意識してるのかな?

 二つ隣の部屋に送っただけなのに、時間かかりすぎてたし?

 明日、二人になったらレモンさんに真相を聞いてみようと思う。


 あ、お風呂頼むの忘れた……。



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