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第十四話「父とギルドと王国大演習」



 王国大演習の初日、もちろん私は店を閉め、王国大演習に参加するアキやレモン、《ムーンライト・キャラバン》の面々を応援するべく、王都内にある王国騎士団本部の隣、王立闘技場へと足を運んでいた。


 1日目の今日は、トーナメント形式の個人戦とパーティー戦が行われる。

 アキとレモンは個人戦にエントリーしており、第一回戦はレベル差もあったのだろう、瞬殺という単語が相応しい勝ち上がりで、売り子から買ったエールを飲み干す間さえなかった。


 《ムーンライト・キャラバン》の戦闘部隊───個人戦に参加した数名は、残念ながら既に敗退していた───は、2日目のギルド戦に参加する。


 これは同時対戦する人数も多く、見応えがあったように思う。

 ししし君率いる《らいおんさんチーム》の他、前線から引き上げてきたトップ集団も多く参加するので、私も個人的に楽しみにしていた。


 他にも両日共に開催されるレイズ・マッチ───次々と現れるNPC騎士を相手に何人抜きが出来るか競うゲームだが、上位入賞者には結構な額の賞金も出る───など、飛び入りの可能な競技も幾つか用意されている。


「第二回戦、赤、『剛剣』クリスピー! 青、『魔術師の』アキ!

 両者、準備は宜しいか?」


 フィールドの中央、審判役の騎士が大音声で選手の名を告げた。


「アキちゃーん! がんばれー!!」

「いっちゃえー!」


 ……ちなみに選手紹介の時に審判がコールする二つ名は、自分で申請する。この日限りの使い捨てでもいいし、特にこだわりがなければ、所属するギルド名や、アキのように職業名を使うことも多いだろうか。


「試合開始!!」


 さて、ここは試合に集中するとしよう。


 フィールドの中央に立つアキは、緊張こそしているようだが、静かに杖を構えて発動準備に入っていた。


 相対しているのは装備からして明らかに戦士職のプレイヤーだが、アキの初撃を警戒しているのか、盾を身体の中央に置いた防御姿勢のままじりじりと距離を詰めていく。


「《エナジー・アロー》!」


 素直な一撃。

 だがこれは、軽く盾に弾かれた。


「《エナジー・アロー》!」


 もう一度。

 ……同じように光弾が弾かれる。


「《エナジー・アロー》!」


 不利なことはわかっているだろうに、更に《エナジー・アロー》を唱えるアキ。

 戦士も何かに気付いたのか、距離が徐々に縮まる。防御力の薄い専業魔法使いは、近づかれると弱いのが相場だ。


「アキちゃん、下がって!」

「もっとおっきい魔法いって!」


 個人戦には参加しないまりあんやフランベルジュたちが、大声を上げている。


「……レモンの入れ知恵かな?」

「どうでしょうねえ。

 姐さんの仕込みっぽくはありますけど……」


 私もルナも、アキのピンチをピンチとは思わなかった。

 PvP───対人戦では、引っかけぐらいは使うものだ。特に、個人戦ではその傾向が強い。


 ……ましてや、アキの師匠はレモンである。


 おそらく、《エナジー・アロー》は誘い水だろう。

 《エナジー・アロー》は初級に分類される呪文だけあって、今のアキなら連発してもMPの負担は少ない。

 だが同時に、経験を積んでランクⅡにパワーアップはしていても、相手の装備も考慮すると───装備や動きを勘案すれば、おそらくアキよりも10ほどレベルは低いはず───大した威力にはならない。

 それでも防御姿勢は要求されてしまうし、蓄積されるダメージも重なれば馬鹿には出来なかった。……つまり、受け手は選択を迫られるのである。


「お!」

「へえ……やりますねえ、アキちゃん」


 アキは敵戦士との距離がかなり詰まったところで《エナジー・アロー》から《ライトニング・スピア》に切り替え、相手が運悪く麻痺して防御不可となったところに更に《エナジー・アロー》を連発、無事に勝ち上がりを決めた。

 無論、HPがゼロになっても死に戻りではなく負傷退場として扱われ、戦闘終了後は勝者にも敗者にもペナルティはない。


「アキちゃんやったあ!」

「うおおおおおおおおお!!」

「サンキュー!!」

「ありがとおおおおおおお!!!!」


 小さく手を振りながら控え室に戻るアキに拍手を送り、さてさて、次はどうだろうと、私は思案顔を作った。


 トーナメント表によれば、アキの次の対戦相手は一つ前の試合で圧勝していた戦士である。アキの肩を持ってやりたいところだが、装備や動きを見た限り、正直なところ良くて四分六、確実に不利だろう。

 個人戦参加者の数は200人ほどで前線組の比率はかなり高く、第一回戦から強敵と当たる可能性もあったのだから、ここまでは幸運だったとも言えるわけで……。


「……ふむ」


 例えば、先日知り合ったすだこふつ氏などと当たれば、アキどころかレモンでも話にならないという。

 彼は伊達に『黒騎士』などという二つ名を広く認められているプレイヤーではないらしく、本鯖ではPKK───プレイヤー・キラーを狩るプレイヤー───としても有名な、対人戦のエキスパートでもあるそうだ。当然、このトーナメントでも優勝候補の一角として扱われている。


 ちなみにレモンの次の相手は確実に前線組で、本鯖での知り合いらしい。レベル帯や装備もほぼ同等、正直勝てるか分からないとメールが来ている。


「そろそろ潮時か」

「ですねえ」


 ……まあ、仕方あるまい。

 にやっと笑って、周囲のメンバーたちに声を掛けていく。


「皆さーん!

 大賭けはストップ!

 ストップです!」

「賭事は引き際が肝心ですよ!

 あとは賑やかしで、明日からの冒険者生活に響かない程度に楽しんで下さい!」

「はーい!」

「いやあ、これで畑が買い取れますよ!!」

「うちもお店を広くしようかしら……」


 レモンとアキの限定だが、相手選手の装備や雰囲気などを勘案し、私たちはメンバーぐるみで大金を掛けていた。


 番狂わせもなく両者の第一回戦、第二回戦の2戦づつで合計4勝、《ムーンライト・キャラバン》のメンバー全員を扇動したことで流石に金額が膨れ上がってしまい、オッズは大きく下がってしまったが、それでも私の元手3万数千アグは4戦で2倍ほどになっている。ルナなどは処分可能な商材をまとめて一気に売り払い、呆れるほどの額を用意していたが、胴元が王国───運営なので、心は痛まない。


 何せカジノとは違って、確率2分の1などということはなかった。見た目から推察される装備差と、そこから類推できるレベルやスキルの差、相手の知名度───本鯖出身者ならレモンやルナが名を知っているだろうし、攻略組はゲーム開始後3ヶ月も経てば顔と名前とメインの職種ぐらいはなんとなく知れ渡っており、それ以外の相手なら大凡は勝てる相手と断じてしまえる───などを勘案し、ほぼ10割勝てると分かっている賭事なら……やはり乗らねばもったいない。


「ルナは店舗の買い取りか?」

「出来なくはないんですけどねー。

 明日の打ち上げの時、みんなにちょっと意見を聞いてみたいことがあって、それから決めようかなと……」

「ほう?

 何かやるのか?」

「ふっふっふー、まだ内緒です。

 ライカさんはついに個人ギルドですか?」

「セールで無茶をしたからな、素材の補充とか、あれこれしてるとすぐ消えるだろう。

 ギルドが先でもいいんだが、少し様子見だな」

「あら、慎重ですねえ」

「少なくとも、王国大演習がきっちり終わってからでないとな」


 この王国大演習は予定されたイベントで、多くのプレイヤーが集まっていた。運営が何か噛ませてきやしないかと、多少は心配もある。

 まあ、財産の使い道は、明日の打ち上げで、ルナの考える『何か』を聞いてからでもいいだろう。


 ……それにだ、一人で勝手に何かを始めると、怒るか呆れるかしそうなのが二人ほどいるので、最近は少し気を使っているのである。




 ▽▽▽




「惜しかったな」

「うん……。

 でも2回勝てたから、まあまあかな」


 アキは残念ながら、第三回戦で敗退してしまった。

 それほど落ち込んでいる様子はなく、さばさばとした表情である。


 一方のレモンは第三回戦をなんとか勝ち抜き、ベスト32に駒を進めていた。今頃は控え室で、次の試合の準備でもしているだろうか。


「でもね、やっぱりプレイヤー同士で闘うときは、魔法剣士じゃないとだめかなあって……」

「ん?」

「防御力がちょっとねー。

 それに、つば広の帽子にだぶだぶローブの大魔法使いにも憧れるんだけど、剣と魔法の二刀流もいいなあって。

 ね、お父さんならどっち選ぶ?」

「俺は昔も魔法メインの職じゃなかったからなあ……」


 壁にぶち当たるという意味では、このトーナメントは時期的にもいい頃合いだったというところか。


 専業の魔法使いと、魔法戦士。

 両者共にメジャーなプレイスタイルとして確立されているし、レモンと組み続けるにしても別の道を歩むとしても、どっちも『あり』でそれぞれに長所と短所もある。


「こればっかりは正解がない……いや、どちらも間違いじゃなくて、どちらのプレイスタイルの方がよりゲームを楽しめるかっていうのが答えになるか。

 無理に大魔法使いになる必要も、魔法戦士にならなければいけないこともないからなあ」

「レモンさんは戦士一直線だけど、お父さんは色々やってるよね?」

「そうだな。

 でも、その色々はな、出来ることが多くなる代わりに、少なくとも成長は遅くなるように出来てるんだ。

 鍛冶を上げれば喫茶店や戦闘に回すスキルポイントが減るし、逆も一緒だな。

 その代わり……例えばアキたちの場合で、戦闘中、ピンチになったとしようか」

「うん」

「今のアキみたいに専業の魔法使いなら魔法で援護が基本だけど、魔法戦士なら援護だけでなく、直接割って入ることもできる。

 選択肢が増えるから、状況に合わせて選べるようになるわけだ。弱い相手なら武器で一撃加えた方が早いし、強い敵なら魔法か、前衛を交替してレモンが回復する時間を稼いでもいい」

「おー」

「もちろん、両方にポイントを振り分けないといけないから、戦士としても魔法使いとしても成長が遅くなる」

「そうだね」

「丁度……ああ、《人間族》と、《竜人族》や《魔人族》みたいなもので、《人間族》は特殊能力がない代わりに成長が早いけど、《竜人族》や《魔人族》はブレスや回復の特殊能力が用意されていて、レベルアップに必要な経験値は多いわけだ」


 眼前で繰り広げられている、《人間族》の魔法戦士と《竜人族》の戦士の方を指差す。


「悩んでいるならしばらく保留でいいんじゃないか、とは思うが、せっかくだから、今日明日の内に他の魔法使いや魔法戦士の動き方をじっくり見るのがいいだろうな」

「うえぇ、難しそう……」

「そうでもないぞ。

 見て判断するって言うから難しいように思うかもしれないけど、いいなって思ったか、そうじゃないのか……それが何となくわかればいいんだ。

 それを後から考えて自分ならこうするのにとか、色々思い出してると、自分が何を好んでいるのか、どうなりたいかが見えてくる」

「ふーん……」


 難しそうな顔で目の前の試合を見つめるアキだが、それでいい。私にしてみれば、『若人よ、存分に悩み存分に楽しめ』という気分だった。


 彼女がどちらのプレイスタイルを選ぶにせよ、急かさず温かく見守りたいところである。




 残念ながらアキに続いてレモンも昼までに敗退が決まってしまい、ルナは一旦解散を宣言した。全員で応援をする理由がなくなってしまったのだから、これは仕方がない。


「はいどうぞ、お疲れさまでーす」

「ランチボックスまだの人ー! いませんかー!」

「おお、ありがとうございます!」

「いっただっきまーす!」


 あとは自由行動と言うわけで、《ムーンライト・キャラバン》に混じって観客席で特製サンドウィッチ───奥様方のお手製で、『おおかみのす』で日々出すには手間が掛かりすぎる品らしい───を頬張りつつ、あれこれと試合の批評などをしていると、パーティー戦の準々決勝が始まった。


 午後からは個人戦の会場と統合され、両方の試合が見られる。

 そこかしこで売り子が樽を持って走り回っているし、持ち込みのワインやお茶、レベルが上がったおかげで最近製造に成功したというブランデーも振る舞われていた。気分的にはもう、スポーツ観戦とかわりない。


 アキはマリアンやフランベルジュらと一緒にNPC騎士を相手に闘うゲームに参加するそうで、あっと言う間にサンドウィッチを食べ終えていた。


「あーくやしい!!

 あの奥の手は予想してなかったわ!

 流石はすだこふつさんの息子さんよ!

 親子揃って一筋縄じゃ行かないったらもう!」

「……まあ、そういうこともあるだろうな」


 レモンのベスト32の対戦相手は、先日私の斧を競り落としてくれたジョージ君───『黒騎士』すだこふつ氏の息子さんで、家族4人にて本格的な攻略パーティーを組んでいる───だった。

 当然、斧も使ってくれたのだが、合間に毒塗りナイフの投擲やポーション飲用による加速を挟むトリッキーなスタイルで、しかも親父殿に余程鍛えられたのか、なかなかの手練れと私にも見えた。とても高校生には思えない。


 レモンは手数で勝負する軽戦士タイプで、一撃の威力は高いがどうしても各攻撃動作の重くなってしまう斧とともに、防御力に優れた重鎧で身を固めたジョージ君相手でも決して不利とは言えなくないが、それは同レベル帯での話である。


 レモンの《人間族》LV73に対し、ジョージ君のそれは同じ《人間族》でもLV84だったそうだ。


 巧者同士、近接戦慣れた者同士では、決してわずかとは言えない差がそこにはあった。


「でもねえ、ライカくんに新しい鎧貰ってなかったら、もう一つ手前で負けてたかもよ?」

「ああ、コダヌキ君だったか?

 彼も割に正統派の戦士職だったような気もしたが……」

「うん。割と本鯖でも長い子だよ。

 ま、レベル負けはしょーがないにしても、装備で勝ってたからね。

 正直ぎりぎりだったけど!」


 一通り怒鳴り散らして気分が晴れたのか、レモンは昨日私がプレゼントした鎧───《サンジ鉄の胸当て[+4]》のクリティカル抑制プラス炎属性防御付き───をポンと叩いてから、あーあと伸びをしてフィールドに目を向けた。

 

「ね」

「ん?」

「ギルド、作ることに決めたんだけど、いいかな?」

「急……ってわけでもないか。

 ……フランベルジュたちか?」

「うん。

 あとね、ギルマスはアキちゃん」

「アキにギルマスねえ……」


 さてどうだろうかと、思案顔を作る。


 まったくの不似合いとまでは思わないが、性格的に向いているのかと問えば、実に……微妙だ。

 ギルドのマスターとは同列に語れないような気もするが、去年アキはクラス委員でも嫌がっていたような憶えもある。


「あ、わたしはご隠居だよ」

「レモンは隠居って柄でもないような気もするが……」

「わたしだって色々考えてるの!

 ……それはともかく、アキちゃん中心のギルド運営の方が、たぶん動きもいいし面白そうって思うんだけど、どうかな?」

「若手中心なら、それもあり、か……」


 メンバーは全員知り合いで当初は5人と少ないし、逆に《ムーンライト・キャラバン》の『卒業生』を受け入れるという点では、元より大人数も期待できまい。

 また生産系メンバーの受け入れ先も気になるが、まあ、何事も経験、アキも含めて皆がしっかりとゲームを楽しめればそれでいいかと、私は頷いた。


 ちなみに個人戦の優勝はすだこふつ氏、パーティー戦の方は、はらぺにょ君ら《へなちょこ参謀本部》の選抜組を押しのけ、ししし君率いる《らいおんさんチーム》───彼らのギルドはそのまま6人構成のパーティーでもある───の優勝と、ほぼ前評判通りの結果となった。




 ▽▽▽




 明けて翌日、《ムーンライト・キャラバン》の戦闘部隊は意気揚々とフィールドに向かっていったのだが……。


「勝者、《暁の誓い》!!」


 第一回戦の相手である《暁の誓い》は《ムーンライト・キャラバン》と似たり寄ったりの初心者ギルドで、運次第では勝てるかもしれないと、試合前は盛り上がっていた。


 しかしながら、《暁の誓い》はメンバー全員参加の上、遠距離攻撃の出来るプレイヤーを大量に用意する作戦───後から聞いた話では、それまでは《神官》専業だったプレイヤー達が、戦士LV3と《弓》や《投擲》などのスキルを入手するという気合いの入れようだった───で、当然、フィールド上では人数比も逆転、《ムーンライト・キャラバン》を圧倒してしまったのだ。


「やったあ!」

「よっしゃあああああああ!!!」

「ふう……」

「きつかったあ」

「これは鍛え直しですな……」

「あー、残念……」


 こちらは戦闘部隊以外、観客席で応援に回っていたし、スキル取得やトーナメント参加までは強制していなかったから、ある意味当然とも言える。私も一時的加入などはせず、アキやレモン、ルナと並んで奥様方と一緒に応援していた。


「ルナが商人なら、向こうは流石戦士ってところよねえ……」

「《暁の誓い》さんところのマスター、あたしと同じ本鯖経験者ですからね」


 マスターそれぞれの得意分野に力が入ったギルドという意味では、正しい結果でもある。《ムーンライト・キャラバン》ならどちらかと言えば生産系に強いという一面があるし、あちらさんは逆に一般的な戦闘職を平均して育てているとすれば納得せざるを得ない。


「ふむ、前回のイベント戦では4位だったし、総合力なら負けてないだろうが……」

「でもお父さん、明日からは微妙かも?」


 少なくとも今後、《ムーンライト・キャラバン》の戦闘部隊メンバーは徐々に抜けていく───卒業する予定で、ギルドの総力は落ちていく。

 無論、ルナの掲げるメンバーの初心者卒業という目標に向かって一歩進んでいると言うことに他ならないわけで、歓迎すべき事態でもあった。


「……ああ、『マスター・アキ』が言うならそうかもしれないな」

「ふぇ!?」

「あはは、そのうち慣れるわよ、アキちゃん」

「アキはともかく、ルナ……いや、《ムーンライト・キャラバン》はどうするんだ?

 戦闘職がごっそり抜けると、総合ってわけにもいかないだろう?」

「えー、そのあたりは今夜、じっくりお話しすると言うことで」

「ふむ……」


 今夜行われる予定の『王国大演習お疲れさまパーティー』では、そのあたりの事も発表されるのだろう。

 まあ、私の身の振り方などは後から何とでもなるが、方針だけでも聞いておかねば応援もできない。


 だが、今は目の前に集中しようか。

 今後、鍛冶屋一本に絞るかどうかはさておき、せっかく最前線のプレイヤーたちが目の前にいるのだ。詳細までは把握できずとも、昔取った杵柄とレモンらのフォローがあれば、レベルと装備品の上中下の見当ぐらいはつけられるだろう。

 戦闘その物ももちろん興味深いのだが、今後を考えれば、参加プレイヤー達の装備を『なんとなく』でもいいから把握しておきたいところだった。




 ▽▽▽




 そのようにして、休憩などを挟みつつ、10戦ほどをエール片手に流し見ただろうか。


「団長、がんばれー!」

「《S.D.》負けんなー!」

「賭け札無駄にしたら100回死に戻らせるぞー!」


 だが、多少は飽きがきていたところに始まったギルド戦の決勝は、圧巻だった。

 参加総数は全部で35ギルドと少なかったが、トーナメントが進み、攻略組同士の戦闘ともなればやはり一人一人の動きが違う。


「ヘニュちゃん、3の1!」

「《フォース・ブリット》!」

「ホセくん、スイッチ!」


 青軍は『団長』ことジークフリーどん君率いる男所帯の《帝国騎士団『戦乱』支部》、赤軍の《S.D.》───《Super Dreadnought》は前回のイベントを見送ったほど攻略に力を入れているギルドだ。

 人数も同じ12対12、数だけならこれよりも大規模な試合もあったが、この両者は間違いなく少数精鋭である。個人的には《帝国騎士団》の肩を持ってやりたいところだが、さて……。


「あ、ちくしょ!」

「《エリア・ヒール》!」

「リオっち、2・1!」


 指示や注意が半ば隠語か暗号のように飛び交い、複数人のスキル発動タイミングが有機的に結びついて強火力攻撃の起点となり、あるいは敵の先手を挫いて反撃に繋げと、その緻密さには圧倒はされるが参考にならない───私ではついていけないレベルである。


 しかも前衛は交替して回復する間に次々と装備を入れ替えている様子で、ますます両者共に油断ならない。

 彼らが手にする得物も当然、ドロップ品が中心のようで、時折発生するエフェクトを見てどのような効果のある品物かようやくわかると言った具合だ。

 もう若くない……と言いたくはないが、私が十分以上にロートルであることを嫌でも思い知らされる。


「《風の精霊よ、真空の刃を飛ばせ》!」

「げっ!?」

「カワシマ! 次、中! そん次、右!」

「マジポいきます!」


 さて、自分があの場に立っていればどうするかなどと考えつつ勝負を見守っていると、急に拮抗が崩れた。

 《Super Dreadnought》の後衛が繰り出す魔法の連発に耐えきれなくなった《帝国騎士団》の前衛が、一人また一人と欠けてゆく。


「団長!

 この勝負うちが貰ったぞおおおお!!」

「無念! ここまでかあああああ!!」


 前衛の要、ジークフリーどん君が倒されると、後はそのまま《Super Dreadnought》が押し切ってしまった。


 しかし、流石は鯖でもトップクラスのプレイヤー達である。

 幕切れこそあっけなかったが見応えも十分、お互い死力───いや、ポーション類なども消耗しきっているだろうから財力もか───を尽くした見事な闘いだった。無論、観客席からも大きな拍手が上がっている。


「すごかったね……」

「そうだな、父さんもちょっと圧倒されたよ。

 ……レモン、最近はあれぐらいやらないと、ギルド戦にならないのか?」

「あのへんは別格よ」

「《S.D.》のホチョポイ君とか、本鯖の闘技場でも2桁ランカーですよ。

 こっちじゃ毎週開催ってことはないですからね、張り切ってたんじゃないですか」

「フィールド出るより闘技場で遊ぶ方が楽しいって人達も、割に多いもんね……」


 雑談をする間にフィールドが片付けられ、閉会式と表彰式が始まった。

 発表された賞金額は個人戦の優勝に20万アグ、パーティー50万、ギルドのそれは100万と、正に大盤振る舞いである。他にも副賞の武器防具など、おそらく現時点では最高ランクに近いアイテムが、国王陛下より下賜されていった。


「100万あればギルドレベルが上がって2枚目の団旗がいけるんだったか」

「丁度よくもあるけど、《S.D.》あたりだともう持ってるかもよ?」

「あ、魔法銀の鎧!」

「……」


 如何に私が村一番の鍛冶屋でも優勝商品にすぐ追いつけるわけはないが、アキの目の輝きを見れば───いや、もう一人、こちらに目配せを送っているのもいるが───これは早急に……ナントカせねばならないらしい。


 鍛冶屋としても、中盤の一つの壁である《魔法銀》製武具の製作が避けて通れないことはわかっている。今の私ではその手前の《ルーザ鋼》にも手が届くかどうかというところだが、このあたり、旧作とどれほどシステム上の開きがあるのかは不明で、行き着く先は見えていても道中は手探りになろう。

 また、『鋼』系統の鉱石もこの王都周辺では手に入らないから、最低でも一度は遠出する必要があった。


「……ふむ」

「どうかした?」

「いや、何でもない。

 あのあたりの武器防具に、俺も早く追いつこうとな」

「あら、やる気出た?」

「まあ、そんなところだ」


 アキの新ギルドや《ムーンライト・キャラバン》の動向が予想の範囲内なら、手持ちのリソースを鍛冶方面一辺倒につぎ込むのもありだった。

 幸か不幸か『おおかみのす』の喫茶は私の手を離れつつあるし、鍛冶の方は私の不在中、ジョン少年が受けられる《手入れ》のみの営業に絞って、完全に成長中心の生活にしてもいい。……これはほぼ確定かなと、私は一人頷いた。




 ▽▽▽




「初の王国大演習、ギルド戦は残念でしたがこれも経験、皆さんお疲れさまでした!

 えーっと、まずは、乾杯しましょう。

 この後、少しだけお話がありますから、まだ酔っぱらわないで下さいね!

 じゃあ……乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯!」


 二日ほど前にも同じ《ムーンライト・キャラバン》の3階で乾杯をしたような覚えもあるが、あれはセールのお疲れ様と王国大演習の前夜祭も兼ねていた。

 まあ、騒ぐ理由があるのなら、楽しく集まって楽しく飲めばいい。今夜も全メンバー集合で、賑やかなことである。


「お父さん、レモンさん、乾杯しよっ!」

「ああ、乾杯」

「はい、かんぱあい!」


 初の王国大演習は観客席で見ていただけの私だが、いい休憩にはなっただろうか。

 《ムーンライト・キャラバン》のメンバーは大変だったはずだが、それぞれの表情はいい。

 昨日などはアキとレモンに皆揃って一儲けさせて貰ったし、ギルド戦の第一回戦敗退も、対プレイヤー集団戦の初戦で、内容を考えればそこまで悲観するものでもなかった。


「3人倒したところまではよかったんだけどなあ」

「レイくん、もう一人で突っ込んだらだめだよ。

 お父さんからもちゃんと言ってあげて!」

「ごめん……」

「まあまあ。

 あの人数差に慌てるなというのも酷だぞ」

「全員はずるいですよね……」

「あれはあちらのギルドの方針だし、戦闘系に偏ってる分、こういう時は強いね。

 しかしだ、代わりにうちなら生産職が比較的揃ってるから不公平はないんだよ、フランベルジュ君。

 ……もちろん、私も参ったなとは思ったがね。

 今度あるというパティシエコンテストなら、うちもかなり上位に食い込めるんじゃないかな?」


 確かに同じ様な初心者ギルドでも戦闘寄りのギルドが相手だった上、人数比が3対1では、少々鍛えていたところで焼け石に水だろう。戦闘部隊を率いたフーゲツ氏も苦笑い気味であった。


「はい、いいですかー?

 注目して下さーい」


 ぱんぱんとルナが手を打った。

 今日のヘルプ役らしい2、3人が手製のボードを運んでくる。


 最近は、木工職人兼業の《大工》プレイヤー達がこの手の小物を作り出せるほどレベルアップしてきており、セールの競りで使ったハンマーの他にも、『おおかみのす』の内装や各々の新居を飾る家具にもプレイヤー製のものが増えていた。


「先にお知らせしていたように、今日は重大な発表があります。

 わたしたち《ムーンライト・キャラバン》は初心者卒業を目標に、これまで活動してきました。

 その第一弾として本日、フランベルジュ君、レイ君、まりあんさんが卒業します。

 3人は本日新たに設立されました、中級攻略プレイヤーを目指すための受け皿となる新ギルド、《狼のしっぽ》へと移籍します。

 《狼のしっぽ》のマスターはライカさんの娘アキさん、バックアップにレモンティーヌさんがついてくれることになっています。

 えー、もちろん、半分ぐらいは私たちのために作って貰ったと言いますか、ご協力いただきました」


 メンバー5人で全員が知り合いならば、軋轢は比較的小さく済む……筈だが、それ以外にも問題は起きていくものだ。そのあたり、まだまだ小中学生である彼らに無理をさせる必要もなく、レモンに丸投げでもいいのだが、出来ればアキら子供達が自主的に解決できるよう見守りたいところでもある。

 さてさて、《狼のしっぽ》とはやはり私の尻尾のことだろうかと考えつつ、続きを待つ。


「さて、ギルドには戦闘系、生産系、総合と、大きく分けて3つタイプがあることは幾度かの勉強会などを通じてご存じかと思いますが、《狼のしっぽ》は中級攻略、つまり純粋な戦闘系ギルドを目指しています。

 現在の《ムーンライト・キャラバン》なら、初級向けながら総合ギルドに分類されますね。

 しかし、《ムーンライト・キャラバン》は戦闘系メンバーが抜けて行くことで、必然的に生産系寄りとなっていくと同時に、総合ギルドとして不利な要素を抱えたまま進んでいくことになります。

 それは、団旗です」

 

 ルナが《ムーンライト・キャラバン》の設立時に選んだ《青熊の団旗》は、ギルドメンバー全員に防御力[+3]を付加する効果があった。これはパーティーを組んでいるか否かに関わらず、ギルド所属の全員に対してその能力を発揮するので、メンバーの人数が多いほど効率が良くなる。初心者が殆どで人数も多いという《ムーンライト・キャラバン》の特色を考慮すれば、当然の選択と言えるだろう。


「《青熊の団旗》は、全ての場面で全員の防御力をアップしてくれます。

 でも……当然ですが、皆さんの生活基盤が生産職中心に比重が移ってきた現在、決して効果的だったり必ずしも必要とは言えない状況になってきました。

 更には、全体に効果があることは強みでもありますが、逆に言えば個々人の状況に対応しきれていない面も出てきています」


 しかし、仮にギルドメンバーの人数が6人以下───パーティーを組める人数であれば、パーティーメンバーのみにしか効果がない代わりにより補正の高い団旗を選んだ方が有利になるわけだ。私の考えていた個人ギルドなどは、個人にしか効果がない代わりに、鍛冶仕事をバックアップしてくれる強力な団旗を選ぶことを考慮している。


 もちろん、団旗だけがギルドの有利不利に影響するわけではない。

 所属人数が多ければ複数のギルドクエストを並行して進めることもできるし、先日のイベントのような状況でも生産と戦闘両方にメンバーを宛うことも可能で、メンバーの人数はそれだけで力となり得た。


「そこで以前から幾つかの案を考えていたのですが、こちらのボードに注目して下さい」


 ボードの上に掛けられていた布がめくられ、中身が披露された。


「まず一つは、このまま受け皿を用意しない代わりに、これまで通り《ムーンライト・キャラバン》を利用するやりかたです。

 団旗の変更は出来ませんが、今の生活がそのまま緩やかに発展していくという形だと思って下さい。

 《ムーンライト・キャラバン》の究極の目標は全員が卒業してのギルドの解散とは言いましたが、無理矢理にするものでも、させるものでもありません。このまま気楽なご近所づきあいを続けていくのもまた楽しいという意見も多く寄せられましたから、その点を考慮しました」


 ゲームを楽しむということであれば、各種数値の数%を云々するより、今のままの方がいいということは、理解できる。

 ましてや非攻略組であれば、ゲーム上ステータス上で楽が出来るより、気分が楽である方を重視することも間違いではなかった。人間関係が、そのままストレスの原因あるいは開放へと繋がることを考えれば、良い選択肢と言える。


「次に、受け皿となる新たな生産系ギルドを立ち上げ、卒業者を受け入れる方法です。

 設立予算は1ギルド分なら《ムーンライト・キャラバン》の会計から十分用意出来ますし、本部もこの建物を共用すればいいかなと考えています。

 戦闘系は捨てることになりますが、大きな依頼やイベントの時に対応できる人数がそのまま確保されますし、団旗も生産系の物を選ぶことでよりゲームを楽しめるかと思います。

 ギルドのお引っ越しも、面倒……というほどじゃありませんね。他は全部そのまんまですから」


 これもまた、悪くない。

 生産職を選んだメンバーが、そのまま新ギルドにスライドするわけだ。暮らしが僅かに楽になるものの、こちらもほぼ変わりない生活が約束される。


「3つ目は、各人が個人ギルドを立ち上げるという、現行のメインサーバーの職人さんには一番多い方法です。

 個人に特化したギルドは団旗も強力な物が選べますから、張り合いも出ます。

 代わりに、各々がギルド設立資金の10万アグを用意する必要があって、現段階では少し敷居が高くもありますね。

 それからお金の問題はもう一つありまして、例えばこのギルド本部は、現在皆さんがクエストなどをこなされた時に王国からギルドに振り込まれるお金を維持費用などにあてていますが、それが出来なくなりますので、全員から会費を集め共用のギルド本部として維持するか、または放棄するかを選ばなくてはなりません」


 私が当初から中長期目標として考えていたように、生産職は個人ギルドを持つのが一般的だった。特に鍛冶師に於いては、補正の団旗なしに《会心の出来映え》を出すことなどほぼ不可能、団旗が必須アイテムに数えられるほどだったように思う。


 ただ、金と手間が掛かることも間違いなかった。それに、卒業だからといきなりメンバーを放り出すようなこともよくないだろう。

 戦闘職が抜けるので訓練場などは早々に放棄してもいいだろうが、全員が気兼ねなく集まれる場所となると、『おおかみのす』では残念ながら狭い上に緊張感も維持出来まい。このギルド本部を残しておくべきだと云うことは、深く考えるまでもなかった。


「もちろん、今日今すぐに選ばなきゃいけないわけじゃありませんが、そうですね……数カ月以内にそのような選択肢が待っていると言うことだけは、頭の片隅にでも置いておいて下さい。

 実は……《ムーンライト・キャラバン》の解散が視野に入るまでは、最初もっと時間が掛かるかなって思っていたんですが、トルフェル村に本部を構えたあたりからは、結構皆さんノリノリでゲームを楽しんでいらっしゃったから、少しわたしも時計を早巻きするべきだと思いましてですね───」


 ルナの言葉は続いているが、さて、私の今後の立ち回りはどうすべきだろうかと考える。


 鍛冶屋中心へのシフトはともかく、先を見せる意味も含めて個人ギルドの設立を先行させるべきか、はたまた《狼のしっぽ》のバックアップを優先するべきか。


 ……いや、もう一つの捉え方もあったことに、私は気付いた。気付いてしまった。




 アキのギルドマスター就任を一人立ちの前準備と見るなら、わざと突き放すことさえも考慮すべき選択肢の一つとなってしまうのだ。


 これまでも、最大限手を出さないようにしつつも安全には配慮していた。無論、この場合の安全とは、ゲーム上で行われる戦闘行為ではなく、プレイヤー間のもめ事などによって彼女の心が酷く傷ついたりしないかというメンタルケア中心の配慮である。


 他のプレイヤーから粘着行為を受けたり、ゲーム外に位置する掲示板に誹謗中傷を書き込まれたりするような騒ぎにまではならなくとも、小さな嫌気は溜まっていくことがあった。

 もちろん、それもまた『経験』と言えよう。

 だが大人であれば流してしまえることも、思春期にある少年少女の心にとっては扱い難い難問として立ちはだかる場合があった。無論、私も経験しているし、それを乗り越えた先には『大人』の世界が待っていた。


 たかがゲームに過保護すぎるかもしれないし、純粋にゲームを楽しむこともまた正しいとは思う。

 それでも常にどこか気に掛かってしまうわけで、これでは子離れできない父親その物ではないかと……。


 まったく。

 正に、『たかがゲーム、されどゲーム』である。




「ライカさん」

「はい……っと、フーゲツさん?」


 いつの間にか、ルナの説明は終わっていたらしい。

 小さな苦笑で心に折り合いを付け、同じく娘をレモンにあずけるフーゲツ氏に向き直る。


「少し考えていたんですが……」

「はい?」

「ライカさんに弟子入りさせて貰ってもよいでしょうかな?」

「えっと、それは……鍛冶屋の方ですか?」

「ええ、無論、鍛冶屋です」


 急な申し出に驚くが、幾らか悩んで出した答えなのだろう。うむと頷いたフーゲツ氏に同じく頷きを返し、続きを待つ。


「セールのお手伝いをさせて貰ったのがきっかけなのは間違いありません。

 相当に面倒くさい職業だというのも、ハヤトさんと同程度には理解していると思います。

 娘が手を離れたせいもありますが……正しい意味での好き勝手が許されるゲームなら、それに合わせるのも良かろうと思いましてね」


 ……《鍛冶匠》は不人気と世に言うが、捨てたものでもないらしい。

 このまま戦士として体を動かすのもいいが、現実ではなかなかに難しい起業という夢を追いかけるのもまた楽しそうですと、フーゲツ氏は微笑んだ。


「マスター・ルナの分析に因れば、今後は《鍛冶匠》、《薬草師》、それに《神官》の不足が見込まれるそうですから、今以上に忙しくなると思いますよ。

 とりあえず……そうだ、今夜このパーティーが引けたら、ハヤトさんたちも誘って子供達の門出を祝いませんか?

 『おおかみのす』は深夜営業こそしていませんが、仲間内で飲む分にはキッチンも傍らにあって割と便利なのですよ」

「いいですねえ。お言葉に甘えさせて貰うとしましょう。

 明日からはよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 私は鍛冶屋の先輩ではなく、同じく子供を持つ父親として、ゆっくりと右手を差し出した。






 ▽▽▽


 おまけ お父さん(だけじゃなくてみんな)には見せられないわたしの日記帳(106日目)


 ▽▽▽


 わたしは装備もスキルも変更なーし。

 レモンさんはお父さんから新しい鎧を貰ってたけど、パーティー組んでいないから詳しいことわかんないや。

 というわけで、ステータスはパス!




 王国大演習、しゅーりょーの巻!

 昨日の個人戦の3回戦までは進めたけど、やっぱり専業魔法使いはソロじゃ厳しい。

 あーもう! 未だに悔しいよ……。


 1回戦と2回戦は余裕だったんだけどねー。

 3回戦はイベントじゃ見かけなかったけど、前線組の人だった。

 《盗賊》のスキルなんて初めて見たし!

 目の前にいるのにいないとか、もうすっごい混乱した。おかげで瞬殺されちゃったよ。


 レモンさんは、相性も悪かったけど相手の人は相当上手い人だったから、アキちゃんは頑張った方だよって言ってくれた。

 でもねえ、やっぱり悔しい。


 もちろん、わたしは魔法戦士を目指すことにした。……やっぱり今のままじゃ防御力がちょーぺらっぺらで薄すぎる。どれだけレモンさん任せだったのか、よーくわかったよ。


 今日はギルド戦もあったけど、《ムーンライト・キャラバン》の試合を見てから冒険者協会に行って、わたしもギルド作ったんだ。

 仮の本部はトルフェル村のおうちで、マスターはなんと……わたし!

 お金はレモンさんと2人で出したけど、けっこう手元如意棒? とか言う感じ?


 しばらくはフランベルジュ君たちのレベルアップを兼ねて、じっくり稼ぐつもりだよ。


 そうそう、メンバーはわたしと、レモンさん、まりあんちゃん、レイ君、フランベルジュ君の5人。

 ちょっと戦士に偏ってるけど、前衛2人、中衛を兼ねた前衛の交替が2人、まりあんちゃんが後衛って考えると、バランスは取れてるかも。もちろん、練習をいっぱいして慣れてからのお話だけどねー。

 ギルド戦決勝の帝国騎士団さんとドレッドノートさんみたいなのは別格過ぎるけど、あんまり鈍くさいのもちょっと困る。せっかく組んだギルドだもん、上位を目指してレッツゴーだよ!


 でも、心配事もやっぱりあった。

 わたしたちのギルド《狼のしっぽ》は、これからどうなっていくのかな?

 もちろん、《ムーンライト・キャラバン》のことも気になる。

 色々考え中だけど、レイ君たちが言うこと聞くかとか、死に戻りしちゃわないかとか。5人に増えたからって、それだけで強くなれるわけじゃないもんね。


 あ、団旗は《赤獅子の団旗》っていうパーティーメンバーの物理攻撃力がアップする団旗を選んだよ。防御力がプラスになる《青獅子の団旗》か迷ったけど、《狼のしっぽ》は戦士3人、魔法戦士1人、神官兼魔法使い1人の組み合わせだから、やっぱり戦士をパワーアップする方がいいはず。特にこれからはどんどん強い敵が相手になるから、みんなにも頑張って貰おう。


 当面の目標は、パーティー全員が魔法銀の装備を手に入れること。それからもちろん、ちゃんとした『パーティー』になることかな。スイッチも援護も、訓練あるのみだー! おー!

 来年の王国大演習にはパーティー戦で出たいね。優勝は無理でも、そこそこまでは勝ち上がろうってみんなで約束したよ。


 それから、お父さんはついに本物の弟子を取った。……って、まりあんちゃんのお父さんのフーゲツさんだから、あんまりお弟子さんには見えないけど。フーゲツさんは、見かけならお父さんよりちょっと年下なのかな? 明日、まりあんちゃんに聞いてみよう。

 ちなみにまりあんちゃんは12歳の小学生で、誕生日が夏休み前じゃなかったら、この『剣と魔法のサーガ』には参加できないところだった。年齢制限があるから、これは仕方ない。

 あ、レイ君はわたしと同じ14歳で、フランベルジュ君は1つ下だよ。レモンさんは……うん、実はわたしもしらない。しらないことにしておく。お父さんよりはだいぶ年下なはずだけどねー。


 とにかく、明日からは東に向かって旅をしながら、ちょっとづつ新ギルドと新パーティーに慣れていこう。

 『目指せ、剣と魔法の似合うレディ!』が今日からの合い言葉だよ。




 ……今日のおまけ。


 さっきレモンさんに、レイ君とフランベルジュ君、どっちが好みかって聞かれちゃって……一瞬『お父さん』って答えたらどんな顔するかなって考えたけど、すっごい怒られそうなのでやめた。


 でも、二人ともあんまり彼氏にしたいって感じじゃない、かなあ……。クラスの男の子達と一緒で子供っぽすぎるし、三角関係に割って入るのもどうかなあって。

 思い浮かんだのは……って、だめだめ! これは内緒にしとこう。

 字にしちゃうと、読み返したとき思い出すもんね。


 よし、明日からも頑張るぞーっと。

 おやすみなさーい!

 


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